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インタビュー

脳波に出会って見えた未来:研究者・R.I.さんの研究に活かされたインターンでの日々

今回は、慶応義塾大学で「簡易型脳波測定器を用いた意図画像探索」について研究されているR.I.さんにお話を伺いました。インタビューの前半では、R.I.さんの研究に至るまでの背景やこれまでの研究成果などについて詳しくご紹介していますので、ぜひあわせてご覧ください。 前半記事 ▶脳波による画像生成:慶應義塾大学・R.I.さんが語る「想起イメージの再現」 今回のインタビューの後半では、R.I.さんのパーソナルストーリーに焦点を当て、大学での生活や現在の趣味、研究活動に関するエピソードなどについて伺いました。 研究者プロフィール 氏名:R.I.所属:慶應義塾大学大学院 政策メディア研究科研究室:中澤・大越研究室研究分野:EEG、ニューロアダプティブ、画像生成 インターンでの経験が研究方針を決めた 前半の記事で「インターンがきっかけで脳に興味をもった」と述べられていましたが、インターンではどのようなことをしていたのでしょうか? 当初は主に脳科学の研究論文をまとめる業務を担当していました。4年目の現在は、脳波実験環境のプログラミングを始めとした技術的な仕事を任せてもらっています。 普段からプログラミングはされているのですか? はい。普段は、主に研究に利用するモデルの構築と、競技プログラミングへの参加を通してプログラミングには触れています。 業務以外で何かアプリケーションを開発した経験はありますか? 過去にシステム開発の手順を学ぶために、フリーライドシェアの予約を行うアプリケーションを開発しました。他にもエアホッケーゲームなどのちょっとしたアプリケーションの開発は何度か経験しています。 R.I.さんが制作したエアホッケーゲーム 脳波に興味をもつようになった具体的なエピソードはありますか? インターンでは脳科学の知見を用いたコンサルティングも行っています。そこでの活動を通じて脳科学、および脳波計測による実験を通してクライアントの要望を解決する様子を目の当たりにして、その応用可能性と社会貢献性の高さに強く惹かれました。 趣味は読書、科学に留まらない幅広い知的好奇心 研究以外で現在ハマっている趣味はありますか? 読書にハマっています。小学校から高校までオランダで過ごしていたため、文学を多く読む教育を受けていたこともあり、小さい頃から日常的に本を読んでいました。もともとは科学系の本を中心に読んでいたのですが、現在は文学や哲学といった幅広いジャンルの本を読んでいます。 長い間海外で過ごされていたのですね。最近読んだおもしろい本はありますか? 最近読んだおすすめの本は、ミラン・クンデラさんが書かれた「存在の耐えられない軽さ」です。この本では、プラハの春というチェコスロヴァキアで起きた民主化運動の中での人間関係の話が綴られています。 一般的な文学では愛や責任といった人間関係の重さに着目しているものが多いのですが、この本はその逆で、政治体制が変わってしまったことで、自分がそれまでに積み上げてきたものが一瞬で崩れ去ってしまう虚しさや、誠実に生きてこなかったために、人生の中盤でミッドライフ・クライシスを感じて人間関係が崩れてしまうといった、人間という存在の軽さが描かれていて、とても興味深い内容でした。 オランダに住み始めた当初はどのような気持ちで過ごしていたのですか? 初めは言語がわからない中で面識のない外国人に囲まれて過ごしていたため、非常に心細かったです。人間関係を構築することも困難であったため、住み始めてからしばらくはひたすら耐え忍ぶ日々が続き、その間すがる思いで本を読んでいました。 現地での生活に慣れ始めたのは、引っ越してからおよそ2年後でした。拙いながらも自分からコミュニケーションを取れるようになった瞬間から、当初あった不安な思いはなくなりました。それからは、毎日が学びの連続でした。日本と異なる言語や文化に触れた経験は自分の価値観の形成に大きく影響しており、現在の活動や意思決定の根底に深く根付いていると感じています。 海外生活で得た学びが、現在のご自身を形作っているのですね。 データサイエンスで国を代表する人間を目指して 将来の夢や目標はありますか? 大学で学んだことを活かして、データサイエンスの分野で日本を代表するような人間になりたいと考えています。長い間海外で生活してきたことで、世界で活躍することに強い関心をもっているので、自身の専門性を活かしてこの国の技術を底上げするような存在になりたいです。 その夢を達成するために、これからどのようなことに取り組んでいきたいと考えていますか? データに関する技術、運用、ガバナンス戦略など、あらゆる側面において深い知識を身につけていきたいと考えています。そのためには、キャリアの中で様々な立場を経験しながら、データに対して幅広く向き合っていくことが重要だと思っています。 また、最先端技術の動向を常に把握する必要があるため、将来的には海外での経験を積む機会を持ちたいと考えています。 それでは最後に、これから同じ領域に挑戦してみたい学生や若い研究者に向けて、メッセージをお願いします。 脳波を扱う研究は常にノイズとの闘いであり、非常にチャレンジングな分野だと考えています。それゆえに、まだまだ発展途上の領域でもあります。そんな可能性に満ちた脳科学に興味を抱き、日々研究に取り組んでいます。もしそういった思いをお持ちでしたら、ぜひ挑戦してみてほしいと思います。 NeuroTech Magazineでは、ブレインテック関連の記事を中心にウェルビーイングや若手研究者へのインタビュー記事を投稿しています。 また、インタビューに協力していただける研究者を随時募集しています。応募はこちらから→info@vie.style

脳波による画像生成:慶應義塾大学・R.I.さんが語る「想起イメージの再現」

脳の仕組みを解明し、人類の可能性を広げる研究分野として注目を集める「脳科学」。私たちVIEでは、この魅力的なテーマに挑む若手研究者に焦点を当て、彼らの研究内容や情熱に迫るインタビュー企画を行っています。 本企画は、さまざまな視点から脳科学の最新研究を紹介することで、読者の皆さまに脳の神秘や研究の楽しさをお届けするとともに、新しい視点で脳について考えるきっかけとなることを目指しています。 今回のインタビューでは、慶應義塾大学で「簡易型脳波測定器を用いた意図画像探索」について研究されているR.I.さんにお話を伺いました。インタビューの後半では、R.Iさんのパーソナルストーリーをたっぷりご紹介していますので、ぜひあわせてご覧ください。 研究者プロフィール 氏名:R.I.所属:慶應義塾大学大学院 政策メディア研究科研究室:中澤・大越研究室研究分野:EEG、ニューロアダプティブ、画像生成 脳波から頭で想像した景色を読み解く試み 現在取り組まれている研究について教えてください。 私の研究テーマは、簡易型脳波測定機を用いた意図画像探索です。具体的には、VIEのイヤホン型脳波計を使って、人が頭で思い浮かべた画像(イメージ)を脳波から読み取り、それを認識・再構成する技術の研究に取り組んでいます。 このテーマを選んだきっかけや理由を教えてください。 学部1年生のときに、友人の紹介で参加したインターン先で、偶然脳科学に携わる機会を得たことが脳波に関心を抱いたことがきっかけです。そこで脳波を使った技術の可能性の広さを感じ、自分もその研究に携わりたいと考えるようになりました。 また 加えて、インターン先でVIEのイヤホン型脳波計を使った実験を行っていたため、このような簡易型 的な脳波計が人間の脳活動をどこまで読み解けるのか試してみたいと興味を持つようになり、いう思いから、現在のテーマに取り組むことを決めました。 R.I.さんが研究で使用されている脳波計画像引用元:VIE Zone/Chill - Neuro Earphones どのような実験を通して画像の認識・再構成を行っているのですか? 以前に私が取り組んでいた研究では、まず被験者に対して10秒ほど画像を表示した後に、目を閉じてその画像を思い出すタスクに取り組んでもらい、その際のEEG(脳波)を計測していました。 その脳波データをもとに、機械学習の分類モデルを用いて被験者がどの画像を見ていたのかを識別する研究に取り組んでいました。 現在は、ある刺激に反応して約300ミリ秒後に発生する「P300」と呼ばれる脳波と、生成される画像との関連性を最適化することで、被験者が思い浮かべたイメージを画像として再構成する研究に取り組んでいます。 実験の中で注力している部分について教えてください。 実験では、特にEEGの特徴量を抽出する前処理の工程に重きを置いています。具体的には、EEGの記録を7.5ミリ秒ごとの小さな時間ウィンドウに区切り、各ウィンドウごとに標準偏差を始めとする統計的な特徴量を計算して、分類モデルへの入力データとして使用しています。 このような前処理を施すことで、データの細かな時間的変化や重要な特徴量を捉えやすくなるという利点があります。詳細な特徴を捉えることで、分類の精度を高めることができるのです。 実験フローの概要図 簡易脳波計でどこまで脳活動を読み解けるのか 研究プロセスを進める上で、困難に感じたことはありますか? 現在直面している課題は、簡易型脳波計を使用しているため、空間分解能(spatial resolution)が限定的である点です。そのため、脳内のどの部位からの活動なのかを高い精度で識別することが難しく、脳波の詳細な情報を十分に取得できないことがあります。また、EEGは脳の微弱な電気活動であるため、ノイズの影響を考慮しなければならない点も困難だと感じています。 文字に囚われない自由なコミュニケーションを目指して ご自身の研究成果は社会にどのような影響を与えると考えますか? 簡易型脳波計測装置でも画像認識が可能になれば、肢体不自由な方の支援や、デジタル空間における手軽なコミュニケーション手段の一つとして、広く普及する可能性があると考えています。 たとえば、現在は体に麻痺症状を抱えていて、発話が困難な人のコミュニケーション手段としては眼球運動による文字入力(スペリング)が主流となっています。しかし、伝達媒体が文字である特性上、言語化できないものは表現できないという課題があります。それに対して、私が目指しているものは脳活動に対応する画像を探索して最適化することです。この研究が実現すれば、肢体不自由な方のより自由なコミュニケーションに貢献できるのではないかと考えています。 脳活動から画像を生成できれば、より自由で快適な意思伝達が実現できそうですね。それでは、ご自身の研究が社会に影響を与えるために必要だと考えていることはありますか? 研究を進める際に、脳波計測・特徴量抽出・分類・画像再構成といった各プロセスが異なるツールや環境に分散してしまっているので、これら一連の処理を一貫して行えるEnd-to-Endのアプリケーションがあれば、作業効率が大幅に向上し、再現性の高い研究がしやすくなると感じています。 そのようなパッケージ化された環境が整えば、よりこの分野の研究も広がるのではないかと考えています。 技術を社会に実装するためには研究内容そのものだけでなく、環境を整えることも重要なのですね。最後に、今後の研究活動の方針を教えてください。 現段階では画像をイメージする際にP300が生じることの検証まで完了しているため、ここからは実験環境を整備し、実際に多くの人の脳波を計測してモデルを訓練する過程に入ります。これまで取り組んでいた理論の構築や方針の決定といった作業よりも、忍耐力を必要とする段階に突入するため、粘り強く頑張りたいと考えています。 インタビューの後半では、R.I.さんのパーソナルストーリーや現在の研究に取り組むきっかけとなった出来事について伺いました。特に、現在進路決定に悩んでいる学生さんは必見の内容となっています。ぜひ併せてご覧ください。 後半記事 ▶脳波に出会って見えた未来:研究者・R.I.さんの研究に活かされたインターンでの日々

進路に悩んだ日々:研究者・堀口さんの興味を引き出した出会い

今回は、カナダのトロント大学で「頭皮で測定される脳波と皮質内の脳波の違い」について研究されている堀口さんにお話を伺いました。インタビューの前半では、堀口さんの研究に至るまでの背景やこれまでの研究成果などについて詳しくご紹介していますので、ぜひあわせてご覧ください。 前半記事 ▶脳疾患の原因を追究する:トロント大学・堀口桜子さんが語る「正確な脳波計測技術」 今回のインタビューの後半では、堀口さんのパーソナルストーリーに焦点を当て、大学での生活や現在の趣味、研究活動に関するエピソードなどについて伺いました。 研究者プロフィール 氏名:堀口 桜子(ほりぐち さくらこ)所属:トロント大学 物理学科 生物物理学専攻研究室:CAMH, Temerty Centre for Therapeutic Brain Intervention Neurophysiology Team研究分野:計算論的神経科学、EEG、信号源推定(source localization) 脳疾患の理解を目指して:一冊の本がもたらした脳への興味 まずは改めて簡単に自己紹介をお願いします。 現在、カナダのトロント大学の学部4年生で、物理学科に所属しています。専攻は生物物理学で、物理学の原理や法則を用いて体の中で起こる現象を理解する方法を学んでいます。また、今年からトロント大学のCAMH(Center for Addiction and Mental Health)にて研究学生をしています。取り組んでいる研究のテーマは「脳波データを用いた脳活動の解析」です。具体的には、頭皮で測定したEEG信号と脳皮質での活動との関係を探ることに焦点を当てています。 脳に関心をもつようになったきっかけについて教えてください。 中学生のときに読んだマーティン・ピストリウスさんの『Ghost Boy』という一冊が、脳に興味をもつきっかけとなりました。この本では、全身が動かず言葉も話せないのに意識ははっきりしている『閉じ込め症候群』を患った著者が、周囲に自分の思いを伝えられないもどかしさの中で過ごした壮絶な闘病の日々と、そこからの回復の過程が描かれています。 この本を読んだ当時、脳や神経の損傷によって引き起こされるさまざまな症状に対して恐怖を感じると同時に、脳が私たちの身体と心を司る中心であることを強く実感し、その複雑さと精緻さに大きな魅力を感じました。 また、祖父がアルツハイマー病を患い、症状が進行していく様子を身近で見ていたことも脳に関心を抱くきっかけとなりました。脳疾患を患った祖父が、かつて当たり前のようにできていたことが徐々にできなくなるだけでなく、性格が次第に荒れていき、周囲との関係性にも変化が生じる様子を目の当たりにし、脳の病気が本人だけでなく家族や周囲の人々にも深い影響を及ぼすものだということを実感しました。 それから、こうした問題に苦しむ人を少しでも減らすにはどうすればよいのかと考えるようになり、脳や神経に関連する疾患について調べていくうちに、現在の研究にたどり着きました。 大学の授業や研究活動以外に脳科学に関わる機会はありましたか? 高校3年生のときに、脳波を使って脳震盪を診断するというプロジェクトに関わりました。当時は新型コロナウイルスの流行により、対面で脳波を測定することができなかったため、プロジェクトは計画立案の段階で終了してしまいましたが、そこで初めて脳波の存在を目の当たりにしました。 大学入学後は、脳波関連技術を用いたロボットサークルに所属して、ニューロテック分野のコンペティションに参加したり、脳波や他の生体情報から集中度をはかるアプリを開発しようとしていました。 自分の興味を引き出してくれた高校の先生 大学入学以前に進路を決定する上で悩んだことはありますか? 高校以前は、明確にやりたいことが見つからず、そのことに悩んでいました。先ほどお伝えした通り、中学生のときに脳に対する漠然とした興味はもっていたのですが、その時点では進路決定に影響するほどではありませんでした。 そのため、高校1年生時点での文理選択では、自分の選択肢を狭めたくないという思いから理系を選択していました。 どのようにしてその悩みを乗り越え、現在の進路に至ったのですか? 高校時代、先生が私の興味を引き出してくれたことで、「もっと学びたい」と思える分野に出会うことができました。たとえば、私が関心をもっていた分野を専攻している卒業生を紹介してくださったり、先ほどの脳波から脳震盪を診断するプロジェクトの立ち上げをサポートしてくださったりしました。 先生が私の関心を深めるために積極的に協力してくださったおかげで、将来について日常的に、しかも自分ごととして考える時間を多く持つことができました。 さらに、興味のある授業を履修していくなかで、改めて理系の進路で脳科学に関わっていきたいという思いが強まり、現在の進路を選択しました。 高校の先生との関わりを通じて、ご自身の興味の種を芽吹かせることができたのですね。 将来の不安はキックボクシングで吹き飛ばす 現在ハマっている趣味はありますか? もともと読書とドラマ鑑賞が好きで、2年ほど前からはキックボクシングとムエタイにハマっています。 キックボクシングとムエタイはどのような経緯で始めたのですか? キックボクシングは、母が家の近くにキックボクシングジムを見つけて、一緒に行こうと誘ってくれたことがきっかけで始めました。しかし、カナダではキックボクシングジムが見つからなかったため、代わりに同じように足を使った運動ができるムエタイを始めました。 ムエタイやキックボクシングを始めて、ご自身にプラスの影響はありましたか? 体を動かして、目の前のことに集中しなければならない時間を取るようになったことで、将来への不安を感じづらくなりました。 もともと、将来のことを考えて一日中悩み過ぎてしまうことが多かったのですが、昼からムエタイのジムに通うことで、頭をまっさらにして気持ちを切り替えるルーティンを作れるようになりました。 運動を通じて未来への不安を取り払う習慣を身につけられたのですね。それでは最後に、これから同じ領域に挑戦してみたい学生や若い研究者に向けて、メッセージをお願いします。 私の脳への興味が、偶然読んだ一冊の本がきっかけで始まったように、自分の興味のタネにいつ、どこで巡り合うことができるのかはわかりません。現在進路に迷っている人には、ぜひ常にアンテナを立てて、様々な可能性を視野に入れる柔軟性を大切にして欲しいと思います。 私も自分に舞い込むいろいろな機会を逃さないよう、毎日コツコツ努力することをこれからも大切にしていきます。 NeuroTech Magazineでは、ブレインテック関連の記事を中心にウェルビーイングや若手研究者へのインタビュー記事を投稿しています。 また、インタビューに協力していただける研究者を随時募集しています。応募はこちらから→info@vie.style

脳疾患の原因を追究する:トロント大学・堀口桜子さんが語る「正確な脳波計測技術」

脳の仕組みを解明し、人類の可能性を広げる研究分野として注目を集める「脳科学」。私たちVIEでは、この魅力的なテーマに挑む若手研究者に焦点を当て、彼らの研究内容や情熱に迫るインタビュー企画をスタートしました。 本企画は、さまざまな視点から脳科学の最新研究を紹介することで、読者の皆さまに脳の神秘や研究の楽しさをお届けするとともに、新しい視点で脳について考えるきっかけとなることを目指しています。 今回のインタビューでは、カナダのトロント大学で「頭皮で測定される脳波と皮質内の脳波の違い」について研究されている堀口桜子さんにお話を伺いました。インタビューの後半では、堀口さんのパーソナルストーリーをたっぷりご紹介していますので、ぜひあわせてご覧ください。 研究者プロフィール 氏名:堀口 桜子(ほりぐち さくらこ)所属:トロント大学 物理学科 生物物理学専攻研究室:CAMH, Temerty Centre for Therapeutic Brain Intervention Neurophysiology Team研究分野:計算論的神経科学、EEG、信号源推定(source localization) 測定された脳波から真の脳活動を探る技術 現在取り組まれている研究について教えてください。 私の研究テーマは、脳波データを用いた脳活動の解析です。具体的には、頭皮で測定したEEG信号から脳皮質で発生した信号活動を推定することに焦点を当てています。 EEG信号と脳皮質での活動の差異を推定するために、どのような手法を用いているのですか? 私の研究では、皮質の電気活動をより正確に再現するために、ソースローカライゼーション(source localization)という技術を使用しています。この技術では、脳内の電気活動が頭皮上でどのようなEEG信号を生じさせるかを数理モデルで表現し、実際に計測されたEEGとの誤差を最小にするように逆算することで、統計的に脳のどの部位がそのEEGを発生させたかを推定しています。 この方法を用いることで、脳波の信号がどの部位から発生しているかを特定することや、脳内で起こる様々な異常な活動を捉えることができると考えています。 EEG信号と脳皮質での活動には、どのような違いがあるのでしょうか? 脳波(EEG)は、脳の表面(脳皮質)で生じた電気活動が頭皮まで伝わってくる信号です。しかし、この伝わる過程で、ボリュームコンダクション(volume conduction)という現象によって、信号が弱まってしまったり、周囲に広がり、他の信号と混ざり合ってしまいます。そのため、実際に信号が発生した部位とは異なる位置で信号が記録されてしまうことがあります。つまり、頭皮で測定されるEEG信号は、脳の皮質で起こっている活動場所やパターンを正確に反映していない可能性があるのです。 このテーマを選んだきっかけや理由を教えてください。 兼ねてから脳のはたらきに対して興味をもっていたことと、研究成果が多様な脳疾患の分析に応用可能であることに魅力を感じたことから、このテーマを選びました。 加えて、脳波解析の技術に対する知見を深めることで、私の研究室が所属する研究センターの他のプロジェクトと連携できるのではないかと考えたこともこのテーマを選んだ理由の一つです。 この研究を通じて、研究室で行われている統合失調症やうつ病、依存症などの脳にかかわる疾患の診断や治療法の開発に携わることができる技術の開発に貢献することを目標にしています。 研究者ならば一度は感じる不安、それを乗り越えるためには 実験では被験者がどのような状態のときの脳波を測定するのですか? 実験に携わった数はまだあまり多くありませんが、主に健常者を対象に、タスクを行ったときの脳波とタスクを行うことを想像したときの脳波の測定を行っています。 たとえば、指を曲げたときに発生する脳波と指を曲げることを考えたときに発生する脳波を計測して、同じ脳波が見られるかといった実験を行っていました。 研究プロセスを進める上で、困難に感じたことはありますか? 現在の研究プロセスで直面している課題の一つは、自分が抱く疑問に対して明確な答えがまだないことに対する不安です。 大学の課題の物理の問題を解いているときとは異なり、脳の研究では調べてもすぐに全ての疑問が解決しないことが多く、「自分が進んでいる方向性は正しいのだろうか?」「これは何かに繋がるのだろうか?」といった不安が常にありました。 その不安とはどのように向き合ったのですか? 研究室の修士の先輩に相談したところ、この不安は研究者ならば誰もが一度は感じる悩みであるということを教えていただいたことで、研究には新しいことを常に学べる楽しさと、それに伴う不確実性がつきものだと受け入れることができました。 また、この不安を払拭するためには研究分野に関連する参考文献をたくさん読んで、知識を深めなければならないということも教わりました。 取り組んでいるテーマが新しい分野であったり、他の人が目を向けていないトピックである場合、直接自分の研究に関連する参考文献が見つからないこともあります。しかし、そのような場合でも、少しでも関連がある文献を探し、幅広い知識を蓄えることで不安は少しずつ解消できるそうです。 これからは、たくさんの論文を読み、さまざまな方々の話を聞き、異なる分野に触れることで、多くの知識を吸収し、研究を深めていきたいと思っています。 様々な人に支えられた経験を活かして これからどのように研究活動に取り組みたいと考えていますか? 自分の研究が他のプロジェクトにどのような影響を与えるかを考えつつ、様々な人と意見交換をしながら研究を進めたいと考えています。 私一人の知識だけでは、脳や物理に関する視点からしか研究を進めることができませんが、他分野を専門とする人の意見を取り入れることで、これまでにない新しいアプローチを見つけられると考えています。だからこそ、他の人との関わりを大切にし、自分の枠を超えていきたいと思っています。 また自分のプロジェクト以外の活動として、現在、大学で女子学生の理系進学を支援するメンターの役割を担っています。 私が研究の道に進むことができたのは、周りの人のサポートがあったからこそだと感じているので、今度は自分がこれから研究の道に進もうとする学生の背中を押したいと考えています。 そして願わくば、脳に関心をもってくれる人が増えて欲しいと思っています。 今後の活動に対する意気込みを教えてください。 現在研究に関しては、まだ明確な成果が出せていません。しかし、研究室に配属されてから最先端の研究に間近で触れることができ、研究に真摯に向き合う教授や多くの修士・博士学生と知り合うことができたことは、自分にとって非常にありがたく、実りのある経験となりました。 また、次々と新しいアイディアが議論され、プロジェクトが立ち上げられる現場にメンバーとして参加できたことは、脳に対する魅力を再認識するきっかけとなりました。 この一年間研究活動を通して得た経験をもとに、今後も脳に関わる道を進んでいきたいと強く感じています。 インタビューの後半では、堀口さんの研究者を目指すまでの経緯や学生に向けたメッセージについて伺いました。特に、現在進路決定に悩んでいる学生さんは必見の内容となっています。ぜひ併せてご覧ください。 後半記事 ▶進路に悩んだ日々:研究者・堀口さんの興味を引き出した出会い

アニメから生まれた脳への興味:研究者・山田崇暉さんが取り組む研究のルーツ

今回は、上智大学大学院で「嗅覚刺激と認知活動の関係」の研究に取り組まれている山田さんにお話を伺いました。インタビューの前半では、山田さんの研究に至るまでの背景やこれまでの研究成果などについて詳しくご紹介していますので、ぜひあわせてご覧ください。 前半記事 ▶香りが脳にもたらす影響を解明する:上智大学・山田崇暉さんが語る「嗅覚刺激と認知活動の関係 インタビューの後半では、山田さんのパーソナルストーリーに焦点を当て、幼少期の生活や現在の趣味、研究に関するエピソードなどについて伺いました。 研究者プロフィール 氏名:山田 崇暉(やまだ たかき)所属:上智大学大学院 理工学研究科 理工学専攻情報学領域研究室:矢入研究室研究分野:嗅覚刺激、脳情報デコーディング、ワーキングメモリー 週に1度は面談:教授と学生の距離が近い研究室 ── まずは改めて簡単に自己紹介をお願いします。 私は現在、上智大学大学院の理工学研究科理工学専攻情報学領域に所属しており、博士前期課程の2年生として研究活動を行っています。 取り組んでいる研究のテーマは「外界からの刺激、および人の心の状態と脳活動の関係の解析」です。具体的には、「嗅覚刺激は人間の認知活動のパフォーマンスを向上させるか」という問題を研究しています。 ── 研究を始めるにあたってどのようなことを勉強しましたか? まずは、研究室の勉強会を通じて脳科学分野の知識を身に着けていきました。具体的には、「メカ屋のための脳科学入門」や「史上最強カラー図解 プロが教える脳のすべてがわかる本」、「脳波解析入門 Windows10対応版: EEGLABとSPMを使いこなす」といった本を全員で読み進めていました。 そして、研究を1から組み立てるためにひたすら論文を読み続けました。その過程で、香りと脳の関係について記述されている論文を読み、どのような香りを被験者に提示すればよいかを学びました。 ── 基礎知識は勉強会で、応用知識は論文を読むことで学んだのですね。勉強会は研究室の習慣行事として行われていると思うのですが、その他に研究室の中でのユニークな習慣があれば教えてください。 週に1度、教授が朝9時から夕方にかけて研究室メンバー全員と面談を行っているところがユニークだと思っています。内容は、研究のことはもちろん最近の調子や近況報告などのプライベートな話もしています。 ── 教授と学生の距離が近い研究室なのですね。 小さい頃からの好奇心と兄の影響が進路決定に — 子供のころはどのようなことに興味をもっていましたか? 小学生の頃からクラブや部活動を通じて、野球、サッカー、ハンドボール、バスケ、陸上 といった様々なスポーツに興味を持って取り組んできました。興味があることはとにかく取り組んでみるという性格だったので、結果的に幅広い種類のスポーツに打ち込んできました。 他には、当時はアニメが好きで様々な作品を観ていました。特に中学生のときに見た、VR機器を脳に装着して仮想世界の中で生きる物語を描いたアニメ『ソードアート・オンライン』は、現在の自分に強い影響を与えており、このアニメを見たことをきっかけに、脳と機械をつなぐ技術に興味を持ち始め、BMI1や脳情報の解読を主題としている現在の研究室を選択しました。 — 好奇心と行動力を兼ね備えた学生時代だったのですね。『ソードアート・オンライン』は、脳科学に興味を持つ人の間でよく話題になる作品なのでしょうか? 研究室の先輩もこのアニメを見たことで脳の研究に興味をもったと言っていました。またインターネット上では、情報系に触れるきっかけとなったアニメとして取り上げられることもあるので、自分の研究室で取り扱っている「脳科学×情報」の分野の研究者には、このアニメの影響を受けている人が少なくないと感じています。 — 多くの研究者の進路に影響を与えたアニメなのですね。それでは、様々なスポーツやアニメに興味をもっていた当時の自分に影響を与えた人物はいましたか? 小さい頃から兄の影響を受けてきました。兄は目標に対してコツコツと努力しながら結果を積み上げていくタイプの人間で、その姿を見て自分も兄のような人間になりたいと感じていました。 努力の姿勢以外にも兄から受けた影響は多く、陸上に関しては兄が大会に出場する姿を見て面白そうと感じたことで始め、研究テーマを決めるきっかけとなったソードアート・オンラインも兄の薦めで見始めました。 好奇心と行動力は今も健在!47都道府県制覇まであと5県 ── 現在ハマっている趣味はありますか? クラシックギターと旅行にハマっています。 クラシックギターは10年間続けており、最近は「マチネの終わりに」という映画の劇中歌としても登場した「大聖堂」という曲を練習しています。 旅行は国内外様々なところに行っているのですが、国内に関しては学生中に全ての都道府県に訪れたいと考えており、現在残すところあと九州の5県となりました。 ── とてつもない継続力と行動力ですね!山田さんがこれまで旅行で訪れた場所で、一番良かったと思う場所があれば教えてください。 山口県の萩という海沿いの街が印象的でした。そこは街全体が世界遺産で、時間がゆっくり流れていると感じるような穏やかで心地の良い場所でした。 同じくらい印象的だった場所として、青森でふらっと入った居酒屋が強く記憶に残っています。その店は特別何か変わった点があるような居酒屋ではなかったのですが、店主がとても面白い人で、そこに来る他の客と仲良くなって一緒に飲むというスタイルを取っていました。そのような飲み方は初めてであったため、とても新鮮で衝撃を受けました。 ── どちらも旅行の醍醐味と言える素敵な経験ですね。最後に、これから同じ領域に挑戦してみたい学生や若い研究者に向けて、メッセージをお願いします。 脳科学はまだまだ未知のことが多い分野だと思います。だからこそ、様々な視点や発想で研究を行っていけることがこの分野の面白さだと思います。 今後、脳に関する研究が発展することで、アニメのような世界がいつか現実になる日が来ると信じています(社会実装するには様々な問題があると思いますが、、)。 面白そうだなと思ったり、脳に少しでも興味があったりしたら、ぜひこの分野に飛び込んでみてほしいです。きっと夢中になれるようなものがたくさん転がっていると思います。 NeuroTech Magazineでは、ブレインテック関連の記事を中心にウェルビーイングや若手研究者へのインタビュー記事を投稿しています。 また、インタビューに協力していただける研究者を随時募集しています。応募はこちらから→info@vie.style

香りが脳にもたらす影響を解明する:上智大学・山田崇暉さんが語る「嗅覚刺激と認知活動の関係

脳の仕組みを解明し、人類の可能性を広げる研究分野として注目を集める「脳科学」。私たちVIEでは、この魅力的なテーマに挑む若手研究者に焦点を当て、彼らの研究内容や情熱に迫るインタビュー企画をスタートしました。 本企画は、さまざまな視点から脳科学の最新研究を紹介することで、読者の皆さまに脳の神秘や研究の楽しさをお届けするとともに、新しい視点で脳について考えるきっかけとなることを目指しています。 今回のインタビューでは、上智大学大学院で「嗅覚刺激と認知活動の関係」の研究に取り組まれている山田崇暉さんにお話を伺いました。インタビューの後半では、山田さんのパーソナルストーリーをたっぷりご紹介していますので、ぜひあわせてご覧ください。 研究者プロフィール 氏名:山田 崇暉(やまだ たかき)所属:上智大学大学院 理工学研究科 理工学専攻情報学領域研究室:矢入研究室研究分野:嗅覚刺激、脳情報デコーディング、ワーキングメモリー ゼロから構築した「香りと脳」の研究 ── 現在取り組まれている研究について教えてください。 外界からの刺激や人の心的状態と脳活動の関係を明らかにするため、脳情報デコーディングに関する研究を行っております。具体的には、被験者さんに香り環境下で課題に取り組んでもらい、香りと脳活動の関係を研究しています。 ── 「香り環境下で行う課題」はどのような内容を実施しているのですか? 実験の中である香りを提示して、その香りを嗅ぎながら被験者さんにN-back taskという認知課題に取り組んでもらいます。N-back taskは、画面に一定の間隔で次々に表示される数字を見て、現在表示されている数字がN個前に表示された数字と一致するときに、ボタンを押すなどして応答する認知課題です。 たとえば、3-back taskでは「5」「1」「4」と順に数字が表示されたあと、再び5が表示された場合、それは3つ前の数字と一致するため応答します。一方、それ以外の数字が表示された場合は応答しない、というような課題です。 この課題を行うことによって、被験者の短期記憶能力や集中力をスコア化します。その後、香りを提示した場合と提示しなかった場合の結果を比較することで、提示した香りを嗅ぐことが、タスクのパフォーマンスにどのように影響を与えるかを調べています。 ── 研究テーマを決定したあとはどのような作業から取り掛かったのですか? 私の研究は、誰かの研究を引き継いだものではなく、方針を1から自分で考えて組み立てなければならない内容であったため、まず関連する論文を読み込んで知識をつけるところから始めました。特に匂いと脳の関係が書いてある論文を重点的に読むことで、どのような匂いの提示が認知機能に影響を与えるのかを学びました。 他には、研究室に匂いを使ったマーケティングの研究をしている先輩がいたため、コンタクトを頻繁に取ることで、研究に関するアドバイスをいただきました。 香りで人の潜在能力は引き出せるのか? ── それでは、現在の研究プロセスで直面している課題や障壁について教えてください。 香りを扱う実験を行うため、その香りを被験者の方にしっかりと提示する必要があります。そのため、どのように香りを提示すれば良いかという部分であったり、実験中にその香りを長く持続させる方法だったりを模索しながら行っています。 ── 香りを長く持続させるために、これまでどのような工夫をしてきましたか? まず先行研究を参考にしながら、香料の使用割合を調整しました。 また、被験者の協力を得て予備実験を重ねることで、被験者が香りを確実に認識できる提示方法を検討しました。 加えて、N-backタスク(N = 0,1,2)において各フェーズごとに新たな香料を用意するべきか、それとも同じ香料の使用を継続すべきかを検討し、長時間同じ香料を使用すると香りが弱くなり、感知しにくくなることを考慮して、フェーズごとに香料を新しくする方法を採用しました。 さらに、香りの提示方法として、香料にお湯を注ぐことでより強い香りを発生させる工夫も行いました。 ── どのような成果を期待して研究を進めているのですか? 課題中に香りを提示することで、提示していないときよりも課題の正答率が上昇することや、注意力と関係があるとされている脳波成分「P300」に変化が生じることを期待しながら、実験に取り組んでいます。 社会課題を解決する、そのために必要なこと ── 山田さんの研究の成果は社会や業界にどのような影響を与えると考えますか? リラックスしたい時にはどの香りをかげば良いか、また集中したい時にはどのような香りを嗅げば良いかというように、様々な状況に応じて香りを使用することで人間が本来の能力を発揮できるようになると考えます。VIEでは音楽を使用して、集中やリラックスを促す研究を行っていると思いますが、香りを使用することでも同様の効果を得ることができるのではないかと考えます。 ── 具体的に応用できそうと考えられるような例はありますか? たとえば、自習室に集中力を向上させる香りを発するディフューザーを設置することによって、そこで勉強する人の集中力を向上させるといった取り組みができるのではないかと考えています。 この取り組みを実現するためには、人の集中力に影響を与える香りを突き止めることが重要であるため、私の研究の内容が関連すると考えられます。 ── 嗅覚刺激と認知活動に関する研究が、社会貢献に繋がる良い例ですね。では、このようにご自身の研究が実際に社会に影響を与えるためにはどのような要素が必要だと考えますか? 私の嗅覚刺激と認知活動の研究だけでなく、脳科学研究の内容が社会に影響を与えるためには、社会がその内容を信頼できるような実績や環境を作ることが必要だと考えています。 特にその研究に関連する文献の量や、その技術分野自体が社会にどう見られるかは、脳科学技術の社会実装を目指していく上で重要なポイントになるはずです。 逆に、脳科学自体が社会に広く認知され、その安全性が担保されていけば、今の研究や脳科学の様々な研究もいい方向に進んでいくと考えています。 インタビューの後半では、山田さんの研究者を目指すまでの経緯や学生に向けたメッセージについて伺いました。特に、これから研究の道に進もうと考えている学生さんには必見の内容となっています。ぜひ併せてご覧ください。 後半記事 ▶アニメから生まれた脳への興味:研究者・山田崇暉さんが取り組む研究のルーツ

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