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坐禅と瞑想の違いとは?禅の文化と瞑想のつながり・実践法を解説

慌ただしい毎日の中で、心がざわついたり、気持ちが落ち着かないと感じることは珍しくありません。そんな現代において、静けさと向き合う時間として注目されているのが「禅瞑想」です。 古くから仏教の修行法として親しまれてきた禅の思想と、近年科学的にも注目される瞑想が結びつくことで、心と体のバランスを整える新しい実践法として広がりを見せています。 本記事では、禅瞑想の基本から実践法、文化的背景までをやさしく解説。初めての方でも安心して取り組めるよう、丁寧に紹介していきます。 禅と瞑想の違いとは?似ているようで異なるポイントを解説 「禅」と「瞑想」は、どちらも心を落ち着ける方法として注目されていますが、実は起源や実践の目的、姿勢などに違いがあります。一方で、共通する部分も多くあるのも特徴です。ここではまず、それぞれの定義を明確にしたうえで、共通点と相違点を整理していきます。 禅とは何か 禅とは、中国で生まれた「禅宗」という仏教の教えに由来します。日本には鎌倉時代に伝わり、曹洞宗や臨済宗といった宗派として発展しました。 禅では、静かに座る「坐禅」が最も基本的な修行とされます。坐禅では、呼吸や姿勢に意識を向けながら、心を落ち着かせ、湧き上がってくる思考や感情に囚われず、それらに流されない「無念無想」の状態を目指します。 瞑想とは何か 瞑想とは、意識的に心を静め、内面に集中する精神的なトレーニングの総称です。宗教的な背景を問わず、世界各地の伝統に存在しており、近年では医療やビジネス分野でもストレス軽減や集中力向上を目的として活用されています。 姿勢や方法は様々で、静かに座るだけでなく、歩いたり呼吸を数えたりと多様なスタイルがあります。 瞑想についてより詳しく知りたい方は、以下の記事も参考にしてください。 https://mag.viestyle.co.jp/meditation/ 禅と瞑想の共通点:意識の集中と心の静けさ 禅と瞑想には、「今この瞬間」に意識を向けるという共通点があります。どちらも、頭の中の考えごとをいったん手放し、感情に振り回されない穏やかな心の状態を目指します。 さらに、呼吸や姿勢に注意を向けることで、自分自身の内面と向き合うことができる点も共通しています。近年では、ストレスの軽減や脳機能の向上といった効果が科学的にも認められています。 禅と瞑想の違い:宗教的背景と実践スタイル 禅と瞑想の大きな違いは、宗教的な背景と実践の目的にあります。禅は、元々は仏教、なかでも禅宗に根ざした宗教的な修行法です。一方、瞑想は宗教に限らず、さまざまな分野で取り入れられている心のトレーニング法といえます。 現代においては、禅の要素を取り入れた瞑想が、宗教的な背景にとらわれずに実践されることも増えており、その意味で禅と瞑想は互いに重なり合う部分も持ち合わせています。 また、実践方法にも違いがあります。禅では「坐禅」と呼ばれる、決まった姿勢と所作が重要視されますが、瞑想は座るだけでなく、歩いたり横になったりと、自由なスタイルで行うことができます。さらに、禅が「悟りの境地」に至ることを最終的な目的とするのに対し、瞑想はリラクゼーションや集中力の向上、ストレス解消など、目的が多様です。 次の章では、禅がどのように仏教や日本文化の中で育まれてきたのか、その歴史と背景を見ていきましょう。 禅瞑想と日本文化のつながり 禅瞑想は、仏教の中でも「禅宗」に深く根ざした実践です。その影響は、日本の精神文化や芸術にも色濃く残っています。この章では、禅がどのように日本に伝わり、瞑想とともに文化の中で受け継がれてきたのかを見ていきます。 禅宗の歴史と坐禅の意味 禅宗は、6世紀ごろに中国で達磨大師(だるまたいし)によって始まったとされる仏教の一派です。特徴は、経典や理論に頼るのではなく、坐禅を通じた直接的な体験によって悟りを目指す点にあります。この実践的な教えは中国で発展し、鎌倉時代に日本へ伝えられました。日本では、臨済宗や曹洞宗といった宗派が広まり、禅の教えは武士階級のあいだで精神的な支えとして重んじられるようになります。 禅宗の修行の中心となるのが「坐禅(ざぜん)」です。これは、決まった姿勢で静かに座り、呼吸と意識をととのえながら、浮かんでくる雑念を手放していくというものです。何かを考えたり感じ取ろうとするのではなく、ただ静かに坐り続けることで、思考や感情に支配されない「無念無想」の状態を目指します。そうした姿勢の中に、禅の精神が息づいているのです。 武士道や芸道に受け継がれる「静」の精神 鎌倉時代から室町時代にかけて、禅の精神は武士の生き方に大きな影響を与えました。厳しい現実の中で心を静かに保ち、自分を律するという考え方は、やがて「武士道」の根幹にもつながっていきます。 また、禅の思想は茶道や華道、書道といった日本の芸道にも深く根づいていきました。これらの芸道に共通するのは、余計なものを削ぎ落とした「簡素な美」や、集中力と心の静けさを重んじる姿勢です。動作の一つひとつに心を込め、無心で向き合うという点で、禅と芸道は本質的に重なっています。 さらに、「わび・さび」と呼ばれる、日本独自の美意識――静けさや不完全さの中に美を見いだす感性も、禅の価値観と通じるものがあります。静かで控えめな美しさを尊ぶこの感覚は、禅が日本文化に深く根を下ろした証といえるでしょう。 現代に生きる“無心”の価値 禅の精神において大切にされているのが、「無心(むしん)」という考え方です。これは、あれこれと思い悩んだり感情に振り回されたりせず、今この瞬間に意識を集中し、物事をあるがままに受け止める姿勢を意味します。 こうした「無心」の境地は、茶道や書道のような芸道の中でも重視されてきましたが、現代社会においてもその価値は変わりません。忙しさや情報にあふれる日常の中で、心を静めて自分自身と向き合う時間は、多くの人にとって必要とされているのです。 禅瞑想は、こうした心の在り方を養うための手段として、過去と現代をつなぎながら、今も多くの人に実践されています。 禅瞑想の基本ステップをわかりやすく解説 「禅瞑想を始めてみたいけれど、どうすればいいのかわからない」という初心者の方も多いかもしれません。禅の瞑想は、道具をそろえる必要がなく、静かな場所と少しの時間があればすぐに始められるシンプルな実践です。 ここでは、坐禅の姿勢・呼吸・意識の整え方、さらには動きながらの瞑想方法まで、基本的なステップを順を追って紹介します。 姿勢をととのえる:坐禅と半跏趺坐(はんかふざ)の基本 禅瞑想では、安定した姿勢を保つことが重要です。代表的なのが「坐禅」の姿勢で、あぐらの一種である「半跏趺坐(はんかふざ)」が基本となります。片方の足をもう一方のももの上に乗せ、背筋をまっすぐに伸ばします。 手は「法界定印(ほっかいじょういん)」という形に組みます。左の手のひらを上にして右の手のひらの上に重ね、両方の親指の先をそっと合わせ、おへその前あたりに軽く置きます。顎を引き、視線は1~1.5メートル先の床に落とすのが一般的です。椅子に座って行う「椅子坐禅」でも問題ありません。無理のない姿勢を選びましょう。 呼吸をととのえる:数息観(すそくかん)と自然呼吸 姿勢が整ったら、呼吸に意識を向けます。禅瞑想でよく用いられるのが「数息観(すそくかん)」という方法です。息を吐くたびに「一、二…」と数を数え、十まで数えたらまた一に戻る、というサイクルを繰り返します。 呼吸は鼻から自然に行い、吸う息よりも吐く息をゆっくりと意識するのがポイントです。慣れてきたら数を数えず、自然な呼吸の流れそのものに注意を向ける「随息観(ずいそくかん)」に移行しても良いでしょう。 意識のととのえ方:雑念とのつきあい方 瞑想中は、ふとした瞬間に雑念や感情が浮かんでくることがあります。しかし、それを無理に排除しようとする必要はありません。「今、こんな考えが浮かんできたな」と気づき、それに執着せず、そっと意識を呼吸に戻します。 大切なのは、「考えてはいけない」と抑え込むのではなく、「気づいて、戻る」を繰り返すことです。これこそが、禅瞑想における「無心」へと近づくための基本的な姿勢です。 動く禅瞑想:歩行禅や日常動作への応用 禅の瞑想は、静かに座るだけにとどまりません。「歩行禅(ほこうぜん)」と呼ばれる、ゆっくりと歩きながら行う瞑想もあります。足裏の感覚や一歩一歩の動作に意識を向け、心の動きを観察します。 また、日常の家事や動作の中でも、動きを丁寧に行い、意識を今この瞬間に向けることで、瞑想の質を生活に取り入れることができます。歯を磨く、食器を洗う、階段を上る――こうした日々の動作が、そのまま禅瞑想の時間になり得るのです。 参考:VIE株式会社「京都 建仁寺夜間拝観「ZEN NIGHT WALK KYOTO」来場者数1万人を突破」 忙しい現代人向け!続けやすい禅瞑想の実践アイデア 実は、禅の瞑想は短時間でも効果が期待でき、忙しい日常の中にも取り入れやすい方法です。 ここでは、初心者でも無理なく始められて、習慣化しやすい禅瞑想の実践アイデアを紹介します。生活のすき間時間を活用することで、無理なく継続できる工夫が満載です。 1日5分から始める「プチ坐禅」習慣 坐禅と聞くと長時間座るイメージがありますが、最初は1日5分からで十分です。朝起きた直後や夜寝る前など、時間帯を決めて短く実践することで、生活の中に自然と禅瞑想を取り入れることができます。 姿勢は半跏趺坐が基本ですが、無理なく座れるなら椅子に座っても問題ありません。静かな場所を選び、背筋を伸ばし、呼吸に意識を向けることがポイントです。時間が短くても、「続けること」こそが大切です。 アプリや動画を活用してガイド付きで実践 近年では、瞑想や坐禅のガイドを提供するスマートフォンアプリやYouTube動画が充実しています。たとえば「InTrip」「Relook」などの日本語対応アプリでは、初心者向けに短時間の音声ガイドが用意されています。 また、YouTubeでは、禅寺の僧侶が解説する坐禅動画やオンライン坐禅指導も視聴可能です。耳で聞きながら実践できるので、自宅にいながら本格的な禅瞑想を体験できます。 オンライン坐禅会で気軽に参加体験 外出せずに本格的な禅瞑想を体験したい方には、オンライン坐禅会の参加がおすすめです。たとえば永平寺や妙心寺の関連団体では、Zoomなどを使った坐禅体験を定期的に開催しています。 なかでも「月曜瞑想」として知られる取り組みは、毎週決まった時間に短い坐禅を行うスタイルで、参加のハードルが低く人気です。ひとりでは続かないという方も、共に坐る仲間がいることで継続しやすくなります。 禅瞑想のよくある悩みと継続のコツ 禅瞑想を始めたばかりの頃は、「集中できない」「時間がない」「なんとなく苦しい」といった悩みが出てくることがあります。これは誰にでも起こる自然な反応です。 ここでは、そうした悩みへの具体的な対処法と、禅瞑想を無理なく続けるためのコツをご紹介します。 集中できないときは「戻る」練習と割り切る 雑念が湧いて集中できないときは、自分を責めず、「気づいて戻る」ことを繰り返しましょう。禅瞑想は、完璧な集中を目指すものではなく、意識がそれたことに気づき、呼吸へ戻ること自体が大切な練習です。 瞑想が苦しいと感じたら、無理せず休む 坐っていて苦しく感じるときは、姿勢や時間の調整が必要かもしれません。無理に我慢するのではなく、短時間で切り上げる、椅子を使うなど柔軟に対応しましょう。つらさを避ける工夫も、長く続けるためには重要です。 習慣化のコツは「タイマー」と「朝のルーチン」 毎日同じ時間に実践する「朝のルーチン」として取り入れると、継続しやすくなります。タイマーで5分だけと決めることで、心理的ハードルも下がります。短くても続けることが、禅瞑想の効果を実感する第一歩です。 VIE株式会社が提供する音楽アプリ「VIE Tunes」では、瞑想の効果を高める「ニューロミュージック」を、タイマー機能とあわせて聴くことができます。こうしたアプリを活用することで、無理なく禅瞑想を続けるサポートになります。 禅瞑想で心身のバランスを整えよう 禅瞑想は、心を静めるとともに、集中力やストレス軽減にも効果的です。まずは短時間から無理なく始めて、日常に“静けさ”を取り入れてみましょう。

ウェルビーイング時代に注目のニューロテックとは?国内外の注目企業・最新事例まとめ

私たちの暮らしや働き方が大きく変わる中、「心と体のバランスをどう整えるか」は、ビジネスパーソンから学生、子育て世代まで、すべての人にとって重要なテーマになりつつあります。そんな中でいま注目を集めているのが、脳の状態を見える化し、心のコンディションに働きかけるニューロテック(ブレインテック)の活用です。 最先端の脳科学とテクノロジーが、メンタルヘルスやライフバランスといった「ウェルビーイング」にどう貢献しているのか、国内外の最新事例をもとに、その広がりと可能性を探っていきます。 ニューロテクノロジーがウェルビーイングに注目される背景 メンタルヘルスやライフバランスへの関心が高まる現代、脳とテクノロジーを融合したニューロテック(ブレインテック)がウェルビーイング分野で大きな注目を集めています。脳波や神経の活動を測定・分析し、その情報をフィードバックすることで、ユーザーが自身の心の状態やパフォーマンスをより良く理解し、自己調整を促す技術は、これまで主に医療や研究の場で使われてきましたが、最近では私たちの生活の中にも少しずつ広がり始めています。 その背景には、世界規模でのメンタルヘルス課題と技術の進歩があります。世界保健機関(WHO)によれば、全世界で3億人以上がうつ病を患っており、日本国内でも約8割の人が何らかの悩みや不安を抱えて生活していると言われます。こうした背景に応える形で、ニューロテック企業への注目と投資も拡大しています。 たとえば、AmazonやGoogleなど世界的企業も、この分野の有望スタートアップの買収・提携に関心を示しており、市場拡大が加速しています。また日本政府においても、ムーンショット型研究開発制度にニューロテック関連プロジェクトを採択するなど支援を始めており、国内外でニューロテクノロジーの応用が一気に進んでいます。 参考:Zion Market Research, "Global Mental Health Technology Market Size, Share, Growth, Analysis, Report, Forecast 2024-2032," Zion Market Research 国内におけるニューロテック活用事例 日本国内でも、ウェルビーイング向上を目指すニューロテックの取り組みが活発化しています。いくつかの最新事例をご紹介します。 株式会社NeU(ニュー)  NeUは、東北大学と日立ハイテクの共同出資によって設立された脳科学ベンチャー企業です。2018年にはメンタルヘルス対策企業のウェルリンク社と提携し、働く人のストレス状態を可視化し、脳トレーニングやニューロフィードバックを通じて自己調整能力を高めることを支援する法人向けサービス『Best』を発表しました。 また、オフィス設置用に近赤外光(NIRS)を使った簡易脳活動計測器も提供しており、約5分間の本格的なニューロフィードバック訓練を通じて、ストレス耐性の向上や認知機能のアップを図るプログラムも組み込まれています。 社員一人ひとりの脳コンディションを整えることで組織全体の活力向上につなげる、「脳科学×健康経営」のソリューションとして注目されています。 参考:株式会社NeU「脳科学知見を活用した新セルフチェック&トレーニング「Best」を開発」 VIE株式会社(ヴィー) 神奈川県鎌倉市に拠点を置くスタートアップ・VIE株式会社は、イヤホン型の脳波計「VIE ZONE」の開発を手がけています。2025年5月からは、法人向けのニューロミュージック配信サービス「Neuro BGM(β版)」の提供もスタートしました。 このサービスでは、神経科学の知見と脳波データに基づいて開発された楽曲を、シーンや時間帯に応じて自動再生します。音楽の力で集中力とリラックスのバランスを整え、ストレスの軽減や生産性の向上、チームのエンゲージメント強化など、職場や店舗の環境改善が期待されています。 脳の状態に働きかける音楽によって、日々のパフォーマンスを自然に引き出す──そんな新しいアプローチが、企業のウェルビーイング経営を後押しする手段として期待を集めています。 参考:VIE株式会社「脳科学にもとづくオフィス・店舗向けBGMサービス「Neuro BGM(β版)」」 株式会社CyberneX(サイバネックス) CyberneXは、脳と社会をつなぐBCI(ブレイン・コンピュータ・インターフェース)技術の実用化に取り組む企業です。長年にわたる脳情報の研究をもとに、リラックスや集中といった「こころの状態」を脳波で見える化する独自の技術を開発しています。なかでも、癒し効果を脳波で測定・分析できるツール「α Relax Analyzer」は、さまざまな分野で注目を集めています。 この製品は、AIによる自動分析機能「XHOLOS Brain Insight AI」を搭載しており、専門知識がなくても脳波データの理解や活用が可能です。さらに、個人ごとに最適な商材をレコメンドできるため、パーソナライズされた体験の提供や、ウェルビーイングの向上にもつながっています。 アロマ、音楽、食品など幅広い実証実績があり、リラックスという感覚を科学的に伝えるマーケティング支援ツールとしても広がりを見せています。 参考:CyberneX「α Relax Analyzer」 海外におけるニューロテック活用事例 海外でもニューロテックを活用したウェルビーイング向けサービスが次々と登場しています。代表的な最新事例をいくつか見てみましょう。 Flow Neuroscience(スウェーデン) Flow Neuroscienceは、自宅でうつ症状の改善を目指せる非侵襲型ヘッドセットを開発したスタートアップです。頭に装着するこのデバイスは微弱な電流(tDCS)を用いて脳を刺激し、連携するアプリでは行動療法に基づいたトレーニングプログラムを提供します。 薬に頼らずに脳の働きにアプローチする「デジタル脳刺激療法」として注目されており、利用者の約81%が3週間以内に症状の改善を実感したという報告もあります。現在は、英国の公的医療制度NHSでも試験導入が進められています。 参考:Exploding Topics. "20 Neuroscience Startups Accelerating Market Growth (2024)." Neurable(米国) もともとはVR向けの技術開発からスタートしたNeurableは、現在、脳波から感情や集中状態を読み取るヘッドホン型デバイス「MW75 Neuro」を開発しています。この製品は、イヤホンに内蔵されたセンサーが脳波を計測し、AIがその信号を解析することで、ユーザーの集中度やリラックス度など、特定の脳活動パターンに関連する状態をリアルタイムで推定することが可能です。 このデバイスにより、日々の行動や働き方を自分の脳の状態に合わせて最適化できることを目指しており、燃え尽き症候群(バーンアウト)の予防にもつながると期待されています。2024年には約1,300万ドル(約18億円)の資金調達にも成功し、働く人のメンタルヘルスを支え、生産性の向上に貢献する次世代デバイスとして注目を集めています。 参考:Neurable公式HP InteraXon(カナダ) InteraXon社が提供する「Muse」は、瞑想によるマインドフルネス習慣をサポートする脳波計測ヘッドバンド型デバイスです。ヘッドバンドを装着し、専用アプリと連携することで、リアルタイムに脳波を解析しながら瞑想の深さや集中度をフィードバックしてくれます。脳の状態に合わせて、自然音やガイド音声が変化するため、自分の内面の変化に気づきやすく、初心者でも続けやすいのが特長です。 ユーザー調査によれば、77%がストレス管理がしやすくなり、78%がよりリラックスできたと実感しており、ストレス軽減・集中力向上・情緒安定といった多面的なウェルビーイング効果が報告されています。 参考:Muse (InteraXon Inc.). "Benefits of Muse." Muse. ニューロテックがもたらすウェルビーイングへの寄与 ニューロテックは、心と体の状態を“見える化”し、自分に合ったセルフケアを可能にする技術として、ウェルビーイングの向上に大きく貢献しています。ストレスや集中力といった主観的な感覚を客観的なデータとして捉えることで、早期の気づきや予防的なケアがしやすくなりました。 さらに、個人の脳の状態に合わせて音楽や瞑想、行動プログラムをパーソナライズできる点も魅力です。近年ではデバイスの小型化・簡易化が進み、こうした技術が日常生活の中に自然に取り入れられるようになっています。 「感じ方」や「思考のクセ」といった内面にアプローチできるニューロテックは、働き方や暮らし方を見直すきっかけを与えてくれる、新しいセルフマネジメントの手段として注目されています。

ウェルビーイングを阻む10の社会課題

ウェルビーイングとは「身体・精神・社会のすべての面で満たされ良好な状態」を指します。しかし、私たちの生活を振り返ってみると──長時間労働、心の不調、つながりの希薄さなど、「満たされている」とは言いがたい現実も多くあります。 この記事では、ビジネスパーソンや学生をはじめとする多くの方に向けて、ウェルビーイングをめぐる社会課題を整理し、それぞれが抱える背景と影響について解説します。 1.ウェルビーイングに対する社会的認識の不足 「ウェルビーイング」という言葉が注目されるようになったのはここ数年のことですが、まだまだ社会全体には十分に浸透していません。実際、NECソリューションイノベータが2023年1月に実施した調査によると、『ウェルビーイング』という言葉を認識していない人は約7割にのぼり、社会全体への浸透はまだ十分ではないことが伺えます。 出典:NECソリューションイノベータ「ウェルビーイング意識調査を実施しました」 社会的な認識が低いと、企業や自治体、学校などがウェルビーイングの取り組みを始めようとしても、十分な理解や共感が得られにくくなります。また、個人にとっても「自分のウェルビーイングとは何か?」を考える機会が少なく、漠然とした不安や不調を抱えたまま日々を過ごしてしまうことにつながります。 参考:NECソリューションイノベータ「ウェルビーイング意識調査を実施しました」 2.メンタルヘルスへの偏見とスティグマ 心の健康に関する偏見やスティグマ(社会的な烙印)は、いまだ根強く存在しています。たとえば、一部の調査では、うつ病の原因を『本人の性格の弱さ』によるものと捉える人が一定数存在すると示唆されており、依然としてメンタルヘルスに関する偏見が残っている現状が伺えます。このような誤解は、悩みを抱える人が支援を求めにくくする要因となり得ます。 ウェルビーイングの本質は、「心身ともに健康であり、自分らしく生きられること」にあります。それにもかかわらず、メンタルヘルス不調がタブー視される社会では、人々が安心して助けを求めることができず、結果として精神的な安心・安定が得られにくくなってしまいます。 メンタルヘルスについては、こちらの記事でも詳しく紹介しています。 https://mag.viestyle.co.jp/mental-health/ 参考:CarenNet「うつ病に関する理解とスティグマの調査」 3.社会的孤立とコミュニティの崩壊 人とのつながりが希薄になっている現代社会において、「孤独」や「社会的孤立」は深刻な課題として浮かび上がっています。内閣官房の国際比較データによると、日本の「社会的支援」(=困ったときに頼れる人がいるか)の指標は、世界で50位前後とG7諸国の中で最下位レベルに位置しています。 出典:内閣官房「孤独・孤立に関連する各種調査について」 つながりがない状態は、単なる“寂しさ”にとどまらず、心身にさまざまな影響を及ぼします。ウェルビーイングの核心には「人との良好な関係性」があり、誰かに受け入れられている、支え合えるという実感は、自己肯定感や心理的安定に直結しているのです。反対に、コミュニティが崩壊し、支援を受けられるつながりがなくなると、人は“社会の一員”という実感を持ちにくくなり、孤立によるストレスや無力感が蓄積します。 参考:内閣官房「孤独・孤立に関連する各種調査について」 4.ワークライフバランスの難しさ 仕事と私生活のバランス、いわゆる「ワークライフバランス」の実現は、いま多くの人にとって大きな課題です。特に日本では、長時間労働をしている人が15.7%と、OECD加盟国全体平均の10%を大きく上回っており、主要先進国の中でも高い水準です。 ワークライフバランスが崩れてしまうと、本来あるべき自己実現や人間関係の充実、休息や回復の機会が失われ、心身ともに疲弊した状態に陥りやすくなります。また、この問題は単なる個人の働き方の問題ではなく、職場の文化や社会の価値観とも深く結びついています。「長時間働く=頑張っている」という評価軸や、「プライベートを優先すること=怠けている」と見なされる風土が残る限り、個人が自律的にライフスタイルを整えるのは難しいのが現実です。 日本のワークライフバランスの現状については、こちらの記事でも紹介しています。 https://mag.viestyle.co.jp/worklifebalance-situation/ 参考:Expatriate Consultancy “The 7 Countries With the Worst Work Life Balance in the OECD” 5.教育と啓発活動の不足 ウェルビーイングやメンタルヘルスに関する知識や意識は、自然に身につくものではありません。しかし日本では、それらを体系的に学ぶ機会が非常に限られてきました。このように、若いうちから「ストレスとの向き合い方」や「助けを求めるスキル」「自分や他人の心の状態を理解する方法」などを学ぶ機会がなければ、いざというときに適切に対処することが難しくなり、結果として、自分の不調に気づかず無理を重ねてしまったり、周囲に支援を求めることに抵抗を感じたりする人が増えてしまいます。 また、職場でも同様の課題が見られます。多くの企業ではメンタルヘルス対策が制度として導入されてはいるものの、現場での理解や活用は進んでいない場合が多く、「不調を自己責任と捉える風土」や「休むことへの罪悪感」が根強く残っているという声も少なくありません。 6.健康格差と不平等 所得や学歴、住む地域の違いなどによって、手に入れられる医療サービスや健康維持の手段には大きな差が存在しています。たとえば、国立がん研究センターが国勢調査と人口動態統計の個別のデータを組み合わせて分析した結果、教育歴が短い群において年齢調整死亡率がより高い傾向(男性で1.48倍、女性で1.47倍)があることが明らかになりました。 出典:国立がん研究センター「国勢調査と人口動態統計の個票データリンケージにより日本人の教育歴ごとの死因別死亡率を初めて推計」 このような「健康格差」は、身体的な問題にとどまりません。病気が見つかっても金銭的・時間的な理由から通院できない、健康に配慮した食事をとる余裕がない、働きすぎても休めないといった状況は、心の健康や生活全体の満足度にも直結します。つまり、経済的に恵まれない立場にある人ほど、自分のウェルビーイングを保つ選択肢そのものが限られてしまっているのです。 参考:国立がん研究センター「国勢調査と人口動態統計の個票データリンケージにより日本人の教育歴ごとの死因別死亡率を初めて推計」 7.テクノロジー依存 テクノロジーの進化は、私たちの生活を便利にし、働き方や学び方にも大きな変化をもたらしました。しかし一方で、スマートフォンやインターネットへの過剰な依存が、新たなウェルビーイングの障害になりつつあります。 たとえば、こども家庭庁が2024年に発表した、青少年のインターネット利用状況に関する調査では、「インターネット利用をやめられない」と自覚している青少年が全体の39.5%にのぼることが報告されました。この割合は前年比で3.2ポイントの増加となっており、依存傾向が若年層に広く存在していることを示しています。 こうした依存傾向は、学業や睡眠、家族や友人とのコミュニケーションに影響を及ぼすだけでなく、孤独感や不安感を増幅させる要因にもなります。特にSNSやオンラインゲームは没入感が高く、現実の人間関係よりもバーチャルな世界に引きこもってしまうことで、心の安定が揺らいでしまうこともあります。 参考:こども家庭庁「令和5年度 青少年のインターネット利用環境実態調査」 8.環境問題との関連 気候変動や環境破壊といった地球規模の課題は、単なる「自然環境の問題」にとどまりません。近年では、これらの問題が私たち一人ひとりの心の健康、つまりウェルビーイングにまで深く関係していることが明らかになってきています。 BBCが紹介した国際的な調査(2021年)では、若者の約60%が「気候変動を非常に心配している」と回答し、そのうち45%がその不安によって「日常生活に支障をきたしている」と述べています。このような深刻な気候不安(climate anxiety)は、特に未来に対する責任や期待を背負いやすい若年層に広がっており、うつや不安障害のリスクを高める要因としても注目されています。 また、洪水や猛暑、大規模な自然災害といった気候由来の現象は、物理的な被害だけでなく、住居喪失や避難、経済的不安といったストレスも引き起こします。こうした環境要因によって精神的安定が脅かされることは、もはや一部の地域の問題ではなく、誰にとっても無視できない現実です。 参考:BBC “Climate change: Young people very worried - survey” 9.制度・政策面の不十分さ ウェルビーイングを社会全体で底上げしていくには、個人の努力や企業の取り組みだけでなく、それを後押しする制度や政策の整備が不可欠です。しかし現状、その基盤はまだ十分に整っているとは言えません。 制度面の不十分さがもたらす問題は、格差や孤立といった個人レベルの課題を「自己責任」で片付けてしまう社会の空気にもつながります。本来、誰もが安心して働き、学び、暮らせる環境を整えることは、公的な役割であり、社会全体の土台を強くするための重要な投資です。 ウェルビーイングを政策の中心に据えるという視点は、単に人々の幸せを目指すだけでなく、医療費の削減や生産性の向上、社会の安定にもつながる持続可能な戦略です。個人の幸福と社会全体の健全さを両立させるためには、制度や政策のあり方そのものを問い直す必要があるのかもしれません。 10. ジェンダーとウェルビーイングの不均衡 ウェルビーイングはすべての人にとって重要なテーマですが、現実には性別によってその享受の度合いや障壁が異なることが明らかになっています。たとえば女性は、出産や育児、介護といったライフイベントを理由に、就業の継続が難しくなるケースが多く見られます。 男女共同参画局のデータによれば、2021年10月~2022年9月の期間に『結婚・出産・育児のため』に離職した女性は約21万人、『介護・看護のため』に離職した女性は約5万人とされており、男性と比較して女性の離職理由としてこれらの要因が大きいことが伺えます。 出典:男女共同参画局「特集編 仕事と健康の両立~全ての人が希望に応じて活躍できる社会の実現に向けて~」 一方で、男性にも別のプレッシャーが存在します。「弱音を吐いてはいけない」「感情を見せるべきではない」といったステレオタイプが根強く残っており、その結果として男性の方がメンタルヘルスに関する相談行動をとりにくい傾向があるのです。実際、日本では自殺者の約7割が男性であり、支援へのアクセスにおいて性別による偏りがあることは無視できません。 出典:男女共同参画局「特集編 仕事と健康の両立~全ての人が希望に応じて活躍できる社会の実現に向けて~」 ウェルビーイングは、社会全体で育てるもの ここまで見てきたように、ウェルビーイングの実現には、心と身体の健康だけでなく、働き方、教育、地域とのつながり、社会制度のあり方に至るまで、さまざまな要素が関わっています。そしてそれらの多くは、個人の努力だけでは解決できない「社会の構造的な課題」でもあります。 だからこそ、私たち一人ひとりが「自分のウェルビーイング」を意識すると同時に、周囲の誰かのウェルビーイングにも目を向け、支え合える社会をつくっていくことが重要です。企業、教育機関、行政、地域コミュニティなど、あらゆる場で小さな変化を積み重ねることで、誰もが自分らしく、安心して生きられる社会に近づくはずです。 ウェルビーイングは、個人のゴールであると同時に、社会全体の成長の土台です。目には見えにくくても、そこに投資することは、未来への確かな一歩になるのです。

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