近年、企業が従業員の健康管理を経営戦略に組み込む「健康経営」に注目が集まっています。社員の健康と働きやすさが確保されることで、生産性の向上や医療費の削減、企業のイメージ向上といった多様な効果が期待されています。
この記事では、健康経営の具体的な取り組みや、それがもたらすメリットについて詳しく解説します。自社の成長と従業員の幸福を両立させたいと考える方にとって、健康経営の実践が一歩進む内容です。
健康経営とは?
健康経営とは、企業が従業員の健康を守り、さらに健康を向上させる取り組みを経営戦略に取り入れるスタイルです。従業員の健康を重視することで、働きやすさや生産性が向上し、結果として企業全体の価値やパフォーマンスの向上が期待されます。このアプローチは、従業員の健康と企業の成長を両立させる持続的な経営手法として注目されています。
健康経営の目的
健康経営の目的は、単に従業員の健康促進や生産性向上にとどまらず、企業イメージの向上や離職率低減など多様な効果が期待されます。これらの取り組みは、従業員の満足度やモチベーションを高め、結果として優秀な人材の確保にもつながります。
また、経済産業省や各自治体も健康経営の推進を支援し、「健康経営優良法人認定制度」や「健康経営銘柄」といった仕組みを設けています。「健康経営銘柄」は、従業員の健康管理に積極的に取り組み、成果を上げた企業を毎年選出する制度です。この選定により、企業は取り組みを広くアピールし、社会的信用を高める機会を得られます。
さらに、認定企業は優秀な人材の獲得や顧客からの評価向上といったメリットを享受できるため、健康経営を実践する意義が一層高まっています。
・「健康経営優良法人認定制度」「健康経営銘柄」の詳細
健康経営の取り組みがもたらす4つの大きな効果
健康経営の実践は、企業にとってCSR(企業の社会的責任)活動を超えて、組織全体の経済的効果やパフォーマンス向上に直結します。以下に、健康経営が企業にもたらす4つの主要な効果を解説します。
1. 従業員の生産性向上
健康経営の大きな効果の一つは、従業員の生産性向上です。従業員が心身ともに健康で安心して働ける環境を整えることで、集中力とモチベーションが高まり、業務効率が上がります。
さらに、健康的なライフスタイルの推進により、病気による欠勤や遅刻の減少も期待できます。これらの効果が相乗的に作用することで、企業全体の業績やパフォーマンス向上に大きく寄与します。
2. 従業員の離職率低下
健康経営のもう一つの重要な効果は、離職率の低下です。従業員の健康や働きやすさを重視し、サポート体制を整えている企業は、従業員からの信頼を得やすく、職場への満足度が向上します。
この結果、従業員が長く企業に留まりやすくなり、優秀な人材を確保し続けることが可能です。さらに、安心して働ける環境づくりは、社内の結束力やチームワークを高め、企業全体のパフォーマンス向上にも寄与します。
3. 医療費の削減とコスト管理
健康経営を推進することで、従業員の健康リスクを早期に発見し、予防的な対策が可能となり、医療費の削減が期待できます。健康診断やストレスチェックなどを通じて、従業員の健康状態を継続的にモニタリングし、適切なサポートを提供することで、医療コストの抑制にも繋がります。
また、健康管理にかかるコストを効果的に管理することで、企業全体の経費最適化が実現し、持続可能な経営に貢献することが可能です。
4. 企業イメージ・リクルート力の向上
健康経営に積極的に取り組む企業は、社会的評価が高まり、企業イメージが向上します。従業員の健康を重視し、健全で快適な労働環境を提供する企業は、求職者にとって魅力的に映りやすく、リクルート力の強化や優秀な人材の確保につながります。
また、健康経営への取り組みは、投資家やビジネスパートナーからの信頼も得やすくなり、企業としての競争力強化に寄与します。このような取り組みによって、企業は社会的な信用度を向上させると同時に、持続的な成長に必要な基盤を築くことが可能です。
健康経営における具体的な取り組み内容
健康経営を実践するためには、従業員の身体的および精神的な健康を支援する多様な施策が必要です。ここでは、効果的な取り組み例を紹介します。
身体的健康を促進する取り組み
従業員の身体的健康を守ることは、健康経営において重要な柱です。従業員が健康的な生活を送れるように、以下のような対策が行われています。
定期的な健康診断の実施とフォローアップ
健康経営として、従業員に定期的な健康診断を実施し、健康状態を継続的にモニタリングする取り組みがあります。生活習慣病やがんなどのリスクを早期に発見し、診断結果に基づいた個別のフォローアップや予防プログラムを提供することで、健康リスクの軽減が期待されます。健康診断後には、専門家による栄養指導なども行い、従業員の生活改善をサポートします。
健康管理プログラムの導入
健康診断に加えて、日常的に健康を維持するためのサポートプログラムを提供している企業もあります。例えば、フィットネスクラブの割引利用や社内での運動イベント、ウォーキングキャンペーンなどが取り入れられ、従業員が運動しやすい環境を整えることができます。これにより、健康的なライフスタイルを推進し、病気の予防を図ります。
栄養指導や食生活改善の支援
従業員がバランスの取れた食生活を維持できるように、社内食堂での健康メニューの提供や管理栄養士による栄養指導を行う企業もあります。また、栄養に関するセミナーの開催など、従業員が健康的な食習慣を身につけるための支援を提供する取り組みもあります。
メンタルヘルスケアの取り組み
従業員の精神的な健康をサポートするための施策も健康経営には欠かせません。メンタルヘルスケアプログラムの一例を紹介します。
ストレスチェックやカウンセリングの導入
従業員が日常的に感じるストレスを適切に管理し、必要に応じてサポートが受けられるよう、ストレスチェックやカウンセリングの体制を整えることも健康経営の取り組みの一つです。定期的なストレスチェックを実施し、従業員のストレス状態を把握することで、早期に対応できる仕組みが構築されます。
ワークライフバランスの取り組み
従業員がプライベートと仕事を両立できる環境を整えることも、健康経営において重要な要素です。ワークライフバランスの実現を目指す具体的な施策には以下があります。
フレックスタイム制度や有給休暇の充実
フレックスタイム制度を取り入れることで、従業員は自分のライフスタイルや家庭の状況に合わせて柔軟に勤務時間を調整できます。リモートワークの導入も併せて進め、仕事とプライベートのバランスを取りやすい環境を整えることが重要です。
また、有給休暇が取得しやすい環境づくりの一環として、休暇取得を促進するキャンペーンを実施し、従業員が気兼ねなく休める雰囲気を醸成する取り組みもあります。これにより、仕事の負担を軽減し、心身の健康維持を支援することが可能です。
育児や介護サポートの充実
育児や介護に取り組む従業員が安心して働けるよう、育児休暇制度や介護支援プログラムなどを導入している企業もあります。育児休暇を取得しやすくするだけでなく、復職時にはフレキシブルな勤務形態が選べるようにすることで、従業員が家庭の状況に合わせて働ける環境が提供されます。また、企業内に託児所を設置したり、外部の保育施設と提携するなど、育児サポート体制を強化し、従業員の安心感と働きやすさを高めることができます。
長時間労働の是正と勤務時間管理
従業員の過重労働を防ぐため、長時間労働の削減や勤務時間の管理を徹底する取り組みもあります。特に、勤務時間を可視化し、一定時間を超えた場合には自動的にアラートが出るシステムを導入することで、従業員が無理なく働けるようサポートすることができます。
また、週に一度の早帰りデーの設定や、定時退社を奨励する制度を設けることで、長時間労働を防止し、従業員が仕事以外の時間も充実させることができます。
職場環境の改善の取り組み
従業員が快適に過ごせる職場環境を整えることは、健康経営の中で非常に重要です。職場の環境改善に関する具体的な施策を見ていきましょう。
快適なオフィス環境の整備
オフィス環境を整えることで、従業員がよりリラックスして仕事に取り組めるようになります。例えば、「VIE Pod」のように、集中やリラックスを目的とした個室ブースを設置することで、仕事の合間にリフレッシュできる空間が生まれ、心身の健康をサポートし、社員の生産性も向上することが期待されます。
VIE Podについてはこちら=>https://lp.vie.style/vie-pod
社員同士の交流を促進するヘルスイベントの開催
健康経営の一環として、社員が交流できるヘルスイベントの開催も効果的です。ウォーキングイベントや社内ヨガセッションなど、誰でも気軽に参加できるアクティビティを実施し、健康的な社内文化を作り出します。
こうした活動を通じて、従業員同士のコミュニケーションが活性化し、職場全体の雰囲気が良くなります。また、運動イベントや社内スポーツ大会など、楽しみながら健康を意識できる取り組みも、従業員の健康増進とモチベーション向上に寄与します。
健康経営の取り組み事例:日本と海外の企業の実践例
健康経営に取り組む企業は、従業員の健康増進や生産性向上を目指してさまざまなプログラムを実施しています。ここでは、日本と海外の具体的な企業の事例を紹介し、それぞれがどのような成果を上げているかを紹介します。
全社員参加型健康経営プログラム(カゴメ株式会社)
カゴメ株式会社は、健康経営の一環として「全社員参加型健康経営プログラム」を実施しています。従業員の健康意識を高め、実際に生活習慣を改善するため、健康診断だけでなく、栄養指導やフィットネスプログラムも導入しています。
このプログラムの成果として、健康診断の受診率は100%を達成し、従業員の野菜摂取量や運動習慣の改善が見られました。また、健康状態の見える化を進めることで、従業員の健康リテラシーが向上し、結果として欠勤率の低減や生産性の向上にもつながっています。
参考:https://www.kagome.co.jp/company/sustainability/humancapital/04/
「健康経営優良法人」取得と社内サポート体制(住友商事株式会社)
住友商事株式会社は「健康経営優良法人~ホワイト500~」に認定されており、従業員の健康促進に積極的に取り組んでいます。社内には専門チームが設置され、定期的な健康診断に加えて、ストレスチェックやカウンセリングサービスが導入されています。これにより、メンタルヘルスの改善が進み、高ストレス者の割合が減少するなどの成果が見られています。
さらに、フィジカルヘルスの管理についても特定保健指導の実施率が向上し、従業員全体の健康レベルが高まっています。このような施策により、住友商事は従業員の健康を維持・増進するだけでなく、長期的な生産性向上とエンゲージメントの強化を目指しています。
参考:https://sumitomocorp.disclosure.site/ja/themes/33
社員と家族が安心して働ける健康サポート体制(東京海上ホールディングス株式会社)
東京海上ホールディングス株式会社では、社員とその家族が安心して働けるよう、健康サポート体制を充実させています。ウェルネス推進室には看護職チームが配置され、社員の健康相談やカウンセリングを行い、メンタルおよびフィジカルケアを支援しています。また、全国200以上の拠点で一貫した支援を提供できるよう、データの一元管理により、どこにいても均等なサポートが受けられる体制を整備しています。
生活習慣病予防プログラムや特定保健指導の徹底により、健康リスクを早期に発見・対応しするなど、このような取り組みにより、従業員の高ストレス者割合が減少し、全体の健康レベルが向上しており、持続的な生産性向上にも寄与しています。
参考:https://www.tokiomarinehd.com/news_insights/ni17.html
資料配布と動画活用で健康意識向上(前出産業株式会社)
前出産業株式会社は、「健康経営優良法人2022」に認定され、従業員の健康意識向上に向けた施策を展開しています。同社は、従業員の健康意識が低いことが課題であったため、生命保険会社の提案をきっかけに健康経営を本格導入しました。
具体的には、毎月健康に関する資料を給与と共に配布し、健康アドバイスを含む動画を従業員に視聴させることで、健康意識を高める活動を実施。これにより、健康意識の高い従業員の割合は62%から73%に向上し、従業員全体の健康リテラシーが向上しました。
参考:https://www.maede.co.jp/healthmanagement/
コミュニケーションと健康を重視した職場環境づくり(株式会社Phone Appli)
株式会社Phone Appliは、従業員のウェルビーイング向上を目指し、包括的な健康経営を推進しています。具体的には、社内のコミュニケーションの活性化とメンタルヘルスケアに注力し、従業員が安心して働ける環境づくりを進めています。
従業員同士がオンラインで交流できるイベントや、フィットネスプログラムを実施し、運動不足の解消とコミュニケーションの促進を図り、従業員のエンゲージメントが向上し、職場全体の生産性向上につながっています。
参考:https://phoneappli.net/corp/company/policy/well-being/
健康経営導入のステップと助成金の活用
企業が健康経営を導入するためには、計画的かつ体系的なアプローチが重要です。ここでは、健康経営を効果的に進めるための3つの主要なステップを紹介します。
ステップ1: 健康経営導入の準備と目標設定
最初のステップは、健康経営の導入に向けた準備と目標設定です。この段階では、企業の現状分析と目指すべきゴールの明確化が重要です。
現状分析
企業全体および従業員の健康状況を把握するため、健康診断結果やメンタルヘルスの状況、欠勤率などのデータを収集し、課題を特定します。健康経営に適用する対象や範囲を明確にすることで、効果的な施策の設計が可能になります。
目標設定
健康経営を導入する目的や、達成したい成果を明確に設定します。例えば、従業員の健康診断受診率100%の達成や、特定保健指導の実施率向上、離職率の低減など、具体的な数値目標を設けることが重要です。このようなKPI(重要業績評価指標)を設定することで、後の施策の評価がしやすくなります。
計画策定
健康経営を推進するための具体的なアクションプランを策定します。ここでは、リソース(予算、人材、ツール)の確保や、スケジュールの設定が必要です。適切な計画があることで、導入プロセスが円滑に進みます。
健康経営に関する方針と体制の構築
健康経営を成功させるためには、しっかりとした方針策定と組織体制の整備が重要です。助成金を活用することで、企業の健康経営推進に必要な資金を確保し、持続可能な体制を構築することが可能です。
以下に、特にこのステップで利用可能な助成金の具体例とその活用方法について説明します。
働き方改革推進支援助成金
労働時間の短縮や休暇取得促進、勤務間インターバルの導入などにかかる費用を補助する助成金です。特に、システム改善や研修の実施に対して、最大730万円が支給されるケースがあります。これにより、健康経営の施策に合わせて労働環境を改善する企業が支援を受けられます。
参考:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000120692.html
小規模事業場産業医活動助成金
健康経営の推進には産業医や保健師などの専門家のサポートが重要です。この助成金は、特に中小企業が産業医を配置し、従業員の健康管理体制を整備する際に活用できます。従業員50名以下の企業が産業医や保健師を導入する費用の一部が助成されるため、資金的な負担を軽減し、しっかりとした健康管理体制の確立をサポートがされます。
参考:https://jsite.mhlw.go.jp/mie-roudoukyoku/content/contents/000941543.pdf
人材確保等支援助成金(テレワークコース)
人材確保等支援助成金(テレワークコース)は、テレワークの導入促進を通じて健康経営を推進する企業に適した助成金です。導入時の通信機器費用、システム改善費、従業員研修費用が助成対象で、最大100万円が支給されます。働きやすい環境を整えることで従業員の健康管理と生産性向上を目指す企業に有効な支援制度です。
参考:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/telework_zyosei_R3.html
ステップ3: 具体的な健康施策の実施
健康経営の方針と体制が整ったら、実際の施策を計画に沿って実施します。企業のニーズや課題に応じた具体的なアプローチが重要です。
以上のステップを踏むことで、健康経営の導入が効果的に進められ、従業員と企業双方にメリットが生まれるでしょう。健康経営の成功には、適切な準備と体制、具体的な施策の効果的な実施が欠かせません。
企業と従業員のための健康経営戦略
健康経営は、企業が従業員の健康を支えることを経営戦略に取り入れることで、持続的な成長と企業価値の向上を図るものです。従業員の生産性向上や離職率低下、医療費の削減、企業イメージの向上など、健康経営には多くのメリットが期待されます。
具体的な取り組みには、定期的な健康診断やフィットネスプログラム、メンタルヘルスケア、リモートワーク制度の整備などがあり、従業員が心身ともに健康で働ける環境を整えています。また、「健康経営優良法人認定」や「健康経営銘柄」に認定されることで、企業は社会的な信頼性を高め、優秀な人材の確保にもつながります。
さらに、健康経営の導入には、助成金の活用が役立ちます。例えば、「働き方改革推進支援助成金」や「人材確保等支援助成金(テレワークコース)」などの支援制度を活用することで、企業は健康経営にかかるコストを軽減しつつ、効果的な施策を実施可能です。このような助成金の活用を通じて、企業は従業員の健康支援に対する投資を最適化し、経済的な成果と組織全体のパフォーマンス向上を実現できます。