皆さんは最近、しっかりと眠れていますか?忙しい現代人は、つい睡眠時間を削りがちです。しかし、最新の脳科学の研究により、睡眠が私たちの脳や心の健康(メンタルヘルス)、そして日々の生活バランスに、決定的な役割を果たすことが明らかになってきました。
ここでは、2021年以降の睡眠改善に関する最新の脳科学的知見をもとに、睡眠とウェルビーイングの関係や、日常生活で活かせる改善ポイントを解説します。
最新の研究が示す、睡眠と脳の関係

2024年の研究では、睡眠中に脳内の神経ネットワークがポンプのように働き、脳組織にリズミカルな波を起こして、老廃物を洗い流す仕組みが確認されました1。このプロセスのおかげで、朝には頭がスッキリし、長期的にも脳の健康維持に役立つと考えられています。
また、睡眠は脳の老化や学習能力にも影響します。例えばMRIを用いた研究では、24時間の徹夜で脳の老化が1~2歳進んだ状態になると報告されています2。さらに慢性的な睡眠不足は、脳内に小さな損傷を蓄積し、将来的な脳卒中や認知症リスクの上昇とも関連するため、適切な睡眠を確保することが脳の健康には欠かせないのです。
学習や記憶の面でも、睡眠の重要性は再確認されています。慢性的な寝不足は新しい課題の習得能力を低下させることが分かっており、これは睡眠中に行われる記憶の定着(脳が情報を整理して保存する作業)が妨げられるためと考えられます。試験勉強や仕事のトレーニングでも、夜更かしで詰め込むよりしっかり寝たほうが効率よく成果が出るでしょう。
睡眠とメンタルヘルス、ライフバランスの深い関係

良質な睡眠は心の安定に直結しています。2023年末の大規模分析では、わずか数時間の睡眠不足でもポジティブな感情が減り、不安感が増すことが示されました3。寝不足の翌日に「なんだか気分が晴れない」「イライラしやすい」と感じた経験がある人も多いでしょう。
さらに慢性的な寝不足や不眠は、うつ病や不安障害のリスクを大幅に高めます4。逆に睡眠を改善すれば、こうした精神的ストレスが和らぐことも研究で示されています5。よく眠れるようになると気持ちが前向きになり、日常の小さなトラブルにも柔軟に対処できるようになるでしょう。
しかし残念ながら、日本では慢性的な睡眠不足が蔓延しています。厚生労働省の調査では、働き盛り世代の4割以上が1日6時間未満しか眠れていません6。睡眠不足は作業能力の低下や重大事故につながることも指摘されています。しっかり眠ることは、心の健康を保つだけでなく、仕事で力を発揮し、毎日を気持ちよく過ごすための基本になります。
今日からできる睡眠改善のポイント

最後に、脳科学の知見を踏まえた、日常生活で実践しやすい睡眠改善のヒントを紹介します。できるものから取り入れてみてください。
生活リズムを整える
平日も休日も毎日なるべく同じ時間に就寝・起床し、体内時計を安定させましょう。朝起きたら太陽の光を浴びて脳に朝を知らせ、睡眠リズムを整える習慣も効果的です。
寝る前のリラックスタイム
就寝前1時間はスマホやパソコンなど光るスクリーンを見るのを控え、心身をリラックスさせましょう。明るい光は脳を覚醒させて眠気を妨げます。照明を落とし、読書やストレッチなど静かに過ごすのがおすすめです。
睡眠環境を快適に
寝室は静かで暗く、室温も快適に整えましょう。自分に合った寝具を使うことも大切です。音や光が気になる場合は耳栓やアイマスクも有効です。
日中の適度な運動
日中に適度に体を動かして程よく疲れておくと、夜はぐっすり眠れます。有酸素運動やストレッチは、ストレス解消にもなり一石二鳥です。ただし就寝直前の激しい運動は避け、寝る2~3時間前までに済ませましょう。短い昼寝(20分程度)は効果的ですが、長すぎる昼寝は夜の睡眠を妨げるので注意です。
カフェインとアルコール
夕方以降はコーヒーや緑茶などカフェインを含む飲み物は避けましょう。アルコールは一時的に寝つきをよくしますが、眠りを浅くするため、寝酒も控えるのが無難です。
これらのポイントを意識すれば、睡眠の質と量は少しずつ改善していくでしょう。十分な睡眠が確保できれば脳の働きが高まり心も安定します。その結果、日中のパフォーマンスが向上し、人生全体の満足度(ウェルビーイング)も上がっていくはずです。毎日の睡眠を大切にして、心身ともに健やかな生活を送りましょう。
- Li-Feng Jiang-Xie, Antoine Drieu, Kesshni Bhasiin, Daniel Quintero, Igor Smirnov, Jonathan Kipnis. “Neuronal dynamics direct cerebrospinal fluid perfusion and brain clearance.” Nature, 2024. ↩︎
- Chu, C., Holst, S. C., Elmenhorst, E.-M., Foerges, A. L., Li, C., Lange, D., Hennecke, E., Baur, D. M., Beer, S., Hoffstaedter, F., Knudsen, G. M., Aeschbach, D., Bauer, A., Landolt, H.-P., & Elmenhorst, D. (2023). Total sleep deprivation increases brain age prediction reversibly in multisite samples of young healthy adults. The Journal of Neuroscience, 43(33), 5996–6007. ↩︎
- Palmer, C. A., Bower, J. L., Cho, K. W., Clementi, M. A., Lau, S., Oosterhoff, B., & Alfano, C. A. (2023). Sleep loss and emotion: A systematic review and meta-analysis of over 50 years of experimental research. Psychological Bulletin. ↩︎
- Zhang, J., He, M., Wang, X., Jiang, H., Huang, J., & Liang, S. (2023). Association of sleep duration and risk of mental disorder: a systematic review and meta-analysis. Sleep and Breathing, 27(1), 261–280. ↩︎
- Scott, A. J., Webb, T. L., Martyn-St James, M., Rowse, G., & Weich, S. (2021). Improving sleep quality leads to better mental health: A meta-analysis of randomised controlled trials. Sleep Medicine Reviews, 60, 101556. ↩︎
- 令和5年(2023)「国民健康・栄養調査」の結果(厚生労働省) ↩︎