ご褒美を自分で選べると、難しい課題も頑張れる?
仕事や勉強で「ここぞ」という難関に挑むとき、皆さんはどんなご褒美を思い浮かべますか?テスト勉強の後に好きなスイーツを食べる、自宅の片付けを終えたらゲームを1時間だけプレイする――子どもの頃も大人になった今も、「これが終わったら○○しよう」と自分にご褒美を用意して頑張った経験がある人は多いはずです。
では、そのご褒美の「中身」を自分で選べるとしたら、パフォーマンスはどう変わるのでしょうか。「与えられた賞品」より「自分で選んだ賞品」の方が人は頑張れるのか――そんな素朴な疑問に挑んだ興味深い実験研究が報告されました。
こうした問いに正面から取り組んだのが、2025年に発表された論文 「Reward Choices: Experimental Evidence on Cognitive Task Performance」 です。この研究は、「ご褒美を選べること」が認知課題のパフォーマンスを本当に高めるのかを実験的に検証しています。
研究の背景:モチベーション研究が示す「報酬」と「選択」の関係
人のやる気(モチベーション)と報酬の関係は、心理学や経済学で長年研究されてきたテーマです。課題を達成した報酬としてお金や賞品を与えるといった外発的動機付けは、適切に設計すればパフォーマンス向上に効果があります。
一方で、報酬ばかりを強調すると本来の楽しさ(内発的動機)が損なわれ、やる気を削いでしまう「アンダーマイニング効果(過正当化効果)」も知られています。つまり「報酬」は諸刃の剣であり、その種類や与え方次第で良くも悪くも作用しうるのです。
では「選択の自由」はモチベーションにどう影響するのでしょうか?自己決定理論によると、人は誰かに決められたからではなく、「自分で選んだ」と感じられるほど、前向きに行動しやすくなると考えられています。
実際、教育や作業の場面で「選択肢」を与えることで学習者や作業者の興味や努力が増すことが数多く報告されています。たとえば、選択肢を与えられると内発的モチベーションや課題への取り組み努力、自己効力感、そして遂行成績までも向上することが示されています。
興味深いことに、この「選択効果」は選ぶ内容が一見些細な場合であっても確認されており、人は自分で選べるだけで満足感を得て意欲を高める傾向があるようです。こうした背景から、「報酬」を与える際にも受け手に選ばせてみたら効果が変わるのでは?という発想に着目したのが今回の研究です。
研究の内容:「選べる報酬」はパフォーマンスに影響するのか

今回紹介する研究では、「報酬を自分で選べること」が認知課題のパフォーマンスに与える効果を実験的に検証しました。オランダやベルギーの研究者らは実験室実験を行い、参加者にいくつかの課題に取り組んでもらっています。その際、二つの条件を操作しました。
一つは報酬選択の有無です。全参加者に課題の成功報酬として有形のご褒美(具体的な景品)を用意しましたが、グループによって「複数の選択肢から好きな報酬を選べる」場合と「報酬があらかじめ指定され選べない」場合に分けたのです。
もう一つは課題の難易度です。用意された課題には比較的取り組みやすい「簡単な課題」と、頭を使う複雑な「難しい課題」があり、参加者はどちらか一方の条件でテストされました。要するに実験は、報酬選択の有無 × 課題の難易度(簡単・難しい)という2×2の条件設定になっています。
この実験では、「課題難易度が高いほど、報酬選択の有無がパフォーマンスに及ぼす影響が大きくなる」という仮説が立てられました。難易度が高く認知的努力を要するタスクでは、ご褒美の魅力がより重要になり、好きな報酬を選べることで一層頑張れるのではないか。一方、簡単なタスクでは元々それほど努力を要さないため、報酬の選択がパフォーマンスに与える影響は小さいかもしれない――そうした仮説です。
実験の結果:難しい課題でこそ発揮された「選べる報酬」の効果
そして結果は、研究者たちの仮説を見事に裏付けるものでした。難易度の高い課題において、報酬を自分で選択できた参加者グループの成績は、選べなかったグループより明らかに良かったのです。一方、簡単な課題では報酬を選べるかどうかでパフォーマンスに大きな差は見られませんでした。
つまり「難しい課題ほど、報酬選択の自由がパフォーマンスを高める」という交互作用効果が確認されました(図1)。
図1:報酬選択の有無と課題難易度がパフォーマンス指標に与える影響
さらに興味深いのは、なぜ報酬選択がパフォーマンスを向上させたのかという点です。追加の分析により、そのメカニズムとして「嗜好との一致」、すなわち自分の好みに合った報酬を得られることが重要な役割を果たすことが示されました。
報酬を自由に選べた参加者は、用意された景品の中から自分が最も欲しいもの・好きなものを選択できます。当然ながら人それぞれ「ご褒美に何を魅力に感じるか」は異なるため、選択の自由があると各自が自分にとって価値の高い報酬を手にすることになります。研究チームは、この「報酬と個人の嗜好のマッチ度」がパフォーマンスを押し上げる原動力になっていることを突き止めました。
実際、難しい課題の条件では報酬選択の有無がパフォーマンスに与える効果の背後に、この嗜好の一致度が統計的に介在していた(媒介していた)ことがデータから示されています。一方、簡単な課題ではそもそも課題が容易なためか、嗜好に合った報酬かどうかで成績に有意な差は生じませんでした。
考察:仕事や学習の現場に応用できる「選べる報酬」の力

この研究から、「ただ報酬を与えればいい」というものではなく、報酬の内容を本人の好みに合致させることの大切さが浮かび上がってきます。難しい課題では「これが欲しい!」と思えるご褒美があることで、参加者はより集中力を発揮し、粘り強く取り組むようになります。
一方、簡単な課題では元々楽に達成できるため、報酬へのこだわりがパフォーマンスに響く余地は小さいのでしょう。言い換えれば、課題が難しくなるほど人は追加のインセンティブを必要とし、そのインセンティブは自分に合ったものであるほど効果的だということです。
実際、選択の自由そのものが人に「自分で決めている」という充実感を与え、脳の報酬系を活性化することも神経科学の研究で示唆されています。加えて、自分の好きなご褒美であれば達成したときの喜びもひとしおです。
今回の研究は、この「選ぶ楽しさ」と「欲しいものが手に入る嬉しさ」の相乗効果が発揮されるのは、高い認知的努力を要する局面であることを示したと言えるでしょう。
現実社会への示唆も明確です。職場や教育の場で、人々に難度の高いプロジェクトや課題へ取り組んでもらう際には、一律の報酬を与えるよりも、いくつかの選択肢を提示して本人に選ばせる方が効果的かもしれません。
たとえば社員に目標達成インセンティブを出すなら、現金・商品券・休暇・ガジェットなど複数の報酬プランから好きなものを選べるようにしたり、学生に課題達成のご褒美を与えるなら、図書カード・お菓子・特別な活動機会など複数用意して選ばせたりするといった工夫です。
これにより各人が「自分にとって一番嬉しいご褒美」を得られるため、より意欲的に困難に挑戦できる可能性があります。実際、社員がポイントを貯めて好きな報酬と交換できる社内表彰制度や、子供がご褒美シールを貯めて好きなおもちゃと引き換える仕組みは、こうした理にかなっていると言えるでしょう。
報酬とモチベーションの研究は、脳科学や行動経済学とも結びつき、近年ますます発展しています。本研究は「報酬の選択権」という身近で応用しやすい要素にスポットライトを当て、その効果をエレガントな実験デザインで示しました。
難しい課題に直面したとき、「終わったら自分へのご褒美に何をしよう?」と考える習慣は、科学的にも理に適ったモチベーション戦略と言えるかもしれません。あなたも次に大きなチャレンジに挑む際は、自分が本当に欲しいご褒美をリストアップしてみてはいかがでしょうか。その小さな選択が、脳をフル回転させる推進力になるかもしれません。
今回紹介した論文📖
Dewaele, J., Cardinaels, E., & van den Abbeele, A. (2025).
Reward Choices: Experimental Evidence on Cognitive Task Performance.
European Accounting Review.
https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/09638180.2025.2504438?af=R#d1e157
WRITER
Sayaka Hirano
BrainTech Magazineの編集長を担当しています。
ブレインテックとウェルビーイングの最新情報を、専門的な視点だけでなく、日常にも役立つ形でわかりやすく紹介していきます。脳科学に初めて触れる方から、上級者まで、幅広く楽しんでもらえる記事を目指しています。
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