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ニューロテック(ニューロテクノロジー)とは?ブレインテックとの違いや国内の最新動向を解説

私たちの脳が今どんな状態にあるのか――集中しているのか、疲れているのか、リラックスしているのか。そうした「脳の活動状態」を、脳波や神経活動などのデータを取得・解析することで正確に捉え、社会に活かすのがニューロテックです。 ニューロテックは、脳波や神経活動などのデータを取得・解析し、医療、教育、マーケティングなどさまざまな分野で活用されている注目の技術です。本記事では、ニューロテックとは何か、その基本的な仕組みや日本国内での動向、関連するテクノロジーとの連携までを幅広くわかりやすく解説します。 ニューロテック(ニューロテクノロジー)とは? ニューロテック(ニューロテクノロジー)とは、脳の活動を測定し、そのデータをもとに人の状態を分析・活用する技術の総称です。 人間の脳では、思考や感情、判断などのさまざまな働きが、電気的な信号として神経細胞の間を行き来しています。ニューロテックは、脳波や脳の血流、神経の反応といった情報をセンサーなどで取得し、それを解析することで、脳の状態を「見える化」したり、脳の情報を使って外部機器を制御したりすることを可能にします。 このような技術は、医療やメンタルヘルスの分野はもちろん、教育、スポーツ、マーケティング、UX設計など多くの領域で活用が進んでいます。 ニューロテックの基本的なしくみ ニューロテックの核となるのは、「脳の活動を測定し、それをデータとして活用する」という考え方です。先述した通り、人間の脳では、思考や感情が生まれるときに、神経細胞のあいだで微弱な電気信号がやりとりされています。こうした信号は、たとえば脳波や神経の反応といった形で体の外から捉えることができます。 この信号をセンサーなどの装置で取得し、コンピューターで解析することで、脳の状態を「見える化」したり、その情報を使って外部の機器を操作したりすることが可能になります。 このような仕組みの原点は、古くは20世紀初頭の脳波(EEG)発見にまで遡ります。そして、脳の信号を使って外部機器を操作するブレイン・コンピュータ・インターフェース(BCI)の概念や初期の研究が、1970年代に本格的に探求され始めました。 当時は、主に医療やリハビリの現場での活用が中心でした。たとえば、身体の自由がきかない人が、脳の信号を使ってコンピューターや車椅子を操作する、といった応用が模索されてきました。 それから数十年のあいだに、AIやウェアラブルデバイス、クラウド技術の発展により、脳のデータをより手軽に、より正確に、多様な分野でニューロテックを扱えるようになってきました。 ブレインテックとの関係性について 「ニューロテック」という言葉は、最近では「ブレインテック」と呼ばれることもあります。一般的には、「ブレインテック」が脳科学とテクノロジーを組み合わせた技術全般を指す広範な総称として使われる傾向が強く、その中に脳活動の計測や解析といった「ニューロテック」の要素が含まれると理解されています。 より細かく見ると、 ニューロテック:脳から得られる信号をどのようにセンシングし、データ化し、実用的な形に変換するかといった、脳神経科学に基づいた技術的アプローチを中心に取り扱う分野 ブレインテック:ニューロテックを応用した製品やビジネスのことを指す場面が多く、より実用的・産業的な文脈で使われる傾向がある たとえば、脳波を測定するヘッドセットはニューロテックの成果であり、それを活用してメンタルトレーニングサービスを提供する企業は、ブレインテック業界の一部と言えるでしょう。 ブレインテックについてより詳しく知りたい方はこちらもご覧ください: https://mag.viestyle.co.jp/braintech/#toc3 なぜ今、ニューロテックが注目されているのか ニューロテックは決して新しい概念ではありませんが、ここ数年で急速に注目度が高まっています。その背景には、技術面の飛躍的な進化と、社会課題に対する新しいアプローチへの期待という2つの大きな要因があります。 AIやBCIの進化 ニューロテックの発展を支えている大きな要因のひとつが、人工知能(AI)やブレイン・コンピュータ・インターフェース(BCI)といった周辺技術の進化です。 以前は、脳波を読み取るだけでも高度な専門機器や知識が必要でしたが、現在では小型で低コストな脳波センサーや、高性能な信号処理アルゴリズムが登場し、一般向け製品やサービスにも応用される段階に入りつつあります。 特にAIの進歩により、脳から取得したデータをリアルタイムに解析し、「集中しているか」「ストレスを感じているか」といった人の内面状態を高精度で推定できるようになってきたことは、ニューロテックの実用性を大きく押し上げています。 これにより、医療や教育だけでなく、マーケティングやUX設計など、より広範なビジネス領域への展開が可能になっています。 高齢化社会とメンタルヘルス ニューロテックが社会的にも注目されている背景には、高齢化やメンタルヘルスといった現代的な課題があります。 たとえば、認知症の早期発見や予防、うつ症状の兆候検出など、脳の状態をデータとして把握できることは、従来の問診や観察に頼っていた医療にとって大きな進化となり得ます。 また、働き方の多様化やストレスの増加といった現代のビジネス環境においても、従業員の集中力や疲労レベルを可視化して働き方を最適化するなど、ニューロテックの導入は実践的な課題解決につながる手段として期待されています。 これらの社会的ニーズに応える形で、今後もニューロテックの重要性はさらに高まっていくと考えられます。 日本におけるニューロテックの現状と企業の取り組み ニューロテック分野は世界的に注目を集めていますが、日本国内でもその研究や実用化に向けた動きが徐々に活発になっています。特にここ数年は、スタートアップを中心に脳波や神経データを活用した製品やサービスの開発が進んでおり、大学や自治体、企業との連携によって社会実装に向けた取り組みも広がっています。 ここでは、国内でニューロテックに取り組む企業の事例と、国・大学・民間が連携する支援体制の動向について見ていきましょう。 国内企業によるニューロテックの取り組み 日本国内では、AIや脳科学を専門とする企業が中心となり、ニューロテック技術の研究・開発を進めています。代表的な企業のひとつが株式会社アラヤです。アラヤは、独自開発のNeuroAI技術を活用し、脳科学や生体センシングに基づいたニューロテック領域の研究開発を推進しています。脳波やMRIによる脳データの取得だけでなく、心拍・呼吸・発汗などの生理的データも組み合わせて解析し、企業や研究機関の製品開発等を支援しています。 もうひとつ注目すべき企業が株式会社NeU(ニュー)です。NeUは東北大学と日立ハイテクのジョイントベンチャーとして設立され、NeUの取り組みは、研究や開発の初期段階にとどまらず、製品デザインやユーザーインターフェース(UI)の評価、広告クリエイティブの効果測定といった実用フェーズにまで広がっています。 そのほかにも、脳波を使ったメンタルトレーニングアプリを開発するスタートアップや、睡眠や感情状態をモニタリングできるデバイスを開発する企業など、多様なプレイヤーが現れつつあります。 参考: アラヤHP NeU HP 産官学が連携するニューロテック推進の動き 日本におけるニューロテックの研究・開発は、企業による取り組みに加えて、国の制度や研究機関による支援のもと、産官学連携によって進められています。 たとえば、内閣府の「ムーンショット型研究開発制度」では、ブレイン・マシン・インターフェース(BMI)に関する脳科学研究が推進されています。ムーンショット目標1では、脳波などを用いた非侵襲型BMI技術の開発に取り組んでおり、運動機能に着目した脳機能アルゴリズムの開発などが行われています。 また、日本医療研究開発機構(AMED)も、医療分野における脳科学研究を支援しています。たとえば、AMED設立後の2015年からは「脳とこころの健康に関する研究開発」として、2018年からの「戦略的国際脳科学研究推進プロジェクト」などを通じて、ニューロテックの研究・開発が行われてきました。 このように、日本国内では多様な機関や制度が連携し、ニューロテックの基盤となる脳科学研究の推進が進められています。 参考: 内閣府HP「ムーンショット目標」 日本医療研究開発機構「脳科学研究戦略推進プログラム(脳プロ)」 ニューロテックとAI・XR・IoTの連携 ニューロテックは、他の先端技術と組み合わせることで、その可能性をさらに広げています。特に、人工知能(AI)、拡張現実(XR)、モノのインターネット(IoT)との融合は、医療、教育、産業など多岐にわたる分野で新たな応用を生み出しています。 AIとの融合がもたらす可能性 AIは、ニューロテックの分野で重要な役割を果たしています。たとえば、脳波や神経活動のデータをAIが解析することで、認知機能の状態を評価したり、神経疾患の診断や治療法の開発に貢献することが可能です。 また、AIを活用したブレイン・コンピュータ・インターフェース(BCI)は、ユーザーの脳信号をリアルタイムで解析し、外部デバイスの制御を可能にするなど、リハビリテーションや支援技術の分野でも活用が進んでいます。 XRやIoTとの相乗効果 XR(拡張現実)とIoT(モノのインターネット)も、ニューロテックとの連携により新たな可能性を示しています。XR技術を活用することで、ユーザーは仮想空間での体験を通じて脳活動を刺激し、学習やトレーニングの効果を高めることができます。また、IoTデバイスと連携することで、脳波データや生体情報をリアルタイムで収集・解析し、個人の状態に応じたフィードバックを提供することが可能になります。 これらの技術の融合により、ニューロテックはより実用的で効果的なソリューションを提供できるようになっており、今後の発展が期待されています。 BCI / BMIについてより詳しく知りたい方は、以下の記事もご覧ください: https://mag.viestyle.co.jp/brain-machine-interface/ ニューロマーケティングへの応用 ニューロテックは、医療や教育だけでなく、マーケティング分野でも注目されています。その代表的な応用が「ニューロマーケティング」です。 ニューロマーケティングとは、脳波や視線、表情などの生体データをもとに、消費者の無意識の反応を解析し、広告やパッケージ、店頭レイアウトの改善などに活かす手法のことです。 脳の状態を客観的に測定できるニューロテックの特性は、従来のアンケートやインタビューでは拾いきれなかった「本音」を可視化するうえで、大きな価値を発揮しています。 ニューロマーケティングについてより詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください: https://mag.viestyle.co.jp/neuromarketing/ これからの時代におけるニューロテックの役割 ニューロテックは、脳の状態をリアルタイムで「見える化」し、その情報をさまざまな分野に応用する技術です。医療や教育、マーケティングから、日常生活の質の向上まで、その可能性は広がり続けています。 技術的には、AIやBCI、XR、IoTとの連携が進み、脳とテクノロジーがより深くつながる社会が現実のものとなりつつあります。また、日本国内でも企業・大学・行政が連携し、社会実装に向けた取り組みが加速しています。 脳の理解と活用を深めるニューロテックは、単なるテクノロジーではなく、人間のあり方や社会の構造そのものを変えていく鍵になるかもしれません。今後の進展に注目が集まります。

「ゲーム脳」は本当に危険?子どもの脳の発達への影響を徹底解説

2000年代初頭に話題となった「ゲーム脳」という言葉は、今でも保護者や教育現場に強い印象を残しています。しかし、この概念は本当に科学的根拠に基づいているのでしょうか? 本記事では、「ゲーム脳」の定義や提唱の背景から、その真偽をめぐる専門家の見解、さらにゲームとの正しい付き合い方までを幅広く解説します。子どもがゲームとどう関わっていくべきか悩む保護者や教育関係者に向けて、偏りのない情報と実践的なヒントをお届けします。 ゲーム脳とは?言葉の意味と広まった経緯 「ゲーム脳」という言葉を耳にしたことはありますか?この言葉は2002年ごろからメディアで頻繁に取り上げられるようになり、一時期は社会現象とも言えるほど注目を集めました。 しかし、そもそもゲーム脳とはどういう意味なのでしょうか?まずはこの言葉が広まった背景や、その根拠とされている「脳波の変化」について理解していきましょう。 脳波について基本的な情報をより詳しく知りたい方は、以下の記事を参考にしてください。 https://mag.viestyle.co.jp/eeg-business/ ゲーム脳の誕生と広まりの背景 「ゲーム脳」という概念を提唱したのは、森昭雄教授(日本大学文理学部・当時)です。この言葉は、2002年に出版された著書『ゲーム脳の恐怖』(NHK出版)によって、一般にも広く知られるようになりました。 森氏は著書の中で、テレビゲームを長時間プレイすることで、脳波に変化が生じ、前頭前野の働きが低下すると主張しました。その結果、感情の抑制が難しくなり、キレやすくなる、他人への共感力が低下する、といった影響が現れるとされています。これらの状態を「ゲーム脳」と名付けたのです。 この理論はメディアでも多く取り上げられ、教育や育児の現場に衝撃を与えました。「ゲーム=脳に悪影響を与える」というイメージが社会に広がったのは、この時期が大きな転機となっています。 ゲーム脳が与えるとされる影響 ゲーム脳が与える影響については、特に子どもの発達や情緒面への悪影響が懸念されています。 感情コントロールの低下 ゲーム脳の特徴として最もよく挙げられるのが、「キレやすくなる」という現象です。前頭前野は怒りや衝動を抑制する役割を担っており、その活動が低下すると感情のブレーキが効きにくくなるとされています。 実際、長時間ゲームをする人の中には、「イライラしやすい」「思い通りにならないと怒る」といった自覚を持つケースも多く報告されています。特に子どもの場合、そのような行動は家庭や学校でのトラブルにつながることもあり、注意が必要です。 ただし、ゲームの長時間プレイが前頭前野の活動を直接的かつ永続的に低下させ、それが感情コントロールの低下に繋がるという科学的根拠は、現在も確立されていません。 参考:東京新聞「「ネットやゲームのしすぎ」と「子どものイライラ」の関連性 自分から変わるため、保護者は何ができるか」 集中力・記憶力への影響 ゲーム脳では、集中力や短期記憶の低下も指摘されています。テレビゲーム中は視覚と運動に関する神経が優位に働く一方、思考や記憶に関与する前頭前野の活動が抑制されるといいます。 この状態が長時間・長期間続くことで、考える力や集中力を持続する力が弱くなり、学業や日常生活に支障が出る可能性があると懸念されています。 社会性の欠如 さらに、ゲーム脳が進行すると、人間関係やコミュニケーション能力にも影響が及ぶ可能性があるとされています。前頭前野は「他人の気持ちを理解する」「空気を読む」などの社会性に深く関わる機能を持っています。 そのため、前頭前野の活動が鈍ることで、他人との関係構築が苦手になったり、友だちと遊ぶよりも一人でゲームを選ぶ傾向が強まる場合があります。 科学的根拠は不十分?ゲーム脳に対する専門家の懸念 一方で、「ゲーム脳」という言葉のその科学的な信頼性については、現在も賛否が分かれています。ここでは、脳科学の視点から見たゲーム脳への批判を紹介します。 脳科学から見たゲーム脳への批判 まず、「ゲーム脳」という理論に対して、測定方法や科学的根拠の妥当性を疑問視する声が挙がっています。たとえば、現在広まっている研究には、どのような脳波計を使ってデータを取得したのか、その精度が医学的に信頼できるものであったのかが明記されておらず、検証が難しいという問題があります。 さらに、もし確かな研究データであれば、学術論文として発表されているはずですが、実際には査読付きの論文としての公表はなく、一般向けの書籍のみで紹介されていることも、科学的信頼性を損なう要因とされています。 ゲームが原因とは限らない? また、これまでの研究では家庭環境や対人関係の要素が十分に考慮されておらず、「ゲーム時間が長い子どもに脳機能の低下が見られた」としても、その原因が本当にゲームによるものかどうかは明確でないという指摘もあります。 たとえば、親との会話が少なかったり、引きこもりがちだったりする子どもは、自然とゲーム時間が長くなる傾向があり、これが認知機能に影響している可能性も否定できません。 参考:東洋経済「「ゲーム脳の信憑性」を現役医師が怪しむ理由」 ゲーム脳と子育て:ゲームは本当に子どもに悪いのか? 「ゲーム脳」という言葉が不安を呼ぶ一方で、すべてのテレビゲームが子どもに悪影響を与えるとは限りません。大切なのはそのバランスです。 ゲームには創造性や反射神経を高める効果があるとする研究もあり、必ずしも一面的に否定すべきものではありません。ここでは、子どもの年齢に応じた影響や制限の考え方、国際的なガイドラインを参考に、家庭でできる対応策を紹介します。 年齢ごとの適切な制限 子どもの発達段階によって、ゲームが与える影響は異なります。特に未就学児(0~5歳)は、視覚・聴覚からの刺激に敏感で、東北大学の竹内光准教授、川島隆太教授らの研究では、長時間のゲームプレイは言語発達や社会性の育成に悪影響を与える可能性があると指摘されています。 小学生以降でも、長時間のプレイは睡眠不足や生活リズムの乱れにつながるリスクがあります。そのため、年齢に応じてルールを明確にし、親が見守ることが重要です。 参考:東北大学「長時間のビデオゲームが小児の広汎な脳領域の発達や 言語性知能に及ぼす悪影響を発見」 ゲーム時間のガイドライン(WHOの基準) 世界保健機関(WHO)は2019年に、子どもの健やかな発達には「座る時間を減らし、もっと身体を動かすこと」が重要だとするガイドラインを発表しました。これは、「To grow up healthy, children need to sit less and play more(健康に育つには、座るより遊ぶことが大切)」という明確なメッセージとともに示されたものです。 このガイドラインでは、5歳未満の身体活動、座りがちな行動、睡眠に焦点を当て、年齢別に以下のようなスクリーンタイムと身体活動の推奨基準が設定されています: 1歳未満: スクリーンタイムは推奨されません。 1~2歳: スクリーンタイムは推奨されませんが、もし行う場合は、保護者と一緒に、質の高い内容を短時間視聴する程度に留めるべきです。 3~4歳: 1日のスクリーンタイムは1時間以内、可能ならさらに短く。 5歳以上: スクリーン時間だけでなく、運動・睡眠とのバランスを考慮して管理することの重要性を強調しています。 さらにWHOは、運動不足や長時間の座位が、肥満・発達の遅れ・睡眠障害などのリスクを高めると警告しています。単に「ゲームを控えさせる」のではなく、「身体を動かす時間を意識的に増やす」ことが、健康な成長を促す上で欠かせないという考え方です。 このような国際的な指針をもとに、保護者が子どものゲーム利用や生活習慣を整えることで、ゲーム脳への過度な不安を避けながら、より前向きな対応につながります。 参考:WHO「To grow up healthy, children need to sit less and play more」 ゲームのメリットとバランスのとれた接し方 「ゲーム脳」という言葉が独り歩きして、「ゲーム=悪」ととらえられがちですが、実はゲームには認知機能や学習意欲を高める側面もあります。 ゲームには、子どもの脳に良い刺激を与えるものも多く、使い方次第で発達を支援するツールにもなります。ここでは、ゲームのメリットと、懸念される「依存」との違いを明確に理解し、健全な付き合い方を考えていきましょう。 認知機能の発達に有益なゲーム 近年の研究では、パズルゲームや脳トレ系ゲーム、戦略系のゲームが、記憶力・空間認知・判断力の向上に貢献する可能性があると示唆されています。たとえば、短時間の脳トレゲームは、前頭前野の活性化に役立つとも言われています。 また、複雑なルールやチームプレイを要するゲームでは、計画力や協調性、問題解決能力が育まれるともされています。つまり、内容と目的によっては、ゲームも立派な学習ツールになり得るのです。 ゲーム依存との違い 一方で注意すべきなのは、「ゲームの活用」と「ゲーム依存」を混同しないことです。依存状態になると、ゲームが生活の中心になり、学業・睡眠・人間関係に深刻な影響を及ぼすようになります。 世界保健機関(WHO)は2018年に、「ゲーム障害(Gaming Disorder)」を国際疾病分類(ICD-11)に正式に収載することを決定し、2022年1月1日に国際的に発行しました。これにより、ゲーム依存は国際的にも「治療が必要な健康問題」として認識されたことになります。 WHOによると、ゲーム障害とは以下のような行動パターンを指します: ゲームに対する制御ができない(やめられない) 日常生活や他の活動よりもゲームを優先してしまう 問題が生じていてもゲームを続けてしまう さらに、これらの行動が12か月以上にわたって続き、家庭・学校・仕事などに著しい支障をきたしている場合に診断されるとされています。 ただし、WHOも強調しているように、すべてのゲーマーがゲーム障害になるわけではありません。実際にこの状態に該当するのは、ゲーム利用者全体の中でもごく一部とされています。 重要なのは、ゲームを禁止するのではなく、日々の生活バランス、家族や友人との関わり、心身の変化に注意する習慣を持つことです。家庭では「いつ・どこで・どのくらい」のルールを明確にし、子どもが自分で調整力を育てていけるようサポートすることが、ゲーム依存を防ぐうえで最も効果的です。 参考:WHO「Gaming disorder」 ゲーム脳を正しく理解して、健全なゲーム環境を 「ゲーム脳」という言葉は不安をあおる側面がありますが、科学的な根拠には限界があり、一面的な判断は禁物です。大切なのは、ゲームのリスクとメリットの両面を理解し、子どもの年齢や個性に応じた使い方を工夫することにあります。 過度な禁止ではなく、家庭でルールを設け、コミュニケーションを重視した健全なゲーム環境を整えることが、トラブルを防ぎ、ゲームを有益なツールに変えるカギとなります。

ウェルビーイング市場拡大の背景──働き方と暮らしを変える次世代テクノロジー

世界的に注目を集める「ウェルビーイング市場」。その拡大の背景には、消費者の価値観の変化や企業の取り組み姿勢の変化、そしてテクノロジーの急速な進化があります。 本稿では、こうした要素がどのように絡み合い、ウェルビーイングという概念が経営や社会の中心へと進化してきたのかを解説していきます。 「モノよりコト」── 消費者の価値観の変化が市場を動かす ウェルビーイング市場が拡大してきた背景を考える上で、まず見逃せないのが消費者の価値観の変化です。 これまで、健康といえば「病気にならないこと」と捉えられることが一般的でした。しかし、パンデミックによって生活や働き方が大きく揺らぎ、心の安定や自分らしさ、人とのつながりといった「多面的な幸福」への関心が急速に高まりました。 特にZ世代では、「モノを持つこと」より「体験」や「心地よさ」を重視する傾向が強まっています。2025年3月に18〜29歳の男女を対象に実施された、ReBear合同会社とOshicocoによる合同調査では、最も高額だった支出として「旅行・レジャー」や「推し活」が上位を占め、住宅や車は下位に来る結果となりました。 出典:株式会社Oshicoco「【Z世代の常識】モノ消費からコト消費へ!ReBearとOshicocoが「決済手段と消費行動の多様化」について合同調査を実施」 調査対象の半数以上が「体験型消費にお金をかけたい」と答えており、コト消費志向がより顕著になっています。 こうした価値観の変化を背景に、「睡眠の質を測る」「マインドフルネスを習慣化する」「脳や心を整える」といったサービスへの関心が高まり、ウェルビーイング関連市場の成長を後押ししています。 参考:株式会社Oshicoco「【Z世代の常識】モノ消費からコト消費へ!ReBearとOshicocoが「決済手段と消費行動の多様化」について合同調査を実施」 福利厚生から経営戦略へ──変化するウェルビーイングの位置づけ 続いて注目すべきは、企業によるウェルビーイングへの取り組みが大きく変化している点です。 かつてのウェルビーイング施策は、社員の健康診断やメンタルヘルス講座といった、いわば福利厚生の一環として実施されていました。しかし、長時間労働やメンタル不調による離職、労働生産性の低下といった課題が顕在化する中で、社員の心身の健康状態が企業活動全体に大きな影響を与えることが明らかになってきました。 その結果、現在では社員の健康は単なる自己管理の問題ではなく、企業のパフォーマンスや競争力を左右する「経営資源」として捉えられるようになり、ウェルビーイングは戦略的な取り組みへと進化してきています。 たとえば、Googleでは、社員の集中力やストレス軽減を重視したオフィス環境の設計を進めるほか、マインドフルネスプログラム「Search Inside Yourself」を導入することで、心の健康と生産性の両立を図っています。 また、Microsoft Japanでは、社員の働き方を可視化する「Microsoft Viva Insights」を活用し、会議時間の最適化や作業負荷の分析を行うことで、ウェルビーイングの向上とパフォーマンス改善に取り組んでいます。 このように、社員の心身の状態を可視化し、働く環境や制度に活かす取り組みは、従来の福利厚生の枠を超えて、経営全体に組み込まれる戦略的な施策へと変化しています。こうした動きは、「健康経営」として注目され、企業価値の向上にもつながると期待されています。 健康経営についてより詳しく知りたい方は、以下の記事を参考にしてください。 https://mag.viestyle.co.jp/health-and-productivity-management/ 脳や心の状態を「見える化」するテクノロジーの力 ウェルビーイング市場が拡大する中で、テクノロジーの進化が与える影響も見逃せません。 脳波センサーやバイタルデータ解析、AIによるストレス推定など、ニューロテクノロジーの進化は、これまで曖昧だった「こころの状態」を定量的に把握することを可能にしました。 たとえば、集中力が高まる音環境や、リラックスに適した照明条件をAIやセンシング技術が提案するサービスも登場しています。 VIE株式会社が開発した「VIE Tunes Pro」では、“なりたい状態の音楽”を選曲することで、集中やリラックスといった状態を、同社が脳科学的なアプローチに基づいて開発した音楽(ニューロミュージック)からサポートする体験が可能です。さらに、その時の集中度やリラックス度を、脳波計を用いて数値化し、自身のパフォーマンスの最適化に活かすことができます。 このような脳の状態に応じた音環境のパーソナライズは、働く時間や休息の質を高める新たなアプローチとして注目されています。 また、アイリスオーヤマは、働き方改革の一環として、オフィスにおける照明環境の最適化に取り組んでいます。同社の東京アンテナオフィスでは、色温度を変化させるLED照明を導入し、時間帯や業務内容に応じて照明の色や明るさを調整することで、社員の集中力やリラックス効果の向上を図っています。 このように、脳や感覚に寄り添った環境づくりを支えるテクノロジーの進化が、日常の中でのウェルビーイング実践を後押ししています。 今後は、こうした“パーソナライズド・ウェルビーイング”の需要がさらに高まり、業種や世代を問わず活用の場が広がると見られています。 参考:アイリスオーヤマHP「働く人のウェルネスを高めるWELL認証とは?」 「脳と心」の市場は社会インフラに進化するか ここまで見てきたように、脳や心の状態を可視化するテクノロジーは、個人のウェルビーイング向上だけでなく、企業の経営戦略や教育・福祉の現場にも活用され始めています。 かつては医療や研究の専門領域だった「脳と心」に関するデータが、いまや日常の中で活かされる時代へと移り変わりつつあり、脳科学やニューロテクノロジーの進展が、人々の暮らしそのものを支えるインフラとしての役割を担い始めているのです。 たとえば、集中しやすい空間設計や、ストレスに気づく仕組み、孤立を防ぐ見守りなど、生活のあらゆる場面で「脳と心の状態に応じた支援」が組み込まれていく未来は、決して遠くないかもしれません。 それは、単にテクノロジーの導入を進めるということではなく、「人がよりよく生きる」ための社会設計の一部として、脳と心に向き合う姿勢が問われる時代が来ているとも言えます。 脳と心の市場が社会の基盤に組み込まれていく──。その兆しはすでにあちこちに現れており、今後のウェルビーイングのあり方を考えるうえで、避けては通れないテーマとなっていくでしょう。 まとめ:今、ウェルビーイングは「選ばれる理由」になる ウェルビーイング市場拡大の背景を読み解くと、私たちの生き方や働き方、そして何を大切にするかという価値観が、これまでとは大きく変わり始めていることが見えてきます。 企業にとっては、従業員の定着や採用力、ブランド価値向上に直結する要素として、ウェルビーイングの本質的な取り組みが求められています。テクノロジーを活用し、「自分の状態を知り、整える」ことが可能になった今、私たちの暮らしと仕事の質は大きく変わろうとしています。 次回は、ウェルビーイングの推進を支える具体的な国・自治体の支援体制に焦点を当てていきます。

「男性脳」「女性脳」の違いとは?脳の使い方から知る考え方の傾向と活かし方

仕事や日常の中で、『男女でどうしてこんなに考え方が違うんだろう』と感じる瞬間は意外と多いものです。男性と女性の間で見られる思考や行動のズレは、性別による平均的な傾向にヒントがあるかもしれません。 一般的に使われる『男性脳』『女性脳』という言葉は、かつて提唱された性差の傾向を比喩的に表現したものですが、近年の脳科学研究では、個々の脳が『男性脳』『女性脳』のどちらかに明確に分類できるものではないという見方が主流になりつつあります。むしろ、脳の構造や機能は個人差が大きく、多様な特徴が混在していることがわかってきています。 本記事では、脳の性差に関する一般的な言説や、思考・行動の傾向の違いについて解説します。ただし、これらはあくまで平均的な傾向や通説であり、性別による決めつけではないことをご理解の上お読みください。 男性脳・女性脳とは? 「男性脳」「女性脳」とは、男性と女性で脳の働き方や考え方に違いがあるという傾向をあらわす、比喩的な表現です。近年では脳科学や心理学の進展により、性別による脳の傾向や特徴が研究されるようになってきました。 ただし、これはあくまで平均的な傾向にすぎず、「男性だからこう」「女性だからこう」といった決めつけはできません。東京大学の研究でも、男女の脳の使い方や能力には重なりが多く、性別よりも個人の経験や環境が大きく影響すると指摘されています。つまり「男性脳」「女性脳」は、性別による一つの傾向を表す概念にすぎず、絶対的な分類ではないのです。 ここではまず、脳科学の視点から見た「男性脳」「女性脳」の違いとその背景を見ていきましょう。 参考:日経新聞「「男性脳」「女性脳」に根拠はあるか 性差より個人差」 脳構造に違いはあるのか?科学的に見た男女の脳の傾向 脳科学の分野では、男女の脳の平均的な傾向として、特定の脳領域の大きさや、神経線維の密度にわずかな差が見られることが報告されることがあります。 脳梁(のうりょう)の太さ:女性のほうがやや太い傾向があり、左右の脳を連携して使いやすいとされる扁桃体(へんとうたい)や海馬の活動の違い:感情処理や記憶の仕組みに差がある空間認知能力と共感力:男性は空間把握能力が、女性は他者の感情を読む力が優位になる傾向がある ただし、これらはあくまで統計的な傾向であり、すべての人に当てはまるわけではありません。脳の性差は可塑的(変化可能)であり、生まれつきの構造だけでなく、学習や環境の影響が非常に大きいことが報告されています。 このように、男性脳・女性脳はあくまで傾向として理解することが重要です。 脳科学で読み解く男女の脳の違いとは 近年の脳科学研究では、特定の脳部位における働きの違いや、情報処理の仕方において、平均的に男女に差が見られることがわかってきました。ただし、これらは個々の性格や経験、環境に左右されるものであり、すべての人に当てはまるものではありません。 ここでは、男女の脳に見られる傾向として、右脳・左脳の使用パターンや、感情処理、空間認識、言語機能における主な違いを解説します。 右脳・左脳の使い方に違いはある? 私たちはよく、『論理的な左脳』や『直感的な右脳』といった言葉を耳にしますが、脳の機能は左右の半球が複雑に連携して働いており、どちらかの脳だけが独立して働くわけではありません。 たとえば言語処理は主に左脳が担うことが多いですが、その理解には右脳も関わっています。 そして、『男性は左脳寄り、女性は右脳寄り』といった考え方は、現在の脳科学では支持されていません。 個人の思考スタイルは多岐にわたり、性別によって特定の脳半球の使い方に偏りがあるという科学的根拠は確立されていないのです。私たちの脳は、状況に応じて左右の半球をバランスよく活用しています。 感情処理や空間認識に関わる脳の部位の違い 脳科学の分野では、男女の脳の平均的な傾向として、扁桃体(感情処理に関わる部位)や海馬(記憶に関わる部位)といった特定の脳領域の働き方や、神経回路の結合パターンに、統計的な差が見られることがあります。 たとえば、扁桃体の活動については、男性と女性で感情刺激に対する反応の仕方が異なる傾向が報告されています。これは、危機への即応や、競争といった状況に対する感情的な処理の違いに関連すると考えられています。しかし、繰り返しになりますが、これらの違いもあくまで平均的な傾向であり、個々人の感情反応は非常に多様です。 脳の性差に関する最新研究からの示唆 このように、男女の脳の構造や働きに違いが見られる一方で、その差はきわめてわずかであり、能力や行動に与える影響は限定的であるといえます。また、脳は環境や学習によって変化する「可塑性(かそせい)」を持つため、生まれつきの構造だけで性差を語ることはできません。 このような研究結果からも、「男性脳」「女性脳」という言葉はあくまで一つの視点として捉え、相手や自分を型にはめすぎないことが重要だと言えるでしょう。 日常に見られる思考や行動の「傾向」:多様な視点から理解する 一般的に、私たちの社会では、『男性に多いとされる思考パターン』や『女性に多いとされる思考パターン』が語られることがあります。これらの傾向は、脳の性差だけでなく、社会的な役割や期待、個人の経験によっても大きく形作られるものです。 もちろん、これはあくまで平均的な傾向や社会的なイメージに過ぎず、実際には誰もが多様な側面を持っており、状況や環境に応じて思考や行動のスタイルを使い分けています。以下では、こうした言説に見られる思考や行動の傾向を具体的に見ていきます。 論理型と共感型、それぞれの考え方の違い たとえば、何か問題に直面したとき、脳の使い方の傾向によってその対応スタイルが異なると言われています。 男性脳的な傾向では、状況を客観的に分析し、できるだけ早く結論を出して問題を解決しようとします。論理的な思考を重視し、感情をあまり表に出さず、課題を効率的に処理することに集中しがちです。 一方、女性脳的な傾向では、まず相手の気持ちや背景に目を向け、共感や関係性の維持を大切にします。すぐに結論を出すよりも、感情を共有しながら理解を深めていくことに重きを置くのが特徴です。 このような思考の違いは、仕事や人間関係、日常的な会話のスタイルにも影響を与えることがあります。 仕事の進め方に見られる違い 男性脳の傾向が強い人は、明確な目標を設定し、できるだけ効率よく最短距離で結果を出すことを重視します。「何を」「いつまでに」「どうやって」といった要素に着目し、個人で淡々とタスクを進めるスタイルです。 一方で、女性脳の傾向が強い人は、目標だけでなくプロセスや人間関係も重視します。チーム内の意見を尊重しながら、対話を通じて共通理解を深め、協力しながら物事を進めることにやりがいを感じる傾向があります。 会話スタイルの違い 会話の中でも、男性脳タイプは「結論」や「事実」を先に伝えることを好む傾向があります。効率よく情報をやり取りすることを重視し、「要点は何か」を明確にすることが目的です。 これに対して、女性脳タイプは「会話そのもの」に意味を感じ、気持ちの共有や流れを大切にします。話の内容よりも「共感されること」に安心感を覚えるため、過程や雰囲気を重視する傾向があります。 感情の表現方法の違い 感情表現についても、男性脳タイプは感情をコントロールし、外に出さないようにする傾向があります。感情よりも合理性を優先し、冷静に対応しようとする姿勢が特徴です。 一方、女性脳タイプは感情を言葉にして伝えたり、共感してもらうことで心を落ち着かせたりします。感情を隠すのではなく、適切に表現することが信頼関係の構築につながると考える傾向があります。 あなたはどちらの脳に近い?簡単チェックリスト 以下の項目を読みながら、「あてはまる」と感じた数を数えてみてください。多く当てはまったほうが、あなたの思考傾向に近いタイプかもしれません。 Aタイプ(男性脳的傾向) 会話では要点を先に伝えたい 感情よりも事実を重視する 問題が起きたらすぐに解決策を考える 一人で物事を進めるのが好き 数字やデータを使って説明するのが得意 複数のことを同時にこなすより、一つずつ集中したい 無駄なやり取りは避けたいと思う 感情的な話よりも論理的な話が好き 競争心が強く、勝ち負けにこだわる 説明するときは構造的に整理して話すことが多い Bタイプ(女性脳的傾向) 会話では相手の気持ちに共感したい 感情を言葉にして共有するのが得意 問題の背景や相手の気持ちを考えたい チームで協力しながら進めたい 相手の表情や雰囲気に敏感なほうだ 感情の変化をすぐに察知できる 会話ではストーリーや流れを重視する 相談されると、まず「つらかったね」と共感する 相手と同じ目線で話すことを大切にしている 話すことで気持ちを整理するタイプだと感じる 多くの人は、両方の特性をバランスよく持っています。自分や相手の傾向を知ることで、コミュニケーションや人間関係をより円滑にするヒントになるかもしれません。 ビジネスシーンに活かす男女の脳の違い 職場では、上司・部下・同僚など、さまざまな人とのコミュニケーションが欠かせません。こうした中で、「話がうまく伝わらない」「同じ説明をしても、相手によって理解度や反応が違う」といった経験をしたことがある方も多いのではないでしょうか。実はそこに、「男性脳」「女性脳」の脳の使い方の違いが関係している可能性があります。 伝え方・受け取り方に違いが出る理由 脳の傾向として、男性脳タイプは目的志向・結論重視の傾向があり、女性脳タイプは共感重視・プロセス重視の傾向があるとされています。 たとえば、上司が「この業務は○日までに仕上げて」と指示した際、男性脳タイプの部下はスケジュール通りに完了することを第一に考えます。一方、女性脳タイプの部下は「なぜそれが必要なのか」「誰のために行うのか」といった背景や意味もあわせて理解しようとする傾向があります。 そのため、同じ情報を受け取っていても、脳が注目するポイントが異なり、受け取り方に違いが出るのです。 ビジネスに活かせる実践的アプローチ このような脳の違いを理解しておくことで、職場の人間関係や生産性を高めることができます。 説明の仕方:男性脳タイプには結論を先に、女性脳タイプには背景や共感も含めて伝えると効果的フィードバックの仕方:男性脳タイプには改善点をストレートに、女性脳タイプには努力のプロセスや気持ちを認めたうえで伝える こうした違いを把握することで、認識のズレや誤解を減らし、よりスムーズなコミュニケーションと職場の信頼関係構築に貢献できるとされています。 「男性脳・女性脳」を誤解せずに使うための心がけ 「男性脳」「女性脳」といった言葉には、あくまで傾向としての意味しかなく、性別によってすべてが決まるわけではありません。そのため、「この人は男性脳だからこうに違いない」といった決めつけは、誤解やすれ違いを生むリスクがあります。 性差を理解することは大切ですが、それを固定観念として押しつけず、あくまで相互理解のヒントとして捉える姿勢が求められます。脳の違いを正しく知り、相手を尊重する姿勢が、より良い人間関係や職場環境につながっていくでしょう。

変化する国内外のウェルビーイング市場環境

働き方や価値観の多様化を背景に、ウェルビーイング市場は世界的に成長を加速させています。従来、心と体の健康を指す概念だったウェルビーイングは、いまや経営戦略や産業創出の中心的テーマとなりつつあります。その背景には、メンタルヘルス問題の深刻化や高齢化社会の進行、そして脳科学やニューロテクノロジーの進展があります。 本稿では、ウェルビーイング市場の変化と今後の展望について、ニューロテックに着目した視点からご紹介します。 脳科学×メンタルヘルス──「見える化」から始まるウェルビーイング支援 パンデミックを契機に、世界中でメンタルヘルスケアの重要性が改めて注目されるようになりました。働き方の変化や社会不安の高まりにより、孤独感の増加、ストレスの蓄積、意欲の低下といった問題が表面化し、ビジネスパーソンの生産性や企業の持続可能性にも影響を及ぼしています。こうした背景のもと、ウェルビーイングを支援する市場は国内外で急速に拡大しており、なかでも注目されているのが、脳科学の知見を活用した新しいアプローチです。 たとえば、脳波をリアルタイムで計測し、ストレスや集中度を可視化する技術は、近年急速に実用化が進んでいます。こうした脳波計測デバイスは、瞑想やマインドフルネスの効果測定や、集中状態の分析などに活用され、企業の健康経営の一環としても導入が進んでいます。さらに、AIを用いた脳波解析により、「どのような環境でパフォーマンスが上がるか」や「どの音楽がリラックスに貢献するか」といった個別最適化のアプローチも登場しています。こうした科学的アプローチは、従業員の主観に頼らずに、こころの状態を客観的に把握できる手段として期待されています。 認知機能ケアが日常へ──生活に溶け込む脳科学 また、近年では、認知機能を維持・改善するための技術にも脳科学が応用されるようになり、その広がりが注目されています。特に高齢化が進む日本においては、認知症予防や脳の健康管理が社会的な課題となっており、その解決手段としてニューロテクノロジーが注目されています。 その代表例が、ニューロフィードバックやデジタルセラピー(DTx)といった分野です。ニューロフィードバックは、脳波をフィードバックしながらトレーニングを行うことで、集中力や記憶力の改善、さらにはADHDやうつ病の緩和にも効果があるとされ、米国ではすでに一部がFDA認可を受けています。これに追随する形で、日本国内でも医療機関との連携や、保険適用を見据えた研究開発が活発化しています。 また、近年ではVRやAR、AI技術と連携した認知リハビリテーションも登場し、没入感のある環境で脳を刺激する手法が注目されています。このように、脳科学を活用したウェルビーイング支援の取り組みは、医療・介護の分野にとどまらず、教育現場や職場での学習支援、さらにはスポーツのパフォーマンス向上など、さまざまな領域へと広がりを見せています。 成長を続けるウェルビーイング市場と今後のビジネス機会 ウェルビーイング市場は、グローバルで見ても高成長を続ける分野です。Global Wellness Instituteの2024年の報告によると、世界のウェルビーイング関連市場は、2023年時点で6.3兆ドルに達しており、2028年には9兆ドルに拡大する見通しです(年平均成長率7.3%)1。なかでも、脳科学やAIとの融合によるソリューションは、他分野への波及効果も大きく、業界横断的な広がりを見せています。 出典:Global Wellness Institute たとえば、GoogleやAppleといったテック企業では、すでにウェルビーイング関連機能の開発に注力しており、スマートウォッチやヘルスケアアプリを通じて、ストレス、睡眠、集中度といった「脳と心」に関わる指標を、日常的に収集・分析できる時代が訪れています。 企業にとっては、こうしたデータを活用し、従業員のパフォーマンスを最大化する職場環境や、カスタマイズされた健康支援プログラムの設計が可能となります。実際に一部のグローバル企業では、眼電位や身体動作センサー、心拍データなどを活用して、「集中できる会議の時間帯の把握」や「リラックスできる空間デザイン」の実証が進んでおり、これは日本企業にとっても新たな競争力強化のヒントになるでしょう。 まとめ:ウェルビーイングを経営と社会の中心に ウェルビーイング市場は今後も、脳科学とテクノロジーを軸とした「見える化」と「最適化」によって進化を遂げていくことが予想されます。特に「脳」にアプローチすることは、私たちの行動・感情・判断の源に直接働きかける方法であり、医療だけでなく教育、働き方、まちづくりなど、あらゆる領域に影響を与える可能性を秘めています。 企業としては、単なる福利厚生やストレス対策ではなく、「科学に基づくウェルビーイング経営」をいかに早期に取り入れられるかが、これからの差別化要因となるでしょう。 ウェルビーイングと脳科学の接点を理解し、次の一手を見据えること、それこそが、持続可能で創造的な未来を築く第一歩になるのではないでしょうか。

心理的安全性を高める職場づくり|企業の取り組み事例10選を紹介

「安心して話せる」「間違いや反対意見を言っても否定されない」――そんな職場の空気が、チームの力を最大限に引き出す鍵になると言われています。注目を集める「心理的安全性」は、単なる理念ではなく、日々の行動や制度設計によって育まれる文化です。 本記事では、実際に心理的安全性の向上に取り組み、成果をあげている企業の具体的な事例を10社分紹介します。上司の関わり方、評価制度、対話の場づくりなど、今すぐ実践できるヒントを豊富にまとめました。 自社の組織づくりに取り入れられる工夫が、きっと見つかるはずです。 心理的安全性とは?職場に求められる「安心して話せる環境」 職場のチームワークや生産性を高めるうえで、近年多くの企業が注目しているのが「心理的安全性」です。マネジメントや組織開発の分野でも取り上げられる機会が増えており、持続可能で健全な職場づくりには欠かせない概念となりつつあります。 この章では、「心理的安全性とは何か?」という基本から、その重要性、組織にもたらす効果までをわかりやすく紹介します。 心理的安全性の定義と注目されている背景 「心理的安全性(Psychological Safety)」とは、自分の意見や気持ちを安心して表現できる職場の状態を意味します。1999年にハーバード・ビジネス・スクールのエイミー・エドモンドソン教授が提唱し、近年ではGoogleの大規模な社内調査「プロジェクト・アリストテレス」によって、その重要性が広く知られるようになりました。 プロジェクト・アリストテレスでは、「成果を出すチームに共通する要素は何か?」を分析し、その結果、最も重要なのが「心理的安全性」であると結論づけられました。どれだけ優秀なメンバーが揃っていても、発言しにくい雰囲気の中では、創造性やチームワークが十分に発揮されないことが分かったのです。 心理的安全性が高いチームでは、メンバーが失敗を恐れずに意見を出し合い、互いを尊重する文化が根付いています。そうした関係性があるからこそ、情報共有やアイデアの発信が活発になり、チームの成長にもつながっていきます。 心理的安全性がもたらす3つのメリット 心理的安全性が高い職場には、次のようなメリットがあります。 離職率の低下:安心して働ける職場では、人が辞めにくくなります 創造性・イノベーションの向上:自由な発言が、新しいアイデアのきっかけになります エンゲージメントの向上:信頼関係が深まり、仕事への意欲や自発性が高まります これらのメリットだけでなく、「心理的安全性」そのものについてさらに深く理解したい方は、こちらの記事も参考にしてみてください:👉 心理的安全性を高める4つの因子とその実践方法 心理的安全性を高める企業の取り組み事例10選 心理的安全性を高める取り組みは、業種や企業規模を問わず注目されています。ここでは、実際に社内文化の改善やチームの活性化に成功した企業の事例を紹介します。どの事例も、大小さまざまな組織で再現可能なヒントに満ちています。 1. カヤック|評価の「見える化」とフィードバック文化の定着 カヤックでは、全社員の360度評価を社内で完全公開するというユニークな制度を導入しています。360度評価とは、上司だけでなく同僚や部下など、さまざまな立場の人から意見をもらう多面的な評価手法で、個人の強みや課題をより客観的に把握することができます。 同社では、半期ごとの自己評価に対して、同職種の社員がコメントをつける仕組みで、過去の記録も全社員が閲覧可能です。これにより、誰がどのように評価されているかをオープンに共有し、透明性と信頼感を育んでいます。 また、社員同士が毎月ランダムにマッチングされ、良い点(スマイル)と改善点(コブシ)をコメントし合う取り組みも実施しており、直接の業務を知らない相手とのやりとりでも、公開されている評価を参考にフィードバックを行います。 「書かないこと」が最もネガティブに捉えられる文化の中で、社員は率直な意見を歓迎し、対話を通じて互いの成長を支える風土が根づいています。 参考:リクルートマネジメントソリューションズ 特集「組織の成果や学びにつながる心理的安全性のあり方」 2. メルカリ|ピアボーナス「mertip」で感謝が飛び交う職場に メルカリでは、社員同士がリアルタイムで感謝や賞賛を贈り合えるピアボーナス制度「mertip(メルチップ)」を導入しています。この制度はSlackや専用Webフォームを通じて簡単に贈ることができ、感謝の気持ちとともに少額のインセンティブも付与される仕組みです。 もともと社内には、Thanksカードを贈る「All for One賞」という文化がありましたが、mertipにより拠点や部署を超えた日常的・即時的なコミュニケーションがさらに活性化し、導入後の社内アンケートでは満足度87%と高い評価を得ています。 社員からは「感謝が見える形になったことで、他部署との連携がしやすくなった」「お互いに見てもらえていると実感できる」という声もあり、心理的安全性の土台となる信頼と相互理解の強化に大きく貢献しています。 参考:mercan 公式HP「贈りあえるピアボーナス(成果給)制度『mertip(メルチップ)』を導入しました。」 3. ねぎしフードサービス|店舗同士のつながりと1on1で信頼関係を構築 飲食店「牛たん とろろ 麦めし ねぎし」を展開するねぎしフードサービスでは、過去に起きた“店舗に従業員が誰も出社しない”という出来事を機に、企業ビジョンを売上重視から「人中心の永続性」へと転換しました。 この方針転換以降、同社は従業員との信頼関係を深めるためのさまざまな取り組みを実施しています。たとえば、同地域内に似た形態の店舗を複数出店することで、店舗間の交流を活発化させました。また、アルバイトを含めた定期的なミーティングでは、立場に関係なく発言しやすい場づくりが徹底されています。 さらに、独自の人材育成プログラム「100ステッププログラム」や、店長とスタッフの月1回の1on1ミーティングを通して、個人の成長や課題を丁寧にサポートし、多様な人材が安心して働けるよう、外国人アルバイト向けの研修制度も整備されています。 こうした施策の積み重ねにより、従業員満足度は65%から85%に大きく向上しました。 参考:ねぎしフードサービス 公式Youtube「100年企業への人財共育と風土づくり|牛たん とろろ 麦めし ねぎし」 4. 三菱電機モビリティ|自分たちから始める対話型の風土改革 三菱電機モビリティ株式会社では、設立当初から心理的安全性の向上を重視し、全社員が主体となって取り組む風土改革を推進しています。 同社が掲げるテーマは「自分たちから始める風土改革」。その実現に向けて、役職や部門を越えて対話を行う全社参加型ワークショップ「変革フェスティバル」を開催しています。この場では、社員一人ひとりが自身の「ありたい姿」を言語化し、本音で意見を交わすことで、現場ごとの心理的安全性に関する課題も自然と浮き彫りになっています。 こうした取り組みにより、「対話する文化」が少しずつ根づき始めており、社員が変革を“自分ごと”としてとらえる意識が社内に広がっています。 この活動は、心理的安全性AWARD2024にも選出されるなど、社外からも高く評価されています。 参考:三菱電機モビリティ株式会社 プレスリリース「「心理的安全性AWARD2024」において最高評価の「PLATINUM RINGを受賞」 5. ZOZOテクノロジーズ|情報の“見える化”でデジタル心理的安全性 ZOZOグループの技術部門を担うZOZOテクノロジーズでは、心理的安全性を“イノベーションの前提条件”と位置づけ、デジタル環境下での信頼構築に本格的に取り組んでいます。 以前は、Slack上にプライベートチャンネルやDMが乱立し、情報の流れが不透明になっていたことから、社員同士の助け合いや本音の発信がしづらい状況が続いていました。そこで、まず着手したのが情報のオープン化と構造化です。 SlackのプライベートチャンネルとDMの原則禁止、チャンネルの命名ルール制定、月1回の「棚卸しデー」の導入により、誰がどこで何を話しているかが見える状態を整備しました。また、経営会議の議事録も原則公開とし、トップ自らオープンな姿勢を示すことで、全社的な信頼醸成につなげています。 参考:BUSINESS INSIDER「DM禁止、原則オープン、ZOZOテクノロジーズが「デジタル心理的安全性」のためにやったこと」 6. 電通総研|全社と現場の両軸で築く心理的安全性の土台 電通総研では、心理的安全性を育むために、全社と部署の両面から取り組みを進めています。同性・事実婚パートナーを配偶者として認める制度や、多様な働き方を支援する仕組み、心身の健康を支える施策などを通じて、エンゲージメント向上の土台づくりを強化しています。 現場レベルでは、人と組織に関するサービスを担うHCM(Human Capital Management)事業部が中心となり、部署横断チーム「WST」を結成しました。WSTでは、社員アンケートをもとに、「縦割りの関係」や「相互理解の不足」などの課題を洗い出し、趣味をテーマにした投稿「タグトーーク!」、懇親会、新入社員紹介動画などの取り組みを実施しました。 こうした活動が社内外で評価され、OpenWork「若手社員がおすすめする企業ランキング」1位(2024年)にも選出されました。 参考:電通総研 人事ソリューションサイト「事例から学ぶ「風通しのいい職場」の条件と心理的安全性」 7. 三井住友海上火災保険|柔軟で対話の多い働き方 三井住友海上火災保険のCXマーケティング戦略部では、従来のように順を追って計画通りに進める仕事の進め方から、チームで話し合いながら柔軟に進行できる新しいスタイルへと切り替えました。社外の研修を通じてその考え方を学んだことで、企画・データ分析・実行・改善の流れが大幅にスピードアップし、従来3か月以上かかっていた施策が、1か月以内で実現できるようになりました。 日々の業務では、朝の短いミーティングで全員が進捗や悩みを共有し合っています。これにより、職種や立場を超えて声をかけ合う機会が増え、誰でも自由に意見を言いやすい空気が生まれました。以前は会話が少なく孤独を感じることもありましたが、今では自然と助け合う場面が増え、チームの一体感が高まっています。 こうした変化を通じて、心理的安全性が高まったと多くのメンバーが実感しています。 参考:scrumic.japan HP「三井住友海上火災様 セミナー受講インタビュー」 8. LIFULL|対話を促す仕組みで心理的安全性を向上 株式会社LIFULLでは、社員が安心して意見や感情を表現できる心理的安全性の確保を重視しています。全社ガイドラインで「敬意をもって意志を伝え、決定には全力を尽くす」と明文化し、率直な対話を前提とした組織文化の浸透を図っています。 現場レベルでは、1on1ミーティングの定期実施や「コミュニケーションデイ」の設定により、チーム内での対話機会を確保しています。また、チームビルディングやオンボーディング施策も工夫されており、新入社員が早期に安心して働ける環境づくりがおこなわれています。さらに、社員一人あたりに設定されたコミュニケーション予算を活用し、会食やイベントによる交流も活性化しています。 部門を越えた関係性を築くために、サークル活動支援やピザパーティ、バースデーパーティの開催といった施策も実施し、こうした制度と風土の両輪により、社員同士の相互理解が深まり、自然と心理的安全性が高まる職場が実現されています。 参考:LIFULL HP「チームへの投資」 9. NTTコミュニケーションズ|全社横断の対話型アプローチ NTTコミュニケーションズでは、NTTドコモ、NTTコムウェアとのグループ再編に伴う組織変化を背景に、社員のエンゲージメントスコアが低下傾向にあることに危機感を抱き、2023年秋から「Go Together Next Stage」を掲げた組織開発プロジェクトを始動しました。150名以上の社員で構成された「組織開発ワーキンググループ(WG)」が中心となり、透明性、つながり、対話、挑戦、価値観の共有といった5つの目標を掲げ、心理的安全性を軸とした職場づくりに取り組んでいます。 初期段階では、役員によるセミナーや組織長向けのワークショップを通じて、心理的安全性の理解促進とアクション宣言を実施し、その後、部門単位でワークショップを展開し、現場レベルでの具体的な行動計画に落とし込んでいます。 また、有志社員が中心となって進める「ワクワクプロジェクト」や、マネジャー層向けの研修「Manager Meetup」など、上下の垣根を越えた対話の機会も増加し、今後は、社員一人ひとりの行動に結びつくハンドブックの作成や、ツール活用による職場づくりを通じて、心理的安全性をより深く組織に根づかせていく方針です。 参考:docomo business HP「NTT Com流組織開発~全社横断の組織づくりの本質に迫る!第2回「心理的安全性で変わる職場 NTT Com流組織開発の歩みとは?」」 10. トリプルバリュー|全員が挑戦しやすい職場づくり 株式会社トリプルバリューでは、社員一人ひとりが安心して意見を伝え、互いに尊重し合いながら挑戦できる職場環境づくりに取り組んでいます。その姿勢が高く評価され、2024年の「心理的安全性AWARD」において、最上位のゴールドリング賞を受賞しました。 同社では、自社開発のエンゲージメントカードや社内イベントを通じて、自由に話し合える空気づくりを推進しています。また、育児中のパート社員が働きやすいよう、出勤日数や時間を自由に選べる柔軟な勤務制度を整備し、互いに助け合える働き方を実現しています。 さらに、役割に応じて「Chief Flower Officer(オフィスの花を管理・演出する責任者)」などユニークな肩書きを設定し、個人の強みを活かして活躍できる機会を提供しており、こうした数々の取り組みにより、社内では自発的に新しいプロジェクトが次々と立ち上がり、心理的安全性の高い風土が企業の成長エンジンとして機能しています。 参考:トリプルバリュー HP「心理的安全性の高い場づくりに取り組むチームを讃える「心理的安全性AWARD2024」にて、トリプルバリューがゴールドリングを受賞」 事例から見える心理的安全性を高める共通の工夫とは ここでは、これまでに紹介した事例をもとに、特に多くの組織に共通していた実践ポイントを4つに整理して紹介します。 共通ポイント1:上司の関わり方が空気をつくる 多くの企業が、上司の「聴く力」や「対話の姿勢」の重要性を認識し、マネジメント層への研修や働きかけを行っています。たとえば、三井住友海上火災保険では傾聴スキルの強化を通じて、相談しやすい関係性を築きました。NTTコミュニケーションズでは、幹部や組織長による心理的安全性に関するアクション宣言が、現場の対話文化を後押ししています。 このように、上司が対話の姿勢を示すことは、職場全体の心理的安全性の土台づくりにつながります。 共通ポイント2:定期的な1on1・チーム対話の「場」を設ける LIFULLやねぎしフードサービスのように、定期的な1on1やチームでのコミュニケーションデイを設けている事例も多数見られました。短時間でも顔を合わせて話す時間を持つことで、日常の悩みや違和感を共有しやすくなり、安心して働ける空気感が醸成されています。 このように、日常的な対話の機会を仕組みとして取り入れることが、関係性の強化に直結しています。 共通ポイント3:評価制度に「安心して話す」行動を組み込む カヤックのように、360度評価を全社員に公開する制度を導入している企業では、「本音で話すこと」そのものが組織にとっての価値として明確に位置づけられています。また、三菱電機モビリティのように、対話の質そのものを風土改善のKPIと捉える動きも見られました。 このように、評価制度に対話の視点を組み込むことで、安心して発言できる文化が根づきやすくなります。 共通ポイント4:「可視化」や「感謝」を通じて心理的障壁を取り除く Slackチャンネルの見える化(ZOZOテクノロジーズ)やピアボーナス制度(メルカリ、Chatwork)のように、行動や感謝の気持ちを「見える化」する仕組みも心理的安全性の向上に寄与しています。Uniposのような仕組みを通じて「ありがとう」が飛び交う職場では、信頼とつながりが自然と育まれます。 このように、目に見えるかたちで感謝や貢献を共有することが、心理的な壁を和らげる鍵になります。 心理的安全性の取り組みを自社で始めるには? 心理的安全性の取り組みを始めるには、いきなり全社的な改革に着手するのではなく、小さな一歩から始めることが成功のカギです。ここでは、取り組みを自社でスタートするための基本ステップを3つご紹介します。 まずは小さなチームから始めてみる 最初から全社での導入を目指すよりも、3〜5人ほどの少人数チームや一部門単位での導入が現実的です。たとえば、週1回「10分間の1on1ミーティング」を設けて、上司が部下に「最近どう?」と気軽に声をかけるだけでも、安心して話せる雰囲気づくりが始まります。 また、「週に1回、30分の雑談ランチを設定」「朝礼でありがとうを一言伝える時間を作る」など、業務の中で無理なくできる工夫から試してみましょう。小さな成功体験が積み重なれば、他のチームへの波及も自然と起こります。 導入目的を明確にし、施策をカスタマイズ 施策を考える前に、「なぜ取り組むのか」を明確にすることが重要です。たとえば「メンバーの発言量が少ない」「離職が続いている」「部署間の壁が厚い」といった課題があるなら、それに合った施策を設計する必要があります。 具体的には、発言しやすい雰囲気を作りたい場合は「ファシリテーション研修」や「発言しやすい会議ルールの整備」、信頼関係を深めたいなら「月1のチームビルディング」「シャッフルランチ」などが有効です。会社に合ったちょうどよい方法を見つけて、小さく試しながら柔軟に見直していくのがポイントです。 効果測定の仕組みもセットで考える 施策をやりっぱなしにせず、「現場で実感されているか?」を確認する仕組みも大切です。たとえば、施策の前後に3問程度の簡易アンケート(例:「自分の意見を言いやすくなったと思う」「上司に相談しやすいと感じる」など)を実施したり、1on1のあとに「今日の話しやすさはどうだった?」と3段階でフィードバックをもらう方法があります。 無料で使えるGoogleフォームや社内チャット(Slack、Teams)で手軽に実施できるため、初期コストはほとんどかかりません。アンケート結果をもとに、必要があれば微調整しながら続けていくことで、現場の信頼感と取り組みへの納得感も高まります。 誰でも実践できる、心理的安全な職場づくり 心理的安全性のある職場は、特別なリーダーシップや大規模な制度改革がなければ実現できない、というものではありません。多くの成功事例が示すように、誰もが実践できる工夫の積み重ねが、安心して話せる空気を育てていきます。 上司の聴く姿勢、日常的な1on1、フィードバックの可視化、小さな「ありがとう」の言葉――これらは、どんな組織でも今日から取り入れられる行動ばかりです。 大切なのは、小さく始めて、継続しながら改善していくこと。心理的安全性は、「文化」として育てることで、チームにも事業にも確かな変化をもたらします。

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