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ウェルビーイング

「朝、起きられない」は脳のSOS?──現代人の睡眠とメンタルヘルスを見直す

「アラームを何度止めても起きられない」「ベッドから出るのが億劫」──そんな朝のつらさ、誰しも一度は経験があるのではないでしょうか。けれど、それが毎日続いているなら、単なる「夜型生活」や「気合い不足」では済まないかもしれません。 実は、朝起きられない背景には脳の疲労や睡眠の質の低下、そしてメンタルヘルスの不調が関係していることが近年の研究で明らかになってきました。睡眠不足や慢性的なストレスが、脳内の前頭前皮質(意思決定ややる気を司る領域)の活動を低下させ、朝の起き上がるという行動自体を困難にする可能性があるのです。 なぜ「眠ったはずなのに疲れが取れない」のか 睡眠の質を決めるのは、単なる睡眠時間ではありません。2012年に重要な発見が報告されて以来、その機能が注目されている、脳内の老廃物を排出する「グリンパティック系」と呼ばれる脳の掃除機構は、深いノンレム睡眠の間に活性化することが知られています。 たとえば、2024年に発表された研究では、このグリンパティック系の機能がノルエピネフリンという神経伝達物質によって調整されることが新たに確認されました1。この作用がうまく働かないと、起きた瞬間から脳がどんよりしたままになってしまいます。 また、現代人は就寝直前までスマホを見たり、SNSで刺激を受けたりすることで、交感神経が優位なまま眠りに入ってしまうことも多くあります。その結果、浅い眠りになり、睡眠の回復力が損なわれるのです。 睡眠と脳波について、さらに詳しく知りたい方は以下の記事も参考にしてください。 https://mag.viestyle.co.jp/sleep-through-brainwaves/ 脳が「目覚める」ための3つのアクション では、どうすれば「起きられる朝」を取り戻せるのでしょうか? 脳科学と心理学の観点から、すぐに実践できる3つのアクションをご紹介します。 1. 朝日を浴びる 目覚めたらまずカーテンを開け、朝日を浴びましょう。光が目に入ることで、体内時計をつかさどる「視交叉上核」が刺激され、睡眠ホルモンであるメラトニンの分泌が抑制されるとともに、覚醒に関わる神経系の活動が高まります2。これが自然な目覚めのスイッチになるのです。 2. 起きた直後に軽いストレッチを 寝たまま深呼吸→ゆっくり手足を伸ばす→起き上がって肩回し、といった簡単な動作だけでも、血行を促進し、脳に「活動モードだよ」と伝える効果があります。運動は、気分を高める様々な神経伝達物質(ドーパミンやエンドルフィンなど)の活動に良い影響を与えることが知られており、これが朝の心地よさにもつながります3。 3. やさしい朝習慣を取り入れる たとえば、好きな音楽を流す、温かい飲み物を飲む、アロマを焚くなど、「自分にとって心地よい刺激」を朝に取り入れることで、脳が「今日も頑張ろう」と前向きになれる土台ができます。こうした小さな工夫が、朝の気分を大きく左右します。 「朝起きられない」は、ライフバランスを見直すチャンス 朝起きられない日々が続くのは、生活リズムや働き方そのものが、自分の脳や身体に合っていないサインかもしれません。最近では、「睡眠の質を高めることで心身のバランスを整える」というスリープウェルネスの考え方が広がりつつあります。たとえば、自分の体内時計(クロノタイプ)に合わせた生活リズムの見直しや、働き方の柔軟化がその一例です。 欧州の一部企業では、フレックスタイム制度の活用により、社員が自身の生活リズムに合わせて始業時間を選べるようにしたり、「シエスタ(昼寝)制度」を導入したりするなど、社員の自然なリズムを尊重する動きが出てきています。 日本でも、「睡眠改善を通じて生産性を上げる」ことを目的とした健康経営の取り組みが、徐々に広がりつつあります。自分の脳と身体の声をきちんと聞くこと、それが結果としてパフォーマンス向上にもつながるのです。 おわりに──無理して起きるより、「整えて起きる」を 朝、起きられないとき、「自分はダメだ」と思わずに「もしかしたら脳が休息を必要としているのかも」と一歩立ち止まることも大切です。 脳科学とウェルビーイングの視点から見れば、朝のコンディションは気合いではなく、整える工夫で変えられます。今日の朝がうまくいかなかったとしても、明日の朝を少しだけ気持ちよく迎えるためのヒントは、たくさんあります。 朝の過ごし方を見直すことは、メンタルヘルスとライフバランスを整える第一歩です。少しずつ、自分に合った「整える朝」を探してみてはいかがでしょうか?

ウェルビーイング市場拡大の背景──働き方と暮らしを変える次世代テクノロジー

世界的に注目を集める「ウェルビーイング市場」。その拡大の背景には、消費者の価値観の変化や企業の取り組み姿勢の変化、そしてテクノロジーの急速な進化があります。 本稿では、こうした要素がどのように絡み合い、ウェルビーイングという概念が経営や社会の中心へと進化してきたのかを解説していきます。 「モノよりコト」── 消費者の価値観の変化が市場を動かす ウェルビーイング市場が拡大してきた背景を考える上で、まず見逃せないのが消費者の価値観の変化です。 これまで、健康といえば「病気にならないこと」と捉えられることが一般的でした。しかし、パンデミックによって生活や働き方が大きく揺らぎ、心の安定や自分らしさ、人とのつながりといった「多面的な幸福」への関心が急速に高まりました。 特にZ世代では、「モノを持つこと」より「体験」や「心地よさ」を重視する傾向が強まっています。2025年3月に18〜29歳の男女を対象に実施された、ReBear合同会社とOshicocoによる合同調査では、最も高額だった支出として「旅行・レジャー」や「推し活」が上位を占め、住宅や車は下位に来る結果となりました。 出典:株式会社Oshicoco「【Z世代の常識】モノ消費からコト消費へ!ReBearとOshicocoが「決済手段と消費行動の多様化」について合同調査を実施」 調査対象の半数以上が「体験型消費にお金をかけたい」と答えており、コト消費志向がより顕著になっています。 こうした価値観の変化を背景に、「睡眠の質を測る」「マインドフルネスを習慣化する」「脳や心を整える」といったサービスへの関心が高まり、ウェルビーイング関連市場の成長を後押ししています。 参考:株式会社Oshicoco「【Z世代の常識】モノ消費からコト消費へ!ReBearとOshicocoが「決済手段と消費行動の多様化」について合同調査を実施」 福利厚生から経営戦略へ──変化するウェルビーイングの位置づけ 続いて注目すべきは、企業によるウェルビーイングへの取り組みが大きく変化している点です。 かつてのウェルビーイング施策は、社員の健康診断やメンタルヘルス講座といった、いわば福利厚生の一環として実施されていました。しかし、長時間労働やメンタル不調による離職、労働生産性の低下といった課題が顕在化する中で、社員の心身の健康状態が企業活動全体に大きな影響を与えることが明らかになってきました。 その結果、現在では社員の健康は単なる自己管理の問題ではなく、企業のパフォーマンスや競争力を左右する「経営資源」として捉えられるようになり、ウェルビーイングは戦略的な取り組みへと進化してきています。 たとえば、Googleでは、社員の集中力やストレス軽減を重視したオフィス環境の設計を進めるほか、マインドフルネスプログラム「Search Inside Yourself」を導入することで、心の健康と生産性の両立を図っています。 また、Microsoft Japanでは、社員の働き方を可視化する「Microsoft Viva Insights」を活用し、会議時間の最適化や作業負荷の分析を行うことで、ウェルビーイングの向上とパフォーマンス改善に取り組んでいます。 このように、社員の心身の状態を可視化し、働く環境や制度に活かす取り組みは、従来の福利厚生の枠を超えて、経営全体に組み込まれる戦略的な施策へと変化しています。こうした動きは、「健康経営」として注目され、企業価値の向上にもつながると期待されています。 健康経営についてより詳しく知りたい方は、以下の記事を参考にしてください。 https://mag.viestyle.co.jp/health-and-productivity-management/ 脳や心の状態を「見える化」するテクノロジーの力 ウェルビーイング市場が拡大する中で、テクノロジーの進化が与える影響も見逃せません。 脳波センサーやバイタルデータ解析、AIによるストレス推定など、ニューロテクノロジーの進化は、これまで曖昧だった「こころの状態」を定量的に把握することを可能にしました。 たとえば、集中力が高まる音環境や、リラックスに適した照明条件をAIやセンシング技術が提案するサービスも登場しています。 VIE株式会社が開発した「VIE Tunes Pro」では、“なりたい状態の音楽”を選曲することで、集中やリラックスといった状態を、同社が脳科学的なアプローチに基づいて開発した音楽(ニューロミュージック)からサポートする体験が可能です。さらに、その時の集中度やリラックス度を、脳波計を用いて数値化し、自身のパフォーマンスの最適化に活かすことができます。 このような脳の状態に応じた音環境のパーソナライズは、働く時間や休息の質を高める新たなアプローチとして注目されています。 また、アイリスオーヤマは、働き方改革の一環として、オフィスにおける照明環境の最適化に取り組んでいます。同社の東京アンテナオフィスでは、色温度を変化させるLED照明を導入し、時間帯や業務内容に応じて照明の色や明るさを調整することで、社員の集中力やリラックス効果の向上を図っています。 このように、脳や感覚に寄り添った環境づくりを支えるテクノロジーの進化が、日常の中でのウェルビーイング実践を後押ししています。 今後は、こうした“パーソナライズド・ウェルビーイング”の需要がさらに高まり、業種や世代を問わず活用の場が広がると見られています。 参考:アイリスオーヤマHP「働く人のウェルネスを高めるWELL認証とは?」 「脳と心」の市場は社会インフラに進化するか ここまで見てきたように、脳や心の状態を可視化するテクノロジーは、個人のウェルビーイング向上だけでなく、企業の経営戦略や教育・福祉の現場にも活用され始めています。 かつては医療や研究の専門領域だった「脳と心」に関するデータが、いまや日常の中で活かされる時代へと移り変わりつつあり、脳科学やニューロテクノロジーの進展が、人々の暮らしそのものを支えるインフラとしての役割を担い始めているのです。 たとえば、集中しやすい空間設計や、ストレスに気づく仕組み、孤立を防ぐ見守りなど、生活のあらゆる場面で「脳と心の状態に応じた支援」が組み込まれていく未来は、決して遠くないかもしれません。 それは、単にテクノロジーの導入を進めるということではなく、「人がよりよく生きる」ための社会設計の一部として、脳と心に向き合う姿勢が問われる時代が来ているとも言えます。 脳と心の市場が社会の基盤に組み込まれていく──。その兆しはすでにあちこちに現れており、今後のウェルビーイングのあり方を考えるうえで、避けては通れないテーマとなっていくでしょう。 まとめ:今、ウェルビーイングは「選ばれる理由」になる ウェルビーイング市場拡大の背景を読み解くと、私たちの生き方や働き方、そして何を大切にするかという価値観が、これまでとは大きく変わり始めていることが見えてきます。 企業にとっては、従業員の定着や採用力、ブランド価値向上に直結する要素として、ウェルビーイングの本質的な取り組みが求められています。テクノロジーを活用し、「自分の状態を知り、整える」ことが可能になった今、私たちの暮らしと仕事の質は大きく変わろうとしています。 次回は、ウェルビーイングの推進を支える具体的な国・自治体の支援体制に焦点を当てていきます。

変化する国内外のウェルビーイング市場環境

働き方や価値観の多様化を背景に、ウェルビーイング市場は世界的に成長を加速させています。従来、心と体の健康を指す概念だったウェルビーイングは、いまや経営戦略や産業創出の中心的テーマとなりつつあります。その背景には、メンタルヘルス問題の深刻化や高齢化社会の進行、そして脳科学やニューロテクノロジーの進展があります。 本稿では、ウェルビーイング市場の変化と今後の展望について、ニューロテックに着目した視点からご紹介します。 脳科学×メンタルヘルス──「見える化」から始まるウェルビーイング支援 パンデミックを契機に、世界中でメンタルヘルスケアの重要性が改めて注目されるようになりました。働き方の変化や社会不安の高まりにより、孤独感の増加、ストレスの蓄積、意欲の低下といった問題が表面化し、ビジネスパーソンの生産性や企業の持続可能性にも影響を及ぼしています。こうした背景のもと、ウェルビーイングを支援する市場は国内外で急速に拡大しており、なかでも注目されているのが、脳科学の知見を活用した新しいアプローチです。 たとえば、脳波をリアルタイムで計測し、ストレスや集中度を可視化する技術は、近年急速に実用化が進んでいます。こうした脳波計測デバイスは、瞑想やマインドフルネスの効果測定や、集中状態の分析などに活用され、企業の健康経営の一環としても導入が進んでいます。さらに、AIを用いた脳波解析により、「どのような環境でパフォーマンスが上がるか」や「どの音楽がリラックスに貢献するか」といった個別最適化のアプローチも登場しています。こうした科学的アプローチは、従業員の主観に頼らずに、こころの状態を客観的に把握できる手段として期待されています。 認知機能ケアが日常へ──生活に溶け込む脳科学 また、近年では、認知機能を維持・改善するための技術にも脳科学が応用されるようになり、その広がりが注目されています。特に高齢化が進む日本においては、認知症予防や脳の健康管理が社会的な課題となっており、その解決手段としてニューロテクノロジーが注目されています。 その代表例が、ニューロフィードバックやデジタルセラピー(DTx)といった分野です。ニューロフィードバックは、脳波をフィードバックしながらトレーニングを行うことで、集中力や記憶力の改善、さらにはADHDやうつ病の緩和にも効果があるとされ、米国ではすでに一部がFDA認可を受けています。これに追随する形で、日本国内でも医療機関との連携や、保険適用を見据えた研究開発が活発化しています。 また、近年ではVRやAR、AI技術と連携した認知リハビリテーションも登場し、没入感のある環境で脳を刺激する手法が注目されています。このように、脳科学を活用したウェルビーイング支援の取り組みは、医療・介護の分野にとどまらず、教育現場や職場での学習支援、さらにはスポーツのパフォーマンス向上など、さまざまな領域へと広がりを見せています。 成長を続けるウェルビーイング市場と今後のビジネス機会 ウェルビーイング市場は、グローバルで見ても高成長を続ける分野です。Global Wellness Instituteの2024年の報告によると、世界のウェルビーイング関連市場は、2023年時点で6.3兆ドルに達しており、2028年には9兆ドルに拡大する見通しです(年平均成長率7.3%)1。なかでも、脳科学やAIとの融合によるソリューションは、他分野への波及効果も大きく、業界横断的な広がりを見せています。 出典:Global Wellness Institute たとえば、GoogleやAppleといったテック企業では、すでにウェルビーイング関連機能の開発に注力しており、スマートウォッチやヘルスケアアプリを通じて、ストレス、睡眠、集中度といった「脳と心」に関わる指標を、日常的に収集・分析できる時代が訪れています。 企業にとっては、こうしたデータを活用し、従業員のパフォーマンスを最大化する職場環境や、カスタマイズされた健康支援プログラムの設計が可能となります。実際に一部のグローバル企業では、眼電位や身体動作センサー、心拍データなどを活用して、「集中できる会議の時間帯の把握」や「リラックスできる空間デザイン」の実証が進んでおり、これは日本企業にとっても新たな競争力強化のヒントになるでしょう。 まとめ:ウェルビーイングを経営と社会の中心に ウェルビーイング市場は今後も、脳科学とテクノロジーを軸とした「見える化」と「最適化」によって進化を遂げていくことが予想されます。特に「脳」にアプローチすることは、私たちの行動・感情・判断の源に直接働きかける方法であり、医療だけでなく教育、働き方、まちづくりなど、あらゆる領域に影響を与える可能性を秘めています。 企業としては、単なる福利厚生やストレス対策ではなく、「科学に基づくウェルビーイング経営」をいかに早期に取り入れられるかが、これからの差別化要因となるでしょう。 ウェルビーイングと脳科学の接点を理解し、次の一手を見据えること、それこそが、持続可能で創造的な未来を築く第一歩になるのではないでしょうか。

脳科学でわかる睡眠改善のコツ──脳とメンタルの深い関係

皆さんは最近、しっかりと眠れていますか?忙しい現代人は、つい睡眠時間を削りがちです。しかし、最新の脳科学の研究により、睡眠が私たちの脳や心の健康(メンタルヘルス)、そして日々の生活バランスに、決定的な役割を果たすことが明らかになってきました。 ここでは、2021年以降の睡眠改善に関する最新の脳科学的知見をもとに、睡眠とウェルビーイングの関係や、日常生活で活かせる改善ポイントを解説します。 最新の研究が示す、睡眠と脳の関係 2024年の研究では、睡眠中に脳内の神経ネットワークがポンプのように働き、脳組織にリズミカルな波を起こして、老廃物を洗い流す仕組みが確認されました1。このプロセスのおかげで、朝には頭がスッキリし、長期的にも脳の健康維持に役立つと考えられています。 また、睡眠は脳の老化や学習能力にも影響します。例えばMRIを用いた研究では、24時間の徹夜で脳の老化が1~2歳進んだ状態になると報告されています2。さらに慢性的な睡眠不足は、脳内に小さな損傷を蓄積し、将来的な脳卒中や認知症リスクの上昇とも関連するため、適切な睡眠を確保することが脳の健康には欠かせないのです。 学習や記憶の面でも、睡眠の重要性は再確認されています。慢性的な寝不足は新しい課題の習得能力を低下させることが分かっており、これは睡眠中に行われる記憶の定着(脳が情報を整理して保存する作業)が妨げられるためと考えられます。試験勉強や仕事のトレーニングでも、夜更かしで詰め込むよりしっかり寝たほうが効率よく成果が出るでしょう。 睡眠とメンタルヘルス、ライフバランスの深い関係 良質な睡眠は心の安定に直結しています。2023年末の大規模分析では、わずか数時間の睡眠不足でもポジティブな感情が減り、不安感が増すことが示されました3。寝不足の翌日に「なんだか気分が晴れない」「イライラしやすい」と感じた経験がある人も多いでしょう。 さらに慢性的な寝不足や不眠は、うつ病や不安障害のリスクを大幅に高めます4。逆に睡眠を改善すれば、こうした精神的ストレスが和らぐことも研究で示されています5。よく眠れるようになると気持ちが前向きになり、日常の小さなトラブルにも柔軟に対処できるようになるでしょう。 しかし残念ながら、日本では慢性的な睡眠不足が蔓延しています。厚生労働省の調査では、働き盛り世代の4割以上が1日6時間未満しか眠れていません6。睡眠不足は作業能力の低下や重大事故につながることも指摘されています。しっかり眠ることは、心の健康を保つだけでなく、仕事で力を発揮し、毎日を気持ちよく過ごすための基本になります。 今日からできる睡眠改善のポイント 最後に、脳科学の知見を踏まえた、日常生活で実践しやすい睡眠改善のヒントを紹介します。できるものから取り入れてみてください。 生活リズムを整える 平日も休日も毎日なるべく同じ時間に就寝・起床し、体内時計を安定させましょう。朝起きたら太陽の光を浴びて脳に朝を知らせ、睡眠リズムを整える習慣も効果的です。 寝る前のリラックスタイム 就寝前1時間はスマホやパソコンなど光るスクリーンを見るのを控え、心身をリラックスさせましょう。明るい光は脳を覚醒させて眠気を妨げます。照明を落とし、読書やストレッチなど静かに過ごすのがおすすめです。 睡眠環境を快適に 寝室は静かで暗く、室温も快適に整えましょう。自分に合った寝具を使うことも大切です。音や光が気になる場合は耳栓やアイマスクも有効です。 日中の適度な運動 日中に適度に体を動かして程よく疲れておくと、夜はぐっすり眠れます。有酸素運動やストレッチは、ストレス解消にもなり一石二鳥です。ただし就寝直前の激しい運動は避け、寝る2~3時間前までに済ませましょう。短い昼寝(20分程度)は効果的ですが、長すぎる昼寝は夜の睡眠を妨げるので注意です。 カフェインとアルコール 夕方以降はコーヒーや緑茶などカフェインを含む飲み物は避けましょう。アルコールは一時的に寝つきをよくしますが、眠りを浅くするため、寝酒も控えるのが無難です。 これらのポイントを意識すれば、睡眠の質と量は少しずつ改善していくでしょう。十分な睡眠が確保できれば脳の働きが高まり心も安定します。その結果、日中のパフォーマンスが向上し、人生全体の満足度(ウェルビーイング)も上がっていくはずです。毎日の睡眠を大切にして、心身ともに健やかな生活を送りましょう。

自分の“好き”に従い研究の道へ:『恋愛の脳科学』研究者・藤崎健二さんの背景と原点

今回は、京都大学大学院で「恋愛の脳科学」の研究に取り組まれている藤崎さんにお話を伺いました。インタビューの前半では、藤崎さんの研究に至るまでの背景やこれまでの研究成果などについて詳しくご紹介していますので、ぜひあわせてご覧ください。 https://mag.viestyle.co.jp/interview05/ インタビューの後半では、藤崎さんのパーソナルストーリーに焦点を当て、幼少期の生活や現在の趣味、研究に関するエピソードなどについて伺いました。 研究者プロフィール 氏名:藤崎 健二(ふじさき けんじ)所属:京都大学大学院 文学研究科 博士後期課程研究室:阿部研究室研究分野:恋愛、対人認知、fMRI 就職か進学かーー背中を押したのは自身の経験と一冊の本 ── まずは改めて簡単に自己紹介をお願いします。 現在は京都大学大学院文学研究科に所属し、研究に取り組んでいます。学部時代は慶應義塾大学理工学部で、脳波や心拍などの生理指標の解析に取り組んでいました。その後、恋愛関係の維持や構築を支える脳の仕組みについて深く研究したいと思い、大学院から京都大学に進学しました。 ── 大学院への進学はいつから考え始めましたか? 大学3回生の冬頃から、大学院への進学を考え始めました。元々は大学卒業後に就職するつもりでしたが、就職活動を進める中で、自分の心の声に従って好きなことや楽しいと思えることを仕事にしたいと思うようになりました。そんなとき、学部時代に図書館で偶然手に取ったのが『人はなぜ恋に落ちるのか?: 恋と愛情と性欲の脳科学』という一冊でした。恋愛の脳研究を専門にする第一人者の研究に触れたことで、昔から関心のあった「恋愛のしくみ」について本格的に研究したいという気持ちが強まり、大学院進学を決めました。 ── 始めは研究者になることは考えていなかったのですね。研究テーマの根幹となる、恋愛のメカニズムへの関心はどういった経緯でもつようになったのでしょうか。 自分自身の恋愛経験が大きかったと思います。これまでの人生の中で、特定の相手に強く惹かれる経験を通じて、恋愛がもたらす多幸感や心の揺れ動きは、日常で経験する感情とは質的に異なる、非常に特別なものだと実感しました。そうした体験から、なぜ恋愛はこれほどまでに人の感情や行動に強く影響を与えるのか、その背景にある脳の働きについて関心を持つようになりました。 ── ご自身の経験が研究へのモチベーションだったのですね。元々考えていた進路を変更する上で、苦労されたことはありますか? 周りの友人のほとんどが大手企業の就職を目指す中で、別の道を選ぶのは不安もあり、勇気が要る決断でした。そんな中、幸いにも同じように研究の道を志す先輩方が身近にいて、その存在が自分の背中を押してくれました。 人生のモットーはイチロー選手への憧れから ── 子供のころは脳科学以外にどのようなことに興味を持っていましたか? 小さい頃から、生き物に強い興味がありました。幼稚園の頃は昆虫が好きで、「昆虫博士」と呼ばれていたこともあります。小学生になると犬を家に迎え、高校時代には海外の爬虫類などを飼育していました。今でもいろんな動物が好きですが、犬が1番愛おしいです。 ── 様々な生き物に関心をもち続けた半生だったのですね。子供のころからの興味が現在まで続いているとのことですが、他にも今の自分に影響を与えた出来事や影響を受けた人物はいますか? はい、元メジャーリーガーのイチロー選手から大きな影響を受けました。小学校から中学3年生まで野球を続けていたこともあり、当時からイチロー選手は馴染みのある存在でした。あるとき、読書感想文のために彼に関する本を読んだことをきっかけに、その生き方や考え方に深く共感し、自分も彼のように信念を持って道を切り開いていける人になりたいと思うようになりました。 ── 具体的にはイチロー選手のどのような姿に影響を受けたのでしょうか? 好きなことを徹底して追求する姿勢に、強く影響を受けました。イチロー選手が野球という好きなことに出会い、誰よりも打ち込んできたからこそ、あれだけの成果を残せたのだと思っています。その姿勢は、「好きなことや楽しいと感じられることを大切にしたい」という、私自身の価値観の原点となっており、大学院進学を決める上でも大きな指針になりました。 また、直面する課題に対して原因の仮説を立て、検証し、改善へとつなげていくというイチロー選手の姿勢にも強く惹かれました。単に努力するのではなく、常に思考を巡らせながら自分を高めていくその在り方に、深い知性と探究心を感じました。 とはいえ、「修学旅行でも握力トレーニングを終えるまでは友達と遊ばなかった」という彼のストイックさについては尊敬しつつも、自分にはまだ難しいと思ってしまいます(笑) 研究は楽しい!ーーこれからの研究者に伝えたいこと ── 普段はどのように過ごされているのですか? 研究活動が生活のほとんどを占めています。その他には、研究室のリサーチアシスタント業務や、学部時代にアルバイトとして勤めていた会社からの委託業務などに取り組んでいます。 ── 研究やその関連活動が生活の一部となっているのですね。息抜きとして何か取り組んでいることはありますか? 今は料理にハマっています。昔から美味しい料理が好きで、学部時代は服と食べ物にバイト代を費やしていました。しかし、3年前に東京から京都に引っ越したことで美味しいお店と出会う頻度が減ってしまったので、節約も兼ねて自分で料理をするようになりました。最近はお肉やチーズの燻製料理にハマっています。 ── 最後に、これから同じ領域に挑戦してみたい学生や若い研究者に向けて、メッセージをお願いします。 研究に興味がある方には、「研究は楽しい!」ということをお伝えしたいです。アカデミアには自分の興味関心を探究できる世界が広がっており、大変なことも多いですが、この道を選んで本当に良かったと思っています。 少しでも関心がある方は、ぜひ勇気を出して、実際に研究をしている方の話を聞いてみることをおすすめします。近い分野でご活躍されている研究者の方々とは、研究に関する議論を深めたり、将来的に共同研究を行うなどのかたちでつながりを持てれば幸いです。 NeuroTech Magazineでは、ブレインテック関連の記事を中心にウェルビーイングや若手研究者へのインタビュー記事を投稿しています。また、インタビューに協力していただける研究者を随時募集しています。 応募はこちらから → info@vie.style

五月病対策:新生活の疲れを乗り越えて心も軽やかに

五月病ってなに? 4月は入学や就職など新生活のスタートでワクワクしますよね。しかし、ゴールデンウィーク明け頃になると「なんだかやる気が出ない…」と感じる人が増えてきます。日本ではこの時期に見られる軽い憂うつ症状のことを俗に「五月病」と呼びます。 五月病は、新しい環境に適応できないまま連休を挟んで心身の疲れが出てしまい、気分が落ち込んだり、無気力になったりする状態です。医学的には「適応障害」などと診断されることもあります。症状としては、憂うつな気分ややる気の低下のほか、不安感や焦りが出たり、人によっては不眠、疲労感、食欲不振など体の不調を感じることもあります。 実はこの五月病は、学生から新社会人、ベテランの社会人まで誰にでも起こり得るものです。新年度の緊張が一段落するとホッとしますが、その反動で心にぽっかり穴が空いたように感じたり、長い休み明けで日常に戻るのが億劫になったりすること、ありませんか?それが「五月病」のサインかもしれません。 五月病かな?と思ったら 「もしかして五月病かも」と思ったら、まずは自分の心と体の状態に気付いてあげましょう。「最近なんだか元気が出ないな」「朝起きるのがつらい」といったサインに気づくことが第一歩です。 五月病は一過性のことが多いので、深刻に捉えすぎずに「ああ、今ちょっと疲れているんだな」と受け止めてみてください。自分を責めたり無理に奮い立たせたりする必要はありません。大切なのは、少し肩の力を抜いてリラックスすることです。 五月病の対策あれこれ では、気分が落ち込んでしまったときにどんな対策ができるでしょうか?ここでは、ビジネスパーソンから学生まで誰でも実践できるいくつかのヒントを紹介します。 適度に気分転換をする 勉強や仕事の合間に少し散歩をしたり、好きな音楽を聴いたりしてみましょう。新緑の季節でもありますし、外の空気を吸って軽く体を動かすだけでも、気分がリフレッシュします。趣味の時間をとることもおすすめです。 誰かと話す・つながる 一人で塞ぎ込まずに、信頼できる友人や家族に今の気持ちを話してみましょう。愚痴でも構いません。話すことで心が軽くなることがあります。また、以前の学校の友人や地元の仲間などと、久しぶりに会ってみるのも良い気分転換になります。 生活リズムを整える 夜更かしをせず十分な睡眠をとり、バランスの良い食事を心がけましょう。疲れているときほど基本的な生活習慣が乱れがちですが、実はそういう時こそ生活リズムを整えることが、心身の回復につながります。 逆に、ストレス発散のために暴飲暴食に走るのは逆効果です。お酒やジャンクフードに頼りすぎると、かえって体調を崩したり、後悔したりするので注意してください。 小さな目標を作る 「たまっていたメールの返信を全部片付けたら、自分にご褒美」「授業の後に好きなスイーツを食べる」など、ちょっとした楽しみを用意しておくのも効果的です。大きな目標でなくて構いません。小さな「楽しみ」や「達成感」を積み重ねることで、日々のモチベーションを維持しやすくなります。 必要なら専門家に相談を どうしてもつらいときや自分では対処しきれないと感じるときは、遠慮なく専門家に相談しましょう。学生であればスクールカウンセラーや保健室の先生、社会人であれば産業医や社内の相談窓口を利用するのも一つの手です。プロに話すのは勇気が要るかもしれませんが、心の健康のために恥ずかしがる必要はありません。 心のウェルビーイングとライフバランスを大切に 五月病の対策を考えることは、自分のメンタルヘルス(心の健康)やライフバランスを見直すことにもつながります。最近よく耳にする「ウェルビーイング」とは、心身ともに健康で充実した状態を指します。新生活で頑張ることも大切ですが、同時に自分が心地よく過ごせるバランスを取ることも同じくらい大事です。 今回紹介したように、適度に休息を取ったり人とつながったりすることは、心のウェルビーイングの第一歩です。心の元気が戻れば、新しい環境にも前向きに適応していけるでしょう。学校や仕事も大事ですが、自分自身の心と体はもっと大切にしてくださいね。 まとめ ゴールデンウィーク明けの憂うつ感は、決して珍しいものではありません。誰でも疲れたときはありますし、五月病かな?と思ったら焦らずに、今回紹介したような対策を試してみてください。そうすることで、「なんだ、意外と大丈夫かも」と心が軽くなってくるはずです。無理をしすぎず、自分のペースで日々を過ごすことで、きっと新しい季節を笑顔で乗り越えていけますよ。

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