CATEGORY

コラム

ビールを好きになる脳の仕組みとは?

みなさんは「パブロフの犬」という言葉を聞いたことがあるでしょうか? ベルが鳴ると餌が出る仕組みを理解した犬は、ベルの音が聞こえるだけでヨダレを垂らすようになるというものです。元々はベルの音を聞く聴覚系の神経細胞と、ヨダレを出す神経細胞はなんの繋がりもありません。 しかし、犬はベルの音が聞こえると餌が出てきて、ヨダレを垂らすことを繰り返していきます。すると、聴覚系の神経細胞とヨダレを出す神経細胞は同時に活動するようになり、徐々に2つの神経細胞同士の繋がりが強くなるのです。 このように脳内の神経細胞同士の繋がりが変わっていくことを、脳の「学習」と呼びます。今回は、こうした脳の「学習」に関連して、『ビールを好きになる脳の仕組み』をテーマに紹介します。 ビールを好きになるのは、脳が「学習」しているから? 繋がりのなかった神経細胞同士が新しく繋がることを、脳の「学習」と呼びます。この「学習」の応用が「強化学習」です。 強化学習を説明するのに、こんな実験※があります。ネズミの目の前にレバーを置き、そのレバーを押すとネズミの好物のチーズが出てくる。すると、ネズミはレバーを押すことを「学習」するようになります。これはレバーを見る視覚系の神経細胞と、レバーを押すという運動系の神経細胞が、チーズという報酬を通じて繋がりを深めていくというものです。これを「強化学習」と言います。 ところで、みなさんは「赤提灯」を見ると、なぜかそのお店に入りたくなってしまうといった経験はありませんか?また、暑い日にはビールを飲みたくなってしまう、そんな経験もあるはずです。 実はネズミにとってのレバーは、人間にとっての赤提灯であり、レバーを押すことはビールを頼むことと同じなのです。赤提灯を見るだけでお店に入ってしまう、そしてその場所でビールを飲んで気持ち良くなった経験は、脳にとっての報酬となります。それを繰り返していくと初めは苦くて美味しいと感じなかったビールも、メニュー表に載っているだけで頼みたくなってしまう、それがビールを好きになっていく脳の「学習」なのです。 ※出典:Skinner's theory on Operant Conditioning - Psychestudy, 2024年7月2日参照 ワインは美味しいから高い?高いから美味しい? みなさんはコンビニで売っているワインと、高級フレンチで出てくるワインのどちらが美味しいと思いますか?多くの人が後者と答えるのではないでしょうか。 実はこれに関して、面白い脳の実験※があります。2つの同じワインに対して、「これは高級なワインです。」と言われて飲むのと、「これは安いワインです。」と言われて飲むのとでは、脳の中で美味しさを感じ取る部分の働きが全く異なるというものです。同じワインであるのに、後者では美味しさを感じ取る脳の部分が活発に活動し、「美味しい!」と感じるのに対して、前者では活発な脳の活動が起こらず「美味しくない…」と感じてしまうのです。 このように直前に聞く情報によって、私たちが感じ取る美味しさが変化してしまうことは、価格だけでなく商品のブランドでも同様です。「このメーカーの商品なら美味しいに違いない。」「これだけ高ければ美味しいだろう。」といった脳の期待が商品の美味しさを高めていくのです。 ※出典:Marketing actions can modulate neural representations of experienced pleasantness, 2024年7月2日参照 水を飲んだだけでも酔っ払う!?上島竜兵効果とは… 脳科学の研究では、アルコールを口に含んだだけで、脳が酔ったときと同じ反応を示すことがわかっています。 例えば、ビールを口に含んだだけでは、苦いというだけでアルコールはまだ頭に回っていません。しかし、その苦いと感じるビールの味自体に、脳がアルコールを期待し、酔ったときと同じ反応を示すのです。 これは有吉弘行さんが「すべらない話」で披露していたものですが、上島竜兵さんの飲む瓶の中の焼酎を全て水にすり替えたところ、上島さんは水を飲んだだけで酔っ払ってしまったそうです。上島さんの脳の中では焼酎を期待して飲んでいたため、水を飲んだだけでも酔ったような感覚になってしまったのでしょう。 まとめ ビールを好きになるのは、脳の神経細胞同士の結びつきが変わるためです。ビールが美味しいから好きになるのではなく、ビールを飲むことによって脳が報酬を感じるから、美味しいと思うようになっていくのです。このように脳内で学習が起こることで、ノンアルコールでも気持ち良くなってしまう上島竜兵効果が生じたり、値段やブランドによって美味しさの期待値を高めるマーケティングが成立しているのです。 ニューロマーケティングについては、こちらの記事でも紹介しています。 https://mag.viestyle.co.jp/neuromarketing/ 🎙ポッドキャスト番組情報 日常生活の素朴な悩みや疑問を脳科学の視点で解明していく番組です。横丁のようにあらゆるジャンルの疑問を取り上げ、脳科学と組み合わせてゆるっと深掘りしていき、お酒のツマミになるような話を聴くことができます。 番組名:ニューロ横丁〜酒のツマミになる脳の話〜 パーソナリティー:茨木 拓也(VIE株式会社 最高脳科学責任者)/平野 清花 https://open.spotify.com/episode/5We2dEdxvLurNyVY2srJQ8?si=rVV3erIuQouy00_EBI0IOA 次回 次回のコラムでは『生活の質を高めるお酒の話』をご紹介します。 https://mag.viestyle.co.jp/columm02/

「感謝」と「脳科学」で新ビジネス!感謝の効果を引き出すニューロフィードバック

これまで「感謝」と「脳科学」について紹介してきましたが、私たちの会社VIE でも、感謝とビジネスをつなげて、挑戦してみたいことがあります。 感謝にはたくさんのメリットがある一方で、前回も紹介したように、難しさもあります。その難しさの部分を脳でトレーニングして克服できたら、面白いと思いませんか? 今回は、感謝とニューロテクノロジーについて深掘りしていきます。 前回のコラムはこちらです。 https://mag.viestyle.co.jp/columm14/ 感謝を通して人は変われる!感謝がもたらす良い効果 感謝に関わる脳の研究は、ここ数十年でかなり蓄積してきています。例えば、以前感謝のコツでご紹介した「感謝日記」を数週間続け、その前後で脳の活動を比べた研究があります。 これにより、感謝のトレーニングをしていくことで、感謝ができるようになっていくことが分かっていますが、それだけでなく、向社会的な行動が増えていき、自分だけでなく他人にも貢献する、自分勝手な行動を取らないようになっていく、ということも分かりました※1。 そのような活動の変化とともに、自分がもらう利益に対して脳の報酬系(欲求が満たされたときに発動する神経系)が活動していた人たちが、相手の利益に対して活動するようになっていったそうです。 つまり、自分の幸せに対して喜んでいた人たちが、他人の幸せに対して、幸せを感じることができる人に変わったのです。これは、人は感謝を通して利他的になれるという、とてもポジティブな検証結果を示しています。 しかし、前回も紹介したように、負債の感情は感謝と混同しがちです。そこで、感謝を感じるときと、罪悪感を感じるときの状況を作り、脳活動を測定してみると、実は感謝を感じるときに特有なポジティブな脳活動があることが分かりました。 感謝のときに活動する報酬系には、μオピオイド系と呼ばれる、痛みを和らげたり、幸せなときに活動する部位があります。動物の場合には、毛繕いをするときにこの部位が活動しているとされています。毛繕いをしてあげると、痛みが和らいだり、μオピオイドが増えるそうで、これが人間でいう感謝に近いのではないかとされています※2。 感謝の中枢とも言えるような脳のネットワークがあるのなら、その脳活動を自分で高めていくトレーニングができれば、あまり感謝しにくい組織にいたり、偉い役職についている人でも、感謝できるようになるのではないでしょうか。そうすれば、会社の業績も上がり、チームメンバーの幸福度も上がって、良い利益をもたらしそうですよね。 ※1出典:Gratitude and well-being: A review and theoretical integration - ScienceDirect, 2024年10月2日参照 ※2出典:Frontiers | A Potential Role for mu-Opioids in Mediating the Positive Effects of Gratitude (frontiersin.org), 2024年10月2日参照 感謝とビジネスを繋げるために、VIE が挑戦したいこと 実際に感謝しにくいような、高い役職にいる人たちに、「感謝をしていきましょう!」と促すことは、難しそうです。しかし、ビジネスの世界で感謝というものは、チームパフォーマンスやメンタルヘルスに大きな影響を与えます。 現在、世界の企業では「人的投資」に注目が集まっています。お金を稼ぐだけでなく、従業員みんながハッピーに仕事ができるようにしようという考えが、今後ますます広まっていくでしょう。多くの人が「感謝」の重要性を感じるようになったとき、「感謝」のニューロフィードバックを使ったビジネスは成功する可能性が十分にあるのではないでしょうか。 また、現在興味を持っている分野として、仏教文化の慈悲の瞑想があります。その中にも「感謝の瞑想」というものがあり、これは、身近な人、自分、世界中の人々など、あらゆる人に対して感謝の気持ちを持つという瞑想法です。このような伝統文化とテクノロジーが融合するところにも、面白さがあると思っています。 ニューロフィードバックについては、こちらの記事でも紹介しています。 https://mag.viestyle.co.jp/neuro_feedback/ まとめ 感謝は脳の中で起きるものであり、そのメカニズムはだんだん解明されてきています。ニューロフィードバックの技術を使えば、感謝をしにくい人たちが、感謝をしやすい脳活動を起こせるようになると期待されており、私たちの会社VIE でも、そのようなことに挑戦していきたいと考えています。 そして、ニューロテクノロジーを通して、たくさんの場面で感謝を生み出し、社会に貢献できたらと思います。 🎙ポッドキャスト番組情報 日常生活の素朴な悩みや疑問を脳科学の視点で解明していく番組です。横丁のようにあらゆるジャンルの疑問を取り上げ、脳科学と組み合わせてゆるっと深掘りしていき、お酒のツマミになるような話を聴くことができます。 番組名:ニューロ横丁〜酒のツマミになる脳の話〜 パーソナリティー:茨木 拓也(VIE 株式会社 最高脳科学責任者)/平野 清花 https://open.spotify.com/episode/7gH4qs2Tz6L2uDzpwiN4zr?si=8qHqN50US-qaQnc5miDBGg 次回 次回のコラムでは、日常生活で役立つ『人間の意思決定』に関するお話をご紹介します。 https://mag.viestyle.co.jp/columm16/

1 7 8 9

Ready to work together?

CONTACT

ニューロテクノロジーで新たな可能性を
一緒に探求しませんか?

ウェアラブル脳波計測デバイスや、
ニューロミュージックに関心をお持ちの方、
そして共同研究や事業提携にご興味のある
企業様、研究機関様からの
お問い合わせをお待ちしております。