将来に備える認知症予防|食事・運動・脳トレを今日から始めよう

年齢を重ねるにつれ、「もの忘れ」が気になり始めたという人は少なくありません。特に親の介護を経験したり、自身が中高年期に差しかかったりすると、認知症はより身近な問題として意識されるようになります。

現在、認知症は高齢者の7人に1人が発症するとされており、誰にとっても他人事ではありません。しかし、近年の研究では、生活習慣を見直すことで発症リスクを下げたり、進行を遅らせたりできることがわかってきました。

本記事では、40代・50代から取り組める「認知症予防」の具体的な方法を、科学的な根拠に基づいてわかりやすく解説します。

認知症予防はなぜ重要?その背景と基本の考え方

認知症は高齢者だけでなく、働き盛りの世代にも関心が高まっている重要な健康問題です。内閣府の「認知症施策推進関係者会議」の推計によると、2050年には認知症の患者数が約587万人に達し、65歳以上の約7人に1人が認知症になると見込まれています。高齢化が進む中で、認知症は本人だけでなく、家族や社会全体にとっても深刻な課題となりつつあります。

こうした状況を受けて、これまで「治療」が主だった認知症への取り組みは、「予防」や「早期発見・対応」へと重心が移りつつあります。国や医療機関、研究機関では、予防に関する情報の発信や、科学的根拠に基づいたガイドラインの整備が進められています。また、個人レベルでも、生活習慣の見直しや脳の健康維持に対する意識が高まり、予防への関心が広がっています。

この章では、なぜ今「認知症予防」がこれほど重視されているのか、そして認知症にはどのような種類があり、どのようなリスク要因があるのかをわかりやすく解説していきます。

参考:内閣府「認知症施策推進関係者会議(第2回)議事録」

なぜ今、認知症予防が重視されているのか?

認知症は一度発症すると、完全に回復することが難しい病気です。本人の生活の質(QOL)が大きく損なわれるだけでなく、家族の介護負担や精神的・経済的負担も少なくありません。だからこそ、できるだけ発症を遅らせる、あるいは未然に防ぐ「予防」の重要性が高まっています。

厚生労働省や国立長寿医療研究センターの報告によれば、認知症の発症には生活習慣が大きく関係していることが分かっています。たとえば、運動やバランスの良い食事、社会との関わり、知的な活動などを日常的に行うことで、リスクを減らすことができるとされています。

また近年では、「軽度認知障害(MCI)」という段階に早く気づき、適切な対応をとることの重要性も注目されています。MCI(軽度認知障害)は、年齢相応の物忘れとは異なり、日常生活には大きな支障がないものの、記憶力や判断力などに軽度の認知機能の低下がみられる状態を指します。すべての人がMCIから認知症に進行するわけではありませんが、年間で認知症に移行するリスクは約5〜15%とされており、5年後には約50%が移行する可能性があるとされています。

そのため、MCIの段階で脳の健康状態に気づき、生活習慣を見直すことで、認知症の発症を遅らせたり、進行を抑えたりすることが重要です。早期発見と早期対応が、認知症予防のカギを握っているのです。

また、テクノロジーの進化により、脳の健康状態を計測・可視化するニューロテック分野の研究も進展しています。脳波測定や認知トレーニングのアプリなど、予防・早期発見に役立つ技術が今後さらに広がると期待されています。

※関連情報:認知症予防・治療におけるニューロテックの活用事例を紹介

主な認知症の種類とリスク因子

認知症にはいくつかの種類があり、原因や症状も異なります。代表的なものは以下の通りです。

アルツハイマー型認知症(Alzheimer’s Disease)

日本で最も多い認知症のタイプで、認知症全体の約60〜70%を占めます。主な原因は、アミロイドβたんぱく質やタウたんぱく質が脳内に異常に蓄積し、神経細胞が徐々に死滅していくことです。

初期にはもの忘れ(記憶障害)が目立ち、次第に時間や場所の感覚がわからなくなる(見当識障害)、言葉が出てこない(失語)などの症状が進行します。進行すると日常生活に大きな支障をきたし、最終的には会話や食事、排泄なども困難になります。

発症年齢は65歳以上が多いですが、まれに若年で発症するケースもあります(若年性アルツハイマー病)。

血管性認知症(Vascular Dementia)

脳梗塞や脳出血などの脳血管障害が原因で発症する認知症で、日本では2番目に多いタイプです。脳内の血流が悪くなった部位の神経細胞が損傷・壊死し、その結果として認知機能が低下します。

症状の特徴は、発症した部位によって認知機能の障害の仕方が異なることです。たとえば、記憶力よりも注意力や判断力の低下が目立つこともあります。また、感情の起伏が激しくなる(感情失禁)や、手足のマヒ・歩行障害などの身体的な症状も伴うことが多くあります。

アルツハイマー型と違い、階段状に症状が悪化する(突然の変化)のも特徴のひとつです。


レビー小体型認知症(Dementia with Lewy Bodies)

脳内に「レビー小体」と呼ばれる異常なたんぱく質が蓄積することで発症します。アルツハイマー型や血管性と比べて日内変動(ある日はしっかり、ある日は混乱)が激しいのが特徴です。

主な症状は、以下のようなものがあります:

  • 幻視(実際にはないものが見える)
  • パーキンソン症状(手足の震え・筋肉のこわばり・歩行障害など)
  • REM睡眠行動障害(夢の中の動きを現実にしてしまう)

初期には記憶障害よりも注意力や空間認識の障害が目立つ傾向があり、進行するとアルツハイマー型に似た認知機能障害も見られるようになります。

前頭側頭型認知症(Frontotemporal Dementia:FTD)

前頭葉や側頭葉が萎縮することによって発症する認知症で、比較的若い年代(50〜60代)で発症することが多いタイプです。

特徴的なのは、記憶よりも人格や行動の変化が先に現れることです。たとえば、突然怒りっぽくなる、社会的マナーを無視した言動、、同じ行動を繰り返す(常同行動)、言語の障害(言葉が出にくい、理解できない)などが症状として挙げられます。

本人には自覚が乏しく、周囲の人が異変に気づくことで発見されるケースが多くあります。他の認知症と違い、記憶力は初期には比較的保たれているのもポイントです。

認知症の主なリスク因子

認知症の発症には、いくつかの生活習慣や健康状態が関係していることが分かっています。主なリスク因子としては、高血圧・糖尿病・脂質異常症といった生活習慣病のほか、喫煙や過度の飲酒、運動不足、社会的な孤立などが挙げられます。

これらの要因は、いずれも脳への血流や神経の働きに悪影響を与える可能性があり、放置することで認知機能の低下を招きやすくなります。

一方で、これらのリスク因子は日々の生活習慣を見直すことでコントロールが可能です。たとえば、血圧や血糖値を適正に保つこと、禁煙や適度な運動を取り入れること、地域とのつながりを持つことなどが、認知症の発症リスクを下げる手助けになります。

次章では、具体的にどのような習慣が予防につながるのかを紹介していきます。

今日からできる!認知症を防ぐ7つの習慣

認知症の発症には、加齢や遺伝的要因だけでなく、日々の生活習慣も深く関わっていることが多くの研究で明らかになっています。国立長寿医療研究センターなどの報告によれば、運動、食事、睡眠、社会参加などのライフスタイルを見直すことで、認知症の発症リスクを下げられる可能性があるとされています。

ここでは、今日から始められる認知症予防のための7つの習慣を紹介します。どれも特別な道具や知識は必要なく、日常生活の中で無理なく実践できるものばかりです。

1. 食事で脳を守る──バランスのよい栄養摂取

認知症予防には、地中海式や和食中心の食生活が効果的とされています。野菜、果物、魚、豆類、オリーブオイルなどを使った食事は、抗酸化作用や抗炎症作用のある栄養素をバランスよく摂れるのが特徴です。

一方で、飽和脂肪酸の多い食品は脳の健康に悪影響を与えるため、摂りすぎには注意しましょう。たとえば、以下のような食品です。

  • 脂身の多い肉(霜降り肉、豚バラなど)
  • バターや生クリームなどの乳製品
  • ハムやベーコンなどの加工肉
  • 揚げ物やスナック菓子

反対に、次のような脳に良い栄養素を含む食品は積極的に取り入れたいところです。

  • ビタミンB群:レバー、卵、納豆、ほうれん草、玄米など
  • DHA:さば、いわし、さんま、まぐろ、鮭などの青魚
  • ポリフェノール:緑茶、ブルーベリー、ぶどう、カカオ、玉ねぎ、そば、大豆 など

毎日の食事で、これらを意識することが認知症を遠ざける第一歩になります。

2. 継続的な運動で認知機能を維持する

運動は脳への血流を増やし、神経細胞の働きを活性化させることが科学的に示されています。特に、ウォーキングや水中運動、軽い筋トレなどの有酸素運動は、記憶力や判断力の維持に効果があるとされ、認知症予防に有効です。

適度な運動は、脳内で「BDNF(脳由来神経栄養因子)」と呼ばれる物質の分泌を促進し、神経細胞の新生やネットワーク強化にも関与すると考えられています。

目安としては、週3〜5回、1回30分程度の運動を習慣化することが推奨されており、身体の健康維持と同時に、脳の老化を緩やかにする効果も期待できます。

3. 脳を活性化させる知的刺激を習慣にする

脳は使うことで活性化され、使わなければ機能が低下していくとされています。読書やパズル、計算、楽器演奏、友人との会話などは、記憶・注意・言語・判断力といった認知機能を幅広く刺激する活動です。

また、新しいことに挑戦する行動(語学、趣味、旅行など)は、未知の情報を処理したり判断したりする機会が増えるため、脳にとって強い刺激となります。

これらの活動を日常的に続けることで、神経細胞同士のつながり(シナプス)の維持や強化が期待され、結果として認知機能の低下を防ぐことにつながります。

4. 孤立を防ぐ──社会とのつながりを持つ

社会的な孤立は、認知症の発症リスクを高める要因の一つとされています。なぜなら、人との交流が少なくなると、会話や感情のやり取りが減り、脳を刺激する機会が乏しくなるためです。さらに、孤独感や抑うつ状態も重なり、認知機能の低下が加速しやすくなることが報告されています。

家族や友人とのコミュニケーション、地域活動やボランティアへの参加、趣味のサークルなど、他者との関わりを持ち続けることが、脳の活性化に繋がり、結果として認知症の予防効果が期待できます。

特に高齢期は、退職や配偶者との死別、身体機能の低下などによって孤立しやすくなるため、意識的に人と関わる環境をつくることが重要です。社会とのつながりを保つことは、認知機能の維持だけでなく、心の健康を保つうえでも大きな意味を持ちます。

5. 脳を休める──質の高い睡眠を確保する

慢性的な睡眠不足や不眠は、記憶の整理や定着を妨げるだけでなく、認知症の原因物質とされる「アミロイドβ」の蓄積を促進することが報告されています。

睡眠中には、脳の老廃物を排出する「グリンパティック系」と呼ばれる仕組みが働き、脳をクリアな状態に保つ役割を果たしています。そのため、質の良い睡眠を確保することは、認知機能の維持に欠かせません。

就寝前のスマートフォンやテレビの使用を控える、毎日決まった時間に寝起きする、寝室の環境を整えるなど、規則正しい睡眠習慣を意識することが、認知症予防の一歩となります。

睡眠の質については、こちらの記事もチェック:

6. タバコとお酒を見直す──禁煙・節酒のすすめ

喫煙は血管を傷つけ、脳への血流を低下させることが知られており、認知症のリスクを高める要因とされています。このため、認知症予防の観点からは禁煙が強く推奨されています。

また、過度な飲酒も脳の萎縮や認知機能の低下と関係があるとされており、長期的な影響が懸念されます。適度な飲酒、もしくは節酒を心がけることが、脳の健康を守る上で重要です。

タバコとお酒は、健康全般に悪影響を及ぼすだけでなく、認知症の予防においても見逃せない生活習慣のポイントです。

7. 健康診断で生活習慣病を早期に把握

高血圧、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病は、脳の血管にダメージを与え、脳血管性認知症やアルツハイマー型認知症のリスクを高めることが分かっています。

こうした疾患は初期には自覚症状が出にくいため、定期的な健康診断によって早期に発見し、適切に管理することが大切です。血圧、血糖、コレステロール値のコントロールは、脳の健康を守る第一歩になります。

特に中高年以降は、年に1回の検診を習慣にすることが、認知症予防にもつながる効果的な対策と言えるでしょう。

このように、認知症予防は特別なことではなく、日々の暮らしの中でできる小さな工夫の積み重ねです。次章では、医学的に効果が認められている最新の予防法についてご紹介します。

医学的に効果が認められている認知症予防法

これまで認知症は「発症したら進行を止めるのが難しい」とされてきましたが、近年の研究により、生活習慣の改善や認知機能への働きかけによって、発症を遅らせたりリスクを軽減できる可能性があることが明らかになっています。

とくに国立長寿医療研究センターやWHO(世界保健機関)などは、科学的根拠(エビデンス)に基づく介入プログラムの有効性を示しており、今では世界的に「認知症は予防できる病気」としての認識が広がりつつあります。

ここでは、医学的に裏付けのある認知症予防の方法と、初期段階での対処の重要性について解説します。

科学的根拠に基づく認知症予防プログラム

近年注目されているのが、食事・運動・脳のトレーニング・健康管理などを同時に行う「多因子介入型プログラム」です。

その代表例が、フィンランドで実施されたFINGER研究です。この研究では、認知症リスクの高い高齢者に対して、食事指導・運動・認知訓練・生活習慣病の管理を2年間行った結果、認知機能の低下を抑制できたというエビデンスが得られました。

現在ではこのモデルが世界各国に広がり、「WW-FINGERSネットワーク」として各国の高齢者を対象に同様の予防法が検証されています。

さらにアメリカのPOINTER研究や、オーストラリア「Maintain Your Brain」オンラインプログラムでは、地中海式食事、週300分の運動、脳トレ、メンタルヘルス支援などを組み合わせ、認知機能の維持や低下遅延に成功しています。

また、2025年にNature Medicineで発表された高血圧の集中的管理による中国でのRCTでは、4年間の介入で認知症リスクが15%減少、軽度認知機能障害(cognitive impairment without dementia)リスクも16%減ったという成果が得られています。

参考:He, Jiang, et al. “Blood Pressure Reduction and All-Cause Dementia in People with Uncontrolled Hypertension: An Open-Label, Blinded-Endpoint, Cluster-Randomized Trial.” Nature Medicine, vol. 31, 2025, pp. 2054–2061.https://www.nature.com/articles/s41591-025-03616-8

MCI(軽度認知障害)の段階での対応がカギ

MCI(軽度認知障害)は、日常生活には大きな支障がないものの、記憶力や判断力などに軽度の低下が見られる状態です。完全な認知症ではありませんが、放置すると約半数が数年以内に認知症に進行するとされています。

しかし、MCIの段階で生活習慣を見直したり、認知リハビリや身体活動を取り入れたりすることで、進行を食い止めたり、回復する例もあることが分かっています。実際に国立長寿医療研究センターの報告では、一部の研究においてMCIからの改善率が約40%にのぼるというデータもあります。

そのため、定期的な認知機能チェックを行い、MCIの兆候に早期に気づくことが、予防の成否を左右する重要なポイントになります。

40代・50代から始める「認知症予防」の具体策

認知症予防は、高齢になってから始めるものと思われがちですが、実際には40代・50代の中年期こそが最も重要な準備期間とされています。ランセット委員会(2020年)の報告によれば、認知症の予防に影響する要因の多くは中年期に生じるとされており、この時期からの介入が将来のリスク軽減につながることが示唆されています。

ここでは、中年期から始めることで効果的とされる運動習慣や脳への刺激の与え方、そして忙しい世代でも実践しやすい工夫についてご紹介します。

参考:The Lancet Commission on Dementia Prevention, Intervention, and Care, 2020

日常に取り入れやすい運動習慣と脳の刺激法

40〜50代は仕事や家庭の責任が重なる時期ですが、だからこそ軽い運動を継続する習慣を今から身につけることが、将来の認知機能維持につながります。

認知症予防に効果があるとされるのは、有酸素運動(ウォーキングやジョギングなど)や筋トレで、週150分以上の中強度の運動が推奨されています(WHO, 2020)。特に中年期における運動は、脳の可塑性(柔軟性)や記憶力の維にも良い影響を与えると報告されています。

さらに、脳トレーニングも併せて行うと効果的です。たとえば、日記を手書きで書く、新聞のコラムを要約する、簡単な計算や暗記、クロスワード、スマホの脳トレアプリなど、頭を使う活動を日常に取り入れることが、海馬などの記憶に関わる部位を刺激します。

忙しい世代でもできる!認知症予防のちょっとした工夫

家事や仕事に追われて時間が取れないという人でも、隙間時間にできる習慣の工夫で認知症予防は可能です。

たとえば:

  • 通勤時にひと駅分歩く
  • エレベーターではなく階段を使う
  • 料理中に今日の出来事を声に出して振り返る
  • 入浴中に簡単な暗算や記憶ゲームを行う
  • 家族と日々の出来事について会話する

こうした日常の動作にちょっとした意識や刺激を加えるだけで、脳と身体の両方に良い影響を与えられます。

中年期から生活に小さな習慣を積み重ねていくことが、将来の認知症リスクを確実に下げる一歩となります。

まとめ:認知症は予防できる!まずは生活習慣の見直しから

これまでの研究や専門機関の発信からも明らかなように、認知症は予防可能な要素を多く含む疾患です。特に、40代・50代からの生活習慣の見直しが、将来の発症リスクを大きく下げることにつながります。

バランスのとれた食事、適度な運動、脳を刺激する活動、良質な睡眠、そして社会とのつながり──これらはすべて、脳の健康を守るために科学的に有効とされる対策です。また、高血圧や糖尿病などの生活習慣病の管理も、予防の重要なポイントとなります。

特別なことを始める必要はありません。毎日の暮らしの中に、小さな「認知症予防の習慣」を取り入れることが第一歩です。早めに気づき、行動を始めることが、将来の自分と家族を守ることにつながります。

WRITER

Sayaka Hirano

Sayaka Hirano

BrainTech Magazineの編集長を担当しています。
ブレインテックとウェルビーイングの最新情報を、専門的な視点だけでなく、日常にも役立つ形でわかりやすく紹介していきます。脳科学に初めて触れる方から、上級者まで、幅広く楽しんでもらえる記事を目指しています。

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