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ニューロフィードバック

褒め方1つで成績が変わる!?褒められて伸びるかどうかは遺伝子の違い?

効率の良い学習方法や、結果に結びつくのに最適な勉強方法は、常に親も子も模索していると思います。実は「スペース学習」といって、効率の良い勉強方法というものは脳科学的に解明されているのです! 今回は、そのような『勉強の悩みに対する解決策』や、『言語学習とニューロテクノロジーの話』についてご紹介します。 前回のコラムはこちらです。 https://mag.viestyle.co.jp/columm07/ 同じことをやり続けるのはダメ?効率の良い勉強の仕方! 効率の良い暗記の方法や、勉強の仕方を知りたい人は、大勢いるはずです。個人差はありますが、「声に出しながら文字を書く」というように、マルチモーダルで視覚や聴覚など、あらゆる感覚を研ぎ澄まして覚えていくことは、効率が良いとされています。 また「分散学習」といって、例えば英語の勉強をしたいというときに、ひたすら英語をやるのではなく、途中で数学や古文を挟むなどして、ブロックに分けて取り組むほうが、効率よく勉強できるとも言われています。同じことをやり続けることは、必ずしも効率が良いわけではなく、「スペーシング」「スペース学習」といって、一回やったら間に何か他のことをやる時間を作ることにより、集中力を発揮しながら、効率の良い勉強が期待できます。 褒め方一つで成績が変わる!結果に結びつく褒め方とは? 以前 やる気の引き出し方 で、報酬やご褒美はあまり良いパフォーマンスをもたらさない、ということが示された実験をご紹介しました。しかし、実は悪くないご褒美も中にはあります。 ある実験で、テストで良い結果が出たらご褒美のシールをもらえる群と、テスト勉強をしたらシールをもらえる群に分けたところ、後者の方が明確にテストで良い結果を残したことが分かりました。 どのように頑張れば成績が上がるのか不明確な中で、テストの点がたまたま良かった時に、ご褒美を与えられても、何をしたから良かったのかが分からないままです。 しかし、「インプット・アウトプットアプローチ」といって、勉強をして結果を出す因果関係の中で、その過程を評価することによって、「本を読んだから結果が出せたんだ」「この問題集に取り組めば出来るようになるんだ」というように、成績が上がるための勉強方法が強化されていき、結果としてアウトプットの成績が良くなっていきます。インプットに報酬を与えてやる気を出させれば、しっかりとアウトプットに繋がっていくのです。 日本の親は、子どものテストの点数や結果を褒める傾向にありますが、実はテストの点数が上がりそうなことをしているときに、子どもを褒めてあげるのが、一番良いとされています。 また「褒められて伸びるタイプ」と「叱られて伸びるタイプ」というように、2つに分けて考えることもできます。実際、日本人の8割は「褒められて伸びるタイプ」、2割は「叱られて伸びるタイプ」と答えるそうです。 学習をするときに働く、やる気に関わる「ドーパミンニューロン」には、遺伝的な個人差があります。何か物事がうまくいって、報酬がもらえたときに学習が促進するタイプの遺伝子を持っている人と、失敗をしてしまい、罰が来たときに「もうこんなことはやらない!」というように学習が促進するタイプの遺伝子を持つ人がいて、その割合はおよそ 8:2 だそうです。 このように、脳の中でのドーパミンニューロンのタイプは遺伝的に決まるため、「褒められて伸びるタイプ」であるか、「叱られて伸びるタイプ」であるかには個人差があるのです。 また、先ほどの「インプット・アウトプットアプローチ」とも関わってきますが、「あなたは頭がいいね」というように能力を誉められるのと、「勉強をして偉いね」というように努力を誉められるのとでは、後者の方が良い結果を出した、という実験もあります※。これは勉強だけでなく、「可愛いね」と言われるより、「毎日スキンケア頑張っていて偉いね」と言われる方が、もしかしたら、より嬉しく感じ、「もっと自分磨きを頑張ろう」と思えるようになるかもしれません。 このように、褒め方一つで、結果の良し悪しが変わってくるのです。 ※出典:Praise for intelligence can undermine children's motivation and performance. (apa.org), 2024年7月9日参照 「L」と「R」の違いが聞き取れるように!?語学学習の未来 英語や韓国語などの、日本語以外の語学学習に苦労する人は、たくさんいると思います。自分にとっての第一言語を話す時に、「言語中枢」といって、発話に関する脳の部分が働くのですが、第二言語、第三言語を話すときは、その処理の仕方が少し変わってしまいます。これが、第一言語以外の語学を習得する難しさに繋がっています。しかし、ニューロテクノロジーを活用することで効果的に語学学習をおこなうことができる、ということが分かっています。 例えば、言語に関わるような脳の領域に、電極を貼って電気を流すと、外国語学習や単語の記憶力が促進されるということが分かっています※。 また、言語の聞き取りに関しては、私たちの会社VIE の成瀬さんが開発した技術があります。英語の「L」と「R」は、聞き取ることも、発音することも日本人にとっては困難です。しかし、わずかな違いを脳が感知している様子をリアルタイムで画面に映し出し、ニューロフィードバックを行うことによって、何十年も聞き取れなかった「L」と「R」の違いを、聞き取れるような聴覚経路に脳を再配線してあげることが可能になるのです。 また、最近では語学学習に向いている「性格」がある、ということが言われています。人と話すことが好きな「外交性」や、オープンマインドといった「開放性」のような特性を持っている人は、語学の習得が早いことが分かっています。 ニューロフィードバックについてはこちらの記事でも紹介しています。 https://mag.viestyle.co.jp/columm36/ ※出典:Learning of Foreign Language Sounds Boosted by Non-invasive Nerve Stimulation (scitechdaily.com), 2024年7月9日参照 まとめ 学び方には人それぞれの方法がありますが、その方法が適切でないことも多々あります。一つのことに集中した方がいいと思っていても、実は分散した方がよかったり、やる気の出し方も誉め方一つで変わったりするのです。 また最近では、脳に直接アプローチするような刺激や、ニューロフィードバックの力を使って、第二言語の学習を促進する、夢のような学習技術が実現しつつあります。 🎙ポッドキャスト番組情報 日常生活の素朴な悩みや疑問を脳科学の視点で解明していく番組です。横丁のようにあらゆるジャンルの疑問を取り上げ、脳科学と組み合わせてゆるっと深掘りしていき、お酒のツマミになるような話を聴くことができます。 番組名:ニューロ横丁〜酒のツマミになる脳の話〜 パーソナリティー:茨木 拓也(VIE 株式会社 最高脳科学責任者)/平野 清花 https://open.spotify.com/episode/6wbqS2XZFerTYCPa6QKlFG?si=2-OFlUTFQ-q0Oi-6-0FkCA 次回 次回のコラムでは、『睡眠と学習の関係性』について脳科学的な視点からご紹介します。 https://mag.viestyle.co.jp/columm09/

恋心は脳が生み出す幻想だった?/好きな人と関係性を持続させる方法とは?

人を好きになるという気持ちは、脳の「書き込み」技術によって簡単に操作できてしまうと言われています。 それを利用して好きな人との関係性を持続させることができたり、告白を高確率で成功させることができたり?恋愛とニューロテクノロジーの掛け合わせは、より良い人間関係を築くヒントになるかもしれません。 今回は脳科学の観点から、『好きな人と関係性を持続させる方法』についてご紹介します。 前回のコラムはこちらです。 https://mag.viestyle.co.jp/columm05/ 人を好きになるのは脳の幻想!?恋愛に応用できるニューロフィードバック ニューロテクノロジーとは、お酒とニューロテクノロジー で紹介したように、脳の情報を「読み取る」ことや、脳に情報を「書き込む」技術のことです。 そして、人を好きになるというのは脳の幻想でもあり、それを証明する次のような実験があります。 Aさんに100人の男性の写真を見せ、10点満点で点数をつけてもらいます。そして好きでも嫌いでもない、中間の5点をつけた男性の後に、緑色の丸い図形の画像を見せます。そこでAさんは「この丸の図形を大きくしてください」と言われます。Aさんには知らせていませんが、実はこの丸い図形は、Aさんが好印象を持った男性を見た時の脳活動が現れると、大きくなる仕組みになっています。 そして、Aさんは5点の男性の写真を見た後に、いろいろなことを考えながら、工夫して丸を大きくする努力をし続けていくと、最初は5点の評価を下した男性に対して、より高い評価をするようになっていきます。 つまり、「書き込み」の技術=ニューロフィードバックにより、人を好きになる気持ちはコントロールできてしまうのです。 そのような観点で言えば、相手の趣味の話などを一緒にすることは、相手が「好き」と感じているフィールドに自分も立つことであり、相手に好印象を持たれやすいのかもしれません。 これをそのまま事業化すると倫理的な問題にも繋がってしまいますが、例えば「幸せ」を感じにくくなってしまった熟年夫婦が、ニューロフィードバックでトレーニングをすることで、出会った頃のような夫婦仲を取り戻す、というようなことが可能になるかもしれませんね。 https://mag.viestyle.co.jp/braintech/ 告白を高確率で成功させるには?感謝の仕方一つで相手に好まれる? 勇気を出して告白をするのであれば、必ず成功させたいものですよね。「確実に告白を成功させる」というような脳科学の研究はまだ進んでいませんが、「お互いを好きになる」というところにヒントはあるかもしれません。 実は感謝をし合う人たちは、お互いを好きになりやすかったり、恋愛が持続しやすかったりすると言われています。そして、感謝の仕方にも気をつけられることがあります。 例えば、プレゼントをもらったときに、「私のためにこんなに高いものをありがとう」「時間をかけて選んでくれてありがとう」というような、コストに対する感謝を述べるのではなく、自分のニーズに応えるプレゼントをしてくれた「応答性」に感謝を述べることが効果的だと言われています。 「これ超欲しかったやつなの!ありがとう!」「ちょうどなくて困っていたんだよね、ありがとう!」というような「応答性」を確認し合えると、お互いを好きになりやすくなる傾向があります。 そのため、相手にプレゼントを贈るときは、相手のニーズをリサーチすることや、反対にプレゼントを受け取るときには、自分のニーズにあっていることを感謝することが効果的であると言えます。 カップルで長く付き合いを続けるために効果的なことは? 付き合う前からも大事なことですが、付き合ってからは、より相手の立場に立つことや、第三者的な視点に立つことは大切です。人間にとって「相手がどういう世界を持っているのか」という考えを持つことは難しく、どうしてもセルフィッシュになりがちです。相手の立場を考えるスキルを持つことはとても重要なことなのです。 カップルの関係性に関して、こんな実験があります。カップルが喧嘩をしたときに、「その喧嘩を第三者が見ると、どのように思うだろうか」「その喧嘩を自分が第三者的な視点で見ようとしたときに、何(感情など)がそれを妨げているか」を考えるトレーニングをしてもらいます。 この実験では、2人の関係性の中で第三者的な視点を持つことを意識すると、カップル同士の関係性がよくなるという結果が出ています。第三者的な視点を持つことは、人間関係の形成に良い結果をもたらすのです※。 しかし、第三者の視点に立つということは、容易なことではありません。そこで、最近ではニューロフィードバックの力を使って、第三者の視点に立つ訓練ができるようにもなっています。 私たちの会社 VIE では、このように「物の見方を変える」トレーニングを行うことによって、人間関係や社会生活がよくなるような事業を行うことができたら面白いと思っています。 ※出典:Finkel et al., 2013: Taking a third party perspective when dealing with marital conflicts improved marital satisfaction among couples over a year (wiseinterventions.org), 2024年7月5日参照 まとめ 恋心は脳の生み出す幻想にすぎないため、ニューロフィードバックで変えることができてしまいます。また、恋愛の形成や維持のためには、相手に感謝をすることや、相手の立場になり、思いやりの心を持つこと、第三者的な視点を持つことが大切です。そのようなトレーニングには、ニューロフィードバックが効果的かもしれません。 🎙ポッドキャスト番組情報 日常生活の素朴な悩みや疑問を脳科学の視点で解明していく番組です。横丁のようにあらゆるジャンルの疑問を取り上げ、脳科学と組み合わせてゆるっと深掘りしていき、お酒のツマミになるような話を聴くことができます。 番組名:ニューロ横丁〜酒のツマミになる脳の話〜 パーソナリティー:茨木 拓也(VIE 株式会社 最高脳科学責任者)/平野 清花 https://open.spotify.com/episode/0sThoyps6GsgPZ7Cxpa9gW?si=ULmLc7_kTpS_4eMlgZr7vw 次回 次回のコラムでは、脳科学の研究に基づいた『こどものやる気を引き出す方法』をご紹介します。 https://mag.viestyle.co.jp/columm07/

お酒とニューロテクノロジーで実現する新しい世界 

ニューロテクノロジーには脳情報を「読み取る」技術と、「書き込む」技術の2つの要素があります。 これらの技術は、自分の好みに合ったお酒を脳波から提案してくれたり、ノンアルコールでも酔ったときと同じような感覚に持っていけたりなど、「お酒」と「脳科学」の新しい世界の可能性を魅せてくれます。 今回は、『お酒とニューロテクノロジーで実現する新しい世界』をテーマに紹介します。 前回のコラムはこちらです。 https://mag.viestyle.co.jp/columm02/ ニューロテクノロジーとは?「読み取り」と「書き込み」の2つの要素 私たちの会社VIE では、ウェアラブルの脳波計を製作し、さまざまなニューロテクノロジーを用いた事業をおこなっています。 ニューロテクノロジーというのは、私たちの情報処理を担う「脳」をターゲットにし、脳がおこなう情報表現をセンシングして理解したり、ニューロフィードバックという技術を用いて、なりたい脳活動を実現させるトレーニング技術のことを指します。 ニューロテクノロジーには大きく2つの要素があります。1つは脳の情報を「読み取る」技術です。これは、自分がいま見ているものがヒトなのか、空なのかといったことや、右に行きたいのか、左に行きたいのか、というようなことを脳活動から解読する技術のことを指します。 もう1つの要素は、脳に「書き込み」をおこない、脳活動を変えていくという技術です。 例えば、音楽を聴いてリラックスをしている状態の脳活動が挙げられます。外部の技術を駆使して、音楽を聴かなくても、その状態の脳活動を作り上げていく、という技術が「書き込み」にあたります。 好みに合ったビールを脳波をもとに提案 近年、「お酒」と「ニューロテクノロジー」の融合により、新たな技術が期待されています。ここでは私たちの会社 VIE が挑戦してみたい、ニューロテクノロジーを利用した事業をいくつか紹介します。 1つ目は先ほどの「読み取る」技術を利用したものです。 みなさんは複数あるビールメーカーや種類の中で、言葉では表現しにくいけれど、何となくこのビールは口に合う気がする、好みではない気がする、というような感覚を抱いたことはありませんか?そのような脳の情報を記録し、「読み取る」ことで、みなさんの脳とビールをマッチングさせて、「この人ならこの味のビールを好みそう」という提案を行えるようになる技術が研究されています。 VIE が製作しているウェアラブルの脳波計を装着しながら、飲食をしているときの脳状態を記録をすることで、脳科学の観点から、好みに合った食べ物を提案できたら面白いなと考えています。 ノンアルコールで酔っ払うニューロフィードバック 2つ目は「書き込み」の技術を利用したものです。 最近ではソバーキュリアス(Sober Curious)と言って、お酒を飲まない生き方を選択する人が増えています。そのような背景から、お酒を飲まなくても、お酒を飲んでいる人たちと同じように楽しもうとする、ノンアルコールの市場が注目されています。 しかし「お酒」には、 以前 お酒に関する話 で紹介したように、飲むことによって気持ち良くなったり、人付き合いが円滑になったりする効果があります。その力を、アルコールを摂取しなくても表出できるようになったら、面白いと思いませんか? 例えば、Aさんの素面のときの脳波と、酔って気持ちの良いときの脳波を記録しておきます。そして素面のときのAさんに、酔って気持ち良くなっているときの脳波と今の脳波が、どれくらい近いのかを教えてあげます。もちろんAさんは素面のため、最初は酔ったときの脳波とはかけ離れた位置にいますが、脳波を酔ったときと同じ状態まで持っていくように、Aさんに促します。 すると、Aさんが好きなアイドルのことを考えたり、楽しかった飲み会を思い出したりと、脳波を変えるために試行錯誤する中で、Aさんの脳波が酔ったときの脳波に近づいた瞬間が生まれてきます。これを何度も繰り返していくことで、Aさんは「こういうことを考えれば、脳波を近づけられるんだ」と学ぶことができます。 このように自分の脳活動を見て、その脳の活動を自分で変えていくことを、ニューロフィードバックといいます。このスキルがあれば、アルコールを飲まなくても、酔ったときと同じような感覚に近づくことができるので、お酒を飲みすぎることなく楽しい時間を過ごせるのではないかと考えています。  最近の研究※では、アルコールは、快感をもたらす脳の部位(腹側線条体)を活性化し、不安に関わる扁桃体の反応を抑制することが示されています。このような反応を、脳情報を媒体に演出することができたら、それがお酒と同様に未来の嗜好品になっていくかもしれません。 ※出典:Why We Like to Drink: A Functional Magnetic Resonance Imaging Study of the Rewarding and Anxiolytic Effects of Alcohol | Journal of Neuroscience (jneurosci.org), 2024年7月2日参照 脳波についてはこちらの記事でも紹介しています。 https://mag.viestyle.co.jp/eegmeasurement/ まとめ ニューロテクノロジーは、脳の情報を「読み取る」、「書き込む」という2つの要素が中心となっています。「読み取る」技術では、脳活動をモニタリングしながら、好みのお酒をマッチングさせることができたり、「書き込み」技術では、ノンアルコールでもお酒を飲んだときのような心地よい状態に近づけることができたりなど多くの可能性が秘められています。私たち VIE もそのような事業に挑戦していきたいと思っています。 🎙ポッドキャスト番組情報 日常生活の素朴な悩みや疑問を脳科学の視点で解明していく番組です。横丁のようにあらゆるジャンルの疑問を取り上げ、脳科学と組み合わせてゆるっと深掘りしていき、お酒のツマミになるような話を聴くことができます。 番組名:ニューロ横丁〜酒のツマミになる脳の話〜 パーソナリティー:茨木 拓也(VIE 株式会社 最高脳科学責任者)/平野 清花 https://open.spotify.com/episode/4LGjDLc5eyhYy3qLlPdWpA?si=LQ9hYAa8RbS7GsqfYyfaIw 次回 次回のコラムでは、脳科学の視点から『蛙化現象』について深堀りしていきます。 https://mag.viestyle.co.jp/columm04/

「感謝」と「脳科学」で新ビジネス!感謝の効果を引き出すニューロフィードバック

これまで「感謝」と「脳科学」について紹介してきましたが、私たちの会社VIE でも、感謝とビジネスをつなげて、挑戦してみたいことがあります。 感謝にはたくさんのメリットがある一方で、前回も紹介したように、難しさもあります。その難しさの部分を脳でトレーニングして克服できたら、面白いと思いませんか? 今回は、感謝とニューロテクノロジーについて深掘りしていきます。 前回のコラムはこちらです。 https://mag.viestyle.co.jp/columm14/ 感謝を通して人は変われる!感謝がもたらす良い効果 感謝に関わる脳の研究は、ここ数十年でかなり蓄積してきています。例えば、以前感謝のコツでご紹介した「感謝日記」を数週間続け、その前後で脳の活動を比べた研究があります。 これにより、感謝のトレーニングをしていくことで、感謝ができるようになっていくことが分かっていますが、それだけでなく、向社会的な行動が増えていき、自分だけでなく他人にも貢献する、自分勝手な行動を取らないようになっていく、ということも分かりました※1。 そのような活動の変化とともに、自分がもらう利益に対して脳の報酬系(欲求が満たされたときに発動する神経系)が活動していた人たちが、相手の利益に対して活動するようになっていったそうです。 つまり、自分の幸せに対して喜んでいた人たちが、他人の幸せに対して、幸せを感じることができる人に変わったのです。これは、人は感謝を通して利他的になれるという、とてもポジティブな検証結果を示しています。 しかし、前回も紹介したように、負債の感情は感謝と混同しがちです。そこで、感謝を感じるときと、罪悪感を感じるときの状況を作り、脳活動を測定してみると、実は感謝を感じるときに特有なポジティブな脳活動があることが分かりました。 感謝のときに活動する報酬系には、μオピオイド系と呼ばれる、痛みを和らげたり、幸せなときに活動する部位があります。動物の場合には、毛繕いをするときにこの部位が活動しているとされています。毛繕いをしてあげると、痛みが和らいだり、μオピオイドが増えるそうで、これが人間でいう感謝に近いのではないかとされています※2。 感謝の中枢とも言えるような脳のネットワークがあるのなら、その脳活動を自分で高めていくトレーニングができれば、あまり感謝しにくい組織にいたり、偉い役職についている人でも、感謝できるようになるのではないでしょうか。そうすれば、会社の業績も上がり、チームメンバーの幸福度も上がって、良い利益をもたらしそうですよね。 ※1出典:Gratitude and well-being: A review and theoretical integration - ScienceDirect, 2024年10月2日参照 ※2出典:Frontiers | A Potential Role for mu-Opioids in Mediating the Positive Effects of Gratitude (frontiersin.org), 2024年10月2日参照 感謝とビジネスを繋げるために、VIE が挑戦したいこと 実際に感謝しにくいような、高い役職にいる人たちに、「感謝をしていきましょう!」と促すことは、難しそうです。しかし、ビジネスの世界で感謝というものは、チームパフォーマンスやメンタルヘルスに大きな影響を与えます。 現在、世界の企業では「人的投資」に注目が集まっています。お金を稼ぐだけでなく、従業員みんながハッピーに仕事ができるようにしようという考えが、今後ますます広まっていくでしょう。多くの人が「感謝」の重要性を感じるようになったとき、「感謝」のニューロフィードバックを使ったビジネスは成功する可能性が十分にあるのではないでしょうか。 また、現在興味を持っている分野として、仏教文化の慈悲の瞑想があります。その中にも「感謝の瞑想」というものがあり、これは、身近な人、自分、世界中の人々など、あらゆる人に対して感謝の気持ちを持つという瞑想法です。このような伝統文化とテクノロジーが融合するところにも、面白さがあると思っています。 ニューロフィードバックについては、こちらの記事でも紹介しています。 https://mag.viestyle.co.jp/neuro_feedback/ まとめ 感謝は脳の中で起きるものであり、そのメカニズムはだんだん解明されてきています。ニューロフィードバックの技術を使えば、感謝をしにくい人たちが、感謝をしやすい脳活動を起こせるようになると期待されており、私たちの会社VIE でも、そのようなことに挑戦していきたいと考えています。 そして、ニューロテクノロジーを通して、たくさんの場面で感謝を生み出し、社会に貢献できたらと思います。 🎙ポッドキャスト番組情報 日常生活の素朴な悩みや疑問を脳科学の視点で解明していく番組です。横丁のようにあらゆるジャンルの疑問を取り上げ、脳科学と組み合わせてゆるっと深掘りしていき、お酒のツマミになるような話を聴くことができます。 番組名:ニューロ横丁〜酒のツマミになる脳の話〜 パーソナリティー:茨木 拓也(VIE 株式会社 最高脳科学責任者)/平野 清花 https://open.spotify.com/episode/7gH4qs2Tz6L2uDzpwiN4zr?si=8qHqN50US-qaQnc5miDBGg 次回 次回のコラムでは、日常生活で役立つ『人間の意思決定』に関するお話をご紹介します。 https://mag.viestyle.co.jp/columm16/

ブレインテックを活用したダイエット:革新的なアプローチと成功の秘訣

多くの人が理想の体型を目指し、さまざまなダイエット方法に取り組んでいますが、途中で挫折してしまうことも少なくありません。食欲をコントロールし、ストレスを管理し、モチベーションを維持することは、ダイエットの成功に不可欠です。 そこで登場するのが、最新の脳科学技術「ブレインテック」です。ニューロフィードバックで食欲を調整し、ストレスをリアルタイムでモニタリングするアプリ、そして認知行動療法でポジティブな思考を育むプログラムが、あなたのダイエットを強力にサポートします。 ダイエットの重要性と社会的課題 ダイエットは、単に体重を減らすだけでなく、健康全般にわたる多くの利点があります。心臓病や糖尿病、がんの一部など、肥満や過体重はさまざまな健康リスクを引き起こす可能性があるため、体重を適切に管理することはQOL(生活の質)を保つうえで欠かせません。 しかし、現代社会ではファストフードや運動不足が普及し、肥満率が増加しています。忙しい生活を送る多くの人々が、手軽に食事を済ませるためにファストフードを選びがちです。その結果、高カロリーで栄養バランスの悪い食事が日常化し、肥満の原因となっています。さらに、デスクワークや自動車の利用が一般的になり、日常的な運動量が減少しています。 また、メディアや広告による理想的な体型の押し付けも大きな問題です。特に若者の間では、極端に細い体型を理想とする風潮が広まり、過度なダイエットや摂食障害を引き起こすことが少なくありません。これにより、健康を害するリスクが増加しています。 これらの課題に取り組むためには、個々の努力だけでなく、社会全体での意識改革や取り組みが必要です。ダイエットは外見のためだけでなく、心身の健康を守り、より良い暮らしを実現するための大切な手段です。今こそ、社会全体でその意義を再認識する必要があります。 ダイエットにおけるブレインテックの活用方法 ブレインテック、すなわち脳科学技術の進歩は、ダイエットにも革新的な変化をもたらしています。本セクションでは、ブレインテックがどのようにダイエットに役立つかを具体的な例を挙げて解説します。 ブレインテックについて、基本的な情報が知りたい方は以下の記事も参考にしてください。 https://mag.viestyle.co.jp/braintech/ 食欲コントロールのためのニューロフィードバック ニューロフィードバックは、脳波をモニタリングし、リアルタイムでフィードバックを提供する技術です。この技術をダイエットに応用することで、以下のような効果が期待できます。 食欲の調整:ニューロフィードバックを使用することで、脳の食欲に関与する部分をトレーニングし、過食やストレス食いを減少させることができます。たとえば、特定の脳波パターンが食欲を増進させる場合、そのパターンを変えるトレーニングを行うことで、食欲を抑えることが可能です。 自己コントロールの強化:ユーザーは、自身の脳波の変化を視覚的に確認しながら食欲をコントロールする方法を学ぶことができます。これにより、意識的に食事の選択を改善することができます。 脳波の変化がリアルタイムで視覚的にフィードバックされることで、無意識に働く食欲の調整を、意識的にコントロールするスキルを身につけることが可能になります。この技術は、過食や間食の抑制に特に効果的で、ダイエット成功の一助となります。 ニューロフィードバックについて詳しく知りたい方は、こちらの記事を参考にしてください。 https://mag.viestyle.co.jp/neuro_feedback/ モニタリングアプリでのストレス管理 ダイエットの成功にはストレス管理も欠かせません。ストレスが強くなると過食に走りやすくなり、栄養バランスの取れた食事を選ぶのが難しくなる傾向があります。 ブレインテックを応用したモニタリングアプリは、ストレスの可視化と調整をサポートするツールとして活用できます。以下に、その主な機能をご紹介します。 ストレスレベルのリアルタイムモニタリング:ブレインテックを利用したアプリは、脳波センサーや心拍変動モニターと連動してストレスレベルをリアルタイムで追跡します。 たとえば、イヤホン型の脳波計やヘッドバンド型の脳波センサーを利用して脳波を測定し、心拍変動モニターも併用することで、より正確なストレスの評価が可能になります。これにより、ユーザーは自分のストレスが高まるタイミングを把握し、その状況に応じた適切な対処法をとることが可能になります。 リラクゼーション技術の提案:ユーザーがどの程度のストレスを感じているかをリアルタイムで把握し、ストレスレベルが高まった際には、瞑想や深呼吸などのリラクゼーション技術を提案します。 たとえば、アプリがユーザーのストレスレベルの上昇を検知すると、すぐにリラクゼーションの通知を送り、具体的な方法をガイドします。これにより、ストレスの緩和をサポートしてくれます。 これらの機能により、ブレインテックを活用したモニタリングアプリは、ストレスによる過食を防ぎ、健康的なダイエットを継続するための環境を整えるのに役立ちます。リアルタイムでのデータ追跡と、個別に最適化された対処法の提案によって、ユーザーはストレスをより効果的に管理し、ダイエットの目標達成に近づくことができます。 認知行動療法によるモチベーション向上 ダイエットを成功させるには、モチベーションを持続させることが重要です。認知行動療法(CBT)は、否定的な思考パターンを見直し、行動の改善を促す心理療法であり、ダイエットにおいてもこの手法を活用することで、モチベーションの維持・向上が期待できます。 目標設定と達成のサポート:アプリやデバイスを使用して、具体的なダイエット目標を設定し、その達成に向けた計画を立てると、ユーザーは進捗を視覚的に確認できるため、モチベーションを維持しやすくなります。 ネガティブな思考の再構築:自己否定的な思考や失敗への不安を認識し、それをポジティブな考えに置き換えるトレーニングを行います。たとえば、「私はダイエットに失敗する」という思考を「私はダイエットを続ける力がある」に変えることで、ポジティブな行動変容を促します。これにより、自己効力感が高まり、ダイエットの継続が容易になります。 ブレインテックを活用したアプリは、ユーザーの思考パターンをモニタリングし、リアルタイムでフィードバックを提供することで、認知行動療法(CBT)の効果を最大限に引き出します。これにより、ユーザーはモチベーションを高く保ちながら、ダイエットの成功に向けて継続的に取り組むことができます。 ダイエット×ブレインテックに関する研究論文 ブレインテックの進化に伴い、ダイエット分野におけるその応用に関する研究が近年増加しています。本セクションでは、ニューロフィードバックを活用した食欲コントロールや、マインドフルネス瞑想によるストレス管理と過食の抑制に焦点を当てた研究論文を紹介します。 ニューロフィードバックによる食欲コントロール 「EEGニューロフィードバックによる成人の過食性障害治療」 EEG Neurofeedback in the Treatment of Adults with Binge-Eating Disorder: a Randomized Controlled Pilot Study 内容 この研究は、過食性障害(BED)を持つ成人に対するEEG(脳波)ニューロフィードバックの効果を評価するために実施されました。参加者は食事特化型と一般的なニューロフィードバックの2つのグループにランダムに割り当てられ、6週間の間に10回のトレーニングセッションを受けました。 結果 ニューロフィードバックを受けた人は、過食エピソード(短時間に大量の食べ物を摂取すること)の回数が減少し、その効果は3ヶ月後も続いていました。特に、前頭中央部の特定の脳波活動を調整することで、食欲コントロールが向上することがわかりました。 参考:Schmidt, U., & Martin, A. (2020). EEG Neurofeedback in the Treatment of Adults with Binge-Eating Disorder: a Randomized Controlled Pilot Study. Neurotherapeutics, 17, 543-557.  https://link.springer.com/article/10.1007/s13311-021-01149-9 マインドフルネス瞑想によるストレス管理と過食抑制 「過食抑制におけるマインドフルネスの効果」 Mindfulness-Based Interventions for Binge Eating: A Systematic Review and Meta-Analysis 内容 この研究は、過食行動に対するマインドフルネスベースの介入(MBIs)の効果を評価するために行われました。18件の異なる試験を対象に、マインドフルネスの技法がどのように過食行動の頻度や重症度を減少させるか、またストレスや自己認識にどのように影響を与えるかを調査しました。 結果 研究の結果、マインドフルネスベースの介入は過食行動を有意に減少させることが確認されました。参加者は食事に対するコントロール感が向上し、過食の頻度が減少しました。また、ストレスの軽減や自己認識の改善といった心理的な効果も見られました。これらの結果は、MBIsが過食性障害の治療において有効なアプローチであることを示しています。 参考:Katterman, S. N., Kleinman, B. M., Hood, M. M., Nackers, L. M., & Corsica, J. A. (2014). Mindfulness-Based Interventions for Binge Eating: A Systematic Review and Meta-Analysis. Journal of Behavioral Medicine, 37(2), 281-293. https://link.springer.com/article/10.1007/s10865-014-9610-5 マインドフルネス瞑想について知りたい方は、以下の記事も参考にしてください。 https://mag.viestyle.co.jp/mindfulness/ ブレインテック×ダイエット:ビジネスへの応用 ブレインテックとダイエットの組み合わせは、ヘルステック市場における次なる注目領域として、企業や投資家の関心を集めています。本セクションでは、この分野の市場動向と成功企業の取り組みについて取り上げます。 ブレインテックとダイエットの市場におけるビジネスチャンス ブレインテックとダイエットの市場は、急速に成長しています。特に、以下の分野で大きなビジネスチャンスが存在しています。 パーソナライズドダイエットプラン ブレインテックを利用した個別化されたダイエットプランの提供は、ユーザーの満足度を高める大きなチャンスです。ニューロフィードバックや生体センサーを活用し、個々の脳の反応やストレスレベルをモニタリングすることで、最適なダイエットプランを作成することが可能です。 ストレス管理とウェルビーイングアプリ ストレスが肥満や過食の大きな原因であることから、ストレス管理アプリの需要が高まっています。これらのアプリは、瞑想ガイドやストレスレベルのリアルタイムモニタリングを提供し、ユーザーのメンタルヘルスをサポートしてくれます。 ニューロフィードバックプログラム ニューロフィードバックを活用したダイエットプログラムでは、ユーザーの脳波データに基づいて、個々に最適化された食欲抑制のアプローチが提供されます。これにより、ユーザーは食欲をより効果的にコントロールでき、ダイエットの成功率向上が期待されます。 成功企業の紹介 すでに複数の企業がブレインテックをダイエット分野に応用し、成果を上げています。ここでは、その代表的な事例をご紹介します。 Noom Noomは、心理学的アプローチを用いたパーソナライズドなダイエット支援を行う企業です。アプリでは、食事・運動の記録に加え、CBTに基づいたコーチングを提供し、長期的な行動変容と健康的なライフスタイルの定着を促しています。 Noomの成功は、ユーザーの心理状態をリアルタイムで把握し、それに応じたカスタマイズされたフィードバックを提供する点にあります。個別のコーチングや行動追跡機能も、ユーザーの高い満足度を引き出しています。 参考:https://www.noom.com/ Headspace Headspaceは主に瞑想アプリとして知られていますが、ダイエットと健康管理にも役立つプログラムを提供しています。特に、マインドフルイーティングのセッションを取り入れることで、無意識な食行動を見直し、食に対する意識を高めることを目的としています。 Headspaceは、科学的に裏付けられた瞑想プログラムを提供し、ユーザーがストレスを効果的に管理できるよう支援しています。使いやすいインターフェースと豊富なコンテンツも、ユーザーエンゲージメントを高める要素となっています。 参考:https://www.headspace.com/ 次世代ダイエット戦略:ブレインテックの可能性とビジネスチャンス ブレインテックは、次世代のダイエット戦略として大きな可能性を秘めています。ニューロフィードバックやマインドフルネス瞑想などの技術は、食欲コントロールやストレス管理、モチベーション向上に有効であることが研究で示されており、ビジネスチャンスも豊富です。 すでに成功を収めている企業は、ブレインテックを活用してユーザーの健康習慣を改善し、顧客満足度と市場シェアの拡大を実現しています。今後、ブレインテックのダイエット分野への応用はさらに進み、技術革新とともに新たなビジネスモデルの創出が期待されます。このトレンドをいち早く捉え、革新的なサービスを展開することが、企業にとって次世代のダイエット市場をリードする鍵となるでしょう。

ニューロテックを活用した医療の最前線を紹介

ブレインテック(脳技術)は、脳の機能を解析し治療する革新的な技術であり、医療分野で急速に重要性を増しています。診断精度の向上や個別化医療、新しい治療法の開発、リハビリテーションの効率化など、多くの利点がありますが、その普及には法規制や倫理的な課題が伴います。あなたや大切な人がより良い医療を受けるために、ブレインテックが果たす役割とその課題を理解し、未来の医療を見据えたブレインテックの可能性を共に探ってみましょう。 医療分野でのニューロテック(ブレインテック)の重要性 ニューロテック(ブレインテック・脳技術)は、脳の機能を解析し治療するための革新的な技術です。近年、この分野の進歩は著しく、医療分野での重要性が急速に高まっています。 診断の精度向上 医療分野でニューロテックの大きな貢献の一つは、診断の精度向上です。たとえば、脳波測定デバイス(EEG)は、脳の電気的な活動をリアルタイムで記録し、異常なパターンを検出することができます。 これにより、てんかんや脳腫瘍、認知症などの神経疾患を早期に発見することが可能になります。早期発見は、適切な治療計画の立案や患者の予後改善に直結するため、非常に重要です。 ブレインテックはこのように、診断の精度を高めることで医療の質を向上させています。 個別化医療の推進 ニューロテックは、患者一人ひとりの脳の状態に基づいた個別化医療を推進しています。例えば、ニューロフィードバック技術を用いることで、患者自身が脳波をリアルタイムで観察し、自分で状態をコントロールできるようになります。 これにより、うつ病や不安障害、ADHDなどの治療が個別化され、より効果的な治療が期待されます。従来の治療法は一律的でしたが、ブレインテックの導入により、個々の患者に合わせた治療が実現し、治療効果が向上しています。 新しい治療法の開発 ​​ニューロテックは、従来の治療法に代わる新しい治療法の開発にも大きく貢献しています。例えば、脳深部刺激療法(DBS)は、脳の特定の部位に電極を埋め込み、電気刺激を与えることで、パーキンソン病や強迫性障害の治療に使用されています。この方法は、従来の薬物療法に比べて副作用が少なく、より効果的な治療が期待されています。 ニューロテックはこのように、新たな治療法を提供することで、患者に対する治療の選択肢を広げ、より良い治療結果をもたらすことに貢献しています。 リハビリテーションの効率化 ニューロテックは、脳卒中や外傷性脳損傷後のリハビリテーションにも大きな役割を果たしています。たとえば、バーチャルリアリティ(VR)を使ったリハビリプログラムや、ニューロフィードバックを活用した訓練プログラムは、従来のリハビリよりも効果的であることがわかっています。 ゲーム感覚でリハビリに取り組めることで、患者の意欲が高まり、回復のスピードが上がる可能性があります。このように、ニューロテックはリハビリテーションの効率を高め、患者の生活の質を向上させるために重要な役割を担っています。 参考文献 Li, Z., Han, X., Zhang, Q., & Huang, L. (2023). A systematic review and meta-analysis on the effect of virtual reality-based rehabilitation for people with Parkinson’s disease. Journal of NeuroEngineering and Rehabilitation, 20, 14.  Berger, T., Kober, S. E., & Neuper, C. (2023). Effects of virtual reality-based feedback on neurofeedback training performance—A sham-controlled study. Frontiers in Human Neuroscience, 17, 105.  医療分野でのニューロテック(ブレインテック)の活用事例 ブレインテックは、医療分野において多岐にわたる活用がされています。以下に代表的な活用事例をいくつか紹介します。 脳波測定デバイス(EEG) 脳波測定デバイス(EEG)は、脳の電気活動をリアルタイムで記録する装置です。これは、てんかんの診断と管理に広く使用されています。EEGを用いることで、てんかん発作の発生部位と頻度を特定し、適切な治療計画を立てることができます。 実際の使用例 世界的に有名なてんかんチームが所属する、アメリカのメイヨークリニックのてんかん治療ユニットでは、入院中の患者に対してビデオEEGモニタリングを実施しています。これにより、脳の活動を詳細に記録し、発作の発生部位とパターンを特定して適切な治療計画を立てる取り組みを行っています。 たとえば、ある患者は月に100回以上の発作に苦しんでいましたが、EEGモニタリングを通じて発作の原因を特定し、外科手術によって発作の頻度を大幅に減少させることができました。EEGを使用することで、てんかんの早期診断と治療計画の精度が向上し、患者の生活の質が大幅に改善されました。 参考:From 100-plus seizures a month to seizure-free 脳深部刺激療法(DBS) 脳深部刺激療法(DBS)は、脳の特定の部位に電極を埋め込み、電気刺激を与える治療法です。これは、パーキンソン病や強迫性障害(OCD)、うつ病などの治療に用いられます。 実際の使用例 ペンシルベニア大学の事例では、59歳の男性患者がパーキンソン病に11年間苦しんでいました。彼は手の震えや体の動きがうまくいかない問題を抱えており、薬が効かなくなってきていました。 そこで、脳に小さな電極を埋め込む手術(脳深部刺激療法)を受けた結果、症状は大幅に改善し、手術後6か月で薬の量を半分以上減らすことができました。 参考:Deep Brain Stimulation for Parkinson's Disease 認知行動療法(CBT)アプリ 認知行動療法(CBT)は、否定的な思考パターンや行動を特定し、それを前向きに変えることを目的とした心理療法です。うつ病や不安障害などの精神疾患に効果的で、多くの研究によりその有効性が証明されています。 実際の使用例 米国のHappify Healthによって開発されたアプリ「Ensemble」は、うつ病や全般性不安障害の治療を目的としています。このアプリは、認知行動療法、マインドフルネス、ポジティブ心理学に基づくトレーニングを提供し、患者がネガティブな思考パターンを変え、目標達成に向けて集中力を高めるスキルを学べるように設計されています。 このアプリは医師の処方によって使用されるもので、FDAの承認を取得しています。患者は自宅で治療を続けながら症状の改善を実感し、精神科医との面談時に進捗データを共有することで治療の効果を最大化することが可能です。 参考:Happify Launches the First Prescription Digital Therapeutics to Treat Both MDD and GAD ブレインマシンインターフェース(BMI) ブレインマシンインターフェース(BMI)は、脳の信号をキャッチして機械を操作する技術です。この技術は、失われた運動機能を取り戻すのに役立ち、脳卒中後のリハビリにも使われています。 実際の使用例 脳卒中後に上肢麻痺が残った患者が、BMIを用いたリハビリに取り組んだケースがあります。この患者は、脳の電気信号を利用して外部デバイスを操作する訓練を行いました。 具体的には、脳の活動を電気信号として捉え、その信号をもとに麻痺した手や腕の動きを再現する技術です。このアプローチにより、患者は意図した動きを再びコントロールできるようになり、患者の運動機能の回復が促進されました。 BMIを用いたリハビリは、脳の可塑性を高め、従来のリハビリよりも早期に効果を発揮することが確認されており、患者の生活の質を大幅に向上させる可能性があります。 参考:Brain–machine Interface (BMI)-based Neurorehabilitation for Post-stroke Upper Limb Paralysis ​BMIについてより詳しく知りたい方は、こちらの記事も参考にしてください。 https://mag.viestyle.co.jp/brain-machine-interface/ ニューロテック(ブレインテック)医療の課題 ブレインテック医療は革新的な治療法を提供する一方で、患者のプライバシー保護、データの安全性、倫理的な使い方などの問題にも直面しています。これらの問題を解決することは、安全で効果的に技術を利用するために非常に重要です。 法規制の課題 ブレインテック医療の発展には、法規制に関するさまざまな課題があります。これらの課題は、技術の安全性と有効性を保証するために重要ですが、同時に技術の開発と普及を妨げる要因にもなっています。 複雑な承認プロセス 新しい医療技術、特にブレインテックのような先端技術は、厳しい法規制の下で承認を受ける必要があります。安全性と有効性を証明するためには、多くの臨床試験や膨大なデータが必要であり、これらの試験は数年かかることがほとんどです。 さらに、各国の規制機関(例えばアメリカのFDAや欧州のEMA)に提出するための書類作成や手続きも複雑です。このため、多くの専門知識とリソースが必要になります。結果として、開発者には時間とコストの大きな負担がかかり、技術の市場投入が遅れることがあります。 地域ごとの規制の違い また国や地域によって異なる法規制が存在し、企業が各地域ごとに異なる承認プロセスを経る必要があることも課題の一つです。 例えば、アメリカではFDAが医療機器や薬品に対して厳しい基準を設けており、製品の承認には詳細な臨床試験データと安全性評価が必要です。一方、欧州では製品がEUの安全性、健康、環境保護の基準に適合していることを示すCEマークの取得が求められます。 アメリカで承認を得た製品を欧州に展開するには、再度CEマークの取得が必要であり、この手続きの中には重複するものも多く存在し、かなりの労力を伴います。これにより、技術のグローバル展開が遅れ、市場への迅速な導入が妨げられることがあります。 このような課題が存在するため、今後ブレインテックの普及に伴い、各国の法規制も整備が進むと予想されます。国際的な規制の統一が進むことで、各地域ごとの異なる承認プロセスが簡素化され、開発者は一度の承認で複数市場に参入でき、時間とコストの負担が軽減されるかもしれません。 倫理的な課題 ブレインテック医療の発展に伴い、倫理的な問題も浮上しています。特にプライバシーの懸念と患者の意思決定に関連する倫理的なジレンマが重要な課題として挙げられます。 プライバシーの懸念 ブレインテックは、脳活動データを収集・解析し、大量の個人データを扱うため、データのプライバシーとセキュリティは大きな課題となっています。患者の脳波データや治療履歴などの機密情報が不正アクセスやデータ漏洩のリスクにさらされる可能性があり、これに対する適切なセキュリティ対策と法的整備が求められます。 患者の意思決定への影響 ブレインテックは脳に直接関与する技術であるため、倫理的な問題が伴います。 たとえば、脳深部刺激療法(DBS)や脳マシンインターフェース(BMI)の使用には、患者の同意や倫理的なガイドラインの遵守が必要です。これらの技術が悪用された場合のリスクについても考慮する必要があります。 さらに、ブレインテックの利用は患者の意思決定に影響を与える可能性があり、たとえばニューロモデュレーション(脳に電気や磁気の刺激を与えて神経活動を調整する技術)による治療は、患者の意識や行動に直接影響を与えるため、その適用範囲や方法について慎重な検討が求められます。 ビジネスにおけるブレインテックの活用事例10選 ブレインテックがビジネスでどのように活用されているのかを示す、10の企業事例をまとめた資料をご用意しました。無料でダウンロードできますので、ぜひご覧ください。 資料をダウンロードする ブレインテックが拓く新時代の医療 ブレインテック医療は、診断技術の向上や個別化治療の実現に大きな可能性を秘めています。しかし、その進展には法規制や倫理的な課題、技術的な限界など多くの障害が伴います。 これらの課題を克服し、未来の医療をより良いものにするためには、技術の進化とともに、法規制の整備や倫理的な配慮が不可欠です。ブレインテック医療の未来は、これらの課題を乗り越え、新しい治療法や診断技術の開発を通じて、患者に対する医療サービスを向上させる可能性を持っています。

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