たった10分の瞑想で脳が変わる?EEGがとらえた、脳深部のリアルな変化

瞑想は古くから心の安定やストレス軽減に効果があるとされ、近年では科学的な研究も進んできました。不安や抑うつの軽減など、メンタルヘルスへのポジティブな影響が報告されており、その効果の裏には脳の活動の変化が関係していることも示唆されています。

では、実際に瞑想中の脳では何が起きているのでしょうか?最新の研究では、感情や記憶に関わる脳深部領域の活動に注目し、瞑想が脳に与えるリアルな変化を明らかにしています。

瞑想は脳に何をもたらすのか?

「瞑想すると脳が良い方向に変化するらしい」とは聞くものの、具体的に脳の中で何が起きているのかは、まだ十分に解明されていません。特に、感情や記憶をつかさどる脳の深部(大脳辺縁系と呼ばれる領域、例:扁桃体海馬)での神経活動については、不明な点が多く残されていました。なぜなら通常の脳波計測(頭に電極をつける頭皮上のEEG)では、そうした深部の信号をとらえるのが難しいからです。

こうした背景のもと、米国マウントサイナイ医科大学などの研究チームが2025年に発表したのが、「瞑想が扁桃体と海馬の脳活動に与える影響」を直接観察した研究です(Maher et al., 2025)。この研究では最新のブレインテックを活用し、脳深部の電気活動をリアルタイムで記録することに成功しました。

埋め込みデバイスで脳深部を測る新アプローチ

深部の脳活動を測定するために、研究チームが活用したのが応答性神経刺激システム(RNSデバイス)と呼ばれる埋め込み型医療機器です。RNSデバイスは本来、難治性てんかんの発作を検知して脳に電気刺激を送るために、頭蓋内に埋め込まれる医療機器です。加えてこの装置には、脳の深部の活動(頭蓋内脳波:iEEG)を長期間にわたって記録・保存できる機能も備わっています。

今回の研究では、薬剤抵抗性てんかん(薬による治療では発作のコントロールが難しいタイプのてんかん)を持つ患者さん8名に、すでにRNSデバイスが治療目的で埋め込まれている状況を活かし、その記録機能を研究に応用しました。このアプローチにより、人が瞑想している最中の扁桃体・海馬の活動を直接モニターできたのです。

出典:Maher et al., 2025

従来の頭皮上脳波(EEG)では信号が頭蓋骨で減衰しノイズも多いため、深部の細かな活動までは捉えられません。一方、頭の中に電極があるRNSでは高品質な深部脳波データが取得できます。さらにRNSなら埋め込み式なので、瞑想中も参加者が自由に動ける(リラックスした姿勢で瞑想できる)という利点もあります。この装置の利点を活かし、研究チームはこれまで技術的に困難とされてきた扁桃体・海馬の神経活動の計測に取り組みました。

実験の方法:瞑想中のリアルな脳波を記録

対象となった8名はいずれも成人のてんかん患者ですが、瞑想経験はほとんどないビギナーでした。参加者はまず、5分間の音声によるリラクゼーション誘導を実施し、瞑想前の基準状態(ベースライン)を計測しました。その後、音声ガイド付きで10分間の慈悲の瞑想(LKM)を行ってもらいました。

慈悲の瞑想(Loving-Kindness Meditation ; LKM)とは、自分自身や他者の幸福を祈る思考に意識を集中させるタイプの瞑想法です。怒りや不安といったネガティブな感情を和らげ、思いやりやつながりの感覚を育む効果があるとされており、近年ではストレス軽減や感情を整えるための手段として世界中で注目を集めています。

この瞑想セッション終了後、参加者には「どれだけ深く瞑想状態に入れたか」を自己評価してもらいました。

実験は、病院内の一室を落ち着いた雰囲気に整えるなど、参加者が安心して瞑想に集中できるよう工夫された環境で行われました。こうして記録された瞑想中の脳波データを、瞑想前のリラックス状態(ベースライン)と比較することで、瞑想が脳にどのような変化をもたらすのかを調べました。

出典:Maher et al., 2025

研究の結果:感情と記憶に関わる領域で観察された2つの変化

解析の結果、瞑想開始前と比較して脳波の周波数構成に明らかな変化が見られました。具体的には、扁桃体と海馬において高周波ガンマ波(γ波:30〜55Hz)の活動が有意に増加した一方で、中周波数帯の「ベータ波」(β波:13〜30Hz帯)については、短い時間だけリズムを刻む「ベータバースト」と呼ばれる活動の持続時間が短くなり、全体的にこの帯域の脳活動が落ち着いていたことが明らかになりました。

このガンマ波増強&ベータ波抑制のパターンは、扁桃体と海馬の両領域で共通して観測されています。興味深いのは、これらの脳の領域が不安やうつなどの気分障害と深く関係していることです。さらに、今回注目されたベータ波やガンマ波も、こうした心の状態と関連する脳波として知られています。たとえば、ストレスや不安の強いときにはベータ波が高まりやすく、逆に幸福感や前向きな気持ちを抱いているときにはガンマ波が増えるという報告もあります。

なお今回注目されたのは、ガンマ波やベータ波といった「特定のリズム(=周期的な成分)」の変化でした。一方で、脳波全体の背景的な活動(非周期的成分)は、瞑想の前後でほとんど変化が見られなかったと報告されています。つまり、瞑想中の脳では、全体の活動レベルが変わるのではなく、特定の脳波リズムだけが選択的に変化していたことになります。

出典:Maher et al., 2025

考察:見えてきた瞑想の意義と新たな可能性

「たった一度の短い瞑想でも、脳の深部にこれほどの変化が生まれる」――この事実は、瞑想が持つ可能性をあらためて感じさせます。扁桃体・海馬といった領域は本来、意識的に制御しにくい部分ですが、瞑想という非侵襲で誰でも実践可能な行為によって、その活動パターンを変えられるかもしれないのです。

これは言い換えれば、瞑想が脳のニューロモデュレーション(神経調節)手段となり得ることを示しています。しかも瞑想は、薬や特別な機器を使わない安全で手軽な方法です。そのため、もしうまく取り入れることができれば、記憶力や感情のコントロールをサポートする、低コストで実践しやすいアプローチとして注目されるかもしれません。

期待される一方で、まだ明らかでない点も

一方で、この研究には注意すべき点もあります。第一に被験者が8名と少人数であり、全員がてんかん患者という特殊なグループだったため、健常者や一般集団にそのまま当てはまるかは慎重な評価が必要です。

第二に、観察したのは一回限りの短期的な効果であり、瞑想を継続的に練習した場合に脳活動がどう変化していくか、あるいは今回の効果が持続するのかまでは分からないという点です。さらに、今回は音声ガイドに従った誘導瞑想でしたが、自己流の瞑想や他の種類の瞑想(マインドフルネス呼吸瞑想など)でも同様の効果が得られるのかは不明です。

これらの点を踏まえ、研究チームも「今回の研究はあくまで基礎的な第一歩」であり、更なる検証が必要と述べています。

おわりに:誰かに話したくなる研究のポイント

瞑想と一口に言っても様々な流派がありますが、今回の研究から得られた学びをいくつかまとめてみましょう。

  • 初心者の短時間瞑想でも脳深部が変化する: たった10分程度の瞑想でも、扁桃体と海馬という脳の奥深くの領域で脳波パターンの変化が観測されました。これは「経験がなくても脳は応えてくれる」という希望を感じるポイントです。
  • ガンマ波アップ&ベータ波ダウン:ポジティブな情動や集中と関連する高周波のガンマ波が増え、ストレスや不安と関連する中周波数のベータ波が減少する方向に変わりました。この波形パターンは気分を安定させる方向の変化とも解釈でき、瞑想がもたらす心理的効果を裏付ける生理指標と言えるでしょう。
  • 脳内デバイスで明らかになった新事実:埋め込み型のRNSデバイスによる頭蓋内記録という最新技術のおかげで、これまで計測が難しかった脳深部のリアルな活動を捉えることができました。
  • 日常に活かせる瞑想の可能性:瞑想をうまく生活に取り入れれば、記憶力アップやストレス対処など日常生活の質向上につながるかもしれません。

専門的な脳科学のトピックでありながら、「なるほど、瞑想って脳にも良さそうだ」と思わせてくれる今回の研究。

忙しさやストレスに追われる日常の中で、自分と静かに向き合う瞑想という行為が、実は脳のコンディションを整えるフィットネスになっているのかもしれません。

今回紹介した論文📖

Maher, C., Tortolero, L., Jun, S., Alagapan, S., Wang, Y., Zhang, Y., … & Saez, I. (2025). Intracranial substrates of meditation-induced neuromodulation in the amygdala and hippocampus. Proceedings of the National Academy of Sciences, 121(28), e2401618121. 

https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.2409423122

WRITER

Sayaka Hirano

Sayaka Hirano

BrainTech Magazineの編集長を担当しています。
ブレインテックとウェルビーイングの最新情報を、専門的な視点だけでなく、日常にも役立つ形でわかりやすく紹介していきます。脳科学に初めて触れる方から、上級者まで、幅広く楽しんでもらえる記事を目指しています。

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