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コラム

「朝、起きられない」は脳のSOS?──現代人の睡眠とメンタルヘルスを見直す

「アラームを何度止めても起きられない」「ベッドから出るのが億劫」──そんな朝のつらさ、誰しも一度は経験があるのではないでしょうか。けれど、それが毎日続いているなら、単なる「夜型生活」や「気合い不足」では済まないかもしれません。 実は、朝起きられない背景には脳の疲労や睡眠の質の低下、そしてメンタルヘルスの不調が関係していることが近年の研究で明らかになってきました。睡眠不足や慢性的なストレスが、脳内の前頭前皮質(意思決定ややる気を司る領域)の活動を低下させ、朝の起き上がるという行動自体を困難にする可能性があるのです。 なぜ「眠ったはずなのに疲れが取れない」のか 睡眠の質を決めるのは、単なる睡眠時間ではありません。2012年に重要な発見が報告されて以来、その機能が注目されている、脳内の老廃物を排出する「グリンパティック系」と呼ばれる脳の掃除機構は、深いノンレム睡眠の間に活性化することが知られています。 たとえば、2024年に発表された研究では、このグリンパティック系の機能がノルエピネフリンという神経伝達物質によって調整されることが新たに確認されました1。この作用がうまく働かないと、起きた瞬間から脳がどんよりしたままになってしまいます。 また、現代人は就寝直前までスマホを見たり、SNSで刺激を受けたりすることで、交感神経が優位なまま眠りに入ってしまうことも多くあります。その結果、浅い眠りになり、睡眠の回復力が損なわれるのです。 睡眠と脳波について、さらに詳しく知りたい方は以下の記事も参考にしてください。 https://mag.viestyle.co.jp/sleep-through-brainwaves/ 脳が「目覚める」ための3つのアクション では、どうすれば「起きられる朝」を取り戻せるのでしょうか? 脳科学と心理学の観点から、すぐに実践できる3つのアクションをご紹介します。 1. 朝日を浴びる 目覚めたらまずカーテンを開け、朝日を浴びましょう。光が目に入ることで、体内時計をつかさどる「視交叉上核」が刺激され、睡眠ホルモンであるメラトニンの分泌が抑制されるとともに、覚醒に関わる神経系の活動が高まります2。これが自然な目覚めのスイッチになるのです。 2. 起きた直後に軽いストレッチを 寝たまま深呼吸→ゆっくり手足を伸ばす→起き上がって肩回し、といった簡単な動作だけでも、血行を促進し、脳に「活動モードだよ」と伝える効果があります。運動は、気分を高める様々な神経伝達物質(ドーパミンやエンドルフィンなど)の活動に良い影響を与えることが知られており、これが朝の心地よさにもつながります3。 3. やさしい朝習慣を取り入れる たとえば、好きな音楽を流す、温かい飲み物を飲む、アロマを焚くなど、「自分にとって心地よい刺激」を朝に取り入れることで、脳が「今日も頑張ろう」と前向きになれる土台ができます。こうした小さな工夫が、朝の気分を大きく左右します。 「朝起きられない」は、ライフバランスを見直すチャンス 朝起きられない日々が続くのは、生活リズムや働き方そのものが、自分の脳や身体に合っていないサインかもしれません。最近では、「睡眠の質を高めることで心身のバランスを整える」というスリープウェルネスの考え方が広がりつつあります。たとえば、自分の体内時計(クロノタイプ)に合わせた生活リズムの見直しや、働き方の柔軟化がその一例です。 欧州の一部企業では、フレックスタイム制度の活用により、社員が自身の生活リズムに合わせて始業時間を選べるようにしたり、「シエスタ(昼寝)制度」を導入したりするなど、社員の自然なリズムを尊重する動きが出てきています。 日本でも、「睡眠改善を通じて生産性を上げる」ことを目的とした健康経営の取り組みが、徐々に広がりつつあります。自分の脳と身体の声をきちんと聞くこと、それが結果としてパフォーマンス向上にもつながるのです。 おわりに──無理して起きるより、「整えて起きる」を 朝、起きられないとき、「自分はダメだ」と思わずに「もしかしたら脳が休息を必要としているのかも」と一歩立ち止まることも大切です。 脳科学とウェルビーイングの視点から見れば、朝のコンディションは気合いではなく、整える工夫で変えられます。今日の朝がうまくいかなかったとしても、明日の朝を少しだけ気持ちよく迎えるためのヒントは、たくさんあります。 朝の過ごし方を見直すことは、メンタルヘルスとライフバランスを整える第一歩です。少しずつ、自分に合った「整える朝」を探してみてはいかがでしょうか?

「仕事に行きたくない」朝の正体──脳内物質とやる気の関係

朝起きたとき、「仕事に行きたくない…」と思い悶々としてしまう経験は、誰しも一度はあるのではないでしょうか。特に月曜日の朝や長期休暇明けなど、布団の中で行きたくないな…と出かけるのをためらってしまうこと、ありますよね。 この「行きたくない」という気持ちは、決して怠けや甘えではなく、脳や心のメカニズムに根ざした自然な反応です。今回は、科学的な知見に基づいて、なぜ「仕事や学校に行きたくない」と感じるのか、その気持ちとどう向き合い改善していけるのかを考えてみましょう。 日々のメンタルヘルスやライフバランスを前向きに捉え、ウェルビーイング(幸福な心身の状態)につなげるヒントをお届けします。 「会社に行きたくない」気持ちが生まれる脳・心理のメカニズム 「朝、どうしても職場や学校に行く気が起きない…」そんな状態になる背景には、人間の脳の基本的な働きがあります。人間の脳は本来、快を求め不快を避ける傾向があります。職場でのストレスや嫌な出来事を予期すると、脳はそれを「不快・危険」と判断し、本能的に避けようとするのです。 これは、ストレスを感じたときに体が「危険だ」と判断して、その場から逃れようとする自然な反応とも関係しています。ストレス時にはコルチゾールというホルモンが分泌され、自律神経の働きも変化することで、「行きたくない」「避けたい」という気持ちが強くなるのです1。 また一方で、疲労や脳のエネルギー不足も大きな要因です。「仕事に行きたくない」と感じるとき、脳はしばしばオーバーヒート気味で「脳疲労」を起こしています。現代人は慢性的な睡眠不足や情報過多で脳が疲れていることが多く、脳内のエネルギー源や意欲を司る物質が不足しがちです。その結果、「やる気スイッチ」が押せない状態になってしまうのです。 このように、脳はしばしばストレスから身を守る防衛本能や、脳内物質の不足によって「行きたくない」というブレーキをかけます。決して意志が弱いせいではなく、誰にでも起こりうる脳の反応だと知っておきましょう。「行きたくない」と感じる自分を過度に責める必要はありません。大切なのは、その裏にある脳と心のサインに気づき、上手に対処していくことです。 モチベーションを左右する脳内物質:ドーパミンとセロトニン 「やる気」やモチベーションの正体は何でしょうか?科学的には、脳内物質(神経伝達物質)であるドーパミンやセロトニンが深く関与しています。 やる気とは、脳内で分泌されるドーパミンやセロトニンによってもたらされるものであり、これらが不足したり十分に働かなかったりすると、意欲が湧かなくなります。 ドーパミンは快楽や報酬に反応して出る物質で、集中力や学習意欲にも関与します2。何か楽しい見返りや達成感を得られる見通しがあるとき、私たちの脳はドーパミンを放出して「よし、やってみよう!」という推進力を生み出すのです。 一方、セロトニンは「安定」や「安心感」をもたらす物質で、感情を安定させたり気分を前向きに保ったりする役割があります。セロトニンは、脳内で他の神経伝達物質のバランスを整える指揮者のような存在で、セロトニンが不足すると、不安感や憂鬱感が強まりがちです3。 興味深いことに、最新の脳科学研究では、ドーパミンとセロトニンの相互作用も明らかになっています。たとえば、報酬があってドーパミンが出る状況でも、セロトニンが低下していると十分にやる気が出ないことが分かっています4。逆に、セロトニンがしっかり作用すると、モチベーションが維持され、粘り強く物事に取り組む力が生まれるとも言われます5。つまり「ワクワクする気持ち(ドーパミン)」と「穏やかで前向きな気持ち(セロトニン)」の両方が揃って初めて、安定したやる気が生まれるのです。 脳内物質から見る「仕事に行きたくない」気持ちの正体 では、「仕事に行きたくない」と感じるとき、ドーパミンやセロトニンはどうなっているのでしょうか。 たとえば、疲れていたりストレスで落ち込んでいたりするときは、脳内のセロトニンが不足している可能性があります。セロトニンが足りないと気分が落ち込みやすくなり、「これをやれば楽しいことがある」と頭ではわかっていても、やる気がわいてこなくなることがあります6。 また、朝起きた直後などはドーパミンの分泌がまだ活発でなく、エンジンがかかりにくい時間帯です。そのため、布団の中でじっとしていると、いつまで経っても「やる気ホルモン」が出ないまま、余計に動けなくなってしまいます。 実は、脳の仕組みとして「やる気が出るから行動する」のではなく、「行動するから、やる気が出る」という順序があることが分かっています7。ドーパミンは、何かしらの行動を始めたときに分泌されやすくなるため、「やる気が出たから動く」のではなく、「動き出すことでやる気が後からついてくる」という仕組みになっています。 この仕組みを活かせば、気分が乗らない朝でも、ちょっとした行動をきっかけにドーパミンが分泌されて、少しずつ気持ちが前向きになっていくのです。 朝の気分とストレスホルモンの関係 朝起きたときの気分の重さには、ホルモンバランスも影響しています。先ほど触れたコルチゾールは、代表的なストレスホルモンですが、実はコルチゾールは本来、朝に分泌がピークになるホルモンです8。 健康なリズムでは、早朝にコルチゾールがぐっと増えて私たちの体と脳を目覚めさせ、日中に向けてエンジンをかける役割を担っています。ところが、強いストレスに晒された状態が続くと、このリズムが乱れてしまいます。 長期的なストレスは、コルチゾールの分泌量を乱高下させ、常に過剰な緊張状態に陥ったり、必要なときにエネルギーを出せなくなったりといった不調を招きます9。慢性的なストレスで朝からコルチゾールが高すぎると、動悸や不安感など「緊張モード」のまま一日をスタートすることになり、「行きたくない…」という気分を一層強めてしまいます。 逆に、朝にコルチゾール分泌が低すぎる場合は、身体がエンジン不調のまま無理に起きることになり、倦怠感ややる気の出なさにつながります。いずれにせよ、ストレスによるホルモンバランスの乱れは朝の気分に大きく影響するのです。 セロトニンと概日リズムが左右する朝のコンディション 一方で、朝の気分を左右するもう一つの鍵が、セロトニンと体内時計です。セロトニンは心の安定を保つうえで欠かせない物質ですが、朝起きて太陽の光を浴びることで分泌が活発になり、脳と体を目覚めさせる役割を果たします10。朝起きて日光を浴びると、網膜からの光刺激が脳に伝わり、セロトニン神経が活性化して分泌が高まります。 しかし冬場で暗かったり、起きてもすぐ室内でスマホを見て、日光を浴びなかったりすると、セロトニンのスイッチが入らず脳がなかなか目覚めません。その結果、なんとなく憂鬱で前向きになれないという状態になります。逆に言えば、朝しっかり光を浴びておくとセロトニンが十分に分泌され、心の安定感や前向きさが高まって「今日も頑張ろう」という気持ちを後押ししてくれるのです。 まとめると、朝の不調の影にはストレスホルモン(コルチゾール)の乱れとセロトニン不足が潜んでいます。そのため、「行きたくない…」という朝ほど、意識的に心身のスイッチを入れる工夫が大切になります。 憂鬱な朝を乗り切るための改善策 「行きたくない」と感じる憂鬱な朝に、少しでも気分を改善するため、日常生活で取り入れられる改善策をいくつか紹介します。どれも簡単なものですが、継続することで脳内物質の働きを整え、気持ちに前向きな変化をもたらしてくれます。 朝一番に光を浴びてリズムを整える 起きたらカーテンを開けて朝日を浴びましょう。天気が悪い日でもなるべく室内を明るくして、5~15分ほど軽く体を動かしてみてください。 朝の散歩は特におすすめで、日の光とリズミカルな歩行によってセロトニンが活性化し、気分や意欲、集中力のスイッチが入ります。朝の光は体内時計のリセットにもなり、寝不足でボーッとする状態を改善してくれます。出勤前に少し早歩きするだけでも効果的です。 「ほんの少し」体を動かす習慣 やる気が出ないときこそ、1分でいいから何か始めてみるのがポイントです。たとえば、布団の中で悶々とするより、思い切ってベッドから出て背伸びをする、カーテンを開けて外の光を浴びるだけでも、気分を切り替えるための立派な一歩になります。 実際、「今日は机の上だけ片付けよう」と思って動き始めたら、徐々にエンジンがかかり、結局部屋全体を掃除できたという経験はありませんか?このように、ほんの少しでも動き出すと脳内でドーパミンが出てきて、気分が少しずつ前向きになり、「もうちょっと頑張ってみようかな」と思えることがよくあります。 ポイントは、ハードルを下げて「これならできる」と思える小さなタスクから始めることです。「通勤のバッグを持って玄関まで行くだけ」「まずデスクに座ってみる」など、自分に「動いたら意外とできた」という成功体験を与えてあげましょう。そうすることで脳が徐々にウォーミングアップし、重い腰が上がりやすくなります。 深呼吸やマインドフルネスで不安をリセット 朝、心がザワザワしていると感じたら、呼吸に意識を向ける簡単な瞑想を試してみてください。椅子に座ったままでも構いません。ゆっくり「スーッ」と息を吸い、「ハーッ」と吐く深呼吸を繰り返すと、副交感神経が優位になって緊張が和らぎます。 実は、マインドフルネス瞑想はストレスホルモンであるコルチゾールを下げる効果も報告されています。数分間の呼吸瞑想でも心が落ち着き、過剰な不安やモヤモヤをリセットできるでしょう。 マインドフルネス瞑想について詳しく知りたい方は、こちらの記事も参考にしてください。 https://mag.viestyle.co.jp/mindfulness/ 質の良い睡眠を確保する 当たり前に思えるかもしれませんが、睡眠は最強の脳メンテナンスです。睡眠不足が続くと脳の働きが落ちるだけでなく、セロトニンやドーパミンの分泌・生成にも悪影響が及びます。 米国の研究では「6時間以下の睡眠を2週間続けると、徹夜明けと同程度に認知機能が低下する」と報告されています。現代の働き盛り世代では、慢性的に6時間未満しか眠れていない人も多く、それでは日中にやる気が出ないのも当然と言えます。 「どうしても朝からやる気が出ない…」と感じるときこそ、前夜の睡眠時間や質を見直してみましょう。しっかり眠れていればセロトニン神経がリフレッシュされ、朝の心のエンジンがかかりやすくなります。就寝前のスマホや深酒を避け、リラックスできる環境で十分な睡眠をとることが、翌朝の自分への投資になります。 小さな楽しみ・ご褒美を用意する 人間は、「これを乗り越えたら楽しいことが待っている」と思えると、意外に頑張れるものです。月曜のランチはお気に入りの店に行く、仕事帰りにコンビニでデザートを買う、勉強の合間に好きな音楽を聴く――そんな小さなご褒美を自分に計画しておきましょう。 これは脳の報酬系を刺激し、ドーパミンの分泌を促す効果があります。「これを終えたら◯◯しよう!」と考えるだけでも脳内で少しドーパミンが出て、億劫な気持ちが和らぎます。楽しい予定は週の真ん中や木曜夜などにも分散させると、常に次の楽しみが視界に入って、モチベーション維持に役立ちます。 これらの改善策は、日々の積み重ねが確実に心と脳を整えてくれます。自分に合いそうなものからぜひ試してみてください。 仕事とプライベートのバランスを見直す 最後に、ライフバランスの大切さに触れておきましょう。どうしても「仕事に行きたくない」日が続くとき、もしかすると仕事量や職場環境がオーバーヒート気味で、心身が休息を必要としているサインかもしれません。 真面目な人ほど責任感から無理を重ねてしまいがちですが、休息やリラックスは決して怠けではなく、脳を回復させるために必要不可欠な時間です。ずっとアクセルを踏みっぱなしでは車が壊れてしまうように、人の脳もオンとオフのメリハリがなければ燃え尽きてしまいます。 仕事や勉強の合間に趣味や運動の時間を持ったり、意識的に有給休暇やリフレッシュの日を作ったりすることは、長い目で見ればむしろ生産性と創造性を高めてくれるでしょう。 また、人間関係や職場環境のストレスが原因で行きたくない場合は、信頼できる同僚や友人に相談したり、必要なら専門家の助けを借りることも大切です。問題を一人で抱え込んで心が限界になる前に、周囲と気持ちをシェアすることで、解決の糸口が見つかることもあります。心と体の健康あってこその仕事・勉強ですから、自分のペースでバランスを取り戻すことに遠慮はいりません。 前向きなウェルビーイングへの一歩 「仕事に行きたくない」と感じるのは、人間なら当たり前の心の反応です。しかし、そのまま何もせずにいるとストレスは蓄積し、心身の不調につながりかねません。だからこそ、本稿で述べたような脳科学・心理学の知見をヒントに、自分の心とうまく付き合う工夫を取り入れてみてください。 朝の過ごし方を少し変えてみる、小さな行動を積み重ねてみる、十分な休息を確保する――そうした一つ一つの実践が、あなたの脳内物質のバランスを整え、気持ちを軽く前向きにしてくれるはずです。 毎日の積み重ねがより良いメンタル状態(ウェルビーイング)を育みます。心が元気であれば、仕事や勉強にも徐々に意欲が湧き、パフォーマンスも向上していくでしょう。自分を責めすぎず、今日できる小さな一歩から焦らずに取り組むうちに、「行きたくない」朝が減り、「ちょっとなら頑張れるかも」と思える日が増えてくるかもしれません。 あなたのペースで、心と体のバランスを取り戻し、充実した毎日へとつなげていきましょう。ゆっくりであっても、その一歩一歩が未来の自分を楽にしてくれると信じて、今日を乗り切ってみませんか? 😊

脳でタイピング?Meta最新研究が示す非侵襲BCIの可能性

スマートフォンを操作せずに、考えたことがそのまま文字になるとしたら────まるでSFのような話ですが、近年この夢に一歩近づく研究が登場しています。Facebook改めMeta社では、2017年頃から「脳でタイピングする」技術開発に意欲を見せてきました1。 そしてついに2025年、Metaの研究チームは非侵襲型ブレイン・コンピュータ・インターフェース(BCI)で、脳活動からテキストを解読することに成功したと発表しました2。これは、脳に電極を埋め込むことなく、脳波などの信号を使って、頭の中で思い浮かべた文章を読み取ろうとする技術です。 この技術は、コミュニケーションが困難な人々への支援につながる可能性があるほか、将来的には誰もが使える「パーソナルBCI」としての応用も期待されています。この記事では、そんな注目の研究成果をわかりやすくご紹介します。 研究の概要:非侵襲BCIで脳活動から文字を入力 Meta社の研究論文『Brain-to-Text Decoding: A Non-invasive Approach via Typing』では、Brain2Qwertyと名付けられたAIモデルを使い、脳活動から直接テキストを生成する実験が報告されています。この方法の最大の特徴は「非侵襲的」であることです。 従来、BCIで高精度に脳信号を解読するには、脳に電極を埋め込む手術が必要でした。しかし本研究では、頭皮上の電極で脳の電気信号を計測するEEG(Electroencephalography、脳波計測)や、頭部を覆う装置で脳磁場を測定するMEG(Magnetoencephalography、脳磁気計測)といった、非侵襲的な計測だけで脳内の「タイピング信号」を読み取っています。 実験には35人の健康なボランティアが参加しました。被験者にはまず、画面に表示されたスペイン語の短い文(5〜8語程度)を覚えてもらい、その文をキーボードで入力してもらいます。ただし、入力中は画面に文字が表示されず、自分が何を打っているのかは見えない状態でした。この間の脳活動(EEGやMEG)を記録し、そのデータからAIが入力しようとしている文をどこまで正確に読み取れるかを検証しました。 MEGとEEGでの解読結果──「考えた文章」をどこまで再現できたか? 実験の結果、脳磁気計測(MEG)を使った場合、AIモデル「Brain2Qwerty」は平均で文字の誤り率32%という結果になりました。つまり、全体の約68%の文字を正しく読み取ることができたのです。 さらに、誤り率が19%=約8割の文字を正しく解読できた参加者もおり、そのレベルでは、AIが学習していない新しい文章でも、正確に再現できたと報告されています。 出典:Lévy, J., López-Cózar, C., Sharifian, F., et al. (2025). Brain-to-Text Decoding: A Non-invasive Approach via Typing. arXiv preprint. 一方で、脳波(EEG)だけを使った場合は正しく読み取れた文字が約3割にとどまり、MEGに比べて精度はかなり低い結果となりました。Meta社は「MEGを使えば、学習していない文章でも最大80%の文字を正確に解読できる。この精度はEEGの少なくとも2倍にあたる」と述べており、非侵襲のまま高い精度が実現可能であることを示す重要な成果となりました。 技術の仕組み:EEGとAIで「タイピングの意思」を読み解く どうやって脳波から文字を当てることができるのか? 一見すると、どのような仕組みでそんなことができるのか、不思議に思う方もいるかもしれません。Brain2Qwertyのポイントは、脳が文字をタイプするときに生じるパターンをAIが学習し、それをもとに入力された文章を推測するしくみにあります。 人がキーボードで文を入力するとき、脳内では「次にどのキーを押すか」といった運動の指令や、思い浮かべた文章を整理し、言葉にするような認知的な処理が行われています。研究チームは、これらの脳信号のわずかな変化を捉えるため、前述のEEGやMEGで0.5秒ごとの脳活動を切り出して解析しました。この信号データを解読するAIモデルがBrain2Qwertyの正体なのです。 Brain2Qwertyの内部は、最新のディープラーニング技術を駆使した3つのモジュールから成ります: 畳み込みニューラルネットワーク(CNN)モジュール :脳波の生データから特徴を抽出し、0.5秒(500ミリ秒)単位の短い時間窓で信号パターンを捉え、脳活動の微細な変化をとらえます。 トランスフォーマーモジュール :タイピング中の脳活動の時間的な変化を分析し、「どの文字が入力されているか」を予測する役割を担います。前後の文脈も同時に捉えられるため、文章全体の流れをふまえた精度の高い予測が可能です。 言語モデルモジュール :スペイン語の文章データで事前学習された文字レベルの言語モデルで、AIが予測した文字列を補正します。直近の9文字分の文脈から次の文字の確率を計算し、トランスフォーマーの予測結果と組み合わせて、自然な文章に整えま。いわば自動スペルチェックのような働きで、脳信号由来の誤認識を言語的な観点から修正してくれます。 このように脳信号処理+深層学習+言語の知識を統合することで、Brain2Qwertyは被験者が頭の中で思い浮かべ、タイピングしている文章を解読することができるのです。 出典:Lévy, J., López-Cózar, C., Sharifian, F., et al. (2025). Brain-to-Text Decoding: A Non-invasive Approach via Typing. arXiv preprint. 面白いことに、研究チームの分析によれば、解読は純粋に指の動き(運動信号)だけに依存しているわけではなく、キーボード配列の影響やタイピングミスといった、頭の中で考えていることや判断のクセも含まれている可能性もあることが分かりました。つまり、脳内で文章を組み立て、キーを押す一連のプロセス全体をモデルが学習しており、単なる運動読み取り以上のことが起きているようなのです。 非侵襲BCIがもたらすコミュニケーション支援 この研究が注目される理由の一つは、言葉や身体を失った人々の新たなコミュニケーション手段につながる可能性です。近年、脳卒中や神経変性疾患で話す力を失った人に対して、脳内に電極を埋め込む侵襲型BCIを使い、文字や音声でのコミュニケーションを取り戻す研究が進んでいます。 たとえば、2021年には脳にセンサーを埋め込んで、頭の中で思い描いた文字を読み取り、1分間に約90文字も入力できたという研究が報告されています3。また2023年には、脳の表面に埋め込んだ皮質電極を通じて、考えた言葉をそのまま音声に変換し、ほぼ普通に話せるレベルの精度で「声を出す」ことに成功した研究も発表されています4。 しかし、こうした最先端のコミュニケーション補助は、センサーや電極を脳に埋め込む手術が必要であり、大きなリスクとコストを伴います。 そこで期待されるのが、非侵襲BCIによるコミュニケーション支援です。今回のMetaの成果は、自動補完や反復による訂正ができれば、80%近い文字精度でも意味の通る文章を伝えることは可能です。実際、外科手術は難しい高齢のALS(筋萎縮性側索硬化症)患者や重度の麻痺患者にとって、脳に傷をつけないコミュニケーションBCIは、人生を変える可能性を秘めています。 今回のBrain2Qwertyはまだ研究段階ですが、将来的にこれを応用した装置が開発されれば、声や動きが失われた人々に再び言葉を取り戻す手段を提供できるかもしれません。 🧠 編集後記|BrainTech Magazineより 脳からの信号を読み取り、言葉として再構成する──かつて困難とされてきた課題に、非侵襲の手法で挑んだ今回の研究は、今後のBCI開発に向けた貴重な一歩となりました。まだ実用化には距離があるものの、これまで見えにくかった脳とテクノロジーの接点が、確かに輪郭を持ちはじめています。 📝 本記事で紹介した研究論文 Lévy, J., López-Cózar, C., Sharifian, F., et al. (2025). Brain-to-Text Decoding: A Non-invasive Approach via Typing. arXiv preprint.

脳科学でわかる睡眠改善のコツ──脳とメンタルの深い関係

皆さんは最近、しっかりと眠れていますか?忙しい現代人は、つい睡眠時間を削りがちです。しかし、最新の脳科学の研究により、睡眠が私たちの脳や心の健康(メンタルヘルス)、そして日々の生活バランスに、決定的な役割を果たすことが明らかになってきました。 ここでは、2021年以降の睡眠改善に関する最新の脳科学的知見をもとに、睡眠とウェルビーイングの関係や、日常生活で活かせる改善ポイントを解説します。 最新の研究が示す、睡眠と脳の関係 2024年の研究では、睡眠中に脳内の神経ネットワークがポンプのように働き、脳組織にリズミカルな波を起こして、老廃物を洗い流す仕組みが確認されました1。このプロセスのおかげで、朝には頭がスッキリし、長期的にも脳の健康維持に役立つと考えられています。 また、睡眠は脳の老化や学習能力にも影響します。例えばMRIを用いた研究では、24時間の徹夜で脳の老化が1~2歳進んだ状態になると報告されています2。さらに慢性的な睡眠不足は、脳内に小さな損傷を蓄積し、将来的な脳卒中や認知症リスクの上昇とも関連するため、適切な睡眠を確保することが脳の健康には欠かせないのです。 学習や記憶の面でも、睡眠の重要性は再確認されています。慢性的な寝不足は新しい課題の習得能力を低下させることが分かっており、これは睡眠中に行われる記憶の定着(脳が情報を整理して保存する作業)が妨げられるためと考えられます。試験勉強や仕事のトレーニングでも、夜更かしで詰め込むよりしっかり寝たほうが効率よく成果が出るでしょう。 睡眠とメンタルヘルス、ライフバランスの深い関係 良質な睡眠は心の安定に直結しています。2023年末の大規模分析では、わずか数時間の睡眠不足でもポジティブな感情が減り、不安感が増すことが示されました3。寝不足の翌日に「なんだか気分が晴れない」「イライラしやすい」と感じた経験がある人も多いでしょう。 さらに慢性的な寝不足や不眠は、うつ病や不安障害のリスクを大幅に高めます4。逆に睡眠を改善すれば、こうした精神的ストレスが和らぐことも研究で示されています5。よく眠れるようになると気持ちが前向きになり、日常の小さなトラブルにも柔軟に対処できるようになるでしょう。 しかし残念ながら、日本では慢性的な睡眠不足が蔓延しています。厚生労働省の調査では、働き盛り世代の4割以上が1日6時間未満しか眠れていません6。睡眠不足は作業能力の低下や重大事故につながることも指摘されています。しっかり眠ることは、心の健康を保つだけでなく、仕事で力を発揮し、毎日を気持ちよく過ごすための基本になります。 今日からできる睡眠改善のポイント 最後に、脳科学の知見を踏まえた、日常生活で実践しやすい睡眠改善のヒントを紹介します。できるものから取り入れてみてください。 生活リズムを整える 平日も休日も毎日なるべく同じ時間に就寝・起床し、体内時計を安定させましょう。朝起きたら太陽の光を浴びて脳に朝を知らせ、睡眠リズムを整える習慣も効果的です。 寝る前のリラックスタイム 就寝前1時間はスマホやパソコンなど光るスクリーンを見るのを控え、心身をリラックスさせましょう。明るい光は脳を覚醒させて眠気を妨げます。照明を落とし、読書やストレッチなど静かに過ごすのがおすすめです。 睡眠環境を快適に 寝室は静かで暗く、室温も快適に整えましょう。自分に合った寝具を使うことも大切です。音や光が気になる場合は耳栓やアイマスクも有効です。 日中の適度な運動 日中に適度に体を動かして程よく疲れておくと、夜はぐっすり眠れます。有酸素運動やストレッチは、ストレス解消にもなり一石二鳥です。ただし就寝直前の激しい運動は避け、寝る2~3時間前までに済ませましょう。短い昼寝(20分程度)は効果的ですが、長すぎる昼寝は夜の睡眠を妨げるので注意です。 カフェインとアルコール 夕方以降はコーヒーや緑茶などカフェインを含む飲み物は避けましょう。アルコールは一時的に寝つきをよくしますが、眠りを浅くするため、寝酒も控えるのが無難です。 これらのポイントを意識すれば、睡眠の質と量は少しずつ改善していくでしょう。十分な睡眠が確保できれば脳の働きが高まり心も安定します。その結果、日中のパフォーマンスが向上し、人生全体の満足度(ウェルビーイング)も上がっていくはずです。毎日の睡眠を大切にして、心身ともに健やかな生活を送りましょう。

機械学習で進化するMI-EEG解析──脳波×AIの最新研究まとめ

頭の中で手を握る動作を思い描く──それだけでも、脳は小さな信号を発しています。その微細な脳波を正しく読み取ることで、人は「考え」を機械に伝えることができるかもしれません。 このような仕組みはMotor Imagery EEG(MI-EEG)と呼ばれ、いま世界中の研究者たちが開発競争を繰り広げている分野です。 今回は、MI-EEGの技術の広がりと、その歩みを追った2024年発表の論文 「Enhancing motor imagery EEG signal decoding through machine learning: A systematic review of recent progress」をもとに、近年注目されている機械学習と脳波技術の融合によって、どのように「考えるだけで伝わる世界」が実現に近づいているのかを、わかりやすくお届けします。 MI-EEGの仕組みと課題 MI-EEGとは、ある特定の運動を思い浮かべたときに脳波に現れる、特有の変化=パターンを読み取り、「右手を動かそうとしている」「足を動かそうとしている」といった想像内容を解読する技術です。 この脳波のパターンは、脳の運動をつかさどる領域(運動野)の活動によって生じます。たとえば右手の動きを想像すると、左脳の特定のエリアが反応し、そこに特徴的な脳波の変化が表れます。この変化を検出することで、思い描いた動作を推定し、機器の操作などに応用することができるのです。 ところが、こうしたEEG信号は非常に微弱で、まばたきや筋肉の動きなどのノイズに埋もれやすく、個人差も大きいという厄介な性質があります。そのため、従来の非侵襲的なBCI(Brain-Computer Interface)では、せいぜい「はい・いいえ」といった単純な意思しか読み取れないという限界がありました。 さらに、脳波の出方には人それぞれ違いがあるため、脳波を判別するモデルは利用者ごとに一から調整し直す必要があり、これも実用化における大きな壁のひとつとなっていました。 加えて、脳波は波の強さ(振幅)やリズム(周波数)といった特徴が、時間や体調によって変化する非定常な信号です。必要な脳の信号よりもノイズが目立ってしまうことも多く、信号対雑音比(SNR)が低いという特性も、安定した解析を難しくしていました。 MI-EEG解析における機械学習・深層学習の進化 こうした課題を打破しつつあるのが、近年の機械学習(ML)、とりわけ深層学習(ディープラーニング, DL)の技術です。実は、BCI分野では以前から機械学習によって脳波のパターンを分類する研究が行われてきました。しかしその多くは、EEGデータをモデルで扱うために、「どの周波数帯に注目すべきか」「どの脳の部位が反応しているか」といった特徴を見極めて選び出す作業(特徴抽出)や、それをもとに分類モデルを動かすための細かなパラメータ設定が欠かせませんでした。 これらの工程には、豊富な知識と経験が必要で、システム構築には多くの時間と手間がかかっていたのです。 しかし2017年頃から、状況が大きく変わり始めました。BCI Competition IVやPhysioNetなど、複数の被験者による運動想起タスクの脳波を収録した、大規模なオープンデータセットが次々と公開され、これを活用して高性能な深層学習モデルが脳波解析に本格的に導入されるようになったのです¹。 深層学習の強みは、生の時系列データから自動で意味のある特徴を学習できることにあります。従来は専門家が行っていた周波数帯の選択や空間フィルタの調整といった作業を、モデルが自ら学びながら処理してくれるようになりました。 この技術によって、MI-EEGのように複雑でノイズの多い信号でも、より柔軟かつ高精度に脳波を読み取ることが可能になってきました。 ¹ Hossain, K. M., Islam, M. A., Hossain, S., Nijholt, A., & Ahad, M. A. R. (2023). Status of deep learning for EEG-based brain–computer interface applications. Heliyon, 9(3), e14029. 主な深層学習モデルとMI-EEGへの応用 具体的に、近年のMI-EEGデコーディングで活躍している深層学習モデルや手法には、以下のようなものがあります。 CNN(Convolutional Neural Network:畳み込みニューラルネットワーク) 脳波には、「どの場所の電極で信号が強く出ているか」といった空間的な分布や、「どの周波数の信号が目立つか」といった周波数の特徴が含まれています。こうした情報を自動で見つけ出せるのが、CNNという深層学習モデルです。 このモデルは、もともとは画像認識の分野で活躍してきたモデルで、画像の中から形や模様を見分けるのと同じように、脳波の形や波のリズムを見つけ出せるのが特徴です。 実際、従来用いられていたCSP(共通空間パターン)+LDA(線形判別分析)といった機械学習アプローチに比べ、 CNNベースのモデルは、より柔軟に複雑な脳波パターンを扱うことができ、特にうまく脳波で意思を伝えられなかった被験者でも、分類精度が向上したという報告もあります²。 ² Hameed, I., Khan, D. M., Ahmed, S. M., Aftab, S. S., & Fazal, H. (2022). Classification of motor imagery EEG using deep learning increases performance in inefficient BCI users. PLOS ONE, 17(7), e0268880. RNN(Recurrent Neural Network:再帰型ニューラルネットワーク) 脳波のように「時間とともに変化するデータ」を扱う場面では、RNNという深層学習モデルが使われます。RNNは、過去の情報を記憶しながら現在の情報を処理できるのが特徴です。 たとえば、ある動作を思い描いたとき、脳波には一瞬だけでなく、時間の流れに沿って特徴的な変化が現れます。RNNはこのような時系列のパターンを捉えるのが得意で、「いつ、どんな変化があったか」といった情報を生かして分類を行うことができます。 このおかげで、静止画のような断片ではなく、時間の流れに沿った変化として信号を読み取れるようになり、より安定した分類が可能になりました。 転移学習(Transfer Learning) 転移学習では、あらかじめ多くの脳波データを使って学習させたモデル(ベースモデル)を使い、それを新しい利用者やタスクに合わせて、少ないデータで効率よく調整することができます。 たとえば、「右手を動かす想像」といった共通の脳波パターンをすでに学習済みのモデルがあれば、新しい人の脳波を少しだけ読み込むだけで、その人専用のモデルをすばやく作ることができるのです。 これにより、大量のデータを用意したり、毎回ゼロから学習し直したりする負担を大幅に減らすことができ、特にデータが取りにくい医療・福祉現場などでの活用にも期待が高まっています。 このように機械学習、とりわけ深層学習の導入によって、MI-EEG信号の解読精度は飛躍的に向上しました。実験室レベルでは、頭に装着した電極から得られる脳波だけで「右手」「左手」「両足」など複数種類の運動想像をかなりの精度で分類できるようになってきています。 たとえば、EEGNetというモデルは、とてもコンパクトな構造のCNNとして設計されており、データ量が限られている場面でも、高い精度で動作することが特徴です³。少ない学習データでも安定して使えるように工夫されていて、実際に多くの研究で活用が広がっています。 ³Lawhern, V. J., Solon, A. J., Waytowich, N. R., Gordon, S. M., Hung, C. P., & Lance, B. J. (2018). EEGNet: A Compact Convolutional Network for EEG-based Brain-Computer Interfaces. Journal of Neural Engineering, 15(5), 056013. MI-EEG技術を社会に届けるために乗り越えるべきこと 深層学習によってMI-EEGの解析精度は大きく向上しましたが、それを活用した応用システム(MI-BCI)として実用化するには、まだ乗り越えるべき課題も残されています。 たとえば、装着が簡便な簡易EEGデバイスでは、高性能な研究用システムと比べると信号品質が高くないため、日常利用にはノイズ対策が重要になってきます。またアルゴリズム面では、ユーザーが長時間使っても都度再学習しなくて済むような、高い汎用性や継続的学習の仕組みが求められています。 幸いなことに、こうした課題に対しても研究は進んでおり、脳波データを増強するデータ拡張手法や、異なる個人間でモデルを融通するドメイン適応技術、他の生体信号と組み合わせたハイブリッドBCIなど、様々なアプローチが提案されています。まさに人間の脳と機械をつなぐ架け橋として、MI-EEG技術は機械学習との融合によって日々アップデートされているのです。 近い将来、例えばリハビリテーションの現場で患者さんが頭で思い描くだけでロボットスーツを動かし、運動機能回復を助ける――そんな光景が当たり前になるかもしれません。ブレインテック最前線のMI-EEG×機械学習の進化から、これからも目が離せません。 🧠 編集後記|BrainTech Magazineより MI-EEGと深層学習の組み合わせは、これまで読み取りが難しかった脳の信号をより正確に扱える技術へと押し上げています。 実用化にはまだいくつかのハードルがありますが、個人ごとの違いやノイズの多さを乗り越えるための工夫も進み、MI-EEGは実際に使える技術へと着実に近づいています。 BrainTech Magazineでは、こうした研究の進展とその社会実装への動きを、これからも丁寧に伝えていきます。 📝本記事で紹介した研究論文 Hameed, I., Khan, D. M., Ahmed, S. M., Aftab, S. S., & Fazal, H. (2023). Enhancing motor imagery EEG signal decoding through machine learning: A systematic review of recent progress. Biomedical Signal Processing and Control, 84, 104960.

五月病対策:新生活の疲れを乗り越えて心も軽やかに

五月病ってなに? 4月は入学や就職など新生活のスタートでワクワクしますよね。しかし、ゴールデンウィーク明け頃になると「なんだかやる気が出ない…」と感じる人が増えてきます。日本ではこの時期に見られる軽い憂うつ症状のことを俗に「五月病」と呼びます。 五月病は、新しい環境に適応できないまま連休を挟んで心身の疲れが出てしまい、気分が落ち込んだり、無気力になったりする状態です。医学的には「適応障害」などと診断されることもあります。症状としては、憂うつな気分ややる気の低下のほか、不安感や焦りが出たり、人によっては不眠、疲労感、食欲不振など体の不調を感じることもあります。 実はこの五月病は、学生から新社会人、ベテランの社会人まで誰にでも起こり得るものです。新年度の緊張が一段落するとホッとしますが、その反動で心にぽっかり穴が空いたように感じたり、長い休み明けで日常に戻るのが億劫になったりすること、ありませんか?それが「五月病」のサインかもしれません。 五月病かな?と思ったら 「もしかして五月病かも」と思ったら、まずは自分の心と体の状態に気付いてあげましょう。「最近なんだか元気が出ないな」「朝起きるのがつらい」といったサインに気づくことが第一歩です。 五月病は一過性のことが多いので、深刻に捉えすぎずに「ああ、今ちょっと疲れているんだな」と受け止めてみてください。自分を責めたり無理に奮い立たせたりする必要はありません。大切なのは、少し肩の力を抜いてリラックスすることです。 五月病の対策あれこれ では、気分が落ち込んでしまったときにどんな対策ができるでしょうか?ここでは、ビジネスパーソンから学生まで誰でも実践できるいくつかのヒントを紹介します。 適度に気分転換をする 勉強や仕事の合間に少し散歩をしたり、好きな音楽を聴いたりしてみましょう。新緑の季節でもありますし、外の空気を吸って軽く体を動かすだけでも、気分がリフレッシュします。趣味の時間をとることもおすすめです。 誰かと話す・つながる 一人で塞ぎ込まずに、信頼できる友人や家族に今の気持ちを話してみましょう。愚痴でも構いません。話すことで心が軽くなることがあります。また、以前の学校の友人や地元の仲間などと、久しぶりに会ってみるのも良い気分転換になります。 生活リズムを整える 夜更かしをせず十分な睡眠をとり、バランスの良い食事を心がけましょう。疲れているときほど基本的な生活習慣が乱れがちですが、実はそういう時こそ生活リズムを整えることが、心身の回復につながります。 逆に、ストレス発散のために暴飲暴食に走るのは逆効果です。お酒やジャンクフードに頼りすぎると、かえって体調を崩したり、後悔したりするので注意してください。 小さな目標を作る 「たまっていたメールの返信を全部片付けたら、自分にご褒美」「授業の後に好きなスイーツを食べる」など、ちょっとした楽しみを用意しておくのも効果的です。大きな目標でなくて構いません。小さな「楽しみ」や「達成感」を積み重ねることで、日々のモチベーションを維持しやすくなります。 必要なら専門家に相談を どうしてもつらいときや自分では対処しきれないと感じるときは、遠慮なく専門家に相談しましょう。学生であればスクールカウンセラーや保健室の先生、社会人であれば産業医や社内の相談窓口を利用するのも一つの手です。プロに話すのは勇気が要るかもしれませんが、心の健康のために恥ずかしがる必要はありません。 心のウェルビーイングとライフバランスを大切に 五月病の対策を考えることは、自分のメンタルヘルス(心の健康)やライフバランスを見直すことにもつながります。最近よく耳にする「ウェルビーイング」とは、心身ともに健康で充実した状態を指します。新生活で頑張ることも大切ですが、同時に自分が心地よく過ごせるバランスを取ることも同じくらい大事です。 今回紹介したように、適度に休息を取ったり人とつながったりすることは、心のウェルビーイングの第一歩です。心の元気が戻れば、新しい環境にも前向きに適応していけるでしょう。学校や仕事も大事ですが、自分自身の心と体はもっと大切にしてくださいね。 まとめ ゴールデンウィーク明けの憂うつ感は、決して珍しいものではありません。誰でも疲れたときはありますし、五月病かな?と思ったら焦らずに、今回紹介したような対策を試してみてください。そうすることで、「なんだ、意外と大丈夫かも」と心が軽くなってくるはずです。無理をしすぎず、自分のペースで日々を過ごすことで、きっと新しい季節を笑顔で乗り越えていけますよ。

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