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褒め方1つで成績が変わる!?褒められて伸びるかどうかは遺伝子の違い?

効率の良い学習方法や、結果に結びつくのに最適な勉強方法は、常に親も子も模索していると思います。実は「スペース学習」といって、効率の良い勉強方法というものは脳科学的に解明されているのです! 今回は、そのような『勉強の悩みに対する解決策』や、『言語学習とニューロテクノロジーの話』についてご紹介します。 前回のコラムはこちらです。 https://mag.viestyle.co.jp/columm07/ 同じことをやり続けるのはダメ?効率の良い勉強の仕方! 効率の良い暗記の方法や、勉強の仕方を知りたい人は、大勢いるはずです。個人差はありますが、「声に出しながら文字を書く」というように、マルチモーダルで視覚や聴覚など、あらゆる感覚を研ぎ澄まして覚えていくことは、効率が良いとされています。 また「分散学習」といって、例えば英語の勉強をしたいというときに、ひたすら英語をやるのではなく、途中で数学や古文を挟むなどして、ブロックに分けて取り組むほうが、効率よく勉強できるとも言われています。同じことをやり続けることは、必ずしも効率が良いわけではなく、「スペーシング」「スペース学習」といって、一回やったら間に何か他のことをやる時間を作ることにより、集中力を発揮しながら、効率の良い勉強が期待できます。 褒め方一つで成績が変わる!結果に結びつく褒め方とは? 以前 やる気の引き出し方 で、報酬やご褒美はあまり良いパフォーマンスをもたらさない、ということが示された実験をご紹介しました。しかし、実は悪くないご褒美も中にはあります。 ある実験で、テストで良い結果が出たらご褒美のシールをもらえる群と、テスト勉強をしたらシールをもらえる群に分けたところ、後者の方が明確にテストで良い結果を残したことが分かりました。 どのように頑張れば成績が上がるのか不明確な中で、テストの点がたまたま良かった時に、ご褒美を与えられても、何をしたから良かったのかが分からないままです。 しかし、「インプット・アウトプットアプローチ」といって、勉強をして結果を出す因果関係の中で、その過程を評価することによって、「本を読んだから結果が出せたんだ」「この問題集に取り組めば出来るようになるんだ」というように、成績が上がるための勉強方法が強化されていき、結果としてアウトプットの成績が良くなっていきます。インプットに報酬を与えてやる気を出させれば、しっかりとアウトプットに繋がっていくのです。 日本の親は、子どものテストの点数や結果を褒める傾向にありますが、実はテストの点数が上がりそうなことをしているときに、子どもを褒めてあげるのが、一番良いとされています。 また「褒められて伸びるタイプ」と「叱られて伸びるタイプ」というように、2つに分けて考えることもできます。実際、日本人の8割は「褒められて伸びるタイプ」、2割は「叱られて伸びるタイプ」と答えるそうです。 学習をするときに働く、やる気に関わる「ドーパミンニューロン」には、遺伝的な個人差があります。何か物事がうまくいって、報酬がもらえたときに学習が促進するタイプの遺伝子を持っている人と、失敗をしてしまい、罰が来たときに「もうこんなことはやらない!」というように学習が促進するタイプの遺伝子を持つ人がいて、その割合はおよそ 8:2 だそうです。 このように、脳の中でのドーパミンニューロンのタイプは遺伝的に決まるため、「褒められて伸びるタイプ」であるか、「叱られて伸びるタイプ」であるかには個人差があるのです。 また、先ほどの「インプット・アウトプットアプローチ」とも関わってきますが、「あなたは頭がいいね」というように能力を誉められるのと、「勉強をして偉いね」というように努力を誉められるのとでは、後者の方が良い結果を出した、という実験もあります※。これは勉強だけでなく、「可愛いね」と言われるより、「毎日スキンケア頑張っていて偉いね」と言われる方が、もしかしたら、より嬉しく感じ、「もっと自分磨きを頑張ろう」と思えるようになるかもしれません。 このように、褒め方一つで、結果の良し悪しが変わってくるのです。 ※出典:Praise for intelligence can undermine children's motivation and performance. (apa.org), 2024年7月9日参照 「L」と「R」の違いが聞き取れるように!?語学学習の未来 英語や韓国語などの、日本語以外の語学学習に苦労する人は、たくさんいると思います。自分にとっての第一言語を話す時に、「言語中枢」といって、発話に関する脳の部分が働くのですが、第二言語、第三言語を話すときは、その処理の仕方が少し変わってしまいます。これが、第一言語以外の語学を習得する難しさに繋がっています。しかし、ニューロテクノロジーを活用することで効果的に語学学習をおこなうことができる、ということが分かっています。 例えば、言語に関わるような脳の領域に、電極を貼って電気を流すと、外国語学習や単語の記憶力が促進されるということが分かっています※。 また、言語の聞き取りに関しては、私たちの会社VIE の成瀬さんが開発した技術があります。英語の「L」と「R」は、聞き取ることも、発音することも日本人にとっては困難です。しかし、わずかな違いを脳が感知している様子をリアルタイムで画面に映し出し、ニューロフィードバックを行うことによって、何十年も聞き取れなかった「L」と「R」の違いを、聞き取れるような聴覚経路に脳を再配線してあげることが可能になるのです。 また、最近では語学学習に向いている「性格」がある、ということが言われています。人と話すことが好きな「外交性」や、オープンマインドといった「開放性」のような特性を持っている人は、語学の習得が早いことが分かっています。 ニューロフィードバックについてはこちらの記事でも紹介しています。 https://mag.viestyle.co.jp/columm36/ ※出典:Learning of Foreign Language Sounds Boosted by Non-invasive Nerve Stimulation (scitechdaily.com), 2024年7月9日参照 まとめ 学び方には人それぞれの方法がありますが、その方法が適切でないことも多々あります。一つのことに集中した方がいいと思っていても、実は分散した方がよかったり、やる気の出し方も誉め方一つで変わったりするのです。 また最近では、脳に直接アプローチするような刺激や、ニューロフィードバックの力を使って、第二言語の学習を促進する、夢のような学習技術が実現しつつあります。 🎙ポッドキャスト番組情報 日常生活の素朴な悩みや疑問を脳科学の視点で解明していく番組です。横丁のようにあらゆるジャンルの疑問を取り上げ、脳科学と組み合わせてゆるっと深掘りしていき、お酒のツマミになるような話を聴くことができます。 番組名:ニューロ横丁〜酒のツマミになる脳の話〜 パーソナリティー:茨木 拓也(VIE 株式会社 最高脳科学責任者)/平野 清花 https://open.spotify.com/episode/6wbqS2XZFerTYCPa6QKlFG?si=2-OFlUTFQ-q0Oi-6-0FkCA 次回 次回のコラムでは、『睡眠と学習の関係性』について脳科学的な視点からご紹介します。 https://mag.viestyle.co.jp/columm09/

お金をあげるのは逆効果!?子どものやる気を出させる教育方法!

みなさんの「やる気」はどこから生まれますか?「お金がもらえるから」「楽しい予定が待っているから」など、さまざまあると思います。「やる気」「モチベーション」は、その行動のパフォーマンスや成果に繋がってきます。 今回は『やる気の持ち方』や、『やる気の出ない時の対処法』について深掘りしていきます。 前回のコラムはこちらです。 https://mag.viestyle.co.jp/columm06/ どうしてもやる気が起きないときの心の持ち方とは? もうすぐテストがあるのに、どうしてもやる気が起きない...そんな経験はありませんか?「5分だけでもいいから、机に向かってみることが大切」なんていうことも、よく耳にしますよね。実はこれ、脳科学的にも正しいと言えることなのです。 例えば「卒論を完成させる」という目標は、あまりにも壮大すぎてやる気を喪失してしまいます。しかし「1ページだけでも本を読もう」という目標に変えてみると、「ちょっとやるかぁ」と気持ちも前向きになってくるはずです。このように、小さな成功の積み重ねがモチベーションや生産性を大きく向上させることがわかっています※。 完璧なゴールを思い描くことも大切ですが、遠い未来のことに価値を持って行動できる人は、とても少ないのです。何もしない状態でいることは、脳にとってとても居心地の良いもので、何かを始める、動き出すことは、脳にとてもコストがかかります。 そのため卒論の例では、とりあえず名前と学籍番号を書いてみる、というような小さなことから始めてみると、モードが切り替わって書き進められたりします。 ※出典:The Power of Small Wins (hbr.org), 2024年7月9日参照 やる気はどこから生まれるの? 「1時間勉強したら、好きなアイドルの動画を1本見よう!」というように、物事の動機と報酬は、切っても切り離せない関係にあります。このようにやる気というものは、何かご褒美があると生まれやすいという風に考えられています。 しかし、例えばバイトを選ぶときには、時給が高い方がやる気が出そうと思われることが多いのですが、実はそうではないことがわかっています。 ある研究で、「あなたのやる気が出ることはなんですか?」と尋ねたものがあります。その答えは、「お金をもらうと頑張れます!」というように、金銭的インセンティブを挙げる人と、「褒められたりすれば頑張れます」と言う人に分かれるそうです。 しかし面白いことに、前者のように「お金をもらえたら頑張れる」と言う人にボーナスを与えても、実際にパフォーマンスが全く上がっていませんでした※。つまり自己申告の「やる気が出る」というのと、「生産性が上がる」というのは、別物だということが、この実験の結果からわかったのです。 またお金の報酬があることによって、パフォーマンスが悪くなる場合があることもわかっています。簡単な問題解決力を問う問題で、「この問題が解けたらお金をあげる」と言われると、問題の正答率が低くなってしまうという結果が出た実験もあります。 お金がもらえるからといって、必ずしもやる気が出て、良い成績を残せるとは限らないようです。反対に、セルフインセンティブと言って、「これを頑張ったらケーキ食べよう!」と言うようにご褒美を与えていくものは、良いパフォーマンスを生み出しやすいと言われています。 ※出典:Does the size of rewards influence performance in cognitively demanding tasks? | PLOS ONE, 2024年7月9日参照 子どものやる気を伸ばす教育の方法 子どもに勉強を頑張ってもらうために、「何番以内に入ったらお小遣いを増やしてあげる」と言う教育は、アンダーマイニング効果といって、子どもが「お金をもらわないと勉強しなくなる」ようになってしまうこともあります。元々は自分の意志でやっていたものも、外発的な報酬がもらえると、それを目的に行動するようになってしまうのです。 勉強のパフォーマンスが発揮されやすいモチベーションとしては、「内発的な動機」が大切になってきます。人から報酬をもらえるからやるのではなく、「自分が楽しいからやる」「これができるようになると嬉しいからやる」というような内発的動機を持つ傾向にある人は、学業成績だけでなく、運動能力や仕事、さらには年収も高い傾向にあると言われています。 しかし、そうは言っても自分からやる気を出すことは、なかなか難しいことです。子どものやる気を引き出してあげるためには、「自律性」と言って、「何をやるか」「いつやるか」「どのくらいやるのか」を自ら選択させる、裁量をあげることが大切だとされています。 また個人差はありますが、「自分がもっと学んで成長していきたい」というような思考や目的意識を持っている人は、やる気も出しやすいと言われています。 まとめ やる気には、お金やご褒美をもらうからやる外発的なものと、自分が楽しいからやる内発的なものの2種類があります。直感的には、お金やご褒美をあげれば、人はやる気を出して頑張れると思われがちですが、実は頑張れなかったり、成績が上がるわけではなく、むしろ悪い影響が出てしまうこともあります。 内発的な動機を持つことは難しいですが、そのような動機を持っている人は、パフォーマンスが良かったり、社会で成功しやすいことが多いのです。 🎙ポッドキャスト番組情報 日常生活の素朴な悩みや疑問を脳科学の視点で解明していく番組です。横丁のようにあらゆるジャンルの疑問を取り上げ、脳科学と組み合わせてゆるっと深掘りしていき、お酒のツマミになるような話を聴くことができます。 番組名:ニューロ横丁〜酒のツマミになる脳の話〜 パーソナリティー:茨木 拓也(VIE 株式会社 最高脳科学責任者)/平野 清花 https://open.spotify.com/episode/0AwufjF1ibX29HCGQbzdo3?si=k8QIlqI4Q-Oum2WIRyfH6w 次回 次回のコラムでは、脳科学的に解明された『成績が上がる褒め方』をご紹介します。 https://mag.viestyle.co.jp/columm08/

恋心は脳が生み出す幻想だった?/好きな人と関係性を持続させる方法とは?

人を好きになるという気持ちは、脳の「書き込み」技術によって簡単に操作できてしまうと言われています。 それを利用して好きな人との関係性を持続させることができたり、告白を高確率で成功させることができたり?恋愛とニューロテクノロジーの掛け合わせは、より良い人間関係を築くヒントになるかもしれません。 今回は脳科学の観点から、『好きな人と関係性を持続させる方法』についてご紹介します。 前回のコラムはこちらです。 https://mag.viestyle.co.jp/columm05/ 人を好きになるのは脳の幻想!?恋愛に応用できるニューロフィードバック ニューロテクノロジーとは、お酒とニューロテクノロジー で紹介したように、脳の情報を「読み取る」ことや、脳に情報を「書き込む」技術のことです。 そして、人を好きになるというのは脳の幻想でもあり、それを証明する次のような実験があります。 Aさんに100人の男性の写真を見せ、10点満点で点数をつけてもらいます。そして好きでも嫌いでもない、中間の5点をつけた男性の後に、緑色の丸い図形の画像を見せます。そこでAさんは「この丸の図形を大きくしてください」と言われます。Aさんには知らせていませんが、実はこの丸い図形は、Aさんが好印象を持った男性を見た時の脳活動が現れると、大きくなる仕組みになっています。 そして、Aさんは5点の男性の写真を見た後に、いろいろなことを考えながら、工夫して丸を大きくする努力をし続けていくと、最初は5点の評価を下した男性に対して、より高い評価をするようになっていきます。 つまり、「書き込み」の技術=ニューロフィードバックにより、人を好きになる気持ちはコントロールできてしまうのです。 そのような観点で言えば、相手の趣味の話などを一緒にすることは、相手が「好き」と感じているフィールドに自分も立つことであり、相手に好印象を持たれやすいのかもしれません。 これをそのまま事業化すると倫理的な問題にも繋がってしまいますが、例えば「幸せ」を感じにくくなってしまった熟年夫婦が、ニューロフィードバックでトレーニングをすることで、出会った頃のような夫婦仲を取り戻す、というようなことが可能になるかもしれませんね。 https://mag.viestyle.co.jp/braintech/ 告白を高確率で成功させるには?感謝の仕方一つで相手に好まれる? 勇気を出して告白をするのであれば、必ず成功させたいものですよね。「確実に告白を成功させる」というような脳科学の研究はまだ進んでいませんが、「お互いを好きになる」というところにヒントはあるかもしれません。 実は感謝をし合う人たちは、お互いを好きになりやすかったり、恋愛が持続しやすかったりすると言われています。そして、感謝の仕方にも気をつけられることがあります。 例えば、プレゼントをもらったときに、「私のためにこんなに高いものをありがとう」「時間をかけて選んでくれてありがとう」というような、コストに対する感謝を述べるのではなく、自分のニーズに応えるプレゼントをしてくれた「応答性」に感謝を述べることが効果的だと言われています。 「これ超欲しかったやつなの!ありがとう!」「ちょうどなくて困っていたんだよね、ありがとう!」というような「応答性」を確認し合えると、お互いを好きになりやすくなる傾向があります。 そのため、相手にプレゼントを贈るときは、相手のニーズをリサーチすることや、反対にプレゼントを受け取るときには、自分のニーズにあっていることを感謝することが効果的であると言えます。 カップルで長く付き合いを続けるために効果的なことは? 付き合う前からも大事なことですが、付き合ってからは、より相手の立場に立つことや、第三者的な視点に立つことは大切です。人間にとって「相手がどういう世界を持っているのか」という考えを持つことは難しく、どうしてもセルフィッシュになりがちです。相手の立場を考えるスキルを持つことはとても重要なことなのです。 カップルの関係性に関して、こんな実験があります。カップルが喧嘩をしたときに、「その喧嘩を第三者が見ると、どのように思うだろうか」「その喧嘩を自分が第三者的な視点で見ようとしたときに、何(感情など)がそれを妨げているか」を考えるトレーニングをしてもらいます。 この実験では、2人の関係性の中で第三者的な視点を持つことを意識すると、カップル同士の関係性がよくなるという結果が出ています。第三者的な視点を持つことは、人間関係の形成に良い結果をもたらすのです※。 しかし、第三者の視点に立つということは、容易なことではありません。そこで、最近ではニューロフィードバックの力を使って、第三者の視点に立つ訓練ができるようにもなっています。 私たちの会社 VIE では、このように「物の見方を変える」トレーニングを行うことによって、人間関係や社会生活がよくなるような事業を行うことができたら面白いと思っています。 ※出典:Finkel et al., 2013: Taking a third party perspective when dealing with marital conflicts improved marital satisfaction among couples over a year (wiseinterventions.org), 2024年7月5日参照 まとめ 恋心は脳の生み出す幻想にすぎないため、ニューロフィードバックで変えることができてしまいます。また、恋愛の形成や維持のためには、相手に感謝をすることや、相手の立場になり、思いやりの心を持つこと、第三者的な視点を持つことが大切です。そのようなトレーニングには、ニューロフィードバックが効果的かもしれません。 🎙ポッドキャスト番組情報 日常生活の素朴な悩みや疑問を脳科学の視点で解明していく番組です。横丁のようにあらゆるジャンルの疑問を取り上げ、脳科学と組み合わせてゆるっと深掘りしていき、お酒のツマミになるような話を聴くことができます。 番組名:ニューロ横丁〜酒のツマミになる脳の話〜 パーソナリティー:茨木 拓也(VIE 株式会社 最高脳科学責任者)/平野 清花 https://open.spotify.com/episode/0sThoyps6GsgPZ7Cxpa9gW?si=ULmLc7_kTpS_4eMlgZr7vw 次回 次回のコラムでは、脳科学の研究に基づいた『こどものやる気を引き出す方法』をご紹介します。 https://mag.viestyle.co.jp/columm07/

付き合って幸せなのは一瞬!?/好きじゃない人も付き合うと好きになる?

恋愛をしている人は、どこか幸せそうな空気をまとっていますよね。実際に恋愛は幸福度(ウェルビーイング)を高めるのに、最も関連性が高いことが証明されています。しかし、脳科学的に「人の幸せは長くは続かない」ということも事実です。 今回は、人を好きになることに関連した『幸福や恋愛の必要性』について深掘りしていきます。 前回のコラムはこちらです。 https://mag.viestyle.co.jp/columm04/ 永遠に続く幸せはない!?パートナーがいると幸せの基準は上がっていく! 彼氏や彼女がいる人は、シングルの人よりも幸せに見えることがありませんか? ある研究では、結婚している人は独身の人よりも幸福度が高いことが確認されています※。人との繋がりは「社会的資本」などと言われることがありますが、パートナーがいて孤独でないということは、私たちの脳にとって幸福度を上げることと結びついていると証明されているのです。  しかし、実際にパートナーと付き合っていく中で、幸せに満ち溢れた感情は長くは続きません。逆を言うと、パートナーと別れてしまった後の悲しみや不安といった、ネガティブな感情もずっと続くわけではありません。 人間の脳が、どのようにして幸せを感じ取るのか、さまざまな研究がおこなわれている中で、「プレディクションエラー仮説」というものが一番有力だとされています。これは、「私たちが何を幸せに感じるかは、自分の脳が予測していることと、実際に起きることとの間のギャップによる」というものです。 例えば、同じ「100万円を貰える」としても、1,000万円貰えると思っていたのに100万円を貰うのと、10万円貰えると思っていたのに100万円を貰うのとでは、後者の方が喜びは大きいはずです。前者のように、予測との誤差がネガティブになると悲しい、反対に予測との誤差がポジティブになると嬉しいというように、脳が予測していたものとは異なるエラーが、幸せに関連していると言われています。 ここで重要なのは、私たち人間は一度経験すると、脳の予測が変わってしまうということです。 恋愛でいうと、片思いをしているときに「あの人と付き合えたら幸せだろうな」と考えるとします。実際に付き合ってみると、自分が予測していたよりも楽しいことがたくさんあり、最初は幸せを感じます。しかし、付き合い続けるにつれて、予測(恋愛においては理想)も高まっていくため、それ以上のものでないと幸せを感じなくなってしまいます。その理由は単純で、プレディクションエラー(予測誤差)が生じなくなるからです。 これは恋愛だけではなく、「収入」などに関しても同じ現象が起こると言われています。 脳は学習をしていく臓器であるため、一度経験をすると幸せの基準は高まり、その基準を超えないと「幸せ」というものを感じなくなってしまいます。そのため、恋愛に関わらず、人の幸せは長くは続かないと言われているのです。 ※出典:結婚と幸福:サーベイ (jst.go.jp), 2024年9月6日参照 脳の機能を高めるためには恋愛が大切? 学習をしながら予測の精度を高めていくことは、脳の大事な機能ですが、恋愛をすることは、予測の力を伸ばすことにも繋がると言われています。 ある実験※では、自分のパートナーが痛めつけられている姿を見るのと、知らない人が痛めつけられている姿を見るのとでは、前者の方が脳が共感を示し、自分も同じように痛い思いをしているときの脳活動が生じることがわかっています。 この共感は予測力と同様に、より愛が深まっていくと、より相手に起きていることが自分の身に起きているように感じやすいとされています。 「相手にこういうことが起きたら、こういう感情になるだろう」ということを、脳が予測しているから起こる共感であり、その予測は愛の深まりとも関連していると考えられています。 ※出典:(PDF) Empathy for Pain Involves the Affective But Not Sensory Components of Pain (researchgate.net), 2024年7月5日参照 付き合ったら好きになる?人を好きになる瞬間とは? 「人を好きになるのに理由はいらない」なんて言葉を、一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。「背が高いから」「顔が好みだから」というような、明確な要素があって人を好きになることもあるかもしれませんが、その反対で「付き合ってみたら、ここが好きになった」というようなことも多いのではないか、とされています。 例えば、同じくらい好きな異性2人のうち、どちらか一方を選んで付き合った場合、付き合った人への好感度は上がり、選ばなかった人への好感度は下がることがわかっています。 これは、選んだという事実だけで、「この人には価値がある」というように脳が学習するためです。前回 脳科学で蛙化現象を克服で紹介した、「サワーグレープス」(=手の届かないもの) に対して自分の中で価値を下げてしまう現象と似ていますね。 まとめ 恋愛をすることやパートナーがいるということは、幸せに関係しているといえます。しかし、脳の予測は変化していくため、永遠の幸福というものはありません。良いことがあれば脳が予測する期待値も高まり、その期待値を超えなければ幸せにはなれないのです。そのような脳の学習機能があるからこそ、相手の気持ちを学んでいくことができます。 また、好きだから愛が深まることもあるかもしれませんが、「付き合ったから」や「選んだから」という「行動」が先にあって、後から「好き」という感情が湧き上がってくることもあります。 🎙ポッドキャスト番組情報 日常生活の素朴な悩みや疑問を脳科学の視点で解明していく番組です。横丁のようにあらゆるジャンルの疑問を取り上げ、脳科学と組み合わせてゆるっと深掘りしていき、お酒のツマミになるような話を聴くことができます。 番組名:ニューロ横丁〜酒のツマミになる脳の話〜 パーソナリティー:茨木 拓也(VIE 株式会社 最高脳科学責任者)/平野 清花 https://open.spotify.com/episode/64mTTxnETNfLi3nq1N29g9?si=IhynE8n5RT2SGI4KR0Kscw 次回 次回のコラムでは、脳科学の視点から『好きな人と関係を持続させるコツ』についてご紹介します。 https://mag.viestyle.co.jp/columm06/

脳科学で蛙化現象を克服?/好きな人に好意を寄せられると嫌いになるのはどうして?

今回のテーマは「恋愛」です。好きな人に好意を寄せられると、相手が気持ち悪くなってしまう「蛙化現象」は、「自信の無さ」や「自己肯定感の低さ」が原因であると一般に言われています。 では、そのような人たちの脳の中では、どんな反応が起きているのか、蛙化現象を克服する方法は存在するのかについて、深掘りしていきたいと思います。 前回のコラムはこちらです。 https://mag.viestyle.co.jp/columm03/ 蛙化現象とは?20%の女性が経験している 好きな人が自分に好意を寄せていると気づいた瞬間に、相手のことを気持ち悪く感じてしまう。巷では「蛙化現象」と呼ばれているこの現象ですが、みなさんの周りにも悩んでいる人はいませんか? 蛙化現象の起きやすい人たちには、共通していることが多いかもしれません。例えば、相手の気持ちを執拗に確かめようとしてしまったり、付き合う中で不安を感じながら相手を束縛したり、逆に相手からも束縛されるようになり、早く別れてしまったり…。 先行研究の中での「蛙化現象」の定義は、ある異性に対して、自分が一方的に好意を持っていると思っている状態で、相手も自分に対して好意を持っていると気がづくと、そのことがきっかけとなって相手のことを気持ち悪く感じてしまったり、嫌いになったりしてしまうことを言います。 蛙化現象は、女性に多い現象だと言われていますが、研究によると男性でも同様な現象が起こることは多いそうです。ただ女性の方が男性の2倍近く蛙化現象になりやすく、平均で20%ほどの女性が、蛙化現象を経験したことがあると言われています。 蛙化現象が起きるのはどうして?蛙化現象の脳のメカニズム 蛙化現象の原因には、「自信の無さ」や「自己肯定感の低さ」が挙げられます。特に、非常に優秀な人や容姿が端麗な人に多く見られる現象です。 これら人々は、周りから「優秀だね」「かわいいね」と褒められても、「自分なんて…」「まだまだだ…」と、自分を肯定することができずに苦しむことが多いです。このような人たちは、常に自分が周囲の期待に応えられているかどうか不安を抱え、その不安を解消するために努力を続けます。 蛙化現象においての「不安」や「恐怖」は、「相手の気持ちをコントロールできないこと」にあるのではないかと考えられています。 例えば、好きなアイドルが自分に好意を寄せてくれる可能性は、現実的に考えると、悲しいことにほとんどありません。そのため、自分の「好き」という一方的な気持ちだけで完結し、相手の気持ちに委ねることはありません。 しかし、実際の恋愛となると、相手の好意は自分がコントロールできるものではなく、自分が傷つくかもしれないという予測が、不安や恐怖と結びつき、相手の粗が見えてきてしまい、「なんか気持ち悪い」と感じてしまうと考えています。 他にも蛙化現象を起こしてしまう理由は考えられます。 みなさんは「サワーグレープス」(sour grapes)を知っていますか?イソップ童話の「キツネとブドウ」が語源となった、「負け惜しみ」という意味の言葉です。この物語で、キツネは高い木に実るブドウを、自分の手が届かないという理由だけで「あのブドウは酸っぱくて不味いだろうから、いらない」と言います。 ここでは、手の届かないものに対して、自分の中で価値を下げてしまう現象が起きているのですが、蛙化現象でも似たようなことが起きているかもしれません。つまり、相手が自分を好きという状況は、自分ではコントロールできないから、「あの人は好きじゃない。」「気持ち悪い。」と考えてしまうのかもしれません。 相手に求めるのではなく自分で考えよう!蛙化現象の克服方法 恋愛において理想が高くしすぎてしまうと、「コントロールできない。」という現実とのギャップで「不安」が大きくなり、蛙化現象も生まれやすいのです。 ある研究では、綺麗な人の写真を見続けていると、自分のパートナーの顔があまり可愛く(かっこよく)見えなくなってしまう、ということも証明されています。それほど理想を高く持たないことは、蛙化現象を避けるために大切なのです。 また、不安を抱えやすい人は、パートナーの褒め言葉を解釈するのが難しい人が多いと言われています。そのような人たちには「リフレーミング」をすることをお勧めします。 「リフレーミング」とは、「可愛くないのになんで可愛いって言うの!」と相手に答えを求めるのではなく、「どうしてパートナーは褒めてくれるのか?」「きっと私がこういう努力をしたからだ。」というように、自分の中で解釈していくことを言います。そのようにすることで、少し自信が持てるようになったり、2人の関係性がよくなることがわかっています※。 ※参考:心理学のリフレーミングとは?効果&練習法をわかりやすく解説! - STUDY HACKER(スタディーハッカー)|社会人の勉強法&英語学習, 2024年9月6日参照 まとめ 巷で言われる蛙化現象は、一方的に好きだった時は大丈夫でも、相手が自分のことを好きになると気持ち悪くなってしまう現象のことを言います。 この原因については、よくわかっていない部分も多いですが、私の解釈では不安を持ちやすい人や、自信のない人がなりやすいと思っています。片想いをしているときはよくても、相手に好きになられると、相手の気持ちはコントロールできないためです。 急に不安になり、相手を嫌いになるような自己防衛が働き、脳の中には相手の悪いところしか入ってこなくなり、気持ち悪くなってしまいます。それを変えるためには、相手が自分にかけてくれる言葉をリフレーミングすることで、よりニュートラルに相手を見られるようになるかもしれません。 🎙ポッドキャスト番組情報 日常生活の素朴な悩みや疑問を脳科学の視点で解明していく番組です。横丁のようにあらゆるジャンルの疑問を取り上げ、脳科学と組み合わせてゆるっと深掘りしていき、お酒のツマミになるような話を聴くことができます。 番組名:ニューロ横丁〜酒のツマミになる脳の話〜 パーソナリティー:茨木 拓也(VIE 株式会社 最高脳科学責任者)/平野 清花 https://open.spotify.com/episode/6vMB8KQY05dovlOH1CVQlr?si=1vyjURRVQ929kV6txM40eg 次回 次回のコラムでは、『恋愛に関する脳科学のお話』をご紹介します。 https://mag.viestyle.co.jp/columm05/

お酒とニューロテクノロジーで実現する新しい世界 

ニューロテクノロジーには脳情報を「読み取る」技術と、「書き込む」技術の2つの要素があります。 これらの技術は、自分の好みに合ったお酒を脳波から提案してくれたり、ノンアルコールでも酔ったときと同じような感覚に持っていけたりなど、「お酒」と「脳科学」の新しい世界の可能性を魅せてくれます。 今回は、『お酒とニューロテクノロジーで実現する新しい世界』をテーマに紹介します。 前回のコラムはこちらです。 https://mag.viestyle.co.jp/columm02/ ニューロテクノロジーとは?「読み取り」と「書き込み」の2つの要素 私たちの会社VIE では、ウェアラブルの脳波計を製作し、さまざまなニューロテクノロジーを用いた事業をおこなっています。 ニューロテクノロジーというのは、私たちの情報処理を担う「脳」をターゲットにし、脳がおこなう情報表現をセンシングして理解したり、ニューロフィードバックという技術を用いて、なりたい脳活動を実現させるトレーニング技術のことを指します。 ニューロテクノロジーには大きく2つの要素があります。1つは脳の情報を「読み取る」技術です。これは、自分がいま見ているものがヒトなのか、空なのかといったことや、右に行きたいのか、左に行きたいのか、というようなことを脳活動から解読する技術のことを指します。 もう1つの要素は、脳に「書き込み」をおこない、脳活動を変えていくという技術です。 例えば、音楽を聴いてリラックスをしている状態の脳活動が挙げられます。外部の技術を駆使して、音楽を聴かなくても、その状態の脳活動を作り上げていく、という技術が「書き込み」にあたります。 好みに合ったビールを脳波をもとに提案 近年、「お酒」と「ニューロテクノロジー」の融合により、新たな技術が期待されています。ここでは私たちの会社 VIE が挑戦してみたい、ニューロテクノロジーを利用した事業をいくつか紹介します。 1つ目は先ほどの「読み取る」技術を利用したものです。 みなさんは複数あるビールメーカーや種類の中で、言葉では表現しにくいけれど、何となくこのビールは口に合う気がする、好みではない気がする、というような感覚を抱いたことはありませんか?そのような脳の情報を記録し、「読み取る」ことで、みなさんの脳とビールをマッチングさせて、「この人ならこの味のビールを好みそう」という提案を行えるようになる技術が研究されています。 VIE が製作しているウェアラブルの脳波計を装着しながら、飲食をしているときの脳状態を記録をすることで、脳科学の観点から、好みに合った食べ物を提案できたら面白いなと考えています。 ノンアルコールで酔っ払うニューロフィードバック 2つ目は「書き込み」の技術を利用したものです。 最近ではソバーキュリアス(Sober Curious)と言って、お酒を飲まない生き方を選択する人が増えています。そのような背景から、お酒を飲まなくても、お酒を飲んでいる人たちと同じように楽しもうとする、ノンアルコールの市場が注目されています。 しかし「お酒」には、 以前 お酒に関する話 で紹介したように、飲むことによって気持ち良くなったり、人付き合いが円滑になったりする効果があります。その力を、アルコールを摂取しなくても表出できるようになったら、面白いと思いませんか? 例えば、Aさんの素面のときの脳波と、酔って気持ちの良いときの脳波を記録しておきます。そして素面のときのAさんに、酔って気持ち良くなっているときの脳波と今の脳波が、どれくらい近いのかを教えてあげます。もちろんAさんは素面のため、最初は酔ったときの脳波とはかけ離れた位置にいますが、脳波を酔ったときと同じ状態まで持っていくように、Aさんに促します。 すると、Aさんが好きなアイドルのことを考えたり、楽しかった飲み会を思い出したりと、脳波を変えるために試行錯誤する中で、Aさんの脳波が酔ったときの脳波に近づいた瞬間が生まれてきます。これを何度も繰り返していくことで、Aさんは「こういうことを考えれば、脳波を近づけられるんだ」と学ぶことができます。 このように自分の脳活動を見て、その脳の活動を自分で変えていくことを、ニューロフィードバックといいます。このスキルがあれば、アルコールを飲まなくても、酔ったときと同じような感覚に近づくことができるので、お酒を飲みすぎることなく楽しい時間を過ごせるのではないかと考えています。  最近の研究※では、アルコールは、快感をもたらす脳の部位(腹側線条体)を活性化し、不安に関わる扁桃体の反応を抑制することが示されています。このような反応を、脳情報を媒体に演出することができたら、それがお酒と同様に未来の嗜好品になっていくかもしれません。 ※出典:Why We Like to Drink: A Functional Magnetic Resonance Imaging Study of the Rewarding and Anxiolytic Effects of Alcohol | Journal of Neuroscience (jneurosci.org), 2024年7月2日参照 脳波についてはこちらの記事でも紹介しています。 https://mag.viestyle.co.jp/eegmeasurement/ まとめ ニューロテクノロジーは、脳の情報を「読み取る」、「書き込む」という2つの要素が中心となっています。「読み取る」技術では、脳活動をモニタリングしながら、好みのお酒をマッチングさせることができたり、「書き込み」技術では、ノンアルコールでもお酒を飲んだときのような心地よい状態に近づけることができたりなど多くの可能性が秘められています。私たち VIE もそのような事業に挑戦していきたいと思っています。 🎙ポッドキャスト番組情報 日常生活の素朴な悩みや疑問を脳科学の視点で解明していく番組です。横丁のようにあらゆるジャンルの疑問を取り上げ、脳科学と組み合わせてゆるっと深掘りしていき、お酒のツマミになるような話を聴くことができます。 番組名:ニューロ横丁〜酒のツマミになる脳の話〜 パーソナリティー:茨木 拓也(VIE 株式会社 最高脳科学責任者)/平野 清花 https://open.spotify.com/episode/4LGjDLc5eyhYy3qLlPdWpA?si=LQ9hYAa8RbS7GsqfYyfaIw 次回 次回のコラムでは、脳科学の視点から『蛙化現象』について深堀りしていきます。 https://mag.viestyle.co.jp/columm04/

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