ストレス44%低減|音楽によるストレス管理の科学的方法
仕事や人間関係、情報過多の毎日の中で、知らないうちにストレスを抱えてしまう人は少なくありません。そんなとき、身近にある「音楽」が心身の状態に影響を与える可能性があることが、近年の研究で報告されています。
音楽は特別な準備がなくても生活に取り入れやすく、通勤中や作業中、就寝前などさまざまな場面で活用されています。本記事では、研究で示されている知見をもとに、音楽とストレスの関係や、日常で取り入れやすい活用方法について紹介します。
研究で明らかになった音楽によるストレス軽減効果
音楽がストレスに影響を与える可能性については、心理学や医学の分野で数多くの研究が行われてきました。近年の研究では、音楽を聴くことが心理的なリラックス感だけでなく、ストレスに関わる生理反応にも関係する可能性があることが報告されています。
人間がストレスを感じたとき、体内では自律神経系と内分泌系が連動して反応します。特に重要な役割を担うのが、視床下部・下垂体・副腎から構成される「HPA軸」と呼ばれるストレス反応システムです。この仕組みによってコルチゾールなどのストレス関連ホルモンが分泌され、心拍数の上昇や緊張などの反応が引き起こされます。
音楽は、このようなストレス反応に関係する心理生物学的システムに影響を与える可能性がある刺激として研究されています。実際に、音楽を聴くことによってストレス後の生理反応の回復過程に違いが見られることが報告されており、音楽がストレス管理の補助的な手段として注目されています。
参考:Thoma, M. V., La Marca, R., Brönnimann, R., Finkel, L., Ehlert, U., & Nater, U. M. (2013). The effect of music on the human stress response. PLOS ONE, 8(8), e70156.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3734071/
音楽が人間のストレス反応に与える影響を調べた研究
音楽とストレス反応の関係を検証した研究として、2013年に発表された「The effect of music on the human stress response」という論文があります。この研究では、健康な成人女性60名を対象に、音楽がストレス反応にどのような影響を与えるかが実験的に調査されました。
研究では、参加者に心理的ストレスを誘発する実験として知られる「Trier Social Stress Test(TSST)」が実施されました。このテストは、人前でのスピーチや計算課題などを通じて強い社会的ストレスを生じさせる実験手法として広く用いられています。
実験の前に、参加者は三つの異なる条件のいずれかに割り当てられました。一つはリラックスできる音楽を聴く条件、もう一つは水の流れる音といった自然音を聴く条件、そしてもう一つは音を聞かずに休息する条件です。その後、研究者はストレス反応を評価するために、唾液中のコルチゾールや唾液αアミラーゼといった生理指標、さらに心拍数や主観的なストレス評価などを測定しました。
その結果、音楽を聴いたグループでは、ストレス課題の後に自律神経系の反応が回復する過程に特徴的な違いが見られました。特に唾液αアミラーゼの値については、音楽を聴いた参加者のほうが比較的早く基準値へ戻る傾向が確認されました。研究者はこの結果から、音楽の聴取が人間の心理生物学的ストレスシステムに影響を与える可能性があると結論づけています。
ストレスについては、こちらの記事でも詳しく説明しています。
・私たちはなぜ緊張するのか?:緊張のメカニズムとコントロール方法
医療分野で音楽療法が活用されている理由
音楽は娯楽としてだけでなく、医療分野でも補助的な介入手法として利用されています。このような方法は一般的に「音楽療法」と呼ばれ、患者の心理的状態や生理反応に対する影響が研究されています。
医学研究では、音楽を聴くことが心拍数や血圧などの生理的指標に関連する可能性が報告されています。また、音楽の介入がストレスホルモンや自律神経系の活動に関係する可能性も指摘されています。これらの結果は、音楽がストレス反応に関わる身体の調節システムに影響を与える可能性を示唆しています。
実際に医療現場では、手術前の不安を軽減する目的や、治療中の心理的負担を和らげる目的で音楽が用いられることがあります。音楽は薬物を使用しない非侵襲的な方法であり、患者への身体的負担が少ないという特徴があるため、補助的なストレス管理手段として研究が進められています。
音楽療法についてより詳しく知りたい方はこちら。
参考:De Witte, M., Spruit, A., van Hooren, S., Moonen, X., & Stams, G. J. (2020). Effects of music interventions on physiological and psychological stress outcomes: A systematic review and meta-analysis. Health Psychology Review, 14(2), 187–224.https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31167611/
音楽がストレスに関わる脳の働きに影響する仕組み
音楽がストレス反応に影響を与える可能性については、脳の働きとの関係からも研究が行われています。人間がストレスを感じたときには、視床下部や扁桃体、海馬、前頭前野といった複数の脳領域が関与します。これらの領域は感情の処理や記憶、意思決定などに関わる重要な部位です。
興味深いことに、音楽を聴いたときにもこれらの脳領域が活動することが神経科学の研究で報告されています。音楽は聴覚刺激として脳に入力されるだけでなく、感情や記憶と結びついた複雑な神経ネットワークを活性化させることが知られています。
こうした神経活動の変化が、自律神経系の調整やホルモン分泌などの生理反応と関連する可能性があると考えられています。音楽が人間のストレス反応に与える影響については現在も研究が続けられており、脳・神経・内分泌系の相互作用の観点から理解が進められています。
ストレス軽減に効果的とされる音楽の特徴

音楽がストレスの感じ方や心理状態に影響する可能性については、多くの研究が行われていますが、すべての音楽が同じように作用するわけではありません。研究では、音楽のテンポや音響的特徴、さらに個人の音楽嗜好などが心理的反応に関係する可能性が示されています。
音楽がもたらすリラックス感は、音の速度、音色、リズム、音量などの複数の要素によって左右されます。また、人が音楽をどのように知覚し、どのような感情を抱くかは個人差も大きく、同じ楽曲でも受け取られ方が異なることがあります。こうした理由から、研究では音楽の物理的特徴と心理的評価の両方が分析されています。
ここでは、これまでの研究でストレスやリラックス状態との関連が指摘されている音楽の特徴について紹介します。
リラックス状態と関連が報告されている音楽テンポ
音楽のテンポは、人の生理反応や心理状態と関連する要素として研究されています。音楽心理学の研究では、比較的ゆったりとしたテンポの音楽が、リラックスした状態と関連する可能性が報告されています。
レビュー研究では、テンポが遅い音楽は落ち着いた感情と結びつきやすく、心拍数や呼吸のリズムと関連する可能性が指摘されています。特に毎分60〜80拍程度のテンポは、安静時の心拍数に近い範囲であるため、リラックスした印象を与える音楽として研究で取り上げられることがあります。
ただし、テンポだけが効果を決めるわけではなく、メロディやハーモニーなど複数の音楽要素が組み合わさることで心理的反応が形成されると考えられています。
参考:Pelletier, C. L. (2004). The effect of music on decreasing arousal due to stress: A meta-analysis. Journal of Music Therapy, 41(3), 192–214. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15327345/
自然音やアンビエント音楽がリラックス感と関連する理由
音楽だけでなく、自然環境の音が心理状態に与える影響についても研究が行われています。環境心理学の研究では、水の流れる音や風の音などの自然音を聞くことで、心理的な回復感やリラックス感が報告される場合があることが示されています。
たとえば、自然環境音と都市環境音を比較した研究では、自然音を聞いた参加者の方が、主観的なストレス評価が低くなる傾向が報告されています。こうした結果は、自然環境の音が人間の心理的回復に関係する可能性を示唆しています。
アンビエント音楽は、こうした自然音や持続的な音響を取り入れた音楽ジャンルであり、明確なリズムよりも空間的な音響を特徴とすることが多い音楽です。研究では、このような音響環境が静かな背景音として知覚されることで、落ち着いた心理状態と関連する可能性が指摘されています。
参考:Alvarsson, J. J., Wiens, S., & Nilsson, M. E. (2010). Stress recovery during exposure to nature sound and environmental noise. International Journal of Environmental Research and Public Health, 7(3), 1036–1046.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20617017/
好きな音楽が心理的ストレスの感じ方に関係する可能性
音楽の心理的効果を研究する際には、音楽の客観的な特徴だけでなく、個人の音楽嗜好も重要な要因として扱われています。研究では、個人が好む音楽を聴くことによって、感情状態やストレスの主観的評価が変化する可能性があることが報告されています。
音楽は感情や記憶と深く結びついた刺激であり、特定の楽曲が過去の経験や感情と関連して想起されることがあります。このため、同じ音楽でも人によって心理的反応が異なることが知られています。
実験研究では、参加者が自分で選んだ音楽を聴いた場合に、感情状態やリラックス感に変化が見られることが報告されています。こうした結果から、音楽の心理的効果は楽曲の構造だけでなく、個人の好みや経験とも関係していると考えられています。
音楽と記憶の関係に着目した商品「うたメモリー」については、こちらをご覧ください。
音楽でストレスを軽減するための日常的な活用方法

音楽が心理状態や生理反応に影響を与える可能性については、多くの研究が行われていますが、その効果は実験室の環境だけでなく、日常生活の中での聴き方にも関係すると考えられています。実際、音楽心理学の研究では、人がどのような状況で音楽を利用するかが感情調整やストレスの感じ方に関連する可能性が報告されています。
たとえば、人は気分を落ち着かせるときや集中したいときなど、目的に応じて音楽を使い分ける傾向があることが知られています。このような音楽の利用は「感情調整(emotion regulation)」の一つの方法として研究されており、日常生活の中で自然に行われている行動の一つです。
ここでは、研究で報告されている知見をもとに、日常生活の中で音楽を取り入れる具体的な場面を紹介します。
参考:Lonsdale, A. J., & North, A. C. (2011). Why do we listen to music? A uses and gratifications analysis. British Journal of Psychology, 102(1), 108–134. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21241288/
通勤・通学中に音楽を聴く習慣と心理状態
移動時間に音楽を聴く行動は、多くの人が日常的に行っている音楽利用の一つです。音楽心理学の研究では、通勤や通学などの移動中に音楽を聴く行動が、気分の調整や心理状態の安定と関係する可能性が指摘されています。
都市生活の移動環境では、混雑や騒音などによって心理的負担が生じる場合があります。こうした状況で音楽を聴くことは、周囲の環境音から注意をそらし、自分の内面的な感情に集中する手段として利用されることがあります。実際、日常的な音楽利用を調査した研究では、移動中の音楽視聴が気分の改善や感情調整の目的で使用されるケースが多いことが報告されています。
作業中に音楽を流すことと集中状態の関係
音楽は、仕事や学習などの作業環境でも利用されることがあります。認知心理学や音楽心理学の研究では、背景音として音楽を流すことが作業中の心理状態や集中感に関係する可能性が調べられています。
たとえば、作業中の音環境を調査した研究では、音楽が完全な無音状態とは異なる心理的な作業環境を作り出す可能性が示唆されています。音楽が背景音として存在することで、外部の雑音が目立ちにくくなる場合があり、その結果として作業環境の快適性が変化する可能性があります。
ただし、音楽が集中に与える影響は、作業内容や個人差によって異なることも報告されています。特に言語を扱う作業では歌詞のある音楽が注意を分散させる場合があるため、研究ではインストゥルメンタル音楽などが用いられることもあります。
こちらの記事もチェック
・集中力を高める音楽の選び方|科学的に効果がある5つのポイント
就寝前の音楽と睡眠前の心理状態
睡眠と音楽の関係についても研究が進められています。睡眠研究の分野では、就寝前に音楽を聴く習慣が睡眠前の心理状態に関連する可能性が報告されています。
いくつかの研究では、就寝前に落ち着いた音楽を聴くことによって、主観的な睡眠の質や入眠までの時間に変化が見られる場合があることが示されています。音楽を聴くことで注意がリラックスした状態へ移行し、就寝前の精神的緊張が和らぐ可能性があると考えられています。
実験研究では、数週間にわたり就寝前に音楽を聴く習慣を取り入れた参加者の睡眠評価が変化した例も報告されています。こうした結果から、音楽は睡眠前のリラックス習慣の一つとして研究されています。
参考:Harmat, L., Takács, J., & Bódizs, R. (2008). Music improves sleep quality in students with sleep complaints. Journal of Advanced Nursing, 62(3), 327–335.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18426457/
瞑想や呼吸法と音楽を組み合わせる方法
音楽は、瞑想や呼吸法などのリラクゼーション技法と組み合わせて利用されることもあります。瞑想研究では、呼吸や注意の集中を促す補助的な刺激として音楽が使われる場合があります。
リラクゼーション法の研究では、呼吸のリズムや身体の感覚に注意を向けることで心理的緊張が変化する可能性が報告されています。音楽はこうした実践の中で、一定のリズムや静かな音環境を提供する要素として用いられることがあります。
特にガイド付き瞑想やリラクゼーションプログラムでは、背景音として穏やかな音楽や環境音が使用されることがあり、注意の集中やリラックス状態の維持を助ける要素として研究されています。
瞑想について科学的に解説した記事はこちら。
・たった10分の瞑想で脳が変わる?EEGがとらえた、脳深部のリアルな変化
最新テクノロジーによって進む音楽とストレス管理の研究

音楽が人の心理状態やストレス反応と関係する可能性については、これまで主に心理学や医学の分野で研究されてきました。近年はこれに加えて、脳科学やデジタル技術を組み合わせた研究も進んでいます。特に、脳活動や生体信号を計測しながら音楽体験を分析する研究は、音楽が人の状態にどのように関係するかを理解するための新しいアプローチとして注目されています。
脳波や心拍などの生理データを測定する技術の発展により、人が音楽を聴いたときの身体反応をより詳細に観察できるようになりました。こうした研究は、音楽とストレス、集中状態、リラックス状態の関係を科学的に検証する基盤となっています。
脳科学と音楽テクノロジーの研究動向
音楽と脳の関係は、神経科学の分野でも研究が進められています。脳画像研究では、音楽を聴いたときに感情処理や報酬系に関わる脳領域が活動することが報告されています。こうした研究は、音楽体験が脳内の複数のネットワークと関係していることを示しています。
また近年では、脳波や生理信号を計測する技術を用いて、音楽を聴いているときの状態を分析する研究も行われています。これらの研究は、音楽体験をより客観的に理解するための方法として発展しており、音楽と人の心理状態の関係を探る新しい研究領域となっています。
参考:Koelsch, S. (2014). Brain correlates of music-evoked emotions. Nature Reviews Neuroscience, 15(3), 170–180. https://www.nature.com/articles/nrn3666
音楽体験を拡張するテクノロジー「VIE Tunes」
近年の研究では、音楽が感情状態や注意状態と関連する可能性が報告されており、音楽はリラックスや集中を目的とした日常的な活動の中で広く利用されています。こうした背景の中で、音楽体験とテクノロジーを組み合わせたサービスも登場しています。VIE Tunesは、目的とする状態に合わせて音楽を再生する仕組みを取り入れた音楽サービスの一つとして提供されています。
VIE Tunesでは、ユーザーが目的とする状態に応じて音楽を選択できる設計が採用されています。アプリ内では「SLEEP」「FOCUS」「CHILL」「ZONE」といったカテゴリが用意されており、ユーザーは用途に応じて再生する音楽を選ぶことができます。このように、目的に応じて音楽を使い分ける方法は、作業用BGMやリラックス用音楽を探す際の一つのアプローチとして利用されています。

作業環境や生活環境の中でどのような音を取り入れるかは個人によって異なりますが、音環境を意識的に整えることは、快適な作業環境づくりの一つの要素として研究でも注目されています。音楽サービスを活用することで、自分に合った音環境を見つけやすくなる可能性があります。
VIE Tunesは現在、アプリからの無料体験が可能です。
・iOS
まとめ:音楽を味方にしてストレスを軽減しよう
音楽は、日常生活の中で取り入れやすいストレス対策の一つとして多くの研究で取り上げられています。研究では、音楽を聴くことが心理状態や生理反応に関係する可能性が報告されており、通勤時間や作業時間、就寝前などさまざまな場面で活用されています。特別な準備が不要で、生活の中に無理なく取り入れやすい点も音楽の特徴です。自分に合った音楽や音環境を見つけることで、日常の中で気分転換やリラックスのきっかけをつくることができます。
WRITER
Sayaka Hirano
NeuroTech Magazineの編集長を担当しています。
ブレインテックとウェルビーイングの最新情報を、専門的な視点だけでなく、日常にも役立つ形でわかりやすく紹介していきます。脳科学に初めて触れる方から、上級者まで、幅広く楽しんでもらえる記事を目指しています。
一覧ページへ戻る