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大きな意思決定をするときに気をつけたいこととは?

意思決定には、進化の過程で生まれたものや日常の小さなものまで、さまざまな種類があります。大事な意思決定は、個人や会社の将来を左右することもあります。そのため、経営者や国の政策決定者などは、誤った判断による人命や経済的損失を避けるために、意思決定の知識を身につけることが重要です。 今回はそのような人たちに役立つ、より良い意思決定を目指すうえで重要な知見を紹介していきたいと思います。 前回のコラムはこちらです。 https://mag.viestyle.co.jp/columm17/ M&Aの例題から見る意思決定のバイアス ビジネスの世界でよくある「企業買収」「M&A」は、かなり大きな意思決定の一つであると言えます。ここで皆さんにある問題を出したいと思います。 あなたはM&Aをしようとしている、ある通信事業者のCEOです。今の事業で会社を拡大をしてきたあなたは、最近のAIブームを見て、新興のAI企業の株式を100%取得しようと考えています。 その企業の価値を見積もった結果、現状は具体的に儲かっている事業はありませんが、革新的かつ汎用的な機械学習のアルゴリズムの開発に力を入れていることが分かりました。その事業が失敗すれば企業価値は0になりますが、成功すれば、株価は最高100円になります。無価値(0円)から100円になるまでの確率は、一定であると仮定します。 また、自社グループに新しく買収する会社が参入することで、事業シナジー面で評価が上がり、あなたの会社の企業価値は、1.5倍にはなることが分かっています。AIの会社を買収すれば、自分の会社の株価が1.5倍になることが確実である、ということです。 AIの会社の人たちは、どれくらい今の事業の開発がうまくいくのか、株価が0〜100のどこに落ち着くのかを知っている状況にあります。その価格よりも、あなたがオファーしてくれる価格の方が高い場合は、買収に応じてくれます。自分達の知っている自分達の価値よりも、高い価格であれば、オファーを引き受けるのは当然です。 そこで問題です。あなたはAIの会社に対し、一株あたりいくらの買収額を提示しますか? ボストン大学のMBAのコースの学生に聞くと、典型的な解答としては、以下のようになります。 そのAIの会社の、一株あたりの平均期待値は50円になるけれど、買収によって株価が1.5倍になるから、自社にとっては75円の価値があるため、大体50〜75円の間でオファーをするだそうです。 これは一見正しそうな答えに見えますが、実はこの問題では間違いなのです。ここでは買収先のAIの会社の立場が、私たちはバイアスによって見えなくなってしまっています。相手の方が情報を持っていて、彼らが自分達の知っている価値の価格以上でないと取引が成立しないというのがこの問題のずるいルールで、これを踏まえると、以下のような答えになります。 そのAIの会社の企業価値よりも、私たちが提示する価格の方が高くないと、そもそもこの買収は成立しません。そこで、買収が成立する価格の最小値=一番コスパ良く買収できる価格をX円として、株価は0〜X円の中で等確立に落ち着くとします。つまり、株価としての期待値は「0.5×X円」に収束します。 しかし、自社が買収することによって株価が1.5倍になるので「0.5×X円×1.5」となり、「0.75×X円」が最小の合理的なオファー金額となります。そうすると、現段階の条件では、この買収の25%は、確実に損をすることがわかるため、答えは「買収すべきではない」です。 この答えに辿り着く人は、会計士でも経営者でも5%ほどであり、難問と言えるでしょう。実際のビジネスの世界には、このように模範解答など存在しません。また、このような企業で意思決定を下す人は、今まで成功を収めてきた人が多いため、そのような人は自分の意思決定のスタイルを変えないというところも問題です。 実はこの問題を出した後に「人間は痛い目に遭えば、買収しないという結果に辿り着けるだろう」という仮説のもと、同じような企業買収の課題を20回やらせました。大体みんな60円ほどを提示するのですが、期待値としては25%損失することに気づけないのです。「何回やっても損するじゃん、答えは0円だ」と、正解に辿り着く人はおらず、失敗しても意思決定のバイアスから抜け出せなかったのです。 オークションは「勝者の呪い」 この問題で「100円という一番高い金額を出しておけばいいのでは?」と思った人はいませんか?実はこれも、”Winner’s curse”と言って、「勝者の呪い」と呼ばれる意思決定のバイアスの一つなのです。 これは、よくオークションで見られるのですが、オークションでは1番高い価値をつけた人が、その物を買い取ることができる仕組みですよね。しかし、冷静になって、その商品の平均的な価値は何かと考えてみると、例えばその場に100人の参加者がいたとしたら、100人が希望した価格の平均値が、その物の平均的な価値になります。 しかし、その平均値よりも高い値段で手に入れているということは、落札できたという点では勝者なのですが、結局は損をしているのです。決して悪いことではないと思うのですが、先ほどの例のように、バイアスに気づかずに繰り返してしまうと、損失のリスクが高まる結果になってしまいます。 まとめ 意思決定は、経営や政策において非常に重要な役割を果たします。今回は企業買収を例に、相手の立場に立って考えることができなくなると、過大なオファーをしてしまうことがある、ということをご紹介しました。 このようなバイアスには、良い面もあれば悪い面もあります。こうしたバイアスの存在を知識として留めておくことや、自身のバイアスに気づいて補正していくことで、意思決定の質を高めていきましょう。 🎙ポッドキャスト番組情報 日常生活の素朴な悩みや疑問を脳科学の視点で解明していく番組です。横丁のようにあらゆるジャンルの疑問を取り上げ、脳科学と組み合わせてゆるっと深掘りしていき、お酒のツマミになるような話を聴くことができます。 番組名:ニューロ横丁〜酒のツマミになる脳の話〜 パーソナリティー:茨木 拓也(VIE 株式会社 最高脳科学責任者)/平野 清花 https://open.spotify.com/episode/0pGIUSpDbkF0nGEjnAdyrQ?si=UzHkUxdSRj2SDL8r4ZdYBA 次回 次回のコラムでは、日本人が陥りやすい『メンタル不調』に関するお話をご紹介します。 https://mag.viestyle.co.jp/columm19/

世の中からメンタルヘルスの不調が無くならないのはどうして?

メンタルの課題は、周囲からなかなか理解されにくいものです。本人は周りが思っているほど容易に自分をコントロールすることができません。 では、そのような問題を抱えている人たちは、本当に「かわいそうで弱い人たち」なのでしょうか? 今回は、進化論的な話も交えながら、精神医学の知見について紹介していきます。 前回のコラムはこちらです。 https://mag.viestyle.co.jp/columm19/ メンタルヘルスは遺伝的な問題? メンタルヘルスの問題を抱える人々にとって、自分の内面と周りからの見え方のズレは非常に辛いものです。 例えば、悩みを抱えながらも少しでも自分を好きでいられるように良い写真をSNSに載せると、「承認欲求の塊だ」「可愛いって言ってもらいたいだけなんでしょ」と批判されてしまうことがあります。 しかし前回もご紹介したように、メンタルヘルスの問題では、自己責任論を唱えられることが多いのですが、本人たちが好きで醜形恐怖症や摂食障害になっているかと言ったら、きっと違うと思います。 そのようなメンタルの問題は、性別や遺伝などの、私たちにはどうしようもできない生物学的なところで、抱えることが多いと分かっています。それこそメンタルの問題は女性のほうが発症しやすいのが事実です※。 女性として生まれたというだけで、発症しやすいことを自己責任論にしてしまうのは、少し違う気がしますよね。鬱でいうと、セロトニン関連の調節遺伝子が発症に関わっています。もちろん遺伝子だけで、メンタルヘルスの問題を語れるわけではありませんが、遺伝子も好きで選んで生まれてきたわけではないため、自己責任論は考えるべきところが多そうです。 また遺伝だけでなく、発症の一つの原因として環境も考えられます。ネグレクトや虐待などの、幼い頃のストレス経験があったりすると、メンタルヘルスの課題に直面しやすいと言われています。子どもは、決して自ら選んだわけではありません。メンタルヘルスを自己責任論にすることは、辛辣であると感じます。 ジェネティックな要因や環境要因など、本人が選べないところでメンタルの問題を抱えてしまうことは間違いなく存在します。本人が好き好んで甘えているわけではないという理解が、メンタルヘルスの問題に対する適切な対応の第一歩となるでしょう。 ※出典:Utilising quantitative methods to study the intersectionality of multiple social disadvantages in women with common mental disorders: a systematic review | International Journal for Equity in Health | Full Text (biomedcentral.com), 2024年10月16日参照 メンタルヘルスの問題は、人類の進化にとって重要なこと 以前、感謝やバイアスが進化の過程でどのように残ってきたのかについて紹介しましたが、一部の人々にとって生きにくさを生み出してしまっているメンタルの不調は、なぜ進化の過程で残ってきたのでしょうか? 大前提として、進化の過程でセレクションが起こる際、人間の幸せを最大化するようには進化の仕組みは作られていません。実は、人間の脳が高度に発達していくことと、メンタルヘルスの問題に直面することには関連があると考えられています。 ある研究によると、双極性障害の遺伝子を持つ人々は、持たない人々と比較して、言語能力や創造性が高いことが示されています※。特に、創造的な職業に従事する人々と精神疾患の間には、共通の遺伝的変異が存在することが明らかにされました。これにより、精神疾患と創造性が遺伝的に関連している可能性が支持されています。もちろん発症してしまうことで、その能力が一時的に落ちてしまうことはありますが、社交性の高さも評価されているのです。 また、前回もご紹介したように、メンタルの課題を抱えた人は、完璧主義傾向も高く、メンタル不調に陥るリスクは高いけれど、学業成績や認知能力が高いということが分かっています。 また、優秀な人ほど「インポスター症候群」と呼ばれる、自分の実力を認められず、まるで周囲を騙しているような感覚に陥る問題に直面しやすい傾向があります。対人スキルが非常に高い人に多く見られ、たとえば、元Facebookの最高執行責任者であるシェリル・サンドバーグもこの症状を抱えていたことで知られています。 このような課題を抱えている人々は、弱くてかわいそうな人ではなく、むしろ優秀で仕事ができる人々であることが多いです。彼らは完璧主義であり、努力家であるためにメンタルの問題を抱えやすいのです。 ※出典:New study finds proof that creativity and mental illness are genetically linked (sciencenordic.com), 2024年10月16日参照 まとめ メンタルヘルスの課題は、自己責任論に帰されがちですが、実際には自分の選択で避けることのできない遺伝的要因や生育環境の影響が大きいです。 また、そのような人たちは、優秀な人が多いというのが科学的に分かっています。日本人の5人に1人がメンタルヘルスの問題を抱えている現状が進化の過程で淘汰されずに残っているのは、これらの特性が人間や社会にとって有益な側面を持っているからです。 自信がないからこそ努力をし、努力しても結果が伴わないことで病んでしまう。このような苦しみがあるからこそ努力できる特性は、生き残るために必要な形質だったのです。メンタルの苦しみは人間の進化の一部であり、知的能力や社交性が高い人々が生き残る過程で、その裏にある心の脆さも一緒に残っているのです。 しかし、それをすべて受け入れるべきだというわけではなく、メンタルヘルスの課題から逃れるための手段や方法を探していくことは、私たちにとって非常に重要です。 🎙ポッドキャスト番組情報 日常生活の素朴な悩みや疑問を脳科学の視点で解明していく番組です。横丁のようにあらゆるジャンルの疑問を取り上げ、脳科学と組み合わせてゆるっと深掘りしていき、お酒のツマミになるような話を聴くことができます。 番組名:ニューロ横丁〜酒のツマミになる脳の話〜 パーソナリティー:茨木 拓也(VIE 株式会社 最高脳科学責任者)/平野 清花 https://open.spotify.com/episode/0DgOla9hehV0eC0ARmP2vU?si=RJWDwAzVTOSfC672L5BRTw 次回 次回のコラムでは、『メンタル不調を克服する方法』をご紹介します。 https://mag.viestyle.co.jp/columm21/

アニメの女の子の目が大きく描かれるのはどうして?進化の過程で引き継いだ「悲しいバイアス」

好きなアイドルグループのコンサートに行ったとき、何だか自分の推しのファンがやたらと目に入ってきて、みんなと推しが被っている気がする…というような経験はありませんか? 前回は意識に基づいた判断が、必ずしも正しい結果を招くわけではないということを学びましたが、この例のように、意識のうえで客観的事実とは異なる情報を上乗せしてしまう「バイアス」も、私たちの意思決定を歪めるものの1つです。 ありのままの世界を見ることができず、事実でないことに基づいて判断してしまうことは、わたしたちにとって大きなリスクに繋がります。そこで今回は、「なぜ人間はバイアスをもってしまうのか」について深掘りしていこうと思います。 前回のコラムはこちらです。 https://mag.viestyle.co.jp/columm16/ オーストラリアのカブトムシが絶滅の危機に!?性選択のバイアス 以前「感謝」の回で、感謝の気持ちが時代を超えて残っているのは、感謝は人間関係の強化に役立つメリットがあるからという話を紹介しました。 バイアスは感謝とは異なり、ときにリスクを招きかねないものではありますが、感謝と同様に、進化の過程で残ってきたものであると言われています。 私たちの脳は、必ずしも自分や周りの人の幸せ、健康を最大化するものではありません。それらを犠牲にしてでも、自分の遺伝子を残すのに有利な形質であれば、進化の過程で残っていく仕組みになっているのです。これこそがバイアスが残っている理由であると考えることができます。 虫の例でいうと、光に引き寄せられるバイアスがあります。そのおかげで虫は飛ぶことができているのですが、その光が火であっても、虫はそこに行ってしまうため、命を落としてしまいます。進化の過程で生き残ったからといって、必ずしも良いものとは限らず、欠点のあるバイアスも存在するのです。 性選択のバイアスで面白い事例があります。オスとメスの進化的な競争の中で、側から見るとお互いアンハッピーに見える事例をご紹介します。 ゾウムシという虫は、オスの交尾器にたくさんの棘が生えています。それは交尾をすると、メスが命を落としてしまうほどです。 そのため、メスは対抗手段として、進化の過程で、交尾をしようとしてくるオスを、後ろ足で蹴り上げる力を強くしていきます。これを対抗形質と呼ぶのですが、メスが蹴る力を強めていくにつれ、オスもメスに蹴られても交尾器が抜けないように、どんどん棘を強くしていきます。結果として、お互いアンハッピーになってしまう、棘の形質なのですが、このような事例が知覚的なものにもあるのではないかと言われています。 あるとき、オーストラリアの生物学者が、高速道路を運転していたところ、捨てられていたビール瓶に、カブトムシがたくさん集っているのを目撃したそうです。よく見ると、それは全てオスのカブトムシで、ビール瓶に交尾を試みようとしていたのです。その理由は単純で、茶色くて、光に反射して、突起のあるビール瓶の見た目が、メスのカブトムシによく似ていたからです。 道路に落ちているたくさんのビール瓶せいで、オーストラリアでは、カブトムシが絶滅の危機に瀕してしまうほどでした。このように、見た目だけでビール瓶に価値を見出して、交尾を試みようとするバイアスが、カブトムシたちにはかかっていたのです。 男性が女性を魅力的に思うポイントは「目」にあった!男性のバイアス では、人間にもオーストラリアのカブトムシと同じようなバイアスが、存在するのでしょうか? 日本のアニメや漫画では、女の子の目がかなり大きく描かれていて、それがなぜなのか、海外の研究者の間でも話題になっています。 人間の女性の目の虹彩を大きくしたり、目そのものを大きくしたり、さまざまな写真を並べて、男性にとって女性の目の大きさが、どれほど魅力的に感じる度合いと関わってくるのかを、確かめる実験をしたところ、虹彩が大きいことで、男性は女性を若く見て、繁殖可能なシグナルとして捉えるという結果が出ました※。 目の大きさ自体はあまり関係がないようで、人間のオスはカブトムシにとってのビール瓶と同じように、虹彩の大きなメスに対して、魅力を感じるようなバイアスがあるようです。 海外の研究でも、雑誌の表紙の女性の瞳孔を大きくするだけで、男性の購買率が高まるという結果が出ています。これは、私たちもオーストラリアのカブトムシを笑えない結果ですよね。 ※出典:Large irides enhance the facial attractiveness of Japanese and Chinese women - ScienceDirect, 2024年10月2日参照 女性は周期によって人の顔が変わって見える?女性のバイアス これと同じように、もちろん女性にもバイアスが存在します。進化の性選択の過程で、より異性に選ばれる形質の方が生き残っていく、というものがあります。その中でも、性内競争といって、より良いオスを捕まえるための、メスの中での競争があり、人間の女性はその競争を、水面下で行うことが多いということが分かっています。 具体的には、セルフプロモーションといって、「私はこんなに可愛くて、価値のある女よ」と、自分の宣伝をする戦略や、周りの女性を下げる戦術があります。 実は、女性のエストロゲンレベルの高い排卵期や、妊娠をする可能性の高い時期は、自分とは異なる他の女性が、異常に不細工に見えてしまうことがあるそうです※。周りの女性を下げるというバイアスがかかり、同じ人間でも見え方が変わってしまうのです。 しかし、そのバイアスを持っているからこそ、「私は他の女性よりも可愛い!」という自信をつけて、男性にアピールをし、生まれてきた子孫がいるのです。 このように、私たちはさまざまなバイアスを持っていますが、必ずしもそのバイアスが、私たちの健康や幸せに繋がるものではない、というのは何だか寂しいことですよね。 先ほどの性内競争に関して、女性の中でどれほど激しい競争に晒されているのかを確認するテストがあります。例えば、「自分より綺麗な女性を見ると、たまらなく辛くなるか」「とても魅力的な女性を見ると、粗探しをしてしまうか」などの質問に対して、「Yes」と応える女性は、とても激しい競争に晒されていて、摂食障害などのリスクが高まってしまうと言われています。 他の人から見たら、とても魅力的であるのに、自分ではそう思えずに「痩せなきゃ、可愛くならなきゃ」と思い込んでしまうのです。私たちは、バイアスのおかげで生き残ってきましたが、それを克服していくことも、未来の私たちには必要なことなのかもしれません。 ※出典:Fertile women rate other women as uglier | New Scientist, 2024年10月2日参照 まとめ 人間の意思決定には、多くのバイアスが存在します。バイアスは、悪いものとして扱われることが多いのですが、私たちが生きていくうえで、遺伝子を残すうえで、有利なものがバイアスとして私たちの脳に残っているのです。 しかし、バイアスが必ずしも健康や幸せに繋がるわけではないため、バイアスを認識し、適切な対策を講じることも重要です。 🎙ポッドキャスト番組情報 日常生活の素朴な悩みや疑問を脳科学の視点で解明していく番組です。横丁のようにあらゆるジャンルの疑問を取り上げ、脳科学と組み合わせてゆるっと深掘りしていき、お酒のツマミになるような話を聴くことができます。 番組名:ニューロ横丁〜酒のツマミになる脳の話〜 パーソナリティー:茨木 拓也(VIE 株式会社 最高脳科学責任者)/平野 清花 https://open.spotify.com/episode/2bktPtL097mUDwCdPt0y2G?si=Zfo4Y7O6QQK72vLkqhwcgA 次回 次回のコラムでは、『意思決定の質を高めるコツ』をご紹介します。 https://mag.viestyle.co.jp/columm18/

目には見えない心の問題、メンタル不調に陥りやすい人の特徴は?

現在、日本では5人に1人が、うつ病などのメンタルヘルスの不調に悩んでいると言われています。こうした人々に共通する特徴のひとつに、完璧主義であり、非常に優秀である点が挙げられます。高い理想を掲げ、それに向けて努力を惜しまない一方で、その過程で心が疲れ切ってしまうことが多いのです。 今回は、社会問題化しつつあるメンタルヘルスの問題について深掘りしていきます。 前回のコラムはこちらです。 https://mag.viestyle.co.jp/columm18/ メンタルヘルスに問題を抱える人は優秀な人が多い? みなさんは「醜形恐怖症」という言葉を耳にしたことがありますか? これは、自分の顔や体に対して過度に否定的な認識を持ち、自分の欠点ばかりが気になってしまうことで、精神的な苦痛を引き起こすメンタルヘルスの不調の一種です。自分の外見に対するゆがんだ自己評価が原因となり、日常生活にも大きな影響を与えることがあります。 この症状を抱える人々を調査すると、完璧主義であり、非常に優秀な人が多いという傾向があることがわかっています※。彼らは学業や仕事においても非常に高い成果を上げることが多いようです。摂食障害のある人々にも似た傾向が見られ、理想を追求するあまり、過度に努力し続けた結果として発症することが少なくありません。 現在、日本では5人に1人が何らかのメンタルヘルスの不調に直面しているとされています。では、なぜ職場や社会において、こうした症状がなくならないのでしょうか? その原因について、詳しく掘り下げていきます。 ※出典:大学生における身体醜形懸念に対する完全主義の影響 (jst.go.jp), 2024年10月16日参照 「おいしいごはんが食べられますように」からみる日本の社会問題 2022年に芥川賞を受賞した高瀬隼子さんの「おいしいごはんが食べられますように」という本を、みなさんは読んだことがあるでしょうか?少しネタバレになりますが、この本はメンタルヘルスに問題を抱えた女の子の話です。 その子は会社で、周りがどんなに忙しくても、絶対に定時で帰ることができます。「早く帰っていいからね」「難しい仕事はやらなくていいよ」と上司から言われているのです。 しかし、その状況に周りの人々はモヤモヤした感情を募らせていきます。その女の子も、自分だけ早く帰ることに罪悪感を感じているため、家に帰ってケーキを作り、それを会社に持ってきて配ったりしています。しかし、周囲の人々は「こんなに難しいケーキが焼けるなら、仕事をしてほしい」と思い、その感情が次第にエスカレートしていき、ケーキを女の子の机に捨てるなど、さまざまな事件が起きていきます。 この本では、メンタルヘルスに問題を抱えた人に対して過剰に多様性を受け入れる対応が、かえって分断を生んでしまう状況が描かれています。 メンタルヘルスで悩んでいる本人はとても辛い思いをしていますが、心の中で起きている問題のため、外部の人にはその不調が理解されにくいです。メンタルヘルスの不調は、外からは見えない点が他の病気と大きく異なる部分です。 例えば、風邪を引いたり骨折したりした場合は、その症状が目に見えてわかるため、「かわいそう」と思いやすいですが、メンタルの症状は理解することが困難です。周りからは「可愛いのにどうして?」「痩せてるからいいじゃん」と思えても、自分ではそう思えず、お互いに理解し合えないところが、メンタルヘルス特有の課題のように感じます。 鬱は甘え?分断を生む「スティグマ」とは 「鬱は甘え」という言葉を聞いたことがありますか?メンタルヘルスを理解しようとしていても、心の中では「甘えではないか?」と周囲の人々や本人が感じてしまうことがあるようです。 なぜメンタルがそのように思われてしまうのか、様々な要因が考えられています。 1つには、メンタルヘルスの問題は目に見えないため、自己責任論になりやすいという点があります。見た目には分からないため理解されにくく、周囲からだけでなく本人も「メンタルの不調は自分の甘えだ」「歪んだ自己認識による自己責任だ」と感じてしまいます。このような現象を「スティグマ」と呼びます。 スティグマが存在することで、周囲の人々が本人に期待しなくなり、難しい仕事を与えなくなったり、本人も「自分は問題を抱えている」と感じ過ぎてしまい、その結果として能力が下がってしまうことがあります。それでは、メンタルヘルスに不調を抱えた人は本当に何もできなくなってしまうのでしょうか。この点については、次回のコラムでご紹介したいと思います。 まとめ 鬱や双極性障害など、さまざまなメンタルヘルスに関わる疾患は、非常に身近な存在になってきています。日本でも5人に1人が人生の中で関わることになる問題であり、みなさん自身や周りの人々がそのような課題に直面する可能性は大いにあります。 しかし、これほど当たり前の存在であるにもかかわらず、メンタルの問題はいまだに分断を生み出してしまいます。見た目には分からないという点や、メンタルヘルスへの理解不足から、本人の甘えや自己責任論に結びつけられがちなのです。このようなスティグマが存在することで、本人も自信を失い、悪循環に陥ることがあります。 メンタルヘルスへの理解と支援が広がることが重要であり、スティグマをなくし、誰もが適切なケアを受けられる社会を目指すことが大切です。 🎙ポッドキャスト番組情報 日常生活の素朴な悩みや疑問を脳科学の視点で解明していく番組です。横丁のようにあらゆるジャンルの疑問を取り上げ、脳科学と組み合わせてゆるっと深掘りしていき、お酒のツマミになるような話を聴くことができます。 番組名:ニューロ横丁〜酒のツマミになる脳の話〜 パーソナリティー:茨木 拓也(VIE 株式会社 最高脳科学責任者)/平野 清花 https://open.spotify.com/episode/03MRfGDsfa09meDNVlrNSM?si=FyD_l_bjSg6stqsvvsr7QA 次回 次回のコラムでは、精神医学の知見から『メンタル不調』についてさらに深堀していきます。 https://mag.viestyle.co.jp/columm20/

じっくり考えるよりも直感で選ぶ方が正しい選択をしている?

私たちは日常生活の中で多くの選択を行います。例えば、虫が光に引き寄せられて飛んでいくような単純な反応とは異なり、人間の意思決定は複雑で、単純な反射ではありません。 同じ選択肢であっても、その時々の状況や環境によって適切な判断をし、対応を変える必要があります。このため、人間の選択行動は一対一の対応ができないことが多く、状況に応じて柔軟に判断する能力が求められます。 今回は、そんな人間の意思決定について深掘りしていこうと思います。 前回のコラムはこちらです。 右脳と左脳で信じる宗教が違う!? 意思決定というものは、「これが来たらこう動く」というような、一対一の対応ではなく、脳の中で色々な選択をして決めていくものです。しかし、日常の選択の中には「なんとなく、これがいいから決めた」ということも多いのではないでしょうか。この「なんとなく」は、一見しっかりと判断していない、適当な感じがしてしまいますが、実際はそうでもないのです。 恋愛の回でも、好きだから選んだのではなく、選んだから相手を好きになるという話がありましたが、選んだ本人は意識的に好きになっているのではなく、気づかないうちに相手を好きになっていました。 就職活動の面接でも、「私はこういう人間で、このような経験があって、こういうことがしたいから御社を希望します」というような言い回しが是とされていますが、本当の「正しい意思決定」とは一体どんなものなのでしょうか? みなさんは「スプリットブレイン」という言葉を聞いたことがあるでしょうか? 昔、癲癇(てんかん)という脳の慢性疾患で、痙攣などの症状を起こしてしまう人たちに対して、右脳と左脳を繋ぐ脳梁(のうりょう)を切る治療法がありました。それにより、癲癇の症状は治るのですが、右脳と左脳が分断されてしまうため、両者の対話・連携が取れなくなってしまいます。 実際の患者例であったのが、「将来の夢は何ですか?」という質問をして、右手だと「私は大工になりたい」と書くのですが、左手で書くと「私はカーレーサーになりたい」というように、全く異なる職業を書いてしまう人がいたそうです。 このように意思決定は、同じ脳の中でも、複数の選択肢が存在していることもあるのです。その人が本当になりたい職業は何なのか、どちらが正しい意思決定なのか、どちらも同じ脳の中でその人が確かに持っている意思であるため、その答えはわかりません。 正しい選択肢を選ぶためには直感が大切? アメリカの神経科学者ベンジャミン・リベットの研究によると、人間が意識的に意思を持つと感じるよりも前に、脳の活動が既に始まっていることが示されています。実際、現代の脳計測技術により、人間の行動は数秒前から脳の動きで予測できることがわかっています※1。 つまり、意識的な決断が行われると感じる瞬間は、脳の無意識的な活動の結果に過ぎない可能性があるということです。これにより、必ずしも人間がすべての行動を意識的にコントロールしているとは限らないと考えられます。 何となくで決めるのが悪く、意識的に熟慮して決めることが正しいと思われがちですが、実はそれほど意識の役割は大きいものではないのかもしれません。  無意識の優位性について述べた有名な論文のひとつに、アポ・ディークステルフースの「無意識思考理論」※2があります。この論文では、意識と無意識による判断の結果を比較し、どちらがより優れた判断を下せるかを調査した結果が示されています。 具体的には、複雑な選択肢を提示された被験者を、意識的に熟考して決断を下すグループと、無意識に判断を委ねるグループに分けて比較しました。結果として、無意識に頼ったグループは、意識的に長時間考えたグループよりも優れた選択をすることがありました。 この結果をもとに、ディークステルフースは、無意識の思考が特に複雑な問題において効果的であると結論づけています。ただし、この優位性は複雑な選択肢が絡む場合に限られ、単純な問題では意識的な判断が有効であることも強調しています。 テストで何度も見直した結果、最初の答えが正しかったという経験がある方も多いのではないでしょうか。これは無意識的な判断が意外と正確なことを示す一例かもしれません。 ※1 出典:Decision-making May Be Surprisingly Unconscious Activity | ScienceDaily, 2024年10月2日参照 ※2 出典:What the Science Actually Says About Unconscious Decision Making | The MIT Press Reader, 2024年10月2日参照 正しい意思決定とは? 意識に基づいて判断することだけが、正しい結果に至るわけではないようで、それは商品選びだけではなく、カップルのパートナー選びでも同じことが言えるようです。 「あなたは今の彼氏をどう思っていて、2人の関係をどのように感じていますか?」というように、意識で評価させるテストと、彼氏の顔の写真が出てきて、そのあと次々に出てくる「ポジティブ」「ネガティブ」というような単語を、素早く選ばせる無意識的なテストがあります※。 そのテストの4年後、テストを受けたカップルを再び調査したところ、意識下で評価が高かったカップルよりも、無意識下で評価の高かったカップルの方が、2人の関係性がよく、カップルが長続きしていたことが分かりました。意識で感じる相性よりも、無意識なところで未来の二人の関係性を予測できるという面白い実験です。 ※出典:Do you really love your valentine? How to analyze unconscious negative feelings toward our partners | Department of Psychology (cornell.edu), 2024年10月2日参照 まとめ 人間の意思決定は、動物のように一対一の対応ではなく、状況や選択肢に応じて複雑な計算をして、判断を下します。 意識的に下す判断は、正しいと感じてしまいがちですが、実はそれほど「正しい意思決定」というわけではなく、無意識で選択したものが、より優れた結果を招くこともあるのです。 🎙ポッドキャスト番組情報 日常生活の素朴な悩みや疑問を脳科学の視点で解明していく番組です。横丁のようにあらゆるジャンルの疑問を取り上げ、脳科学と組み合わせてゆるっと深掘りしていき、お酒のツマミになるような話を聴くことができます。 番組名:ニューロ横丁〜酒のツマミになる脳の話〜 パーソナリティー:茨木 拓也(VIE 株式会社 最高脳科学責任者)/平野 清花 https://open.spotify.com/episode/7tGiXFs2HcvmEwvwT9Oj7n?si=ab2tREX1Tg6OZANnMlGm2w 次回 次回のコラムでは、『意思決定における思考バイアス』についてご紹介します。 https://mag.viestyle.co.jp/columm17/

男性は女性よりも感謝しにくい?相手に感謝を伝えるためには〇〇を贈ることが効果的!

前回は人から感謝されるよりも、自分から感謝をすることの方が大切だということを学びました。しかし実際に感謝というものは、気軽にできるものではないことも分かっています。 https://open.spotify.com/embed/episode/33rQ0RJxI5Z8KtP4Th2Nmo?si=fa6d99faf7ca4cb1&utm_source=oembed 感謝をすることで、パフォーマンスが発揮されたり、良い人間関係が構築されたり、たくさんのメリットがあります。今回はそうした恩恵を受けるためにも、感謝のコツについて学んでいきましょう! 前回のコラムはこちらです。 https://mag.viestyle.co.jp/columm13/ 感謝しにくい人ってどんな人? 最近の研究で、「感謝ができる人」というのは、限られていることが分かってきています。私たちが感謝しやすい相手は、友達や家族などの身近な人たちです。反対に、前回のコラムでも紹介したように、仕事上の人間関係では、感謝の気持ちが芽生えにくいと言われています。 以前の「勉強」をテーマにした回で、お金をもらって勉強をすることは、お金をもらわないと勉強をしなくなってしまうため、勉強自体のモチベーションは下がってしまうという話がありました。 https://open.spotify.com/embed/episode/0AwufjF1ibX29HCGQbzdo3?si=39036c4f1f494de1&utm_source=oembed 職場における感謝もそれと同様で、部下に自分の仕事を手伝ってもらっても、「そんなのお給料もらっているから当たり前じゃん」というように、お金が絡むことで感謝の気持ちが少なくなってしまいます。このように、お金が絡む仕事という場においては、人は感謝のメリットを受けにくいのです。 また、職位が上がっていくほど、人が親切にしてくれても、疑い深い見方をするようになってしまうと言われています。 例えば、「この人は私の仕事をたくさん手伝ってくれたけど、本当は私に取り入って出世したいだけなんだろう」というように、人の親切の意図をあれこれと詮索してしまうことが頻繁にあるようです。 さらに、女性は感謝しやすくて、男性は感謝しにくいというように、感謝の気持ちが起きるのには性別の違いも関係しています。どの文化圏でも、男性は感謝の気持ちを感じにくく、表現しにくいと言われています。女性は頻繁に手紙を書いたり、贈り物をして感謝の気持ちを表現しますが、男性は細々とした感謝の気持ちを伝える行為を、苦手とする人が多いのは、日常生活でも感じる場面が多いはずです。 その他にも、「私が感謝したところで、相手は喜んでくれないだろう」というように、相手の反応を過小評価してしまうために、感謝しにくくなってしまうことや、発達障害を持っている人は、人との関係の中で感謝の気持ちが起きにくいこと、さらには遺伝によって「感謝しやすい遺伝子」と「感謝しにくい遺伝子」の持ち主がいることも分かっています※1。 遺伝に関しては、そのような遺伝子を持っている人は、感謝の気持ちが少ないだけでなく、人を許す寛容性が少なかったり、幸福度が低かったり、うつ病になるリスクが高いということまでも分かっています※2。 最近では感謝に関連したサービスで、Unipos(ユニポス)のピアボーナスというものがあります。このサービスは、例えば、あなたが同僚に何か仕事を手伝ってもらったとき、感謝の気持ちを込めて、感謝のメッセージや少額のインセンティブを送ることのできる仕組みです。このようなサービスは、感謝しにくい人にとっては、感謝をする良い機会を作れるものになるでしょう。 ※1 出典:Why Is Gratitude So Hard for Some People? (berkeley.edu), 2024年7月11日参照 ※2 出典:How Gratitude Combats Depression | Psychology Today, 2024年7月11日参照 感謝を伝えすぎるのは逆効果!感謝するうえで注意したいこと ここまで、感謝をするためにはどうしたら良いのか、ということについて紹介してきました。しかし、感謝をしすぎるということにも、リスクが含まれていることが分かっています。 1週間に3回くらいまでは問題ありませんが、それ以上だと効果は薄れるだけでなく、疲労感を感じてしまうこともあります。そのため、感謝をする量よりも質を意識することが大切です。 また、誰にでも感謝をすれば良いというものでもありません。自分に精神的・肉体的被害を加える相手に対して、感謝できるところを探そうとすることも、やめるべきだということも分かっています。カップルが喧嘩をしてしまったときに、感謝できるところを探そうとすることも、重大な問題を避けてしまうことに繋がってしまうかもしれません。 さらに、自分に自信がない人は、何かうまくいったことがあっても、「あの人たちのおかげで助かった」というように、自分ではなく周りの人に感謝をする傾向にあります。本当は自分の力で達成したことも、自分の力ではないと思ってしまい、自己肯定感が低くなってしまうことがあります。感謝することも大切ですが、自分の努力を褒めてあげることも重要なのです。 「感謝」と「恩義」も別物です。感謝は、誰かがあなたを助けてくれたときに起こる、ポジティブな感情ですが、恩義は「この前あの人からこれをもらったから返さなきゃいけない」というように、報いなければいけない、返報しなければいけない、という負債感、つまりネガティブな感情なのです。そのため、恩義を感謝と勘違いしないように気を付けましょう。 質の良い感謝のコツとは?相手に喜ばれるプレゼント選び このように「感謝の質」はとても重要で、良い感謝のコツというのも、さまざまな研究から分かっています。 例えば、感謝しにくい立場の人(偉い役職、上司など)から感謝をする文化を作っていくことや、普段感謝をされにくい立場の人に感謝をしていくことは、お互いにメリットがあります。また、困難なときほど感謝をするように心がけることは、感謝の質を高めるコツだとも言われています。 最近ではLINEギフトのように、手軽に感謝のメッセージをつけて、クーポンや物をプレゼントできる機会が増えていますが、これに関しても面白いことがわかっています。 ある会社の従業員に対して、感謝の気持ちを込めてお金を渡す群、プレゼントを渡す群、プレゼントに値札がついている群、折り紙でコインと紙幣を包む群、というように複数の群にわけて贈り物をしました。すると、お金ではないものをもらった群の方が、その後の従業員のやる気や質が上がったそうです。 また、金銭のプレゼントに関しては、ただ単純にお金をもらうだけでは、喜びやパフォーマンスの向上は見られなかったのですが、折り紙で工夫をして紙幣を包んであげると、お金ではないものをもらったときと同じように、従業員の質がアップしたそうです。 ここでわかるのは、折り紙で紙幣を包むという行為や、相手を思ってプレゼントを贈る、というような、一手間に込められた気持ちが大事だということです。ポンっと送信できるような金銭的なものよりも、相手のためにどれだけの時間をかけたのか、という気持ちが伝わるものの方が、相手のパフォーマンスの向上に効果があります。 また、購買行動に関しても感謝に違いが出ることが分かっています。Amazonのような物を買うことができるストアと、トリップアドバイザーのような旅行という「体験」を買うことができるストアでは、レビュー欄を見てみると、「体験」を買った人の方が感謝が多くみられることがわかります。 「これを買って生活が楽になりました!ありがとうございます!」というようなレビューは少なく、旅行のような体験を買った人の方が、「良い思い出になり、すごく楽しかったです!ありがとうございます!」という感謝の気持ちを伝えるレビューが多いのです。 そのため、大事な人に感謝を伝えるときには、ものだけではなく、遊園地に一緒に行くことや、プチ旅行をプレゼントしてみるなど、体験できるものを加えることで、相手にも喜んでもらいやすくなるのかもしれません。 これは以前「恋愛」の回で紹介したことですが、物をもらったときにどのように感謝をしたら良いのか、ということも重要であることが分かっています。「こんな高いものをありがとう」といったコスト性の感謝の仕方よりも、「これ欲しかった物なんだよね、ありがとう」といった応答性の感謝の仕方のほうが、相手に感謝の気持ちが伝わりやすいと言われています。 また、どうしても感謝しにくい人は、自分が死ぬことを想像してみると、感謝の気持ちが浮かびやすいとも言われています。自分が生きているうちに、感謝できる人に感謝しておこうという気持ちが起こるのかもしれませんね。 まとめ 感謝の気持ちを表現することは、案外難しいものです。特に、仕事上の人間関係では感謝の気持ちが芽生えにくく、金銭的な報酬よりも体験や手間をかけた贈り物の方が効果的です。例えば、感謝の気持ちを込めたプレゼントを贈られた従業員の方が、やる気や仕事の質が向上することが示されています。 また、感謝をしにくい人には、感謝のサービスを利用することが有効です。感謝の質を高めることで、職場や人間関係の改善につなげることができるでしょう。 🎙ポッドキャスト番組情報 日常生活の素朴な悩みや疑問を脳科学の視点で解明していく番組です。横丁のようにあらゆるジャンルの疑問を取り上げ、脳科学と組み合わせてゆるっと深掘りしていき、お酒のツマミになるような話を聴くことができます。 番組名:ニューロ横丁〜酒のツマミになる脳の話〜 パーソナリティー:茨木 拓也(VIE 株式会社 最高脳科学責任者)/平野 清花 https://open.spotify.com/episode/4QUiVvZ96bh2EeeFZmbeeb?si=74DACJ3YQpioUhKQcpEPmg 次回 次回のコラムでは、『感謝とニューロテクノロジー』についてご紹介します。 https://mag.viestyle.co.jp/columm12/

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