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「自分ってどんな人?」その答えは脳が知っている:脳波でわかるナルシシズム

「脳波で性格がわかる時代が来た」──そんな見出しを目にしたら、にわかには信じがたいかもしれません。しかし、最新の研究は、まさにその可能性を示唆しています。自己愛が強い、いわゆる「ナルシシスト」かどうかが、脳波(EEG)のパターンから読み取れるかもしれないのです。 本稿では、2025年に報告された「ナルシシズムの脳波デコード(Decoding the Narcissistic Brain)」という研究をひも解きながら、脳活動から性格がわかる未来について考えてみます。 性格研究の盲点?脳から見たナルシシズム ナルシシズム(自己愛傾向)は古くから心理学で注目されてきたトピックです。ビジネスや政治の世界でも「ナルシシスト」の成功や失敗が語られることがあります。ところが意外なことに、ナルシシズムという性格特性の研究は数多くあるにもかかわらず、その神経的な基盤を掘り下げた研究はごくわずかしか存在しません。 なぜこのギャップが生まれたのでしょうか。一つには、ナルシシズムが主に自己報告アンケートなどで測られる性格特性で、客観的な脳指標と結びつけるのが難しかったことが挙げられます。また、性格の神経基盤を探る「パーソナリティ神経科学」という分野自体、まだ新しい学際領域です。 こうした背景の中、「脳波でナルシシズムを読み解けるか?」という挑戦的な問いに踏み込んだのが今回紹介する研究です。 あなたの“ナルシシズム”、どのタイプ? 一口にナルシシズムと言っても、その表れ方にはいくつかのタイプがあります。本研究では特に以下の5種類のナルシシズムに着目しています: エージェンティック・ナルシシズム(Agentic narcissism)自己顕示的で権力志向なタイプ。自分の才能や成果を誇示し、他者より優れていると信じる「典型的なナルシシスト」です。 コミュナル・ナルシシズム(Communal narcissism)共益的(コミュニティ志向)なタイプ。表面的には謙虚で「人のため」を謳うものの、内心では「自分は誰よりも博愛的で徳が高い」と信じています。 賞賛追求型ナルシシズム(Admirative narcissism)周囲からの称賛や承認を何より求めるタイプ。魅力的に振る舞い、人から好かれ尊敬されることで自己価値を保ちます。 競争的ナルシシズム(Rivalrous narcissism)他者との比較や競争にとらわれるタイプ。他人を蹴落としてでも優位に立とうとし、批判的・攻撃的な態度で自己を守ろうとします。 脆弱型ナルシシズム(Vulnerable narcissism)繊細で傷つきやすいタイプ。表立って傲慢には振る舞いませんが、内心では特別な存在でありたい願望と、他者から評価されない不安との葛藤に苦しみます(いわゆる「隠れナルシシスト」)。 上述のうち前者4つは顕在的ナルシシズム(grandiose narcissism)とも総称され、自己評価が過剰に高い点では共通しています。しかし、その中でも「エージェンティック vs コミュナル」「称賛追求 vs 競争志向」といったサブタイプに分かれ、それぞれ性格的な特徴が異なります。 一方、脆弱型ナルシシズムは表面的な自信のなさや不安感を特徴とし、顕在型とは様相が異なります。このようにナルシシズムには多面的な顔があるため、研究チームは「その多面性が脳活動に現れるのではないか」と考えました。 脳波から見える、あなたのパーソナリティ では実際にどのように「脳波で性格を読む」のか、その方法を見てみましょう。研究では健康な若年成人162名を対象に、まず上述の5タイプそれぞれについて自己報告式の質問尺度を実施しました。次に被験者には安静状態で脳波(EEG)の計測を行います。 安静時の脳波は、何も課題をしていないリラックスした状態(目を開けた状態と閉じた状態の両方)で数分間記録されました。ポイントは、この脳波計測中、被験者は特に「自分をよく見せよう」とか「考え事をしよう」と努めているわけではないということです。いわば“何気ない脳のクセ”が記録されたと言えるでしょう。 集められた脳波データは周波数ごとの脳波パワースペクトルに変換されました。脳波にはΔ波(1~4Hz)、θ波(4~8Hz)、α波(8~12Hz)、β波(12~30Hz)、γ波(30~40Hz)といった周波数帯があります。各被験者について、各周波数帯で脳波の強さ(パワー)が計算され、それとナルシシズム傾向との関係が分析されたのです。脳波の種類についての詳細は以下の記事でも紹介しています。 https://mag.viestyle.co.jp/eeg-business/ 鍵となる分析には機械学習(マシンラーニング)の手法が使われました。研究者らは脳波のパターン(32か所の電極で計測された周波数ごとのパワー分布)から、先述のナルシシズム各尺度の得点を予測(デコード)できるかを試みたのです。 具体的にはサポートベクター回帰というアルゴリズムを用い、脳波データから各人格特性スコアを当ててもらいます。もちろん単に「勘で当てる」のではなく、まず多くの被験者データでモデルを訓練し、それがどの程度正確に他の被験者のスコアを当てられるか検証しました。 予測精度が高ければ「脳波にその人格特性の手がかりが含まれていた」と解釈できます。精度評価は偶然の当たりを上回るかどうか統計的にチェックされ、予測が偶然によるものではなく、実際に脳波と性格傾向の間に関連があると判断できる場合のみ、有意とされました。 タイプ別ナルシシズム、脳波が示す“違い” 結果はどうだったのでしょうか。研究チームの報告によると、脳波パターンから5つのナルシシズム傾向をそれぞれ有意に予測できました。 さらに興味深いのは、タイプごとにその脳波特徴が異なっていた点です。たとえば、エージェンティック型とコミュナル型では、それぞれ関連する脳波の周波数やパワーの分布パターンが全く重ならなかったといいます。自己中心的なナルシシストの脳波パターンと、「自分は博愛的だ」と信じるナルシシストの脳波パターンは明確に異なり、混同されなかったということです。これはナルシシズム研究におけるエージェンシー対コミュニオン(自己志向か他者志向か)の理論モデルとも合致します。 同様に、賞賛追求型と競争型でも脳波パターンはほぼ重ならず別物でした。他人から賞賛を集める戦略のナルシシストと、他者を出し抜く戦略のナルシシストでは、脳の休息時活動に違いが現れるというのです。これも理論上提唱されていた「賞賛と敵対」という二分モデルを支持する結果と言えます。 一方、脆弱型ナルシシズムは他のタイプと様相が異なりました。脆弱型が高い人ほど、脳波の低周波帯(デルタ・シータなどの遅い波)から高周波帯(ベータ・ガンマなどの速い波)まで幅広い帯域で脳波パワーが低い傾向が見られたのです。平たく言えば、脆弱なナルシシストの脳波は全体的に大人しめだということです。この特徴は、自己愛が強いのに表立って自己主張できず内省的で不安が強いという脆弱型の性質とも符合するかもしれません。 図:各ナルシシズムタイプと脳波パターンの関係(Zhou et al., 2025) 以上のように、ナルシシズムの多様な側面ごとに固有の脳波パターンが確認されたのです。研究チームは「これらの結果を総合すると、自己愛傾向の多様な形が安静時脳活動から信頼性高く予測できることが示唆された」と述べています。この成果は人格特性を脳から読み解くパーソナリティ神経科学という分野の新たな一歩と言えるでしょう。 VIEの脳波計で“自分の脳”を理解する VIEのEEG Headphoneのような革新的なデバイスにより、誰でも脳波を“日常的に”測ることが可能になってきています。特に研究用に特化したこのデバイスは、高度な脳波センサーを内蔵したオーディオデバイスとして、リアルタイムで集中・リラックス・認知負荷といった状態を非侵襲かつ高精度に可視化することが可能です。 特許取得済みのセンシング技術と、研究・開発向けのSDK/データ出力機能を備えており、神経科学・心理学・教育など多様な分野での応用が期待できます。 詳細はこちら:VIE EEG Headphone公式HP 脳が語る「あなた」の個性 私たちの脳は、言葉にしなくても多くのことを物語っています。今回の研究は、「人間の脳波は、口を開く前にその人の性格を映し出しているのかもしれない」という驚きとともに、新たな問いを投げかけました。もちろん、脳波で性格のすべてが分かるわけではありません。しかし「脳波で性格がわかる時代」が現実味を帯びてきたことは確かです。 将来、ビジネスや教育の場で脳波から個人の特性に合わせたアプローチを取る、といった応用も夢ではないかもしれません。また逆に、脳波でここまで性格が予測できてしまうことに対する倫理的な議論も必要になるでしょう。 私たちの脳活動と心の個性は表裏一体である──そのことを今回の研究は改めて示しています。何気なく過ごす今この瞬間も、あなたの脳波はあなたという人間の一端を物語っているのかもしれません。そんな事実に思いを馳せると、日常の風景が少し違って見えてきませんか。 🧾 参考文献 Zhou, Z., Huang, C., Robins, E. M., Angus, D. J., Sedikides, C., & Kelley, N. J. (2025). Decoding the Narcissistic Brain: Predicting diverse forms of narcissism from resting-state EEG using multivariate pattern analysis. NeuroImage, Volume 288, 120279. https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1053811925002873

政治家の感情表現に対する脳の反応は、支持の違いでどう変わるのか

テレビで政治家が涙ながらに訴える姿を見て、皆さんはどう感じるでしょうか?それが自分の支持する政治家なら胸を打たれるかもしれません。しかし、反対に支持しない政党の政治家であれば「何を大げさな…」と冷めた目で見てしまうのではないでしょうか。 現代の政治をめぐる意見の違いの中で、相手陣営の感情に共感しづらいと感じることは珍しくありません。では、政治的な立場が異なる相手の感情は、なぜ理解しづらく感じられるのでしょうか。その答えの一端を探るべく、脳科学者たちは脳波(EEG)によって人々の無意識の反応を調べる実験を行いました。 結果は驚くべきもので、私たちの脳は自分が支持しない政治家(=政治的アウトグループ)の感情に対して、支持する政治家以上に強い無意識反応を示していたのです。 政治家の表情に対して、脳はどう反応しているのか この研究では、オランダの研究チームが47名の参加者を対象に実験を行いました。各参加者には、「自分が支持する政党の政治家」(与党・野党は問わず個人の支持政党)と「支持していない政党の政治家」、さらに比較対象として「政治と無関係の一般人」の、それぞれ顔の表情映像を見てもらいました。 映像では人物が無表情から笑顔あるいは怒りの表情へと約2秒かけて変化します(neutral→happy/angryの動的モーフィング映像)。被験者は画面に集中しつつ、頭皮上に装着した電極で脳波を記録されました。映像を見ている間の脳波データから、表情が現れたときに脳波の強度がどのように変化したかを分析します。 具体的には、静止顔の間と表情変化の間での脳波パワー比(対数変換)をとり、表情によって脳波パワーがどれだけ低下したか(事象関連脱同期: ERD)を指標としました。脳がある周波数帯で活発に活動するとその周波数の脳波パワーが下がるため、ERDが大きいほどその周波数帯が強く反応したことを意味します。本研究では特にμ(ミュー)波とα(アルファ)波という2種類の脳波に注目し、それぞれのERDの大きさを比較しました。 ミュー波が映す共感バイアス まずμ波とは、脳が「誰かの動きや感情を理解しようとするとき」に変化する脳波です。自分が手を動かすときだけでなく、他人が何かをしているのを見ているだけでも反応することから、しばしば「他人を自分のことのように理解する仕組み」と関係していると考えられています。 実際、誰かが物をつかむ様子や、表情を変える場面を見ると、μ波の強さは弱まります。この変化は μ波ERD と呼ばれ、「脳がその人の行動や感情を積極的に処理しているサイン」と捉えられています。つまり、μ波ERDが大きいほど、脳が相手の状態を“読み取ろうとしている”と考えられます。 そこで研究チームは、「自分が支持している政党の政治家の方が、感情的にも近い存在なのだから、その表情にはより共感的な脳反応が出るだろう」と仮説を立てました。 ところが、実際のデータはこの予想を裏切るものでした。参加者の脳は、支持していない政党の政治家の表情を見たときのほうが、μ波がより大きく低下していたのです(図1)。 特にその差が大きかったのは、怒った表情を見せた場面でした。支持しない政治家が怒っているとき、参加者の脳は、支持する政治家の場合よりも強く反応していたのです。 これは、「身内により共感している」というよりも、むしろ“自分と対立する相手の感情だからこそ、脳が強く反応している”と解釈できます。 言い換えるなら、私たちの脳は、安心できる身内の感情よりも、予測しにくく、注意を向ける必要のある相手の感情に対して、より多くの処理資源を割いている可能性がある、ということです。 図1: 支持する/しない政治家に対するμ波・α波応答の違い では、なぜ自分と立場の異なる政治家の感情に対して、脳はこれほど強く反応したのでしょうか。 研究者たちは、その理由として「理解の難しさ」を挙げています。自分と考え方や立場が似ている相手の感情は、ある程度予測できます。しかし、支持していない政治家の感情は、「なぜそう感じているのか」「次に何をしそうなのか」が分かりにくい存在です。 そのため脳は、そうした相手の感情を読み取ろうとするとき、より多くのエネルギーを使って情報処理をしている可能性があります。言い換えれば、似ていない他者を理解するには、脳が余計に働く必要があるということです。 ここで重要なのは、μ波が必ずしも「共感」そのものを表しているわけではない、という点です。近年の研究では、ミラーネットワークは単に相手に共感するための仕組みというより、相手の行動や感情を把握し、どう対応すべきかを判断するための仕組みだと考えられています。 今回の結果も、「相手に優しく寄り添っている」というより、『この相手はどう動くのか?』『何を考えているのか?』と脳が注意深く状況を読み取っている状態を反映しているのかもしれません。 つまり、脳が強く反応したからといって、それは必ずしも好意や共感を意味するわけではなく、警戒や理解のための“フル稼働”である可能性がある、ということです。 アルファ波が示す注目の偏り 一方、α(アルファ)波は、「どこに注意を向けているか」を映し出す脳波として知られています。人がリラックスしているときには強く現れますが、何かをじっと見たり、気になるものに意識が向いた瞬間に弱まるという特徴があります。 とくに、目で見た情報に注意を向けると、後頭部で記録されるα波が下がります。この変化(α波ERD)は、脳がその対象に注意を集中させているサインと考えられています。 そこで研究チームは、政治家の表情を見ているときにα波がどれだけ変化するかを調べました。つまりこの分析では、「参加者が無意識のうちに、どの政治家の表情により注意を向けていたのか」を、脳波から読み取ろうとしたのです。 α波についても、結果の傾向はμ波とよく似ていました。参加者の脳は、支持していない政治家の表情に対して、より強く反応していたのです。α波が大きく低下したということは、その表情に無意識の注意が強く向けられていたことを意味します。 とくに興味深かったのは、支持していない政治家が笑顔を見せた場面でした。対立する政治家が嬉しそうにしているとき、参加者の脳ではα波が大きく下がり、ほかの条件よりも強い注意が向けられていました。 同じ「笑顔」でも、支持している政治家の場合には、ここまで強い反応は見られませんでした。つまり脳は、「好きな政治家の笑顔」よりも、「あまり好ましく思っていない政治家の笑顔」に、より強く引きつけられていたのです。 研究チームはこの結果を、「意外性」という観点から説明しています。普段あまり好意的に見ていない相手がポジティブな感情を示すと、脳は「なぜ今、嬉しそうなのか?」「何が起きているのか?」と、つい注意を向けてしまうのではないか、というわけです。 このように、私たちの脳は、相手の怒りに対して警戒するだけでなく、予想外の喜びに対しても敏感に反応していることが示されました。 おわりに:感情処理を脳から考える 今回の研究は、「なぜ相手の感情が理解できないのか?」という問いに対し、脳の働きという新たな視点から答えを提供してくれます。私たちの脳は自分と反対の立場にいる人の感情を、文字通り異なるモードで処理していることが示唆されました。 相手に共感しようと努力しているつもりでも、脳波レベルではすでにバイアスがかかっている可能性があるのです。政治的な対立が深まるとき、相手の言動にどうしても共感できず「冷たい反応」をしてしまう──そんな経験は誰しもあるでしょう。しかし、それは決して「心が狭い」からではなく、人間の脳に備わった無意識のメカニズムなのかもしれません。 とはいえ、この無意識のギャップを知ることは重要です。相手の感情を理解し対話を深めるには、まず自分の脳が陥りがちなクセに気付くことが第一歩でしょう。たとえば、次にニュースで自分が嫌いな政治家が悔し涙を流しているのを見たら、「ああ、今自分の脳はこの人に共感しづらい状態なんだな」と一呼吸置いてみる。そうすることで、少し違った見方ができるかもしれません。脳科学の知見が、政治的分断を乗り越えるヒントになる日が来ることを願いたいですね。 今回紹介した論文:Neural responses to emotional displays by politicians: differential mu and alpha suppression patterns in response to in-party and out-party leaders. Maaike D. Homan et al. (2025年3月11日公開, Scientific Reports 誌)URL: https://www.nature.com/articles/s41598-025-92898-6

ご褒美を自分で選べると、難しい課題も頑張れる?

仕事や勉強で「ここぞ」という難関に挑むとき、皆さんはどんなご褒美を思い浮かべますか?テスト勉強の後に好きなスイーツを食べる、自宅の片付けを終えたらゲームを1時間だけプレイする――子どもの頃も大人になった今も、「これが終わったら○○しよう」と自分にご褒美を用意して頑張った経験がある人は多いはずです。 では、そのご褒美の「中身」を自分で選べるとしたら、パフォーマンスはどう変わるのでしょうか。「与えられた賞品」より「自分で選んだ賞品」の方が人は頑張れるのか――そんな素朴な疑問に挑んだ興味深い実験研究が報告されました。 こうした問いに正面から取り組んだのが、2025年に発表された論文 「Reward Choices: Experimental Evidence on Cognitive Task Performance」 です。この研究は、「ご褒美を選べること」が認知課題のパフォーマンスを本当に高めるのかを実験的に検証しています。 研究の背景:モチベーション研究が示す「報酬」と「選択」の関係 人のやる気(モチベーション)と報酬の関係は、心理学や経済学で長年研究されてきたテーマです。課題を達成した報酬としてお金や賞品を与えるといった外発的動機付けは、適切に設計すればパフォーマンス向上に効果があります。 一方で、報酬ばかりを強調すると本来の楽しさ(内発的動機)が損なわれ、やる気を削いでしまう「アンダーマイニング効果(過正当化効果)」も知られています。つまり「報酬」は諸刃の剣であり、その種類や与え方次第で良くも悪くも作用しうるのです。 では「選択の自由」はモチベーションにどう影響するのでしょうか?自己決定理論によると、人は誰かに決められたからではなく、「自分で選んだ」と感じられるほど、前向きに行動しやすくなると考えられています。 実際、教育や作業の場面で「選択肢」を与えることで学習者や作業者の興味や努力が増すことが数多く報告されています。たとえば、選択肢を与えられると内発的モチベーションや課題への取り組み努力、自己効力感、そして遂行成績までも向上することが示されています。 興味深いことに、この「選択効果」は選ぶ内容が一見些細な場合であっても確認されており、人は自分で選べるだけで満足感を得て意欲を高める傾向があるようです。こうした背景から、「報酬」を与える際にも受け手に選ばせてみたら効果が変わるのでは?という発想に着目したのが今回の研究です。 研究の内容:「選べる報酬」はパフォーマンスに影響するのか 今回紹介する研究では、「報酬を自分で選べること」が認知課題のパフォーマンスに与える効果を実験的に検証しました。オランダやベルギーの研究者らは実験室実験を行い、参加者にいくつかの課題に取り組んでもらっています。その際、二つの条件を操作しました。 一つは報酬選択の有無です。全参加者に課題の成功報酬として有形のご褒美(具体的な景品)を用意しましたが、グループによって「複数の選択肢から好きな報酬を選べる」場合と「報酬があらかじめ指定され選べない」場合に分けたのです。 もう一つは課題の難易度です。用意された課題には比較的取り組みやすい「簡単な課題」と、頭を使う複雑な「難しい課題」があり、参加者はどちらか一方の条件でテストされました。要するに実験は、報酬選択の有無 × 課題の難易度(簡単・難しい)という2×2の条件設定になっています。 この実験では、「課題難易度が高いほど、報酬選択の有無がパフォーマンスに及ぼす影響が大きくなる」という仮説が立てられました。難易度が高く認知的努力を要するタスクでは、ご褒美の魅力がより重要になり、好きな報酬を選べることで一層頑張れるのではないか。一方、簡単なタスクでは元々それほど努力を要さないため、報酬の選択がパフォーマンスに与える影響は小さいかもしれない――そうした仮説です。 実験の結果:難しい課題でこそ発揮された「選べる報酬」の効果 そして結果は、研究者たちの仮説を見事に裏付けるものでした。難易度の高い課題において、報酬を自分で選択できた参加者グループの成績は、選べなかったグループより明らかに良かったのです。一方、簡単な課題では報酬を選べるかどうかでパフォーマンスに大きな差は見られませんでした。 つまり「難しい課題ほど、報酬選択の自由がパフォーマンスを高める」という交互作用効果が確認されました(図1)。 図1:報酬選択の有無と課題難易度がパフォーマンス指標に与える影響 さらに興味深いのは、なぜ報酬選択がパフォーマンスを向上させたのかという点です。追加の分析により、そのメカニズムとして「嗜好との一致」、すなわち自分の好みに合った報酬を得られることが重要な役割を果たすことが示されました。 報酬を自由に選べた参加者は、用意された景品の中から自分が最も欲しいもの・好きなものを選択できます。当然ながら人それぞれ「ご褒美に何を魅力に感じるか」は異なるため、選択の自由があると各自が自分にとって価値の高い報酬を手にすることになります。研究チームは、この「報酬と個人の嗜好のマッチ度」がパフォーマンスを押し上げる原動力になっていることを突き止めました。 実際、難しい課題の条件では報酬選択の有無がパフォーマンスに与える効果の背後に、この嗜好の一致度が統計的に介在していた(媒介していた)ことがデータから示されています。一方、簡単な課題ではそもそも課題が容易なためか、嗜好に合った報酬かどうかで成績に有意な差は生じませんでした。 考察:仕事や学習の現場に応用できる「選べる報酬」の力 この研究から、「ただ報酬を与えればいい」というものではなく、報酬の内容を本人の好みに合致させることの大切さが浮かび上がってきます。難しい課題では「これが欲しい!」と思えるご褒美があることで、参加者はより集中力を発揮し、粘り強く取り組むようになります。 一方、簡単な課題では元々楽に達成できるため、報酬へのこだわりがパフォーマンスに響く余地は小さいのでしょう。言い換えれば、課題が難しくなるほど人は追加のインセンティブを必要とし、そのインセンティブは自分に合ったものであるほど効果的だということです。 実際、選択の自由そのものが人に「自分で決めている」という充実感を与え、脳の報酬系を活性化することも神経科学の研究で示唆されています。加えて、自分の好きなご褒美であれば達成したときの喜びもひとしおです。 今回の研究は、この「選ぶ楽しさ」と「欲しいものが手に入る嬉しさ」の相乗効果が発揮されるのは、高い認知的努力を要する局面であることを示したと言えるでしょう。 現実社会への示唆も明確です。職場や教育の場で、人々に難度の高いプロジェクトや課題へ取り組んでもらう際には、一律の報酬を与えるよりも、いくつかの選択肢を提示して本人に選ばせる方が効果的かもしれません。 たとえば社員に目標達成インセンティブを出すなら、現金・商品券・休暇・ガジェットなど複数の報酬プランから好きなものを選べるようにしたり、学生に課題達成のご褒美を与えるなら、図書カード・お菓子・特別な活動機会など複数用意して選ばせたりするといった工夫です。 これにより各人が「自分にとって一番嬉しいご褒美」を得られるため、より意欲的に困難に挑戦できる可能性があります。実際、社員がポイントを貯めて好きな報酬と交換できる社内表彰制度や、子供がご褒美シールを貯めて好きなおもちゃと引き換える仕組みは、こうした理にかなっていると言えるでしょう。 報酬とモチベーションの研究は、脳科学や行動経済学とも結びつき、近年ますます発展しています。本研究は「報酬の選択権」という身近で応用しやすい要素にスポットライトを当て、その効果をエレガントな実験デザインで示しました。 難しい課題に直面したとき、「終わったら自分へのご褒美に何をしよう?」と考える習慣は、科学的にも理に適ったモチベーション戦略と言えるかもしれません。あなたも次に大きなチャレンジに挑む際は、自分が本当に欲しいご褒美をリストアップしてみてはいかがでしょうか。その小さな選択が、脳をフル回転させる推進力になるかもしれません。 今回紹介した論文📖 Dewaele, J., Cardinaels, E., & van den Abbeele, A. (2025).Reward Choices: Experimental Evidence on Cognitive Task Performance. European Accounting Review. https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/09638180.2025.2504438?af=R#d1e157

ワーキングメモリって何?鍛え方・効果・日常での活用法を初心者向けに解説

仕事中に情報を整理できなかったり、勉強してもすぐに内容を忘れてしまったり──そんな日常の“うまくいかない”背景には、脳の働きの一つ「ワーキングメモリ」が関係しているかもしれません。ワーキングメモリは、情報を一時的に記憶しながら処理する力で、集中力や判断力、学習効率に大きな影響を与えます。 この記事では、ワーキングメモリの基本から、科学的に効果があるトレーニング法、日常で活かすための工夫、そして脳の状態を「見える化」する最新の方法までをわかりやすく解説します。 ワーキングメモリとは?脳の作業台を鍛えて思考力アップ ワーキングメモリ(作業記憶)とは、頭の中で「覚える」と「考える」を同時に行う能力のことです。たとえば、人の話を聞きながら要点を整理してメモを取ったり、英語のリスニング中に内容を保持しつつ、質問に答える準備をしたりする時に使われています。 このように、情報を一時的に覚えておきながら、必要な処理を行う働きがワーキングメモリの本質です。この能力は知能や学力、集中力とも深く関係しており、脳の「作業台」や「メモ帳」にたとえられることもあります。 ここでは、ワーキングメモリの基本的な仕組みや、短期記憶との違い、そして生活における重要性についてわかりやすく解説します。 ワーキングメモリが果たす3つの重要な役割 ワーキングメモリには、聞いたことや見たことをしばらく頭の中にとどめておく力があります。たとえば、文章を読んでいるとき、前の文をすぐに忘れてしまっては内容がつながりません。ワーキングメモリがあるからこそ、少し前に読んだ内容を覚えておきながら、次の文を読み進めて意味を理解することができるのです。 さらに、この情報をただ覚えるだけでなく、頭の中で順序を入れ替えたり、計算したりといった操作や処理を同時に行うことも、ワーキングメモリの重要な機能です。暗算や、複数の予定を整理して段取りを組むといった日常の行動にも関わっています。 また、ワーキングメモリの働きは、実行機能という「脳の司令塔機能」と深く連携しており、「集中したいことに意識を向ける力(注意制御)」もその一つです。たとえば、勉強しているときに外から車の音が聞こえても、それを気にせずに目の前の問題に集中できるのは、実行機能に含まれる必要な情報に意識を向ける力や、関係ない情報を無視する力が働いているからです。 このように、ワーキングメモリは「覚える力」だけでなく、「考える力」や「集中する力」にも関わっていて、こうした複数の働きが組み合わさることで、私たちは複雑な作業や会話、判断をスムーズに行うことができるのです。 短期記憶との違いとは? 短期記憶とワーキングメモリは、どちらも「情報を短時間覚えておく」働きを持っていますが、その役割には明確な違いがあります。 短期記憶は、聞いたことや見たことなどの情報を、比較的シンプルな形で短時間だけ保持する機能です。たとえば、友達から聞いた電話番号を、スマートフォンに入力するまでの数秒間、頭の中で反復して覚えているような場面がこれにあたります。 一方でワーキングメモリは、情報を保持しつつ、その内容を頭の中で操作したり、考えたり、判断したりする機能です。たとえば、「3+5−2=?」のような計算を暗算で行うとき、まず「3+5」で「8」と出し、その後「−2」をして「6」という答えを導き出します。このとき、途中の計算結果を一時的に記憶しつつ、次のステップを考える必要があります。こうした「覚える」と「考える」を同時にこなす力こそが、ワーキングメモリの本質です。 つまり、短期記憶は「一時的なメモ」、ワーキングメモリは「そのメモを見ながら作業する能力」だと言い換えると、違いがよりイメージしやすくなります。 生活・学習・仕事におけるワーキングメモリの重要性 ワーキングメモリは、学習や仕事のパフォーマンスに直結する重要な能力です。子どもの読み書きや計算、理解力にも大きく関係しており、教育現場でも注目されています。 また、大人にとっても、会議中の情報整理、段取りの把握、複数のタスクをこなす場面などでワーキングメモリが活用されます。 さらに、高齢者にとっては、認知機能の維持や認知症予防の観点からもワーキングメモリの維持・向上が重要です。 鍛えると何が変わる?ワーキングメモリの向上効果 近年の研究により、ワーキングメモリは意識的なトレーニングによって向上できることがわかってきました。かつては「記憶力は生まれつきの能力」と考えられていましたが、今では繰り返しの訓練によって強化が可能な「認知機能のひとつ」とされています。 ワーキングメモリを鍛えることで、脳の情報処理能力が高まり、日常生活のさまざまな場面でメリットが生まれます。集中力の向上や学習効率の改善、仕事の生産性アップ、さらには加齢による認知機能の低下予防にもつながります。 ここでは、ワーキングメモリを鍛えることによって得られる具体的な効果を、年代や目的ごとに詳しく紹介します。 集中力の向上 ワーキングメモリが強くなると、注意のコントロールがしやすくなり、必要な情報に集中し続ける力が高まります。たとえば、勉強中に周囲の雑音が気にならなくなったり、スマートフォンの通知を無視して作業に没頭できるようになったりと、「集中が切れにくくなる」という変化が見られます。 これは、頭の中で重要な情報を整理しながら、不必要な刺激を抑える能力が高まるためです。 学習効率アップ 子どもや学生にとって、ワーキングメモリは「覚える」「理解する」「応用する」という一連の学習プロセスを支える中核的な力です。たとえば、文章題を読むときに前の文を覚えておく力、複数の条件を同時に処理して答えを導く力など、教科学習のあらゆる場面で必要とされます。 ワーキングメモリが鍛えられることで、学習内容の理解がスムーズになり、忘れにくくなるため、学力全体の底上げにつながります。 仕事の生産性アップ ビジネスシーンでは、複数の情報を同時に扱いながら正確に判断し、効率よく行動する力が求められます。ワーキングメモリが強化されると、会議での内容を記憶しながら発言を整理したり、複数の案件の進行状況を把握しつつ優先順位を決めたりといった高度な思考がスムーズになります。 また、注意力や切り替え力も向上するため、ミスの削減や業務効率の改善にもつながります。 高齢者の認知機能維持 年齢を重ねると、ワーキングメモリの機能は自然と低下していきます。これが進むと、「話の流れがつかみにくい」「忘れ物が増える」「段取りが混乱する」といった変化が日常生活に表れやすくなります。 定期的にワーキングメモリを鍛えることで、記憶や注意の力を保ち、認知症の予防や進行の遅延につながるとする研究報告もあります。認知機能の維持は、高齢者が自立した生活を続けるために欠かせない要素です。 参考:Nordnes, P. R., Edwin, T. H., Flak, M. M., Løhaugen, G. C. C., Skranes, J., Chang, L., Hol, H. R., Ulstein, I., & Hernes, S. S. (2025). The effect of working memory training on patient and informant reported executive function in mild cognitive impairment: an interventional study. BMC Neurology, 25(1), 404.https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41029506/ 科学的に効果がある!ワーキングメモリの鍛え方7選 ワーキングメモリは先天的な能力だけでなく、日常的なトレーニングによって高めることができるとされています。実際、認知科学や教育心理学の分野では、さまざまな研究を通じてワーキングメモリの向上に効果がある方法が報告されています。 ここでは、その中でも科学的根拠が比較的多く、かつ実生活で実践しやすい方法を7つ紹介します。 1. 数字の逆唱(ワーキングメモリの基本訓練) 数字の逆唱とは、聞いた数字の列を逆順に言い直すトレーニングです。たとえば「7・2・9」と聞いて、「9・2・7」と答えるような形です。聞いた数字を頭の中に覚えておきながら、それを順番を逆にして言い直すという作業は、「覚える」と「並べ替える」の2つのことを同時に行う必要があります。このように、記憶した情報をただそのまま出すのではなく、頭の中で並び替えたり処理したりする力が、ワーキングメモリの重要な働きなのです。 このトレーニングは、実際に記憶力や思考力を測る心理検査でも取り入れられている方法で、専門家の間でも信頼性のある訓練として知られています。最初は3桁から始め、徐々に桁数を増やしていくと効果的です。 2. デュアルタスクトレーニング デュアルタスクとは、2つの作業を同時に行うトレーニングで、注意力や処理速度、作業記憶の統合力を高める効果があります。たとえば、「歩きながら計算する」「音読しながら手を動かす」といった形式が一般的です。 このようなタスクでは、頭の中で複数の情報を同時に管理し、切り替えながら処理する力が求められます。デュアルタスクは、まさにこの力を鍛えるのに効果的な方法です。実際、高齢者の転倒予防や認知機能トレーニングの一環としても利用されています。 3. マインドフルネス瞑想 マインドフルネスは、「今ここ」に意図的かつ判断を加えずに注意を向ける訓練法で、ストレスの軽減や集中力の向上に効果があることが知られています。さらに、マインドフルネス介入がワーキングメモリのパフォーマンスを改善することを示す研究も報告されています。 具体的には、静かな場所で呼吸や身体感覚に意識を集中し、雑念が浮かんだらそれに気づいて再び注意を戻すという練習を繰り返します。この実践を通じて、注意の制御と持続といった実行機能が鍛えられます。 参考:Moradi, A., Ghorbani, M., Pouladi, F., Caldwell, B., & Bailey, N. W. (2025). The effects of mindfulness on working memory: a systematic review and meta-analysis. bioRxiv. https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2025.03.21.644687v1.full 4. 脳トレゲーム・アプリ ワーキングメモリを専門的に鍛えることを目的としたトレーニング用アプリやソフトウェアも存在します。なかでも「Cogmed(コグメッド)」は、スウェーデンのカロリンスカ研究所の研究に基づいて開発されたプログラムで、一定期間の使用でワーキングメモリの機能改善がみられたという報告があります。 数字記憶や空間記憶、反応制御など、ワーキングメモリのさまざまな要素にアプローチできるため、特に子どもや発達特性のある人、高齢者への活用も進められています。ただし、継続と負荷調整が重要です。 参考:Cogmed公式HP:https://www.workingmemory.training/ 5. 読書・音読による反復記憶 文章を読む・音読する行為は、目や耳から入る情報を処理しつつ、内容を理解して保持するという複合的な認知活動です。特に音読は、記憶・言語処理・注意の3つを同時に使うため、ワーキングメモリのトレーニングに効果的とされています。 難しすぎる内容ではなく、自分のレベルに合った文章を毎日少しずつ読み上げる習慣を持つだけでも、認知の持続力と理解力が高まるという実感が得られることが多いです。 6. 運動(有酸素運動による脳活性) ウォーキングやジョギングなどの有酸素運動は、脳の血流を改善し、前頭前野の働きを活性化することが知られています。前頭前野はワーキングメモリの中心的な役割を担っている部位であるため、運動習慣がワーキングメモリにも良い影響を与えると考えられています。 実際に、多くの研究をまとめた分析(レビュー研究)でも、運動を取り入れることで、ワーキングメモリを含む「実行機能」と呼ばれる脳の働きが明らかに改善されることが報告されています。なかでも、「ややきつい」と感じる程度の運動を週に3回ほど、数ヶ月続けると、記憶力や集中力の向上につながる傾向があるとされています。 参考:Singh, B., Bennett, H., Miatke, A., Dumuid, D., Curtis, R., Ferguson, T., Brinsley, J., Szeto, K., Petersen, J. M., Gough, C., Eglitis, E., Simpson, C. E., Ekegren, C. L., Smith, A. E., Erickson, K. I., & Maher, C. (2025). Effectiveness of exercise for improving cognition, memory and executive function: a systematic umbrella review and meta-meta-analysis. British Journal of Sports Medicine, 59(1), 40–50. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40049759/ 7. 日常生活での工夫 日常の中でも、ワーキングメモリを意識的に使う工夫を取り入れることでトレーニング効果が期待できます。たとえば、すぐにメモを取るのではなく、あえて頭の中で覚えておくようにしたり、買い物リストを記憶して出かけたりといった行動です。 また、料理の手順を見ずに思い出しながら進める、予定を口頭だけで確認して管理してみるなど、あえて記憶と処理を同時に行う場面をつくることがワーキングメモリの自然なトレーニングになります。 これらの方法は、継続的に取り組むことで少しずつ効果が現れるものです。短期間で劇的な変化を求めるのではなく、自分に合った方法を無理なく取り入れ、習慣化することが、ワーキングメモリ向上への近道といえるでしょう。 トレーニング効果を「見える化」する方法 ワーキングメモリのトレーニングは、継続することで効果が現れますが、「本当に鍛えられているのか?」と不安になることもあるかもしれません。そんな時に役立つのが、自分の変化を見える形で確認できる方法です。 ここでは、日常的に取り組めるチェック方法から、専門的な測定手段まで、効果を可視化する3つの方法をご紹介します。 自己チェックリストで日常の変化に気づく まずは、日常生活の中で起こる集中力・記憶力・段取り力の変化に注目しましょう。 「人の話を最後まで聞けるようになった」「買い物中にメモを見なくても品物を覚えられた」など、具体的な行動の変化を週単位で記録することで、少しずつ伸びている実感を得ることができます。 自作のメモやアプリで記録すると、モチベーション維持にもつながります。 認知テストで客観的に測定する(n-backなど) より客観的に測りたい場合は、ワーキングメモリの負荷を段階的に変えられる認知課題を活用するのがおすすめです。代表的なものに「n-backテスト」があります。 これは、数列や図形の並びを見て、何手前と同じだったかを答える課題で、記憶と操作を同時に求められるため、トレーニング効果の確認に適しています。オンラインで無料で試せるツールもあります。 脳波計で脳の状態を見える化 より専門的なアプローチとしては、脳波を測定して集中状態や認知負荷を数値で可視化する方法があります。VIEの脳波計は、脳の活動をリアルタイムで測定することが可能で、たとえばワーキングメモリのトレーニング中に、どのくらい集中できているかを画面上に表示することも可能です。 自分の成長をデータで確認できることで、継続のモチベーションにもつながり、トレーニングの質も高まります。 VIEの脳波計で実践的に脳を鍛える 脳波を活用した研究や教育現場での介入に、VIEのEEGヘッドフォンは革新的な選択肢となります。高度な脳波センサーを内蔵したオーディオデバイスとして、リアルタイムで集中・リラックス・認知負荷といった状態を非侵襲かつ高精度に可視化することが可能です。 特許取得済みのセンシング技術と、研究・開発向けのSDK/データ出力機能を備えており、神経科学・心理学・教育など多様な分野での応用が期待できます。 VIE製品の特徴と仕組み(集中状態を測定) VIEのEEGヘッドフォンは、装着するだけで脳波を自然な状態で記録できるウェアラブル型の計測デバイスです。市販の脳波計と異なり、音楽再生機能と脳波計測が統合されており、自然な生活環境下で脳の状態を記録・解析できます。 集中度や覚醒度、ストレスレベルといった脳の状態を定量的に評価するためのインターフェースも、SDKを活用して自由に構築が可能です。使用目的に応じた計測・可視化ツールの設計が行えます。 詳細はこちら:VIE EEG Headphone公式HP ワーキングメモリを鍛えて人生を豊かに(まとめ) ワーキングメモリは、私たちの「覚える」「考える」「集中する」といった日常的な認知活動を支える大切な力です。年齢や職業にかかわらず、この能力を鍛えることで、学習効率や仕事のパフォーマンスが上がり、人とのコミュニケーションも円滑になります。 さらに、日常のちょっとした工夫や習慣の積み重ねで、ワーキングメモリは誰でも少しずつ向上させることができます。脳の働きを意識して鍛えることは、自分らしい生き方や、将来の健康にもつながる第一歩です。 今日からできる小さな取り組みで、より豊かで快適な毎日を目指してみませんか?

お金が脳を守る?──ドイツの超高齢者調査が示した資産と認知症リスクの関係

日本を含む先進国では「人生100年時代」が現実のものとなりつつあります。その一方で、長寿は「認知症リスクの高まり」と表裏一体です。 統計によれば、80代の約15%、90代では3割を超える人が認知症を抱えており、100歳以上では実に6割以上にのぼります1。こうした状況を踏まえると、高齢化が進む社会において認知症は避けて通れない大きな課題だといえるでしょう。 では、認知症になるリスクを左右する要因にはどのようなものがあるのでしょうか。遺伝や年齢といった変えることのできない要因に加えて、生活習慣や教育歴、社会的なつながりなど、後天的に変えることが可能な要因も数多く報告されています。 さらに近年では、社会経済的な格差にも注目が集まっています。収入や資産の多寡が健康全般に影響を及ぼすことはよく知られていますが、脳の老化や認知症の発症とも深く関わっている可能性が議論されているのです。 平均86歳、943人のデータが語る認知症リスク この疑問に迫ったのが、ハンブルク大学医学部のAndré Hajek氏、Hans-Helmut König氏らの研究チームです。彼らは 「Wealth, income and dementia in Germany: longitudinal findings from a representative survey among the oldest old」(BMC Public Health, 2025年発表)という論文で、その成果を報告しました。 研究では、ドイツ西部ノルトライン=ヴェストファーレン州で実施された大規模な縦断調査のデータを分析しています。対象となったのは80歳以上の高齢者943名(平均年齢86歳)です。自宅で暮らす人から施設入居者まで幅広く含まれ、より現実に近い超高齢者像が反映されました。 追跡期間は約2年で、認知症リスクは広く使われている認知機能スクリーニング「DemTect」によって評価されています。さらに参加者の「月々の収入額」と「総資産額(貯金や不動産など)」も調べられました。 これらは単に多い・少ないで分けるのではなく、統計学的に全体を4つのグループに分ける「四分位」という方法が使われました。つまり、収入や資産が少ない層から最も多い層までを均等に区切り、それぞれのグループで認知症リスクにどのような差があるかを比較したのです。 結果:資産と認知症に強い関係 統計解析の結果はきわめて明快でした。資産が多い人ほど認知症のリスクが低いという強い関連が確認されたのです。 この結果は、参加者の年齢や性別、健康状態といった影響を統計的に取り除いたうえで、資産の違いによる認知症リスクを比較することで導かれました。分析には「ロジスティック回帰」という統計手法が用いられ、リスクの強さは「オッズ比」という指標で示されています。オッズ比が1より小さいほどリスクが低いことを意味します。 具体的には、資産が最も少ない層と比べると、下から2番目の層では認知症になるオッズが0.23倍となり、非常にリスクが低いことが示されました。同様に、資産がより多い層ではオッズが0.05倍と、極めて低いことがわかりました。 年齢や性別、健康状態といった他の要因を考慮に入れても、この傾向は揺るぐことはありませんでした。 一方で、月々の収入と認知症リスクの関係は、資産の影響を考慮に入れると相対的に弱く見えました。言い換えれば、『今どれだけの収入があるか』よりも、『これまでの人生でどれだけ資産を築いてきたか』の方が、認知症予防に対してより強い影響を与えている可能性が示されました。 富が認知症リスクを下げるメカニズム 研究チームは、この背景についていくつかの視点から解釈を加えています。まず注目されるのは「認知予備力(Cognitive Reserve)」という考え方です。 富裕層は教育や趣味、知的活動の機会に恵まれており、その積み重ねが脳に“余力”をもたらし、老化や病気の影響を受けにくくすると考えられます。加えて、質の高い医療や介護サービスにアクセスしやすいことも、認知症の進行を抑えるうえで有利に働く可能性があります。さらに、経済的不安が少ないことで慢性的なストレスが軽減され、それが脳への悪影響を抑えている点も見逃せません。 一方で、収入そのものは認知症リスクの低下と直接は結びつきませんでした。これは、分析に「資産」という要素を入れると、資産の影響があまりに強いために、収入の効果が見えにくくなってしまうからだと研究者は説明しています。 実際に資産を外してデータを再解析してみると、収入が高い人ほど認知症になりにくい傾向が一部で確認されました。つまり、収入にも一定の関係はあるものの、資産の持つ影響力の方がずっと大きいのです。 高齢社会政策への応用可能性 この研究の意義は、単に「お金持ちは認知症になりにくい」という話にとどまりません。著者らは「経済的不平等を是正することが、認知症の社会的負担を減らす有効な方策になり得る」と指摘しています。 高齢者の生活を支える資産形成や再分配政策は、医療費や介護費用の抑制といった経済効果だけでなく、人々の脳の健康を守る施策としても意味を持つのです。 日本もドイツと同様に超高齢社会に突入しています。老後の「脳格差」を生まないために、資産形成支援やセーフティネットの強化はますます重要になっていくでしょう。 経済的な余裕は、これまでの人生を豊かにするだけでなく、老後の脳を守る盾としても働いているのかもしれません。「資産格差を縮めることは、社会全体の認知症予防策にもつながる」と考えると、この研究は単なる学術的発見を超え、社会の未来に直結する大きな示唆を与えているといえるでしょう。 今回紹介した論文📖 André Hajek, Snorri Bjorn Rafnsson, Razak M. Gyasi, Hans-Helmut König Wealth, income and dementia in Germany: longitudinal findings from a representative survey among the oldest old BMC Public Health (2025). https://bmcpublichealth.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12889-025-24239-1

0.2秒の差が事故を左右する──ブレーキランプと脳の反応

皆さんは車間距離を十分に取って運転しているでしょうか?前の車のブレーキランプが光ったとき、とっさにブレーキを踏めるかどうか――その僅かなタイミングの差が追突事故を招くことがあります。 実は0.2秒程度の反応時間の違いが、高速道路では数メートルの制動距離差となり、事故を防げるかどうかを左右すると言われます。では、前の車のブレーキランプを目にしたとき、私たちの脳はどんな反応を示し、どうすればより素早くブレーキを踏めるのでしょうか? 最新の研究では、その問いに脳波(EEG)で迫りました。ブレーキランプを見たとき脳内で何が起こっているのかを直接測定することで、より安全なブレーキランプ設計につなげようという試みです。「脳科学×交通安全」というユニークなアプローチから、思わず「なるほど!」となる新事実が明らかになりました。 ブレーキランプを脳はいつ認識するのか? 自動車の追突事故原因の多くは、前車の減速に気付くのが遅れることにあります。従来、こうしたブレーキ反応時間 (Brake Reaction Time, BRT)は、ブレーキランプが点灯してからドライバーがブレーキペダルを踏むまでの時間として測られてきました。 しかし、人間の反応速度には、多くの要因が影響します。ドライバーの年齢や運転経験、集中力だけでなく、足の位置や靴の重さといった細かな条件まで差を生みます。さらに、ブレーキペダルを実際に踏む動作にも時間がかかるため、ブレーキランプに「気付く」までの時間と「足を動かす」までの時間が混ざった形で測定されてしまうのです。 そこで研究者たちは、脳波を活用し、ブレーキランプを『あ、光った!』と脳が認識した瞬間をとらえるアプローチに挑戦しました。脳波は脳の神経活動によって生じる微弱な電気信号で、刺激に対する脳の反応をミリ秒精度で捉えることができます。 P3成分で分かる脳の認知タイミング 特に注目されるのが『P3成分』と呼ばれる脳波の特徴です。これは、人が「重要だ」と感じる出来事を認識した直後、約0.3秒後に頭の中に現れる電気的なピークで、認知のタイミングを示すサインとして知られています。 たとえば、突然の音や光に対して「ハッ」と気付いた瞬間、頭の中ではP3という電位のピークが生じるのです。このP3は、単なる反射ではなく「気付いてから動くまで」の橋渡しをする過程を映し出します。言い換えれば、ブレーキランプを『あ、止まらなきゃ』と脳が認識したタイミングを教えてくれる指標なのです。 研究チームは、ブレーキランプが点灯してから脳がそれを認識するまでの時間を「認知反応時間」と定義し、この指標を脳波P3を使って測定しました。こうすることで、ペダルを踏む動作に要する時間を含めず、純粋に脳が気付く速さだけを比較できるのです。 過去の調査では、電球式のブレーキランプよりLEDランプの方がドライバーのブレーキ反応が平均0.17秒ほど速いことが報告されていました。しかし、それらは主にペダル操作の時間を測ったものです。今回の研究では脳の反応そのものに着目することで、ブレーキランプ設計が人間の認知に与える影響をダイレクトに評価しようとしました。 実験方法:ブレーキランプとシミュレーターを使った脳波計測 この実験では、実際のブレーキランプ部品を使い、できるだけ現実に近い状況でデータが集められました。まず様々な車種のブレーキランプ10種類を用意し(うち2種類は電球タイプ、8種類はLEDタイプ)、室内に再現した運転環境で被験者に運転してもらいます。 被験者は運転席に相当する椅子に座り、前方スクリーンには高速道路を走行する映像が映し出されます。足元にはアクセルとブレーキのペダルを設置しました。被験者は映像に合わせてアクセルを踏み続け、前方に設置された試験用のブレーキランプが光ったら、アクセルから足を離してブレーキを踏むよう指示されました。 しかし、被験者がいつランプが点くかを予測して身構えていては、現実の「不意のブレーキ」に対する反応とは異なってしまいます。そこで研究チームは、ランプをランダムなタイミングで点灯させる一方で、フェイントとしてランプ点灯とは関係のない黄色いリング状のライトも点滅させる工夫を取り入れました。 被験者にとっては、いつ本当のブレーキランプが光るかわからない状態にすることで、「注意はしているが不意に現れるブレーキ」に近い状況を再現したのです。この間、被験者の頭には8チャンネルの脳波計が装着されており、ブレーキランプ点灯の瞬間をマーカーとして脳波データが記録されました。 そして、測定した脳波データからP3成分を解析することで、認知反応時間を割り出しました。P3は頭頂部で最も大きく現れるため、解析には頭頂部に配置したPz電極の信号が用いられています。 具体的には、各試行(ランプ点灯ごと)の脳波を重ね合わせて平均化し、刺激から数百ミリ秒後に現れる陽性波(P3)のピーク時間を検出しました。このピークのタイミングこそが、脳がブレーキランプを認識した瞬間を示しているのです。 光の違いが脳を動かす:LED vs 電球 こうして得られた脳の認知反応時間には、興味深い傾向が表れました。最大のポイントは、電球タイプとLEDタイプで明確な差が見られたことです。 脳波P3の潜時(=認知までの時間)の平均を比べると、どの被験者でも電球式ランプはLED式より遅いことが統計的にも示されました。中でも最も遅かったのはFord車の電球式ランプで、最も速かったHonda車のLEDランプとは約0.13秒の差がありました。 同じ車種で電球とLEDを比べても、たとえばフォード・フォーカスの電球ランプは同型のLEDランプより平均0.17秒遅れて脳が反応しています。脳波の解析によって、LEDランプの方が電球式よりも素早く脳に認識されることが裏付けられたのです。 図1:脳波P3潜時の平均値(±標準偏差)による各ブレーキランプの比較(橙色は電球式ランプ2種、青色はLEDランプ8種)。電球式は全ての被験者でLED式より認知が遅く、特にFord車電球ランプ(左端)は最も遅い認知時間となった。一方、LED同士ではランプ形状の違いによる差は小さい。実験では被験者22名のデータを解析し、電球 vs LEDの差は統計的にも有意と報告されている。 なぜLEDは電球より早く脳に届くのか LEDが優れている理由のひとつは、光源そのものの性能差にあります。白熱電球の点灯には、電球の種類やフィラメントの構造によって数ミリ秒から数十ミリ秒程度の遅延が生じます。これに対し、LEDは瞬時に点灯するため、この遅延がほとんどありません。LEDは立ち上がりの速さにおいて白熱電球よりも優れているという点は事実です。 要するに「光り始めが遅い・ボンヤリ光る」のが電球、「パッと光ってハッキリ見える」のがLEDという違いがあるわけです。そのため視覚的な刺激強度の点でLEDランプは有利であり、結果として脳が気付くまでの時間が短縮されると考えられます。 実験では、LED同士でも形状や明るさの違いによるP3潜時の差が一部見られましたが、残念ながら統計的に有意とは言えませんでした。研究チームによると、被験者がブレーキを踏む足を動かした際のノイズ(筋電や体動によるアーティファクト)が脳波に混入し、微妙な差の検出を難しくした可能性があるといいます。 しかし、電球 vs LEDという大分類では明確な差が出たことで、車両の安全性を向上させる上で、LEDランプの採用が有効な選択肢であることを裏付けています。事実、近年の車はほぼ全てブレーキランプがLED化されつつありますが、もし古い電球タイプを使い続けている車があれば、安全のためにも早めに交換した方が良いかもしれませんね。 運転熟練度と脳の反応、その関係とは 脳波データをさらに分析すると、ドライバーの経験や熟練度による違いも一部で見えてきました。被験者は運転経験の豊富なグループ(平均13年)と初心者グループ(平均4年)に分けられていましたが、LEDランプに対するP3潜時は初心者の方がやや遅い傾向があったのです。 統計的にも、経験者の方がわずかに速いという結果が得られました。有意水準5%でかろうじて差が確認され、両グループ内で遅めの反応を示した人たちに注目すると、経験者では約0.50秒、初心者では約0.55秒という差がありました。 一方で、電球ランプでは運転経験による差はほとんど見られませんでした。著者らは「電球は誰にとっても反応が遅いため、経験の影響が表れにくい。しかしLEDなら、そのわずかな差が現れるのだろう」と推測しています。経験を積んだドライバーほど、不意のブレーキランプにも素早く気付ける可能性が示された点は興味深い発見です。 脳波は運転の未来をどう変えるのか? この研究は、ブレーキランプ設計と脳の認知メカニズムを結びつけた先駆的な試みですが、今後の展開次第では様々な分野への応用が考えられます。 たとえば車両設計だけでなく、ドライバー教育や運転支援システムへの応用も考えられます。脳波を活用すれば、ドライバーが重要な信号を見落としていないか、その注意喚起がどれほど効果的かを客観的に評価できるのです。 また、ブレーキ以外の警報(車間アラートや歩行者検知アラームなど)についても、音や光のデザインを脳反応の観点から最適化できるでしょう。企業にとっては「人間の脳に響くUI/UX」を開発するヒントになるかもしれません。 さらに研究チームは、今後実際の道路環境で脳波計測を行い、ブレーキランプ認知の脳内プロセスを詳細に調べたいと述べています。 今回のようなシミュレーション実験では、被験者も「失敗しても事故にはならない」と分かっているため若干気が緩む可能性があります。リアルな運転状況であれば、より慎重になる分だけ、脳の反応も変わるかもしれません。 そのような生の脳データを集めれば、ドライバーの注意散漫やヒヤリハットの兆候を脳波から検知してアラートを出す、といった未来のニューロテック安全システムも夢ではありません。 今回紹介した論文📖 Ramaswamy Palaniappan, Surej Mouli, Howard Bowman, Ian McLoughlin (2022). “Investigating the Cognitive Response of Brake Lights in Initiating Braking Action Using EEG.” IEEE Transactions on Intelligent Transportation Systems, 23(8), 13878-13883research.aston.ac.ukresearch.aston.ac.uk.(オープンアクセス)

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