頑張らなくて大丈夫!ネガティブな感情は、心を休める大事なサイン?

コラム
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楽しみにしていた予定がいよいよ当日になると、「本当に予約は取れているだろうか?」「体調を崩したりしないかな?」といった不安や心配が、期待感を上回ってしまうことはありませんか?

実は、こうした現象には「トラベルブルー症候群」という名前が付けられることもあるようです。今回は、このようなネガティブな感情が生じる理由や、その対処法について詳しくご紹介していきます。

前回のコラムはこちらです。

感情が湧き出る「文脈」とは?

感情というものは非常にダイナミックで、常に変化の中に存在しています。たとえば、長い間願っていたことが叶ったり、欲しかったものを手に入れたりする過程では、その背景や文脈があってこそ、達成感や喜びが生まれるものです。

一方で、願いが叶わなかった場合には、失望や悲しみ、時には抑うつといった感情が湧き上がります。同様に、不安や恐怖を抱えている状況では、それが現実になったときに痛みや悲しみが生じ、反対に問題が起きなければ安心感へと変わります。このように、私たちの感情は「何を求め、どんな結果を予測し、それがどのように裏切られたか」という文脈によって形作られているのです。

では、「トラベルブルー症候群」の場合はどうでしょうか?旅行を楽しみにしている一方で、「現地で体調を崩したらどうしよう」といった心配が頭をよぎり、その結果、実際に具合が悪くなってしまう――そんな経験をしたことがある人もいるかもしれません。

この現象は、「シロクマ効果」と深い関係があると考えられます。「シロクマのことを考えないでください」と言われるとかえってシロクマのことばかり考えてしまう、という心理現象です。抑えようとすればするほど思考がその対象に向かってしまうという点で、「トラベルブルー症候群」にも通じるものがあります。

また、これは以前の記事でご紹介した「生理中にカップルで喧嘩をしてしまう」「些細なことでイライラしてしまう」といった感情の揺らぎとも関連しています。伝統的な価値観では、感情は理性に従うべきものとされ、感情の高まりはコントロールすべきものと見なされがちです。しかし、実は感情に従うこと自体に意味がある場合も少なくありません。

たとえば、ネガティブな感情がなければ、人は必要以上に頑張り続けてしまうかもしれません。アイドルを応援する人を例に考えてみましょう。推しのために一生懸命働き、収入をつぎ込む生活の中で、ふと「自分はただのオタクで、アイドルとは違う世界の人間だ」と気づく瞬間が訪れることがあります。そのとき、脳は「もう無理をしなくていいんだよ」とサインを送ります。この気づきは、落ち込みや抑うつといったネガティブな感情として表れることがあるのです。

抑うつという感情は、一見ネガティブに思われがちですが、実は「無理をしないで休むべきだ」という脳からの重要なメッセージでもあります。感情には、私たちの行動を調整し、心身のバランスを取る役割があるのです。ネガティブな感情にも意味があり、必要不可欠なものだと捉えることができるのではないでしょうか。

感情にはラベリングをすることが大切!

「大丈夫だよ」「きっとできるよ」といった言葉が、私たちの感情に与える影響は想像以上に大きなものがあります。抑うつの例に関連付けるなら、熱が出たときに「外で遊ぼう」とは思わず、「大人しくしていよう」と体が自然に反応するのと同じように、抑うつもまた「これ以上無理をせず、休もう」というメッセージを送る防御反応の一つと考えられます。

しかし、自分の感情に気づけないと、それがリスクとなることもあります。このような状態は「失感情症(アレキサイミア)」と呼ばれ、自分の感情を適切に認識できないため、精神的な不調を引き起こしやすいとされています。そのため、「今の自分は悲しい」「これは喜びなんだ」といった言葉で感情をラベリングすることが、心のバランスを取る上で重要になります。

この「ラベリング」の効果は、ポジティブな言葉がけにも表れます。一時期話題になった松岡修造さんの日めくりカレンダーが多くの人に支持されたのは、ポジティブな感情を言葉で明確に表現する力があったからかもしれません。「この気持ちは『やる気』なんだ」と名前をつけることで、感情を整理し、制御しやすくなるのです。

これは病気の診断にも似ています。「これは何の病気かわからない」と思うより、「インフルエンザです」と診断されたほうが、不安が軽減されることがあります。感情も同じで、名前をつけることで受け入れやすくなるのです。

また、感情と言葉の関係は文化によっても異なります。たとえば、ドイツ語の「シャーデンフロイデ(Schadenfreude)」は「他人の不幸を喜ぶ感情」を指します。日本語の「人の不幸は蜜の味」に近い意味ですが、ドイツ語では一つの単語として確立されている点が特徴的です。

このように、感情を表現する言葉の有無が、その感情の捉え方を左右することがあります。虹の色の認識にも、言語の影響が関係しています。日本では虹は7色とされていますが、国や文化によっては5色や6色と認識されることもあります。これは、言語によって色の区別の仕方が異なるためです。感情も同様で、文化ごとに名前がつけられるほど、人が認識する感情の種類や幅が変わってくるのです。

言葉は単なるコミュニケーションの手段ではなく、私たちの感情体験そのものを形作る大きな要素となっています。自分の感情を適切にラベリングし、理解することで、より健全な心のバランスを保つことができるのではないでしょうか。

嫌なことに楽しく取り組む方法とは?

苦手意識やネガティブな感情を抱えながらも、それに取り組まざるを得ない場面に直面することがあります。そんな時、少しでもポジティブな感情を持って取り組む方法があれば、助けになるかもしれません。しかし、ネガティブな感情を自覚しつつ無理に進めることは、熱があるのに外で遊ぶようなもので、心身に負担をかけることになりかねません。

無理に苦手なことに取り組むよりも、得意なことや好きなことを伸ばすために時間を使う方が、より効率的で有意義だと言えます。嫌いなことには必ず「嫌いな理由」があるはずです。その感情を無視せず、きちんと向き合うことが大切ではないでしょうか。そして、「得意なことがあれば、不得意なことがあってもいい」と心から思えるようになることが、気持ちを楽にしてくれるはずです。

人それぞれ個性があり、得意・不得意があるのは当然のことです。無理に嫌いなことに時間を費やすよりも、好きなことにエネルギーを注いで輝いている人の方が、周囲にもポジティブな影響を与えます。何より、自分自身が楽しく充実した時間を過ごせるでしょう。

もちろん、人生の中でどうしても避けられない苦手なことに向き合わなければならない場面もあります。その時は、「完全に克服しなくてもいい」と自分を許しながら、少しずつ取り組む方法を考えてみてはいかがでしょうか。たとえば、小さな成功体験を積み重ねたり、得意なことや好きなことと結びつけて取り組んでみたりすることで、少しずつ前向きな気持ちになれるかもしれません。

最終的に大切なのは、自分らしく輝ける場所や方法を見つけることです。嫌なことを無理に続けるのではなく、好きなことを楽しむ時間を増やすことで、より豊かで充実した人生につながるのではないでしょうか。

まとめ

感情は、期待や予測、そしてその結果とのギャップによって生まれる非常にダイナミックなものです。不安や恐れ、抑うつといったネガティブな感情も、私たちの心身を守るための大切なサインであり、決して無意味なものではありません。こうした感情を無理に抑え込むのではなく、適切にラベリングし、受け入れることで、心のバランスを保ちやすくなります。

また、苦手なことに無理に取り組むよりも、得意なことや好きなことを伸ばすことで、自分らしく輝ける場を見つけることができます。どうしても避けられない苦手なことに向き合う際は、小さな成功体験を積み重ねたり、自分の強みと結びつけたりすることで、少しずつ前向きな気持ちを育てていくことが大切です。

言葉は感情を形作る重要な要素であり、適切な言葉がけや意識の持ち方によって、私たちの心の在り方は大きく変わります。自分の感情と向き合いながら、無理のない方法でポジティブな気持ちを育て、より豊かで充実した人生を目指していきましょう。

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