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「自分の脳をコントロールしたい」——苦悩から生まれた若き研究者・出利葉拓也さんの挑戦

脳の仕組みを解明し、人類の可能性を広げる研究分野として注目を集める「脳科学」。私たちVIEでは、この魅力的なテーマに挑む若手研究者に焦点を当て、彼らの研究内容や情熱に迫るインタビュー企画をスタートしました。 さまざまな視点から脳科学の最新研究を紹介することで、読者の皆さまに脳の神秘や研究の楽しさをお届けするとともに、新しい視点で脳について考えるきっかけとなることを目指しています。 今回のインタビューでは、慶應義塾大学で記憶や学習の研究に取り組まれている出利葉拓也さんにお話を伺いました。インタビューの後半では、出利葉さんのパーソナルストーリーをたっぷりご紹介していますので、ぜひあわせてご覧ください。 https://mag.viestyle.co.jp/interview04 研究者プロフィール 氏名: 出利葉 拓也(いでりは たくや)所属: 慶應義塾大学 環境情報学部 政策・メディア研究科 博士課程研究室: 牛山潤一研究室研究分野: 学習・記憶・脳波 記憶と学習のメカニズムに迫る ── まずは、現在取り組まれている研究について教えていただけますか? 私は、記憶や学習の脳メカニズムに着目した研究を進めています。とくに学習能力に個人差があるのはなぜなのか、その要因を探って、どうすれば改善できるのかを調べることに強い興味があるんです。具体的には、脳波や行動データを解析しながら、学習効率を高めるための新しい方法を模索しています。 ── 学習能力の個人差に注目する背景には、どのような経験があったのでしょうか? 実は私自身、中学・高校の頃に学習面で苦労したことがありました。勉強量はさほど変わっていないはずなのに、なかなか成績が伸びないという壁にぶつかったんです。そのときに「学習を司る脳の仕組みを理解したい」と強く思ったのがきっかけですね。 また、大学時代には塾講師のアルバイトで多くの生徒と接するうちに、いくら頑張っても成果が出にくい子どもたちがいることを目の当たりにしました。「同じだけ努力していても、なんでこんなに結果が違うんだろう」と疑問を抱くようになり、そこから学習の脳科学を深く研究したいと考えるようになりました。 脳波を活用した学習改善の試み ── 具体的には、どのようなアプローチで研究を進めているのでしょうか? 私は「思い出すのにかかる時間」という行動データを膨大に集めて分析することで、脳の状態を間接的に解析する手法を開発しました。本来なら脳波を計測するには高価な機器が必要ですが、この方法を使えば、スマホやPCを使うだけで簡単に脳波の一部を計測することができるんです。 出利葉さんの論文:https://www.nature.com/articles/s41598-023-51128-7 ── それはとても興味深いですね。その結果は、社会や日常生活にどのように活かせそうでしょうか? たとえば、学習アプリの利用データ(学習時間や正答率、回答の速さなど)を解析することで、その人の脳の使い方がある程度可視化できるかもしれません。そうなれば、一人ひとりに合わせた効果的な学習のアドバイスを行えるようになるんじゃないかと期待しています。 今後の展望と課題 ── 研究をさらに深めていくうえで、現在どんな課題に直面されていますか? 一番大きいのはやはりデータの蓄積ですね。脳波を使った研究は、大量のデータが必要とされます。でも私が個人で集められるデータには限界があって、時間的にも金銭的にも負担がかかります。そこが大きなハードルになっていますね。 ── なるほど。膨大なデータをどう集めるかは確かに重要ですね。その解決策としては、どんなことを考えていらっしゃるんでしょうか? 現在は、YouTubeで発信活動をしながら「脳波を測ってみたい」という方々を募ってみようと試みています。実際に脳波を計測する体験を提供して、そのデータを研究にも使わせてもらうというサイクルを実現できれば面白いんじゃないかなと。うまくいけば、研究とサイエンスコミュニケーション、そしてビジネスの流れがうまく回る形にできて、脳の解明も加速するんじゃないかと思っています。 出利葉さんのYouTubeチャンネル:https://www.youtube.com/@deriba-brain ── まさに新しい形の「共創」ですね。それでは最後に、脳科学を志す学生や若手研究者の方々へメッセージをお願いします。 脳科学はまだ分かっていないことが本当に多い分野です。だからこそ、自分の研究次第で新しい視点や可能性を切り開くことができる、とても魅力的な領域だと思います。自分自身の好奇心を大事にしながら、一緒に脳の謎に挑んでみましょう! インタビューの後半では、出利葉さんのパーソナルストーリーをたっぷりご紹介していますので、ぜひあわせてご覧ください。 https://mag.viestyle.co.jp/interview04/

マインドフルネスの効果とは?初心者向けの実践方法と習慣化のコツも紹介

忙しい毎日を送る中で、「なんだか気持ちが落ち着かない」「目の前のことに集中できない」と感じることはありませんか?仕事や人間関係、将来の不安など、私たちの頭の中は常に何かを考え続けています。しかし、そんな時こそ一度立ち止まり、「今、この瞬間」に意識を向けることが大切です。 マインドフルネスは、特別な時間を設けなくても、日常の中で簡単に取り入れられる心のトレーニングです。本記事では、マインドフルネスの基本から、その効果、初心者でもできる実践方法などを紹介します。少しの意識の変化がストレスを減らし、より充実した人生へと導いてくれるはずです。 マインドフルネスとは? マインドフルネスとは、今この瞬間に意識を集中し、自分の思考や感情、身体の感覚を客観的に観察する心のあり方を指します。過去や未来にとらわれず、現在の瞬間を受け入れることで、ストレスの軽減や集中力の向上が期待されます。 マインドフルネスは、もともとは瞑想の考え方をもとに発展しましたが、宗教的な要素を取り除き、誰でも実践しやすい方法として広まりました。近年では、心理学や医療の分野でもその効果が認められ、自己改善やメンタルヘルスの向上に役立つ手法として注目されています。 マインドフルネスのルーツ マインドフルネスの概念は、仏教の「サティ(sati)」という瞑想の教えに由来しています。サティは、気づきや注意深さを意味し、ブッダが説いた「八正道」の一部として修行者に実践されてきました。 西洋においてマインドフルネスが注目されるようになったのは、20世紀後半のことです。1970年代にアメリカの医学博士ジョン・カバット・ジン(Jon Kabat-Zinn)が、マインドフルネスを科学的な視点から研究し、医療分野に応用しました。彼は、仏教の瞑想を基に「マインドフルネスストレス低減法(MBSR)」を開発し、慢性的な痛みやストレスに対する効果を実証しました。 その後、マインドフルネスは心理療法にも取り入れられ、認知行動療法(CBT)と組み合わせた「マインドフルネス認知療法(MBCT)」がうつ病の再発予防に有効であることが明らかになりました(1)。さらに、ビジネス界でもマインドフルネスは重要視され、GoogleやAppleなどの企業が社員研修に導入したことにより、広く普及しました。 今日では、マインドフルネスは宗教や文化を超えて、個人のウェルビーイングを高めるための実践方法として、世界中で活用されています。 (1)Teasdale, J. D., Segal, Z. V., & Williams, J. M. G. (2000). Prevention of relapse/recurrence in major depression by mindfulness-based cognitive therapy. Journal of Consulting and Clinical Psychology, 68(4), 615–623. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10965637/ マインドフルネスの効果とは? マインドフルネスは、単なるリラクゼーション法ではなく、心と体の両面にさまざまな好影響をもたらします。ストレス社会の現代において、多くの人が抱える精神的・身体的な不調を和らげ、より充実した生活を送るための手助けとなります。 心に安らぎをもたらす心理的効果 マインドフルネスは、感情のコントロールやストレスの軽減に大きな効果を発揮します。日常の忙しさに追われる中で、無意識にネガティブな思考にとらわれてしまうことがありますが、マインドフルネスを実践することで、そうした思考のパターンに気づき、より健全な心の状態を維持しやすくなります。 マインドフルネスの実践による主な心理的メリット ストレス軽減:現在に意識を向けることで、不安やプレッシャーを感じることが少なくなる。 感情の安定:怒りや悲しみといった強い感情をコントロールしやすくなる。 集中力・注意力の向上:頭の中の雑念を減らし、目の前の作業に没頭しやすくなる。 ポジティブな思考:過去の後悔や未来への不安にとらわれにくくなり、前向きな気持ちを持てるようになる。 健康な体を育む身体的効果 心と体は密接につながっており、精神的な安定は身体の健康にも良い影響を与えます。マインドフルネスの実践は、ストレスによる身体の緊張を和らげ、自律神経を整えることで、さまざまな健康効果をもたらします。 マインドフルネスの実践による主な身体的メリット 自律神経の調整:副交感神経が優位になり、リラックスしやすくなる。 睡眠の質の向上:寝る前のマインドフルネス瞑想は、深い眠りを促し、不眠の改善に効果的。 免疫力の向上:ストレスホルモンの分泌が減少し、病気に対する抵抗力が高まる。 血圧の安定:リラックス効果により、血圧が安定し、心臓の負担が軽減される。 このように、マインドフルネスはメンタル面だけでなく、身体的な健康にも寄与することが科学的にも証明されています。 初心者向けマインドフルネスの実践方法 マインドフルネスを実践することは、特別な道具や環境を必要とせず、日常の中で簡単に取り入れることができます。しかし、「何から始めればいいのかわからない」と感じる人も多いでしょう。そこで、初心者でも無理なく続けられる実践方法を紹介します。 呼吸瞑想の基本(5分でできる簡単な方法) 呼吸瞑想は、マインドフルネスの中でも最も基本的な実践方法のひとつです。 1. 静かな場所を見つけて座る椅子に座るか、床にあぐらをかいて座ります。背筋を伸ばし、肩の力を抜きましょう。 2. 目を閉じて、呼吸に意識を向ける深く息を吸い、ゆっくり吐きます。呼吸のリズムに意識を集中させましょう。 3. 雑念が浮かんでも気にしない何か考えが浮かんできたら、それを否定せずに受け入れつつ「今、こんなことを考えているな」と気づき、再び呼吸に意識を戻します。 4. 5分間続ける無理に長く続ける必要はありません。最初は5分程度でも十分です。慣れてきたら徐々に時間を延ばしてみましょう。 このシンプルな方法を続けるだけで、心が落ち着き、ストレスの軽減や集中力の向上が期待できます。 瞑想のコツについてはこちらの記事もチェック https://mag.viestyle.co.jp/meditation/ 全身をリラックスさせる、ボディスキャンの方法 ボディスキャン(Body Scan)は、自分の身体の感覚に意識を向けることで、リラックス効果を得るマインドフルネスの手法です。特に、不安やストレスで身体が緊張しやすい人におすすめです。 1. 横になって目を閉じるベッドや床の上で仰向けになり、全身の力を抜きます。 2. 足先から順番に意識を向けるまずは足の指先の感覚に注意を向け、「今、どんな感じがするか?」を意識します。冷たい、暖かい、ジンジンする、何も感じないなど、どんな感覚でもOKです。 3. ゆっくり上へ意識を移動させる足→ふくらはぎ→太もも→お腹→胸→腕→肩→首→頭の順に、体の各部分の感覚を観察します。 4. もし緊張を感じたら、深呼吸するどこかに強い緊張や不快感を感じたら、その部分に意識を向けながら深く息を吸い、ゆっくり吐きます。 このボディスキャンは、眠る前に行うと、深いリラックス状態を作り出し、睡眠の質を向上させるのにも役立ちます。 一口ずつ味わう!食事のマインドフルネス マインドフルネスは、瞑想だけでなく、日常のあらゆる活動に取り入れることができます。その中でも特に実践しやすいのが「食事のマインドフルネス」です。食事を味わいながら食べることで、食事の満足度を高め、暴飲暴食を防ぐ効果もあります。 1. 食事の前に深呼吸をするひと呼吸おいて、「今から食事をする」と意識することで、食べることに集中しやすくなります。 2. 一口ずつ味わいながら食べる食材の香り、食感、味わいをしっかり感じながら、ゆっくり噛んで食べます。 3. ながら食べをやめるスマホやテレビを見ながら食べるのをやめ、食べることだけに集中しましょう。 4. 満腹感を感じたら食事を終える「お腹がいっぱいになった」と感じたら、無理に食べずに食事を終えることが大切です。 この方法を取り入れるだけで、食事の時間がより充実したものになります。また、食べすぎを防ぎ、消化を助ける効果もあるため、健康維持にも役立ちます。 仕事で活用できるマインドフルネスのスキルを紹介 忙しい仕事の中でも、マインドフルネスを取り入れることで、ストレスを軽減し、集中力や生産性を向上させることができます。ここでは、仕事の合間に簡単にできるマインドフルネスの実践方法を紹介します。短い時間でも効果を実感しやすいものばかりなので、ぜひ取り入れてみてください。 会議前の1分間瞑想 仕事の中で特にストレスを感じやすいのが、会議やプレゼンテーションの前ではないでしょうか。緊張や焦りがあると、思考がまとまりにくくなり、適切な発言ができなかったり、相手の話がうまく理解できなかったりします。そんな時におすすめなのが、「会議前の1分間瞑想」 です。 目を閉じて深呼吸し、ゆっくり息を吸って吐く。 今の自分の状態を観察し、緊張や不安をそのまま受け入れる。 会議の目的を確認し、「何を伝えたいか」「何を得たいか」を意識する。 短い時間でも、冷静さと明晰な思考を取り戻し、会議での発言や判断がスムーズになります。 集中力を高めるマインドフル仕事術 仕事中、メールやチャットの通知、周囲の雑音、次々と舞い込むタスクに気を取られ、なかなか集中できないことはありませんか?そんな時に役立つのが、「マインドフルワーク」(2)です。これは、意識的に「今やっていることだけ」に集中することで、効率的に作業を進める方法です。 作業前に意図を決める(「この30分はこの仕事に集中する」など)。 シングルタスクを徹底し、不要な通知はオフにする。 雑念に気づいたらそっと戻すを繰り返し、集中力を維持。 この方法を習慣化することで、集中力が向上し、作業の効率がアップします。「気づいたら時間ばかり過ぎていた…」ということが減り、仕事の質が向上するでしょう。 (2)「マインドフルワーク(Mindful Work)」は、デイビッド・ゲレス(David Gelles)の著書 Mindful Work: How Meditation is Changing Business from the Inside Out(2015年)で紹介された概念であり、企業でのマインドフルネス活用を指す言葉として用いられています。 マインドフルネスで高めるリスニング力 仕事のコミュニケーションでは、「聞いているつもりが、次に何を話すか考えてしまう」「途中から相手の話が頭に入らなくなる」と感じることはありませんか?そんな時に役立つのが、「マインドフルに聴く」ことです。これは、相手の話に意識を向け、深く理解することで、より良い対話を生み出すためのスキルです。 話の内容だけでなく、相手の意図や感情に意識を向ける。 最後まで遮らずに聞く。自分の意見を考える前に、相手の話に集中。 スマホやPCを見ず、相手に意識を向ける。 マインドフルネスを仕事に取り入れることで、会議前の落ち着き、作業中の集中力、対話の質を高めることができます。忙しい毎日だからこそ、短時間でも意識的に実践し、仕事のパフォーマンスを向上させましょう。 マインドフルネスを習慣化するコツ マインドフルネスを実践することで、心の安定や集中力の向上といったメリットを得ることができますが、「続けるのが難しい」「つい忘れてしまう」という人も多いのではないでしょうか? マインドフルネスは、一度やれば終わりではなく、日々の習慣として取り入れることで、より効果を実感できます。そこで、無理なく続けられるようになるためのコツを3つ紹介します。 日常のルーチンと組み合わせる 新しい習慣を続けるためには、すでに毎日行っている行動と組み合わせるのが効果的です。たとえば、朝起きたら深呼吸をする、通勤中に歩く感覚や風の心地よさに意識を向けるといったように、特別な時間を取らずに日常の一部として取り入れるのが理想的です。 仕事の場面でも、会議の前に数秒だけ静かに呼吸を整える、メールを送る前に一瞬だけ意識を集中するなど、小さな実践を積み重ねることで自然と習慣化できます。 最初から「毎日30分の瞑想をしなければならない」と考えると続けるのが難しくなるため、まずは気軽にすでにある習慣にマインドフルネスをプラスすることから始めるのがポイントです。 できることから始めて「完璧」を求めない マインドフルネスは、長時間集中してやることが重要なのではなく、たとえ短い時間でも意識を向けることが大切です。1回1分だけでも十分であり、それを積み重ねていくことが結果として大きな変化につながります。 また、雑念が浮かぶことは自然なことであり、それを「ダメなこと」だと考えずに、「あ、今別のことを考えていたな」と気づき、そっと意識を戻すことがマインドフルネスの本質でもあります。忘れてしまった日があっても気にせず、また次の日からやればよいと考えることが、長く続けるためには必要です。 効果を実感するために「記録」する 習慣を続ける上で大切なのは、「やったことを見える形にする」ことです。目に見える形で記録を残すことで、「自分は続けられている」という実感が生まれ、モチベーションの維持につながります。 たとえば、カレンダーに「今日も呼吸瞑想をした」とチェックを入れるだけでもよいですし、簡単なメモとして「今日は歩きながらマインドフルネスを意識した」「食事のときにゆっくり味わうことを意識できた」といった記録を残すのも効果的です。 マインドフルネスで人生を豊かに マインドフルネスは、特別な道具や環境を必要とせず、誰でも今この瞬間から始めることができるシンプルな習慣です。しかし、その効果は計り知れません。ストレスを軽減し、集中力を高め、感情をコントロールしやすくなるだけでなく、人間関係を円滑にし、心の安定をもたらします。そして何より、日々の生活の中で「今ここ」をしっかり味わうことで、人生そのものがより豊かに感じられるようになるのです。 マインドフルネスを習慣にすることで、その瞬間を大切にし、充実した時間を過ごすことができるようになります。また、仕事や人間関係の場面でも、心を落ち着け、自分の本来の力を発揮しやすくなるため、より満足度の高い生き方につながるでしょう。 マインドフルネスを取り入れることは、大きな変化を求めるのではなく、日常の中の小さな気づきを増やすことから始まります。短い時間でもいいので、深呼吸をし、自分の状態に気づき、目の前のことに意識を向けてみる。それだけでも、少しずつ心の持ちようが変わり、穏やかで満たされた時間が増えていくはずです。

健康経営とは?メリットや取り組み、注意点をわかりやすく解説

企業の持続的な成長には、従業員の健康が不可欠です。近年、多くの企業が「健康経営」に注目し、従業員の健康を経営戦略の一環として取り入れています。しかし、「健康経営とは具体的に何を指すのか?」「どのようなメリットがあるのか?」と疑問を持つ方も多いのではないでしょうか。 本記事では、健康経営の定義やメリット、実践する際のポイントをわかりやすく解説します。企業の生産性向上や働きやすい環境づくりに役立つ情報を、ぜひご覧ください。 健康経営とは?その定義と注目される理由 健康経営とは、企業が従業員の健康を経営資源と捉え、戦略的に健康づくりに取り組む考え方です。単なる福利厚生ではなく、従業員の健康が生産性向上や組織の持続的成長につながると考えられています。 日本国内では、経済産業省や厚生労働省が中心となり、企業の健康経営推進を支援する施策を展開しています。たとえば、「健康経営優良法人認定制度」では、健康施策を戦略的に実践する企業を評価し、社会的な認知度を高める仕組みを整えています。 また、健康経営の考え方は、経済産業省が策定した「健康投資管理会計ガイドライン」にも反映されており、企業が従業員の健康維持・増進を戦略的に進めるための指針が提供されています。 企業が従業員の健康管理を強化することで、労働生産性の向上や組織全体のエンゲージメント向上が期待され、結果として持続可能な企業成長につながるとされています。 参考:健康経営(METI/経済産業省) なぜ健康経営が注目されるのか 近年、健康経営が注目される背景には、労働人口の減少や企業の競争力向上の必要性があります。少子高齢化により労働人口が減少する中、従業員の健康維持は生産性向上と持続的な成長のために不可欠です。 また、企業のブランド価値向上や採用市場での競争力強化にもつながることから、政府の支援策も拡充され、健康経営を推進する企業が増えています。健康経営優良法人認定を受けた企業は、対外的な評価が向上し、より多くのビジネスチャンスを得ることができるとされています。 健康経営に取り組むメリット 健康経営の導入は、企業と従業員の双方に多くの利点をもたらし、生産性の向上や働きやすい環境の整備に加え、企業の信頼性向上や経営の安定にも寄与します。ここでは、健康経営がもたらす主要なメリットについて詳しく解説します。 生産性の向上 健康経営に取り組むことで、適切な休息や健康的なライフスタイルが促進され、従業員の疲労が軽減されます。結果として、集中力が高まり、日々の業務パフォーマンス向上が期待できるでしょう。特に、適度な運動やバランスの取れた食事を取り入れることで、エネルギーレベルが安定し、仕事の効率が上がります。 さらに、健康状態が良好な従業員は判断力や意思決定能力が向上し、業務のミスを減らすことが可能です。加えて、定期的な健康診断やメンタルヘルスサポートを導入することで、欠勤や遅刻の減少が期待され、組織全体の生産性向上につながります。 離職率の低下 健康施策が充実した企業では、従業員の満足度が高まり、長期的な定着率の向上につながります。例えば、福利厚生を充実させ、メンタルヘルス支援プログラムを提供することで、安心して働ける環境を整えることが可能です。 職場環境が良好であれば、仕事に対するモチベーションを維持しやすくなり、転職を考える割合が低下します。また、健康意識の向上と職場のサポート体制の強化により、優秀な人材の流出を防ぎ、組織の安定性を確保できるでしょう。 企業イメージの向上 健康経営優良法人の認定を受けることで、企業の社会的評価が向上し、ブランド価値の強化につながります。従業員の健康を重視する姿勢を示すことで、社会的責任を果たす企業としての評価を得られるでしょう。 また、健康経営に積極的な企業は、働きやすい職場環境を提供するため、採用活動にも有利に働きます。新卒や転職市場において「従業員を大切にする企業」という印象を与え、優秀な人材の確保につながる可能性が高まります。さらに、顧客や取引先からの信頼が厚くなり、ビジネスチャンスの拡大にも寄与します。 従業員の健康増進 企業が健康施策を実施することで、従業員の健康リスクが低下し、生活の質が向上します。例えば、定期健康診断やストレスチェックを活用することで、病気の早期発見・予防が可能となり、重症化を防ぐことができます。 また、健康プログラムの提供によって従業員の健康意識が高まり、自己管理能力が向上します。フィットネス施設の利用促進や禁煙支援、健康的な食事の提供などを取り入れることで、健康維持に効果的な環境を整えられるでしょう。 ワークライフバランスの向上 健康経営の推進により、柔軟な働き方が実現し、ワークライフバランスが改善されます。例えば、フレックスタイム制度やリモートワークの導入によって、従業員が自身のライフスタイルに合わせた働き方を選べるようになります。 このような制度が整備されることで、仕事とプライベートの両立がしやすくなり、ストレスの軽減につながります。その結果、モチベーションの向上や業務効率の改善が期待でき、長期的なキャリア形成を支援する環境が生まれます。 医療費負担の軽減 企業が予防医療を推進することで、健康保険料の負担抑制が期待できます。従業員の健康管理が徹底されることで、生活習慣病や慢性疾患の発症リスクが低下し、医療機関の利用頻度が減少します。 また、従業員個人にとっても、健康を維持することで医療費負担が減り、経済的な安定につながります。企業にとっても、健康管理を徹底することで長期的なコスト削減効果が期待でき、より持続可能な経営を実現できます。 健康経営の取り組みは、単なる健康施策にとどまらず、企業の成長戦略や従業員の働きやすさを向上させる重要な要素です。 健康経営の認定制度と最新の認定状況 企業が持続可能な成長を遂げるためには、従業員の健康が重要な要素となります。そのため、健康経営に取り組む企業を評価し、社会的に認知するための制度として、健康経営優良法人認定制度が設けられています。この制度を活用することで、企業は健康管理を戦略的に進めると同時に、対外的な評価の向上や取引先・求職者からの信頼を得ることができます。 ここでは、健康経営優良法人認定制度の概要と最新の認定状況、認定を受けるメリットについて解説します。 健康経営優良法人認定制度とは 健康経営優良法人認定制度は、従業員の健康管理を経営的視点で戦略的に実践する企業を「見える化」し、社会的評価を促進するために、2016年度に経済産業省が創設した制度です。この制度は、企業が従業員の健康維持・向上にどれだけ積極的に取り組んでいるかを評価し、一定の基準を満たした企業を認定する仕組みとなっています。 認定は企業の規模に応じて2つの区分に分かれており、大企業向けの「ホワイト500」と、中小企業向けの「ブライト500」、さらには2025年から新たに導入された「ネクストブライト1000」があります。これにより、幅広い企業が健康経営を推進しやすい環境が整備されています。 2025年の認定結果 ここからは、2025年3月に決定した健康経営優良法人2025をもとに紹介します。 参考:「健康経営優良法人2025」認定法人が決定しました 大規模法人部門 2025年の健康経営優良法人認定では、約3,400法人が認定されました。そのうち、特に健康経営の取り組みが優れた上位500法人には「ホワイト500」の称号が付与されています。ホワイト500は、健康経営に関する先進的な取り組みを行っている企業を示すものであり、社会的評価の向上や採用力の強化につながります。 中小規模法人部門 中小規模法人部門では、約20,000法人が認定されました。さらに、2025年から新たに「ネクストブライト1000」が導入され、上位500法人には「ブライト500」の称号が付与され、501位から1500位の法人が「ネクストブライト1000」として認定されました。これにより、より多くの中小企業が健康経営の推進に参加しやすくなり、従業員の健康意識向上や生産性向上に貢献できる環境が整っています。 認定を受けるメリット 健康経営優良法人に認定されることで、企業にはさまざまなメリットがあります。 企業の社会的評価が向上健康経営に積極的な企業として公的に認知され、ブランド価値の向上につながります。 採用活動の強化健康管理を重視する企業としてのイメージが確立され、優秀な人材の確保がしやすくなります。 取引先からの信頼向上健康経営を推進することで、ビジネスパートナーや顧客からの信頼度が高まり、企業の成長に寄与します。 金融機関からの優遇措置一部の金融機関では、認定企業に対して低金利融資や融資枠の拡大といった特典を提供しています。 詳細な申請手続きやスケジュールについては、経済産業省の公式サイトを確認することが推奨されます。健康経営の推進は、企業の長期的な発展と従業員の健康維持に大きく貢献するため、積極的に取り組むことが望まれます。 参考:健康経営優良法人の申請について(METI/経済産業省) 健康経営を始めるための基本ステップ 健康経営を成功させるためには、計画的なステップを踏みながら進めることが重要です。従業員の健康維持や職場環境の改善を図ることで、企業の生産性向上や組織の持続的な成長につながります。以下に、健康経営を始めるための基本的なステップを紹介します。 ステップ1|目的の明確化 健康経営を導入する際、まずなぜ健康経営に取り組むのかを明確にすることが重要です。目的が曖昧なままでは、施策の方向性がブレやすくなり、十分な効果を得ることができません。企業ごとに取り組む目的は異なりますが、以下のような目的が考えられます。 生産性向上:従業員の健康改善によって業務パフォーマンスを向上させたい 採用・定着率向上:健康施策を充実させることで優秀な人材の確保・定着を促したい 医療費削減:予防医療を推進し、企業の医療費負担を軽減したい ブランド価値向上:健康経営優良法人の認定を取得し、企業イメージを向上させたい この目的を経営層・人事部・従業員と共有し、共通認識を持つことが重要です。目的が明確であれば、今後の施策や目標設定がスムーズに進みます。 ステップ2|現状把握 目的が決まったら、次に自社の健康経営の現状を把握し、どのような課題があるのかを特定します。具体的には、以下のようなデータを収集・分析するとよいでしょう。 健康診断の受診率:現在の受診率は何%か?受診率が低ければ、受診を促進する施策が必要 ストレスチェックの結果:どの程度の社員がストレスを抱えているか?メンタルヘルス対策が必要か? 平均労働時間や残業時間:過重労働の実態はどうか?長時間労働の削減が必要か? 欠勤率・離職率:健康課題と業務環境の関連性を把握し、職場環境の改善策を検討 従業員アンケート:職場環境や健康施策への満足度、働き方への意見を収集 この段階では、数値データや従業員の意見をもとに「現状の課題」を明確にし、どの部分に改善が必要かを特定します。 ステップ3|目標設定 現状を把握したら、それをもとに具体的な短期・中期の目標を設定します。目標はできるだけ定量的にすることで、施策の効果を評価しやすくなります。 短期目標の例(半年~1年) 健康診断の受診率を 80%以上 に引き上げる ストレスチェックで「高ストレス者」と判定された社員の割合を 5%改善 させる 社内に健康プログラム(運動・食事・メンタルケア)を試験導入する 有給取得率を 現在より10%向上 させる 中期目標の例(3年~5年) 社員の平均残業時間を 月10時間削減 する 健康経営優良法人の認定を取得する 離職率を 10%改善 し、定着率を向上させる メンタルヘルスケアの専門家を配置し、社員の相談窓口を設置する 目標を明確に定めることで、次のステップで具体的な施策を計画しやすくなります。 ステップ4|施策の実施 目標に沿って、具体的な健康経営施策を導入します。代表的な健康経営の施策は以下のようなものがあります。 健康診断の強化:受診率向上のためにインセンティブ制度を導入する メンタルヘルス対策:社内カウンセラーや産業医と連携したメンタルケアの実施 労働環境の改善:フレックスタイム制やリモートワーク制度の導入 健康プログラム:オフィス内にフィットネススペースを設置、健康的な食事を提供する 社内イベント:ウォーキングチャレンジ、社内ヨガ教室、禁煙支援プログラムなどを導入 施策を実施する際は、従業員の意見を取り入れながら進めることがポイントです。トップダウンではなく、従業員の関与を促し、参加意識を持たせることが成功のカギとなります。 ステップ5|効果測定と改善 健康経営の施策がどの程度効果を発揮しているかを定期的に測定し、必要に応じて改善を加えていくことが求められます。 アンケート調査:従業員の満足度や健康状態を確認し、施策の評価を行う データ分析:健康診断結果・欠勤率・離職率などの推移を評価し、改善が必要な点を洗い出す KPI(重要指標)の設定:例えば、「健康診断受診率90%達成」「ストレスチェックで高ストレス者を10%削減」などの数値目標を達成しているか確認 改善策の立案:目標達成度をチェックし、新たな健康施策を導入するか、既存の施策を見直す このPDCAサイクルを継続的に回すことで、健康経営の効果を最大化できます。 健康経営の具体的な取り組みについて知りたい方へ 健康経営には、企業が従業員の健康をサポートするためのさまざまな施策があります。具体的には、以下のような取り組みが代表的です。 定期健康診断・ストレスチェックの実施:従業員の健康状態を把握し、早期対応を行う。 メンタルヘルスケアの強化:社内カウンセリングや産業医との連携を進める。 労働環境の改善:フレックスタイムやリモートワークの導入、長時間労働の是正。 健康づくりを支援する施策:社内フィットネスプログラム、禁煙サポート、健康的な食事の提供など。 これらの取り組みについて、より詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。➡ 健康経営の具体的な取り組み事例はこちら 健康経営を成功させるポイント 健康経営を効果的に推進するためには、いくつかの重要なポイントがあります。単なる健康施策の導入にとどまらず、企業全体の文化として定着させることが成功の鍵となります。ここでは、健康経営を成功させるための3つのポイントについて解説します。 経営層の積極的な関与 健康経営を組織全体に浸透させるためには、経営層が積極的に関与することが不可欠です。経営者自らが健康経営の重要性を理解し、従業員に向けてメッセージを発信することで、社内の意識改革が進みます。 また、経営層が率先して健康施策に参加することで、従業員のモチベーション向上にもつながります。例えば、経営陣が定期的に健康診断を受けたり、社内の健康促進プログラムに参加したりすることで、企業全体の健康文化を醸成することができます。 社員の理解と協力 健康経営は、経営層だけでなく、従業員一人ひとりの理解と協力がなければ成功しません。そのため、健康経営の目的やメリットを社内で明確に伝え、全社員が取り組みに参加しやすい環境を作ることが重要です。 具体的には、以下のような施策が効果的です。 健康経営に関する研修やワークショップの実施 社内報やイントラネットを活用した情報発信 社員の意見を取り入れながら健康施策を設計 従業員が健康経営を「企業の取り組み」ではなく「自分ごと」として捉えられるような工夫が必要です。 継続的な改善 健康経営は、一度取り組みを始めれば完了するものではなく、定期的な効果測定と改善が求められます。施策の有効性を把握するために、健康診断の結果やストレスチェックのデータを分析し、必要に応じて新たな施策を導入することが重要です。 継続的な改善を行うためには、以下のポイントが役立ちます。 健康施策の効果を測定するKPI(指標)を設定する 従業員のフィードバックを定期的に収集する 企業の成長や社会環境の変化に応じて施策を柔軟に見直す 健康経営の取り組みが企業文化として定着し、持続可能な形で発展していくことが、最終的な成功のポイントとなります。 健康経営を導入する際の注意点 健康経営を導入する際には、いくつかの課題に直面する可能性があります。計画的に進めないと、期待した成果が得られず、企業にとって負担が大きくなることもあります。ここでは、健康経営を実践する際に注意すべきポイントを紹介します。 コストやリソースの確保 健康施策の導入には一定のコストがかかるため、長期的な視点で計画を立てることが重要です。健康診断の充実、ストレスチェックの導入、健康促進プログラムの実施など、具体的な施策を進めるには、費用だけでなく人材や時間の確保も必要になります。 コスト負担を抑えつつ効果的に健康経営を進めるためには、以下の工夫が有効です。 公的支援制度を活用: 経済産業省や地方自治体が提供する助成金や補助金を活用する。たとえば、「健康づくり促進事業補助金」などを利用すれば、健康診断の実施やストレスチェック制度の導入にかかる費用の一部を支援してもらえる。 段階的な導入: すべての施策を一度に実施するのではなく、優先度の高いものから順に導入する。 既存リソースの活用: 健康保険組合や外部の専門機関と連携し、費用を抑える。 社員の理解不足による定着の難しさ 健康経営の取り組みを成功させるには、社員の協力が不可欠です。しかし、一方的に施策を導入しても、従業員の意識が低いと定着しにくくなります。社員にとってのメリットをしっかり伝え、納得感を持って取り組めるようにすることが重要です。 効果的に社員の理解を得るためには、以下のような施策が有効です。 健康経営の目的やメリットを分かりやすく説明: 社内報や説明会を通じて、健康施策の背景を共有。 社員が主体的に参加できる仕組みを作る: 健康チャレンジ制度や社内イベントを実施し、楽しみながら健康習慣を定着させる。 フィードバックを積極的に収集する: 施策の途中経過や結果について、社員の意見を取り入れながら改善を進める。 効果が見えづらいことへの対応 健康経営の取り組みは、短期間で成果が出るものではなく、長期的な視点で評価する必要があります。そのため、「実施しているのに効果がわからない」という課題が発生しやすくなります。 効果測定を明確にするためには、以下のポイントを意識することが重要です。 KPI(重要指標)を設定する: 健康診断の受診率、ストレスチェックの結果、欠勤率などの指標を定める。 データの可視化を行う: 施策の進捗や成果をレポート化し、経営層や社員と共有する。 短期的な成果も評価する: 例えば、「健康診断受診率が前年より○%向上」など、小さな成功を積み重ねてモチベーションを維持する。 健康経営の導入は、一度の施策で終わるものではなく、継続的に改善しながら取り組むことが求められます。こうした課題に適切に対応することで、企業全体の健康意識を高め、持続可能な健康経営を実現することができます。 健康経営の認定制度を活用し、企業価値を高めよう 健康経営は、単なる福利厚生の一環ではなく、企業の持続的な成長を支える重要な経営戦略のひとつです。健康経営優良法人認定制度を活用することで、企業は社会的な評価を高め、優秀な人材の確保や取引先からの信頼向上につなげることができます。 特に、2025年から導入された「ネクストブライト1000」など、新たな認定枠が広がる中で、中小企業にとっても健康経営の導入がより現実的なものになっています。従業員の健康を守りながら、企業全体の生産性向上を目指すことで、経営の安定と競争力強化を同時に実現できるでしょう。 これから健康経営に取り組む企業は、まず現状の健康施策を見直し、認定基準に沿った取り組みを進めることが重要です。認定を受けることで得られるメリットを最大限に活かし、自社のブランド価値を高める第一歩を踏み出しましょう。

ワークライフバランスの成功事例と実現のポイントを徹底解説

働き方改革が進む中、ワークライフバランスの重要性はますます高まっています。しかし、実際にどのように取り組めばよいのか分からない方も多いのではないでしょうか。本記事では、ワークライフバランスを実現した企業の具体的な事例を厳選してご紹介します。育児支援やリモートワーク制度、副業解禁など、先進的な取り組みから自社に取り入れられるヒントを見つけてみましょう。 ワークライフバランスとは?現代に求められる理由 ワークライフバランスとは、仕事と生活の両方を調和させ、充実させる働き方や生き方です。現代社会では、仕事と私生活の調和=ワークライフバランスの重要性がかつてないほど高まっており、 労働時間だけでなく、働く環境や柔軟性、個人の価値観の多様化に対応した働き方が求められる時代です。 本章では、なぜ今このテーマが注目されているのか、そしてそのバランスが崩れると何が起こるのかをわかりやすく解説します。 なぜ今、ワークライフバランスが重視されているのか 近年、ワークライフバランスへの関心が急速に高まっている背景には、複数の社会的要因が重なっています。まず、「働き方改革関連法」の施行以降、企業には時間外労働の上限規制や年次有給休暇の取得義務などが課され、労働環境の見直しが急務となりました。特に近年では男性の育児休業取得促進も重視されており、政府は2030年までに男性の育休取得率を85%に引き上げる目標を掲げています(参照:※厚生労働省「育児・介護休業法について」より)。参考(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000130583.html) また、少子高齢化による人口構造の変化も深刻です。労働人口の減少により、企業は人材の定着・確保が最重要課題となりつつあります。加えて、親の介護や子育てと仕事を両立せざるを得ない“ダブルケア”の世代が増えており、企業にはより柔軟な勤務形態が求められるようになっています。(参照:総務省統計局「人口減少社会、高齢化」) さらに、テレワークやフレックス制などの柔軟な働き方が浸透したことで、「仕事の成果さえ出せば、場所や時間にとらわれない働き方も可能だ」という認識が広まりました。こうした社会背景の変化によって、企業も従業員も「働き方そのものを見直す」段階に入りつつあるのです。 ワークライフバランスが崩れると起こる問題とは ワークライフバランスが取れていない状態が続くと、従業員の心身に悪影響を及ぼすリスクが高まります。たとえば、長時間労働による疲弊やメンタルヘルスの悪化、家庭との両立が困難になることで離職につながるケースも少なくありません。また、集中力や生産性の低下にも直結し、企業全体のパフォーマンスにも影響を及ぼすため、組織として早急に対策を講じる必要があります。 ワークライフバランス推進の成功事例まとめ 近年、多くの企業がワークライフバランスの推進に力を入れています。本章では、実際に効果を上げている企業の事例を取り上げ、育児支援、柔軟な働き方、多様性の尊重といった観点から、それぞれの取り組み内容と成果を紹介します。これらの事例から、自社や個人で取り入れられるヒントを探してみましょう。 育児と仕事の両立を支える制度がある企業 育児中の従業員を支援する企業は、柔軟な働き方の実現に積極的に取り組んでいます。たとえば六花亭製菓では、出産や育児を理由に退職を選ぶ社員が多かったという課題がありました。これを解消するため、社内に保育施設を設置し、園内の保育士と連携しながら、子どもを預けながら働ける環境を整えました。この取り組みにより、従業員の復職率や定着率は向上し、実際に制度を利用した社員からは「保活のストレスが減った」「働きながら子どもの様子がわかって安心できた」といった声が寄せられています(参照:六花亭製菓「24年間、有給休暇取得率100%の真価」) ブリヂストンでも、女性社員のキャリア継続を支援するため、0歳児から預けられる保育所を整備し、短時間勤務制度や時差勤務制度を導入しました。こうした制度の活用が広がったことで、女性社員の育児による離職率は大きく下がり、復職率は90%を超えるまでになっています。また、管理職に登用される女性社員も年々増加しており、制度の整備だけでなく、実際に利用しやすい仕組みと職場の理解づくりが進んでいます。(参照:ブリジストン 「福利厚生」) リモートワークや柔軟な勤務制度を導入した企業 テレワークやフレックスタイム制度など、時間や場所に縛られない働き方を取り入れる企業が増えてきました。パルコでは、新型コロナウイルスの影響を受けてリモート勤務を本格導入し、その後も恒久的な制度として継続しています。通勤時間の削減や生活リズムの安定など、従業員の働きやすさが向上したことで、業務への集中力が高まったという声も多く聞かれています(参照:PALCO「多様な人材を輝かせる」)。 また、日本マイクロソフトでは「週休3日制」のパイロットプログラムを実施しました。この制度では労働時間を減らしながらも、給与は従来通りに設定されており、生産性の向上と従業員満足度の両立が図られています(参照:ZDNET Japan「週休3日制がもたらす影響--短い勤務時間で成果を出す働き方」)。実施後の社内アンケートでは、「私生活の充実が仕事の質にもつながった」「週明けに気持ちの余裕を持てるようになった」といった前向きな声が多数寄せられました。柔軟な働き方を支える制度が、企業と従業員の双方に良い影響をもたらしていることがうかがえます。 多様性や社員の価値観を尊重した企業文化の実現 制度だけでなく、企業文化として多様性を尊重する姿勢を明確にしている企業は、社内外から高く評価されています。ワコールでは、社員のライフスタイルや価値観に合わせた柔軟な働き方を支えるため、「自己選択型勤務制度」や「短時間正社員制度」を導入しました。これらは、結婚・出産・介護・自己啓発など、ライフステージに応じた多様な働き方を社員自らが選択できる仕組みです。さらに、社内ではキャリア支援やスキルアップの機会も多く設けられ、社員一人ひとりが「自分らしい働き方」を主体的に築ける土壌が整えられています。利用者からは「会社から理解されていると実感できる」「ライフイベントがあっても働き続けられる安心感がある」といった声が多数寄せられています(参照:ワコール「DE&Iの推進」)。 アイアール株式会社では、社員の声を定期的に集め、制度や運用ルールを改善する「ボトムアップ型マネジメント」を継続的に実施しています。特に注目すべきは、制度導入後の「活用率」に着目している点です。制度の利用率や満足度は導入以前と比べて大幅に向上し、実際に運用されて「使われる制度」へと成長しています(参照:Nihon IR「技術セミナー」)。同社では制度の内容や使い方について、社内ポータルや説明会などで積極的な情報発信を行っており、新入社員からベテラン社員までが同じ水準で制度を理解・利用できる体制が整っています。こうした文化づくりの結果、エンゲージメントスコアの上昇や離職率の低下といった成果も確認されています。 社員の健康と働きやすさを支える取り組み ワークライフバランスを整えるうえで、勤務時間や制度の柔軟性だけでなく、社員の健康や心のゆとりにも目を向けることが重要です。心身ともに健やかであることが、日々のパフォーマンスや長期的な働き続けやすさに直結するため、多くの企業が独自の工夫を取り入れています。 たとえば味の素株式会社では、社員の健康状態を日常的に把握できるアプリを導入し、体調や睡眠、ストレスの状況などをセルフチェックできる仕組みを整えています。加えて、社内には産業医や保健師が常駐し、健康面・精神面での早期フォローが可能な体制を整備。部署ごとに体を動かす機会を設けたり、社食での栄養バランスをサポートしたりするなど、日常的な工夫も行われています(参照:味の素「無理なく続けられるアプリで健康な生活を! 生活改善サポートアプリ「aminoステップ」とは?」)。 また、リクルートホールディングスでは、年に2回、全社員を対象とした「ライフキャリア面談」を実施。日々の業務だけでなく、将来の働き方や生き方について上司と対話する時間を設けることで、自分らしいキャリア形成を考えるきっかけをつくっています。この面談により、「自分の考えや希望を上司と共有しやすくなった」との声も多く、職場の信頼関係づくりにもつながっています。(参照:リクルート「働きやすさ」) さらに、第一生命ホールディングスでは、社内に専門部署を設けて、心身のケアや生活とのバランスについての社内相談・支援制度を拡充。悩みが起こったときにすぐに頼れる仕組みを整えることで、安心して働き続けられる環境づくりを支えています。社内副業制度など、柔軟な働き方の選択肢を増やす動きもあり、社員の自律的な働き方を後押ししています(参照:第一生命「ワーク・ライフ・マネジメント」)。 こうした取り組みは、社員が心身の負担を抱えにくい環境をつくるだけでなく、組織全体としての安定性や生産性向上にもつながっています。単なる制度整備にとどまらず、「人」を軸に考えた企業の姿勢が、長く働き続けたい職場としての魅力にもつながっています。 ワークライフバランスを実現するための個人的な方法 企業の取り組みも大切ですが、個人レベルでもワークライフバランスを整えるための工夫は可能です。本章では、日々の生活や仕事の中で実践できる方法を紹介します。時間の使い方や意識の持ち方を少し変えるだけで、心身の健康や生産性に大きな変化が生まれるかもしれません。今日からできる具体的なアクションに注目してみましょう。 時間管理術を身につける 時間に追われる状態を避け、自分のペースで仕事を進めるには、「可視化」と「優先順位づけ」を意識することが大切です。タスクをToDoリストにまとめたり、ポモドーロ・テクニック(25分集中+5分休憩)を活用したりすることで、集中力を維持しやすくなります。 また、週のはじめに1週間分のスケジュールを見直し、予備時間をあらかじめ確保しておくと、予期せぬトラブルへの対応にも余裕が生まれます。こうした時間管理の工夫を日常的に取り入れることで、仕事とプライベートの切り替えがしやすくなり、結果として心身の負担軽減やパフォーマンスの向上にもつながります。 オン・オフの切り替えを意識する ワークライフバランスを乱す原因の一つが、仕事と私生活の境界が曖昧になることです。特にリモートワークでは「常に働いている感覚」になりやすいです。業務終了時には意識的にパソコンを閉じたり、散歩・読書などのリラックスタイムを確保したりすることで、脳と身体を「オフ」に切り替える習慣を持つことが大切です。 こうした切り替えができるようになると、疲労感やストレスが蓄積しにくくなり、私生活もより充実します。オンとオフのメリハリを意識することは、健やかな働き方と生活を両立するための重要なステップです。 自分にとっての「バランス」を明確にする ワークライフバランスの形は人それぞれ異なります。大切なのは、「自分にとっての理想の生活はどんな状態か?」を明確にすること。仕事・家族・趣味・健康など、優先すべき項目を見直し、今の生活とのギャップを把握することで、無理なく実現に向けた行動が取りやすくなります。定期的なセルフチェックもおすすめです。 まとめ|事例と実践から学ぶ、理想のワークライフバランスとは ワークライフバランスの実現は、企業の制度だけでなく、個人の意識や行動にも大きく関わっています。今回紹介した企業の事例からは、多様な働き方を支える柔軟な制度と、それを活かす企業文化の重要性が見えてきました。また、個人レベルでも時間管理やオン・オフの切り替えといった工夫により、心身の健康と生産性を両立させることが可能です。 大切なのは「自分に合ったバランス」を知り、それを支える環境を選び、整えていくこと。今後も多様な働き方が広がる中で、自分らしい生き方・働き方を見つけていくために、まずは身近なところから一歩を踏み出してみましょう。

働きがい改革とは?組織課題の解決に効く導入メリットと成功の秘訣

「この会社で働き続けたい」と社員に思ってもらえる職場づくりは、今や人事だけの課題ではなく、経営そのもののテーマです。少子高齢化や働き方の多様化が進む中で、従業員の“働きやすさ”だけではなく、“働きがい”が企業の成長を左右する時代になりました。しかし、働きがいとは何か、どうやって高めるのか──その答えは一つではありません。本記事では、働きがい改革の本質から具体的な施策、企業の成功事例、そして実践ステップまでを網羅的に解説します。あなたの組織にもきっと活かせるヒントが見つかるはずです。 働きがい改革とは?注目される背景と定義 働きがい改革とは、従業員一人ひとりが仕事に価値や意義を感じながら、成長と成果を実感できる環境を整えるための企業改革です。 近年、企業経営において「働きがい」の重要性が高まりを見せています。かつては「働きやすさ」や「生産性」が重視されてきましたが、現在ではそれだけでなく、従業員が自分の仕事に誇りを持ち、内発的なモチベーションを高められる「働きがい」こそが、組織の持続的成長や競争優位の源泉とされています。 この考え方は、従来の評価制度や福利厚生だけでは対応しきれない課題に直面する中で、企業の在り方そのものを見直す動きへとつながっています。つまり、働きがい改革は人事部門にとどまらず、経営戦略の一環として組織全体で取り組むべきテーマといえるのです。 こちらの記事もチェック: https://mag.viestyle.co.jp/rewarding-workplace/ なぜ今「働きがい」が注目されているのか? この流れの背景には、少子高齢化による人材不足、ミレニアル世代・Z世代を中心とした価値観の多様化、そしてコロナ禍による働き方の急速な変化があります。働く理由や優先順位が「給与」や「安定」だけでなく、「やりがい」や「自己実現」へと変化している中、企業側もその変化に応える形で、人を惹きつけ、つなぎとめるための新たなアプローチが求められているのです。 働きがい改革の定義と基本的な考え方 働きがい改革の根底にあるのは、仕事を通じて人が活き活きと力を発揮し、自律的に成長できる場をいかに提供できるか、という視点です。そのためには、企業のビジョンや理念の浸透、挑戦を後押しするカルチャーの醸成、公平な評価と承認の仕組み、キャリア支援の仕組みなど、多面的な取り組みが必要です。 「人が活きる環境」こそが、企業の未来を左右する時代。働きがい改革は、個の充実と組織の成果を両立させる、新しい働き方の起点となるでしょう。 働き方改革と働きがい改革の違い 「働き方改革」は主に、労働時間の短縮や柔軟な勤務制度の導入など、働く“環境や制度”を整えることにフォーカスした取り組みです。一方で「働きがい改革」は、働く“意義や価値”に焦点を当て、仕事そのものの魅力や内発的なモチベーションを引き出すことを目的としています。 つまり、働き方改革が「外的要因の整備」だとすれば、働きがい改革は「内的要因の充実」ともいえます。両者は対立するものではなく、むしろ相補的な関係にあります。 働きやすい環境の上に、働きがいのある仕事があってこそ、人は本来の力を発揮できるのです。企業が持続的な成長を目指すうえでは、この2つをバランスよく推進していくことが重要です。 働きがい改革が必要な理由と導入メリット 働きがい改革が注目される背景には、社会的・経済的な構造変化と、企業を取り巻く環境の激変があります。これまでの“働きやすさ”や制度的な支援だけでは人が定着せず、パフォーマンスの持続が難しくなっているのが現状です。 だからこそ今、単なる職場環境の整備ではなく、「なぜこの仕事をするのか」「自分の成長と会社の未来がどうつながっているのか」という“意味づけ”を提供できる組織づくりが、企業経営において不可欠になってきています。 少子高齢化・人材不足という背景 国内の労働市場はすでに縮小フェーズに突入しており、生産年齢人口(15~64歳)は1995年のピークを境に減少を続け、2023年時点で約7,400万人まで減少しました。さらに2040年には6,000万人を下回るとの推計もあり、労働力不足は長期的な構造問題となっています。 このような状況では、業種や地域を問わず「人材の取り合い」が激化し、採用難・定着難が深刻化。中途採用市場では1人の人材に対して複数社がオファーを出すケースも珍しくありません。採用単価の上昇、ミスマッチの増加といった課題が表面化する中で、もはや単なる求人広告ではなく、「ここで働きたい」と思われる職場そのものをつくることが、採用戦略以上に重要な“経営課題”となっているのです。 参照:総務省:「生産年齢人口の減少」 モチベーションと定着率を根本から高める 働きがいを感じる職場では、社員が自発的に動き、責任を持って仕事に取り組む姿勢が醸成されます。これにより、単なる業務遂行ではなく、「自分ごと化」された行動が増え、成果にもつながりやすくなります。 また、意欲を持って働ける環境があることで、職場への愛着や信頼感も育まれ、長期的な定着率の向上にも寄与します。とくにエンゲージメントの高い社員は、離職だけでなく“燃え尽き”も防げる点が見逃せません。 企業価値・生産性の向上につながる 働きがい改革は、社員個人の満足度を高めるだけではなく、組織全体の生産性や創造性を押し上げる効果もあります。自律的に動く人材が増えれば、マネジメントの負担も軽減され、スピーディーな意思決定や業務遂行が可能になります。 さらに、「働きがいのある会社」という評価は、採用市場だけでなく、取引先や顧客、投資家などからの信頼にもつながります。これは、無形資産としての企業ブランドを形成するうえで、大きな意味を持ちます。 働きがいを高める5つの要素 働きがいのある職場を実現するには、従業員の内面に働きかける5つの要素――信用、公正、連帯感、尊重、誇り――を職場環境に根付かせることが重要です。ここでは、それぞれの要素が何を意味し、どのような職場の取り組みや状態が対応しているのかを解説します。 1. 信用(Trust)|安心して意見を言える、信頼に満ちた関係性 働きがいを高めるうえで欠かせないのが、「この職場では自分の意見をきちんと受け止めてもらえる」「失敗しても学びとして受け入れられる」と感じられる、信頼に満ちた環境です。 上司や同僚との信頼関係が築かれていることで、従業員は安心して自分らしく働き、本来の力を発揮できます。心理的安全性のある職場風土や、上司からの継続的なサポートとフィードバックは、信頼を生む重要な要素です。 2. 公正(Fairness)|努力が正当に評価され、納得感のある報酬がある 人は、自分の努力や成果が正当に評価されていると感じたときに、大きな満足感とやりがいを得られます。逆に、不透明な評価制度や不公平な扱いがあると、モチベーションは一気に下がってしまいます。 明確な評価基準、オープンな査定プロセス、そして成果に見合った報酬体系は、公正な職場づくりに欠かせません。金銭的な報酬だけでなく、感謝の言葉やキャリア機会の提供も、「認められている」という実感をもたらします。 3. 連帯感(Camaraderie)|仲間と支え合い、つながりを感じられる職場 「一人じゃない」と思えることが、日々の仕事に安心感と力を与えてくれます。職場の仲間と助け合い、互いの努力や存在を認め合える関係性があることで、従業員は自然とポジティブな姿勢で働くことができるのです。 「ありがとう」「助かったよ」といった日常の声かけや、成果を称えるカルチャーが、連帯感を育てます。こうしたつながりが、働きがいの土台となり、離職の防止にもつながります。 4. 尊重(Respect)|多様な働き方や価値観が受け入れられている 働く人々のライフスタイルや価値観が多様化するなか、それぞれの事情や考え方を尊重する姿勢はますます重要になっています。リモートワークやフレックスタイム制度、育児・介護との両立、副業の容認など、柔軟な働き方を選べることは、働きやすさと働きがいの両立に直結します。 さらに、キャリアの希望を伝えられる仕組みや、自律的な成長を支える風土も、個人の尊重を体現する取り組みです。 5. 誇り(Pride)|自分の仕事や会社に価値を感じられる 自分の仕事が誰かの役に立っていると実感できること、企業の理念に共感し、その一員であることに誇りを持てることは、働きがいの根幹です。企業のビジョンやミッションを現場の仕事と結びつけて伝えることで、従業員は自分の役割の意味を理解しやすくなります。 また、顧客や社会への貢献が見える化されていること、日々の業務に成長や挑戦の機会があることも、「ここで働いていてよかった」と思える原動力となります。 実際に企業が取り組んでいる働きがい改革の事例 働きがい改革は、抽象的な理想論ではなく、すでに多くの企業が実践している“現場主導の経営戦略”です。規模や業種を問わず、社員のモチベーション向上やエンゲージメント強化を目的に、具体的な制度や文化づくりを推進している企業が増えています。 ここでは、実際に働きがい改革に積極的に取り組む3社の事例を紹介し、それぞれの施策の特徴と成果を紐解いていきます。 【事例1】キリンホールディングス:パーパスを起点にしたキャリア支援と対話文化の推進 キリンホールディングスは、「自然と人を見つめる」パーパスを中核に据え、パーパス経営を推進しています。 社員一人ひとりが自らのキャリアの主体者となる「キャリアオーナーシップ」を掲げ、上司との定期的な1on1など、対話を重視した仕組みを整備。評価や業績と切り離した対話の場を設けることで、心理的安全性を高め、キャリア形成を支援する文化を醸成しています。 こうした取り組みは、社員のエンゲージメント向上や自律的な行動の促進につながっています。 参照:キリンホールディングス「KIRINの「『働きがい』改革」を知る」 【事例2】Unipos:承認の見える化で組織文化を変えるピアボーナス制度 Uniposは、社員同士が「感謝」や「称賛」の気持ちを送り合う「ピアボーナス制度」を開発・導入している企業です。 ポイント付きメッセージを通じて、金銭的報酬よりも“仲間からの承認”を日常的に可視化・共有する仕組みを提供。送受信されたメッセージは全社に公開され、承認の行動が組織全体に広がることで、信頼関係や心理的安全性が高まり、ポジティブな組織文化の醸成につながっています。 参照:Unipos「ピアボーナスとは?失敗事例とデメリット、システムを成功させるコツも紹介」 【事例3】Chatwork:自由な働き方を支えるフルリモートと柔軟な制度 ビジネスチャットを提供するChatworkでは、「時間や場所に縛られない働き方」の実現に向けた取り組みを強化しています。フルリモート勤務の選択や、フレックスタイム制度、副業の解禁など、個人のライフスタイルに合わせた柔軟な働き方を後押ししています。 こうした取り組みにより、従業員が自分らしく働ける環境が整い、生産性の向上と同時に離職率の低下も実現しています。参照:Chatwork「多様な働き方とは?多様な働き方の種類とメリットを解説」 働きがい改革の進め方と成功の秘訣 働きがい改革は一朝一夕で成果が出るものではなく、組織の文化や価値観に深く関わる中長期の取り組みです。しかし、正しいステップを踏み、社員と一緒に進めていけば、確実に効果が現れる変革でもあります。 ここでは、実際に多くの企業が採用している「働きがい改革の進め方」を4つのステップに分けて紹介し、よくある失敗を防ぐためのポイントについても触れていきます。 ステップ1:現状把握と課題抽出 まずは、今の自社の「働きがいレベル」がどのような状態にあるのかを把握することが出発点です。サーベイやインタビューを通じて、社員の声を定量・定性の両面から収集し、現場のリアルな声を可視化します。この段階では、“問題を探す”のではなく、“伸びしろを見つける”視点を持つことが重要です。 ステップ2:働きがい要素の見える化 次に、自社にとって重要な「働きがいの構成要素」が何であるかを整理します。たとえば、成長機会、心理的安全性、貢献実感など、前述の7つの要素をベースに、自社独自の価値観と照らし合わせて定義します。これにより、抽象的な「働きがい」を、社員にも伝わる言葉で具体化できます。 ステップ3:施策の設計と小さく始める実践 課題と要素が明確になったら、改善に向けた施策を立案します。いきなり全社展開するのではなく、まずは一部の部署やチームで小さく試す「スモールスタート」が効果的です。たとえば1on1の導入、ピアボーナス制度、フィードバックの強化など、取り組みやすいテーマから始めて成果を積み重ねることで、現場の納得感と再現性が生まれます。 ステップ4:継続のためのフィードバックと改善サイクル 施策は“やって終わり”ではなく、社員からのフィードバックを受け取り、定期的に改善を重ねることが重要です。月次・四半期ごとのアンケートや対話の場を設け、現場でどのような変化が起きているかを確認しましょう。このサイクルを回すことで、働きがい改革が文化として根づいていきます。 失敗しないための注意点と対策 働きがい改革でよく見られる失敗例は以下の通りです。 失敗しないための注意点と対策 働きがい改革でよく見られる失敗例は以下の通りです。 トップダウンすぎる進め方 経営層の意図だけで進められると、現場の当事者意識が生まれず、形だけの改革になってしまいます。社員の声を反映させ、現場との対話を軸にすることが成功のカギです。 施策の形骸化 一度導入した制度が、運用されずに放置されるケースも少なくありません。目的を明確にし、定期的に活用状況を見直すことで、制度の“息切れ”を防ぎましょう。 社員の声が活かされない 意見を集めても反映されなければ、信頼関係を損ねてしまいます。たとえ全ての声に応えられなくても、「聞いている」「改善している」という姿勢を見せることが重要です。 働きがい改革は経営課題の核心 働きがい改革は、単なる人事施策や一時的な取り組みではなく、組織の持続的な成長と競争力を支える「経営の核心」といえるテーマです。少子高齢化、価値観の多様化、働き方の変化――これらの外的変化に対応するためにも、企業は“人を活かす経営”への転換を求められています。 働きがいを高めるということは、社員一人ひとりが自分らしく力を発揮できる土壌をつくること。そして、その結果として得られるのが、高いエンゲージメント、生産性の向上、定着率の改善、さらには企業ブランドの強化です。 改革には時間も対話も必要ですが、小さな一歩からでも確実に前進できます。現場と向き合い、社員の声に耳を傾けながら、組織全体で「働きがいのある職場」を育てていく。その姿勢こそが、これからの時代を生き抜く企業に必要な“経営力”なのです。 今こそ、「働きがい」という視点を経営の中心に据えるとき。目の前の仕事が、組織の未来を変える一歩になるかもしれません。

「働きやすさ」と「働きがい」の違いとは?職場改善で離職率を下げるポイント

「働きがいを感じられない…」「毎日の仕事がただの作業になっている…」そんな悩みを抱えていませんか?働きがいは、単なる給与や待遇の問題ではなく、仕事に意義を見出し、充実感を得られるかどうかが重要です。しかし、忙しい日々の中で「どうすれば働きがいを高められるのか?」と悩む人も多いでしょう。 本記事では、企業と個人ができる働きがい向上の具体策を解説します。さらに、ニューロミュージックという神経科学に基づいた音楽を活用し、職場環境を整える新たな方法にも注目。日々の仕事に意欲を持ち、より充実した働き方を実現するためのヒントを探っていきましょう。 働きがいとは何か?その重要性について 働きがいとは、仕事に対する満足感ややりがいを超えた概念であり、働くことそのものに価値や意味を見出せる状態を指します。単に給与や待遇が良いから働きがいを感じるのではなく、自身の成長、社会への貢献、職場での充実感といった要素が複雑に絡み合いながら形成されます。 近年、働き方改革やウェルビーイングの重要性が叫ばれる中で、働きがいのある職場づくりが経営戦略の一環として注目されています。企業にとっては、生産性の向上や離職率の低下、従業員のエンゲージメント向上などのメリットがあり、個人にとっては、日々の仕事が充実し、人生全体の幸福度を高める要因となります。では、具体的に働きがいとはどのように定義され、どのような要素から構成されるのでしょうか? こちらの記事もチェック: https://mag.viestyle.co.jp/wellbeing-business/ 働きがいの定義と構成要素 働きがいは、単なる「仕事の楽しさ」や「満足度」ではなく、仕事を通じて自己実現を感じることができるかどうかが重要です。この概念を明確にするために、以下のような構成要素が挙げられます。 1. 目的意識(ミッション・ビジョン) 自分の関わる仕事が、どのような価値を生み出しているのかを理解し、その意義に共感できることが重要です。自分の仕事が社会や組織にどのように貢献しているかが明確であれば、仕事の意欲が高まります。 2. 自己成長の実感 新しいスキルを身につけたり、課題を乗り越えたりすることで成長を実感できる環境は、働きがいの源泉となります。企業側も社員のスキルアップやキャリア開発を支援することで、働きがいを高めることができます。 3. 良好な人間関係と職場環境 同僚や上司との信頼関係が築かれ、オープンなコミュニケーションが取れる環境は、心理的安全性を高め、働きやすさにつながります。チームワークの良い職場では、モチベーションも維持しやすくなります。 4. 適切な評価と報酬 努力や成果が正当に評価され、それが報酬や昇進につながる仕組みが整っていると、社員のモチベーションが維持されやすくなります。単に給与が高いことよりも、努力が報われるという実感が重要です。 5. ワークライフバランスの確保 過重労働や長時間労働が常態化すると、どれだけやりがいのある仕事でも持続するのが難しくなります。適度な休息やプライベートの充実も、働きがいの一部として考えられるべきです。 仕事の満足度との違いとは? 働きがいと似た概念に「仕事の満足度」がありますが、この二つは明確に異なります。仕事の満足度とは、現在の職場環境や給与、待遇などに対する満足感を指します。一方で働きがいは、「この仕事を通じて自分が成長できるか」「社会に貢献できているか」「やりがいを感じるか」といった、より内面的で本質的な要素が含まれます。 例えば、給与や福利厚生が充実している職場では、仕事の満足度は高いかもしれません。しかし、それだけでは「働きがいがある」とは言えません。自分の仕事に意味を感じ、成長の機会があり、仲間と協力して働くことで初めて、真の働きがいが生まれます。 働きがいを高める3つの重要ポイント 企業が従業員の働きがいを高めることは、生産性の向上や人材の定着につながる重要な課題です。働きがいを感じるには、仕事内容や裁量権、人間関係、報酬や福利厚生といった要素が適切に整っていることが必要です。本記事では、企業が働きがいのある職場を作るために特に重要な3つのポイントを解説します。 やりがいのある仕事と裁量権の関係 働きがいのある職場には、やりがいのある仕事が不可欠です。やりがいとは、単に好きなことをするのではなく、自分の仕事が社会や組織に貢献していると実感できることが重要です。そのためには、従業員に一定の裁量権を与え、自らの判断で業務を進められる環境を整えることが必要です。 ただし、過度な裁量はストレスの原因となるため、上司のサポートやフィードバックの仕組みを整えることで、適度なバランスを保つことが求められます。 職場の人間関係とエンゲージメント 職場の人間関係は、働きがいに大きく影響します。特に「心理的安全性」が高い環境では、従業員が安心して意見を言え、挑戦しやすくなります。上司との1on1ミーティングや、チーム内でのオープンなコミュニケーションの場を設けることで、従業員のエンゲージメントを向上させることが可能です。 また、社内イベントやチームビルディングを通じて信頼関係を築くことも、働きがいの向上に効果的です。人間関係が良好な職場では、従業員は仕事に対する前向きな姿勢を維持しやすくなります。 報酬や福利厚生が果たす役割 適切な報酬と福利厚生は、従業員の働きがいを支える基盤となります。給与だけでなく、透明性のある評価制度や成果に応じたインセンティブを整えることで、公平感を持たせることが大切です。 また、健康管理支援や育児・介護サポート、フレックスタイム制など、従業員のライフスタイルに配慮した福利厚生を充実させることも重要です。近年ではリモートワークの導入も進み、柔軟な働き方を選べる環境が、働きがいの向上に寄与しています。 個人ができる「働きがいを感じる」ための行動指針 働きがいを感じるためには、職場の環境や制度だけでなく、個人の意識や行動も大きな影響を与えます。どのような状況でも、自分の働き方や考え方次第で、仕事の楽しさや充実感を高めることができます。ここでは、個人が働きがいを感じるためにできる具体的な行動指針を紹介します。 自分の強みを活かせる仕事を見つける 働きがいを感じるためには、自分の強みや得意分野を活かせる仕事を選ぶことが重要です。自分が何を得意とし、どんな仕事にやりがいを感じるのかを知ることで、より適した環境で活躍できます。 自己分析を行い、過去の成功体験や周囲からの評価を振り返ることで、自分の強みを明確にするのが効果的です。また、現在の仕事の中でも、自分の得意分野を活かせる場面を探し、積極的に取り組むことで、働きがいを向上させることができます。 目標設定とモチベーション維持のコツ 明確な目標を持つことで、仕事に対する意欲が高まり、働きがいを感じやすくなります。長期的なキャリアビジョンを描きながら、小さな目標を設定し、一つずつ達成していくことが大切です。目標が達成できたときの達成感は、仕事へのモチベーションを維持する強い要素になります。 また、成長を実感するために、定期的に振り返りを行い、進捗を確認することも重要です。仕事が単調にならないように、新しいスキルを学んだり、チャレンジする機会を増やすことで、常に前向きな気持ちを持ち続けることができます。 ワークライフバランスと働きがいの関係 仕事の充実感を高めるためには、プライベートとのバランスを取ることも重要です。長時間労働やストレスが蓄積すると、働きがいを感じにくくなり、逆に仕事への意欲が低下してしまいます。適度な休息を取り、趣味や家族との時間を大切にすることで、リフレッシュし、仕事にも前向きに取り組めるようになります。 また、働き方の選択肢を広げるために、柔軟な働き方(リモートワークやフレックスタイム制)を活用するのも一つの方法です。仕事とプライベートのバランスを整えることで、長く働き続けられる環境を作ることができます。 企業ができる「働きがい向上施策」【ニューロミュージックの活用】 働きがいの向上は、企業の生産性向上や従業員満足度の向上に直結する重要なテーマです。その中でも、新たなアプローチとして注目されているのが、脳科学に基づいた音楽「ニューロミュージック」です。ニューロミュージックは、集中力やリラックス状態を引き出し、働く人々の心身のコンディションを整える手段として導入され始めています。 企業がこれを職場環境に取り入れることで、従業員の働きがいを高めることが期待されます。 ニューロミュージックとは?働きがい向上につながる理由 ニューロミュージックとは、脳のリズムに影響を与える特殊な音を用いて作られた音楽です。特に、「ととのう」状態に関連すると言われるシータ波や、認知機能に関係があるされるガンマ波を増強する音が組み込まれているのが特徴です。 これにより、リラックスと集中が同時に得られる環境が整い、ストレスの軽減や業務への没入感が高まります。従業員は心地よい精神状態で仕事に取り組むことができ、結果として「仕事にやりがいを感じる」機会が増えるのです。また、日々のパフォーマンス向上やチーム間の協調性にも好影響を与えるため、職場全体のエンゲージメント向上にもつながります。 ニューロミュージックの導入で職場環境を改善する方法 ニューロミュージックを職場に導入するには、使用する場面や環境に応じた適切な運用が重要です。例えば、集中力を高めるガンマ波を増強する音楽は業務時間中に流し、リラックスを促すシータ波を強化する音楽は休憩時間やリフレッシュスペースで流すといった使い分けが有効です。 加えて、以下のような導入方法も効果的です。 個人用の聴取ツールを配布:イヤホンや専用アプリを活用し、各自のペースでニューロミュージックを利用できる環境を整える。 特定エリアでのBGM活用:集中スペースやミーティングルームなどに、目的に合った音楽を流すことで、空間の目的に合った心理状態を促す。 時間帯による切り替え:午前中は集中系、午後の眠気が出る時間には覚醒系、夕方にはリラックス系の音楽を流すなど、1日の流れに合わせた運用が可能。 効果測定の仕組みを導入:従業員のアンケートや業務効率の変化を定期的に確認し、音楽の種類や流すタイミングを調整する。 これらを継続的に実践することで、働きやすさの向上、ストレスの軽減、そして働きがいのある職場づくりへとつながっていきます。 ニューロミュージック導入のメリットと働きがい向上の関係 ニューロミュージックの導入には、職場環境の改善という観点から、以下のようなメリットが期待できます。 リラックスしやすい環境づくり休憩時間やリフレッシュスペースでニューロミュージックを活用することで、従業員がリラックスできる環境を整えることが可能です。 集中しやすい環境の提供業務スペースで適切に使用することで、作業に没頭しやすい雰囲気が生まれる可能性があります。 職場の雰囲気向上音楽を活用することで、職場の雰囲気が和らぎ、より快適な労働環境を形成する一助となることが期待されます。 ニューロミュージック導入に関するお問い合わせはこちら: info@vie.style まとめ|働きがいを高めるためにできること 働きがいを高めることは、企業と個人の双方にとって重要な課題です。企業は職場環境の整備や従業員のエンゲージメント向上に取り組むことで、より働きやすい環境を提供できます。一方、個人としても、自分の強みを活かし、目標を持ちながら働くことで、日々の仕事に意義を見出すことができます。 特に、ニューロミュージックのような新しい手法を取り入れることで、集中力を高めたり、リラックスできる環境を整えたりすることが可能になります。職場に適した音楽を活用し、ストレスの軽減や快適な労働環境を作ることで、働きがいの向上につながる可能性があります。 働きがいを高めるためには、企業と従業員が協力し、環境づくりや意識改革を進めることが重要です。日々の業務の中で小さな工夫を積み重ね、より充実した働き方を目指していきましょう。

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