脳波による画像生成:慶應義塾大学・R.I.さんが語る「想起イメージの再現」
脳の仕組みを解明し、人類の可能性を広げる研究分野として注目を集める「脳科学」。私たちVIEでは、この魅力的なテーマに挑む若手研究者に焦点を当て、彼らの研究内容や情熱に迫るインタビュー企画を行っています。
本企画は、さまざまな視点から脳科学の最新研究を紹介することで、読者の皆さまに脳の神秘や研究の楽しさをお届けするとともに、新しい視点で脳について考えるきっかけとなることを目指しています。
今回のインタビューでは、慶應義塾大学で「簡易型脳波測定器を用いた意図画像探索」について研究されているR.I.さんにお話を伺いました。インタビューの後半では、R.Iさんのパーソナルストーリーをたっぷりご紹介していますので、ぜひあわせてご覧ください。
研究者プロフィール
氏名:R.I.
所属:慶應義塾大学大学院 政策メディア研究科
研究室:中澤・大越研究室
研究分野:EEG、ニューロアダプティブ、画像生成
脳波から頭で想像した景色を読み解く試み
現在取り組まれている研究について教えてください。
私の研究テーマは、簡易型脳波測定機を用いた意図画像探索です。具体的には、VIEのイヤホン型脳波計を使って、人が頭で思い浮かべた画像(イメージ)を脳波から読み取り、それを認識・再構成する技術の研究に取り組んでいます。
このテーマを選んだきっかけや理由を教えてください。
学部1年生のときに、友人の紹介で参加したインターン先で、偶然脳科学に携わる機会を得たことが脳波に関心を抱いたことがきっかけです。そこで脳波を使った技術の可能性の広さを感じ、自分もその研究に携わりたいと考えるようになりました。
また 加えて、インターン先でVIEのイヤホン型脳波計を使った実験を行っていたため、このような簡易型 的な脳波計が人間の脳活動をどこまで読み解けるのか試してみたいと興味を持つようになり、いう思いから、現在のテーマに取り組むことを決めました。

R.I.さんが研究で使用されている脳波計
画像引用元:VIE Zone/Chill – Neuro Earphones
どのような実験を通して画像の認識・再構成を行っているのですか?
以前に私が取り組んでいた研究では、まず被験者に対して10秒ほど画像を表示した後に、目を閉じてその画像を思い出すタスクに取り組んでもらい、その際のEEG(脳波)を計測していました。
その脳波データをもとに、機械学習の分類モデルを用いて被験者がどの画像を見ていたのかを識別する研究に取り組んでいました。
現在は、ある刺激に反応して約300ミリ秒後に発生する「P300」と呼ばれる脳波と、生成される画像との関連性を最適化することで、被験者が思い浮かべたイメージを画像として再構成する研究に取り組んでいます。
実験の中で注力している部分について教えてください。
実験では、特にEEGの特徴量を抽出する前処理の工程に重きを置いています。具体的には、EEGの記録を7.5ミリ秒ごとの小さな時間ウィンドウに区切り、各ウィンドウごとに標準偏差を始めとする統計的な特徴量を計算して、分類モデルへの入力データとして使用しています。
このような前処理を施すことで、データの細かな時間的変化や重要な特徴量を捉えやすくなるという利点があります。詳細な特徴を捉えることで、分類の精度を高めることができるのです。

実験フローの概要図
簡易脳波計でどこまで脳活動を読み解けるのか
研究プロセスを進める上で、困難に感じたことはありますか?
現在直面している課題は、簡易型脳波計を使用しているため、空間分解能(spatial resolution)が限定的である点です。そのため、脳内のどの部位からの活動なのかを高い精度で識別することが難しく、脳波の詳細な情報を十分に取得できないことがあります。また、EEGは脳の微弱な電気活動であるため、ノイズの影響を考慮しなければならない点も困難だと感じています。
では、研究を進める中で得られた成果や発見があれば教えてください。
主な成果は簡易型脳波計でも想起画像の認識が可能であることが分かった点です。前述した通り、私が使用している装置では10クラスの画像分類において30%から45%の精度で分類ができており、決して高精度ではありませんが、ある程度脳の情報を抽出できていることが判明しました。
実用にはまだ課題が多い性能ですが、分類クラスが少ない場合や、受動的な反応によって発生する脳波を利用するといった特定の条件下では高精度な認識性能を発揮するため、工夫次第で面白い応用が期待できると考えています。
文字に囚われない自由なコミュニケーションを目指して
ご自身の研究成果は社会にどのような影響を与えると考えますか?
簡易型脳波計測装置でも画像認識が可能になれば、肢体不自由な方の支援や、デジタル空間における手軽なコミュニケーション手段の一つとして、広く普及する可能性があると考えています。
たとえば、現在は体に麻痺症状を抱えていて、発話が困難な人のコミュニケーション手段としては眼球運動による文字入力(スペリング)が主流となっています。しかし、伝達媒体が文字である特性上、言語化できないものは表現できないという課題があります。それに対して、私が目指しているものは脳活動に対応する画像を探索して最適化することです。この研究が実現すれば、肢体不自由な方のより自由なコミュニケーションに貢献できるのではないかと考えています。
脳活動から画像を生成できれば、より自由で快適な意思伝達が実現できそうですね。それでは、ご自身の研究が社会に影響を与えるために必要だと考えていることはありますか?
研究を進める際に、脳波計測・特徴量抽出・分類・画像再構成といった各プロセスが異なるツールや環境に分散してしまっているので、これら一連の処理を一貫して行えるEnd-to-Endのアプリケーションがあれば、作業効率が大幅に向上し、再現性の高い研究がしやすくなると感じています。
そのようなパッケージ化された環境が整えば、よりこの分野の研究も広がるのではないかと考えています。
技術を社会に実装するためには研究内容そのものだけでなく、環境を整えることも重要なのですね。最後に、今後の研究活動の方針を教えてください。
現段階では画像をイメージする際にP300が生じることの検証まで完了しているため、ここからは実験環境を整備し、実際に多くの人の脳波を計測してモデルを訓練する過程に入ります。これまで取り組んでいた理論の構築や方針の決定といった作業よりも、忍耐力を必要とする段階に突入するため、粘り強く頑張りたいと考えています。
インタビューの後半では、R.I.さんのパーソナルストーリーや現在の研究に取り組むきっかけとなった出来事について伺いました。
特に、現在進路決定に悩んでいる学生さんは必見の内容となっています。
ぜひ併せてご覧ください。
WRITER
NeuroTech Magazine編集部
BrainTech Magazine編集部のアカウントです。
運営するVIE株式会社は、「Live Connected, Feel the Life~」をミッションに、ニューロテクノロジーとエンターテイメントで、感性に満ちた豊かな社会をつくることをサポートするプロダクトを創造することで、ウェルビーイングに貢献し、さらに、脳神経に関わる未来の医療ICT・デジタルセラピューティクスの発展にも寄与していきます。
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