大きな意思決定をするときに気をつけたいこととは?

コラム
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意思決定には、進化の過程で生まれたものや日常の小さなものまで、さまざまな種類があります。大事な意思決定は、個人や会社の将来を左右することもあります。そのため、経営者や国の政策決定者などは、誤った判断による人命や経済的損失を避けるために、意思決定の知識を身につけることが重要です。

今回はそのような人たちに役立つ、より良い意思決定を目指すうえで重要な知見を紹介していきたいと思います。

前回のコラムはこちらです。

M&Aの例題から見る意思決定のバイアス

ビジネスの世界でよくある「企業買収」「M&A」は、かなり大きな意思決定の一つであると言えます。ここで皆さんにある問題を出したいと思います。

あなたはM&Aをしようとしている、ある通信事業者のCEOです。今の事業で会社を拡大をしてきたあなたは、最近のAIブームを見て、新興のAI企業の株式を100%取得しようと考えています。

その企業の価値を見積もった結果、現状は具体的に儲かっている事業はありませんが、革新的かつ汎用的な機械学習のアルゴリズムの開発に力を入れていることが分かりました。その事業が失敗すれば企業価値は0になりますが、成功すれば、株価は最高100円になります。無価値(0円)から100円になるまでの確率は、一定であると仮定します。

また、自社グループに新しく買収する会社が参入することで、事業シナジー面で評価が上がり、あなたの会社の企業価値は、1.5倍にはなることが分かっています。AIの会社を買収すれば、自分の会社の株価が1.5倍になることが確実である、ということです。

AIの会社の人たちは、どれくらい今の事業の開発がうまくいくのか、株価が0〜100のどこに落ち着くのかを知っている状況にあります。その価格よりも、あなたがオファーしてくれる価格の方が高い場合は、買収に応じてくれます。自分達の知っている自分達の価値よりも、高い価格であれば、オファーを引き受けるのは当然です。

そこで問題です。あなたはAIの会社に対し、一株あたりいくらの買収額を提示しますか?

ボストン大学のMBAのコースの学生に聞くと、典型的な解答としては、以下のようになります。

そのAIの会社の、一株あたりの平均期待値は50円になるけれど、買収によって株価が1.5倍になるから、自社にとっては75円の価値があるため、大体50〜75円の間でオファーをするだそうです。

これは一見正しそうな答えに見えますが、実はこの問題では間違いなのです。ここでは買収先のAIの会社の立場が、私たちはバイアスによって見えなくなってしまっています。相手の方が情報を持っていて、彼らが自分達の知っている価値の価格以上でないと取引が成立しないというのがこの問題のずるいルールで、これを踏まえると、以下のような答えになります。

そのAIの会社の企業価値よりも、私たちが提示する価格の方が高くないと、そもそもこの買収は成立しません。そこで、買収が成立する価格の最小値=一番コスパ良く買収できる価格をX円として、株価は0〜X円の中で等確立に落ち着くとします。つまり、株価としての期待値は「0.5×X円」に収束します。

しかし、自社が買収することによって株価が1.5倍になるので「0.5×X円×1.5」となり、「0.75×X円」が最小の合理的なオファー金額となります。そうすると、現段階の条件では、この買収の25%は、確実に損をすることがわかるため、答えは「買収すべきではない」です。

この答えに辿り着く人は、会計士でも経営者でも5%ほどであり、難問と言えるでしょう。実際のビジネスの世界には、このように模範解答など存在しません。また、このような企業で意思決定を下す人は、今まで成功を収めてきた人が多いため、そのような人は自分の意思決定のスタイルを変えないというところも問題です。

実はこの問題を出した後に「人間は痛い目に遭えば、買収しないという結果に辿り着けるだろう」という仮説のもと、同じような企業買収の課題を20回やらせました。大体みんな60円ほどを提示するのですが、期待値としては25%損失することに気づけないのです。「何回やっても損するじゃん、答えは0円だ」と、正解に辿り着く人はおらず、失敗しても意思決定のバイアスから抜け出せなかったのです。

オークションは「勝者の呪い」

この問題で「100円という一番高い金額を出しておけばいいのでは?」と思った人はいませんか?実はこれも、”Winner’s curse”と言って、「勝者の呪い」と呼ばれる意思決定のバイアスの一つなのです。

これは、よくオークションで見られるのですが、オークションでは1番高い価値をつけた人が、その物を買い取ることができる仕組みですよね。しかし、冷静になって、その商品の平均的な価値は何かと考えてみると、例えばその場に100人の参加者がいたとしたら、100人が希望した価格の平均値が、その物の平均的な価値になります。

しかし、その平均値よりも高い値段で手に入れているということは、落札できたという点では勝者なのですが、結局は損をしているのです。決して悪いことではないと思うのですが、先ほどの例のように、バイアスに気づかずに繰り返してしまうと、損失のリスクが高まる結果になってしまいます。

まとめ

意思決定は、経営や政策において非常に重要な役割を果たします。今回は企業買収を例に、相手の立場に立って考えることができなくなると、過大なオファーをしてしまうことがある、ということをご紹介しました。

このようなバイアスには、良い面もあれば悪い面もあります。こうしたバイアスの存在を知識として留めておくことや、自身のバイアスに気づいて補正していくことで、意思決定の質を高めていきましょう。

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