恋愛の回では、気持ちを伝える方法として「一手間の工夫」が大切だと学びました。
その一例として、好きな人にお菓子を手作りして渡すのは、思いやりが伝わる素敵なアプローチですよね。さらに、そのお菓子が脳科学的に恋愛に効果的な成分を含んでいれば、一層印象深いものになるかもしれません。
そこで今回は、「食べ物」をテーマに、恋愛を後押しする効果が期待できる成分や、それを活かしたお菓子についてご紹介します。
前回のコラムはこちらです。
恋愛に逆効果な驚きの食べ物とは?
恋愛における食べ物の効果については、直接的に恋愛を促進させるものはあまり研究されていませんが、逆効果になり得る食べ物や要素があることが分かっています。興味深いのは、甘いものが恋愛のロマンチックさを損ねる可能性があるという点です。
ある実験では、「甘いコットン」の匂いを嗅いだ参加者が、架空のパートナーとのロマンチック度を評価する際、無臭のコットンを嗅いだ人に比べて低い評価をつける傾向が見られました。この結果は、甘い匂いという実体験が、記憶にある「パートナーとの甘い時間」の印象を薄めてしまった可能性があると考えられています。このことから、甘い食べ物や香りが恋愛を促進するわけではないことが示唆され、むしろ控えめな甘さやビターな風味を選ぶほうが、関係性を「甘い記憶」として相手に刻みやすいのかもしれません※。
この現象は、「プレイボーイ効果」とも共通する要素があります。プレイボーイ効果とは、男性が非常に魅力的な女性の写真を見た後に、自分のパートナーを見たとき、その容姿が以前より劣って見えてしまい、好意が減少するという現象です。これは、魅力的な刺激が基準点として記憶に残ることで、相対的に現実の評価が下がるためだとされています。
これらの研究から分かるのは、恋愛において感覚的な刺激が相手への印象や関係性に影響を及ぼす可能性があるということです。したがって、恋愛の場面で贈る食べ物や、与える体験の選び方には、少し慎重になるのが良いかもしれません。甘さ控えめのビターなチョコレートや、心地よい香りの飲み物など、過度な感覚刺激を避ける選択が、相手との良好な関係を築く一助になるでしょう。
※出典:https://www.jstage.jst.go.jp/article/shes/17/1/17_31/_article/-char/ja, 2024年12月3日参照
認知症予防に効く!最新のブレインフードとは?
脳に効果的な「ブレインフード」として注目されているのが「地中海食」です。オリーブ、魚、ナッツといった地中海沿岸の食材には、オメガ3脂肪酸やポリフェノール、DHAが豊富に含まれており、これらは脳の神経を保護し、認知症の予防にもつながるとされています。また、ウコンに含まれるクルクミンも同様の作用があり、カレーを多く食べるインドでは認知症の発症率が低いという研究結果もあります。頭が良くなるかどうかは分かりませんが、神経保護という点では地中海食が有効とされています。
一方、嗜好品として日常的に摂取されるカフェインにも注意が必要です。コーヒーに含まれるカフェインは、脳内の神経細胞に直接作用し、覚醒効果をもたらしますが、継続的に摂取することで慣れが生じ、効果を得るために摂取量が増えていく「負の強化」が起こりやすいとされています。これは、カフェインのレセプターが減少したり、感度が低下するためです。その結果、以前は一杯で満足できたものが、二杯、三杯と量が増えがちになります。同様に、就寝前のお酒も最初は少量で心地よく眠れていたのが、次第に量を増やさないと効果を感じられなくなることがあります。
このようなな作用を防ぐためには、一度摂取を控える期間を設け、身体をリセットすることが大切です。ブレインフードや嗜好品はバランスを意識しながら取り入れることで、より健康的な生活を維持できるでしょう。
何を食べるかよりも、どの順番で食べるかが大事?
食べ物において、「何を食べるか」だけでなく、「誰と」「どこで」「どう食べるか」といった要素が非常に重要です。また、料理をどの順番で食べるかということも、味の印象や満足度を左右します。
例えば、人間は同じものを食べ続けると慣れてしまい、飽きてしまう傾向があります。中華料理を例にすると、1人で1品を食べ続けると途中で味に飽きてしまうことがありますが、みんなで数品をシェアして食べれば、最後まで美味しく楽しむことができます。このように、人は同じ味に繰り返し触れると、その価値を感じにくくなるため、バリエーションを取り入れることが大切です。
さらに、食事の満足度は「順番」によっても大きく影響を受けます。人間の記憶は、体験の最後の部分に強く残る傾向があり、これを「ピークエンドの法則」や「エンドエンジョイメント」と呼びます。例えば、デートでコース料理を楽しんだ場合、最後に提供されるデザートの味が悪ければ、食事全体の印象も悪くなってしまいます。逆に、最後の料理やデザートが素晴らしいものであれば、食事全体が良い記憶として残ります。
この法則は、恋愛の場面にも応用できます。好きな人にクッキーを渡すとき、同じ味のものを大量に渡すより、異なる味の詰め合わせを用意するほうが、記憶に残るプレゼントになるでしょう。また、デートでは最初の料理で感動を与えるのも大切ですが、特に最後の料理で満足感を与えることが、その人との体験をポジティブに記憶させ、再び一緒に行動する「リピート行動」に繋がります。
「終わりよければすべてよし」という言葉は、脳科学的にも理にかなっています。食事や体験の最後をどう締めくくるかが、その全体の印象を大きく左右するため、特に丁寧に工夫することが重要です。
まとめ
恋愛に効果的な食べ物は明確に分かっていないものの、甘いものより少しビターなものを選んだ方が良いのでは、という研究結果があります。
それに加え、何をあげるか、何を食べるかだけでなく、食べる順番や体験の終わり方も重要です。特に、食事の最後が美味しいもので締めくくられたり、楽しい思い出を作れると、その体験全体がポジティブに記憶されます。
恋愛でも「終わりよければすべてよし」の心構えで、相手に良い印象を残す工夫をしてみてはいかがでしょうか。
🎙ポッドキャスト番組情報
日常生活の素朴な悩みや疑問を脳科学の視点で解明していく番組です。横丁のようにあらゆるジャンルの疑問を取り上げ、脳科学と組み合わせてゆるっと深掘りしていき、お酒のツマミになるような話を聴くことができます。
- 番組名:ニューロ横丁〜酒のツマミになる脳の話〜
- パーソナリティー:茨木 拓也(VIE 株式会社 最高脳科学責任者)/平野 清花
次回
次回のコラムでは、『食べ物の好き嫌い』に関するお話をご紹介します。