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進路に悩んだ日々:研究者・堀口さんの興味を引き出した出会い

今回は、カナダのトロント大学で「頭皮で測定される脳波と皮質内の脳波の違い」について研究されている堀口さんにお話を伺いました。インタビューの前半では、堀口さんの研究に至るまでの背景やこれまでの研究成果などについて詳しくご紹介していますので、ぜひあわせてご覧ください。 前半記事 ▶脳疾患の原因を追究する:トロント大学・堀口桜子さんが語る「正確な脳波計測技術」 今回のインタビューの後半では、堀口さんのパーソナルストーリーに焦点を当て、大学での生活や現在の趣味、研究活動に関するエピソードなどについて伺いました。 研究者プロフィール 氏名:堀口 桜子(ほりぐち さくらこ)所属:トロント大学 物理学科 生物物理学専攻研究室:CAMH, Temerty Centre for Therapeutic Brain Intervention Neurophysiology Team研究分野:計算論的神経科学、EEG、信号源推定(source localization) 脳疾患の理解を目指して:一冊の本がもたらした脳への興味 まずは改めて簡単に自己紹介をお願いします。 現在、カナダのトロント大学の学部4年生で、物理学科に所属しています。専攻は生物物理学で、物理学の原理や法則を用いて体の中で起こる現象を理解する方法を学んでいます。また、今年からトロント大学のCAMH(Center for Addiction and Mental Health)にて研究学生をしています。取り組んでいる研究のテーマは「脳波データを用いた脳活動の解析」です。具体的には、頭皮で測定したEEG信号と脳皮質での活動との関係を探ることに焦点を当てています。 脳に関心をもつようになったきっかけについて教えてください。 中学生のときに読んだマーティン・ピストリウスさんの『Ghost Boy』という一冊が、脳に興味をもつきっかけとなりました。この本では、全身が動かず言葉も話せないのに意識ははっきりしている『閉じ込め症候群』を患った著者が、周囲に自分の思いを伝えられないもどかしさの中で過ごした壮絶な闘病の日々と、そこからの回復の過程が描かれています。 この本を読んだ当時、脳や神経の損傷によって引き起こされるさまざまな症状に対して恐怖を感じると同時に、脳が私たちの身体と心を司る中心であることを強く実感し、その複雑さと精緻さに大きな魅力を感じました。 また、祖父がアルツハイマー病を患い、症状が進行していく様子を身近で見ていたことも脳に関心を抱くきっかけとなりました。脳疾患を患った祖父が、かつて当たり前のようにできていたことが徐々にできなくなるだけでなく、性格が次第に荒れていき、周囲との関係性にも変化が生じる様子を目の当たりにし、脳の病気が本人だけでなく家族や周囲の人々にも深い影響を及ぼすものだということを実感しました。 それから、こうした問題に苦しむ人を少しでも減らすにはどうすればよいのかと考えるようになり、脳や神経に関連する疾患について調べていくうちに、現在の研究にたどり着きました。 大学の授業や研究活動以外に脳科学に関わる機会はありましたか? 高校3年生のときに、脳波を使って脳震盪を診断するというプロジェクトに関わりました。当時は新型コロナウイルスの流行により、対面で脳波を測定することができなかったため、プロジェクトは計画立案の段階で終了してしまいましたが、そこで初めて脳波の存在を目の当たりにしました。 大学入学後は、脳波関連技術を用いたロボットサークルに所属して、ニューロテック分野のコンペティションに参加したり、脳波や他の生体情報から集中度をはかるアプリを開発しようとしていました。 自分の興味を引き出してくれた高校の先生 大学入学以前に進路を決定する上で悩んだことはありますか? 高校以前は、明確にやりたいことが見つからず、そのことに悩んでいました。先ほどお伝えした通り、中学生のときに脳に対する漠然とした興味はもっていたのですが、その時点では進路決定に影響するほどではありませんでした。 そのため、高校1年生時点での文理選択では、自分の選択肢を狭めたくないという思いから理系を選択していました。 どのようにしてその悩みを乗り越え、現在の進路に至ったのですか? 高校時代、先生が私の興味を引き出してくれたことで、「もっと学びたい」と思える分野に出会うことができました。たとえば、私が関心をもっていた分野を専攻している卒業生を紹介してくださったり、先ほどの脳波から脳震盪を診断するプロジェクトの立ち上げをサポートしてくださったりしました。 先生が私の関心を深めるために積極的に協力してくださったおかげで、将来について日常的に、しかも自分ごととして考える時間を多く持つことができました。 さらに、興味のある授業を履修していくなかで、改めて理系の進路で脳科学に関わっていきたいという思いが強まり、現在の進路を選択しました。 高校の先生との関わりを通じて、ご自身の興味の種を芽吹かせることができたのですね。 将来の不安はキックボクシングで吹き飛ばす 現在ハマっている趣味はありますか? もともと読書とドラマ鑑賞が好きで、2年ほど前からはキックボクシングとムエタイにハマっています。 キックボクシングとムエタイはどのような経緯で始めたのですか? キックボクシングは、母が家の近くにキックボクシングジムを見つけて、一緒に行こうと誘ってくれたことがきっかけで始めました。しかし、カナダではキックボクシングジムが見つからなかったため、代わりに同じように足を使った運動ができるムエタイを始めました。 ムエタイやキックボクシングを始めて、ご自身にプラスの影響はありましたか? 体を動かして、目の前のことに集中しなければならない時間を取るようになったことで、将来への不安を感じづらくなりました。 もともと、将来のことを考えて一日中悩み過ぎてしまうことが多かったのですが、昼からムエタイのジムに通うことで、頭をまっさらにして気持ちを切り替えるルーティンを作れるようになりました。 運動を通じて未来への不安を取り払う習慣を身につけられたのですね。それでは最後に、これから同じ領域に挑戦してみたい学生や若い研究者に向けて、メッセージをお願いします。 私の脳への興味が、偶然読んだ一冊の本がきっかけで始まったように、自分の興味のタネにいつ、どこで巡り合うことができるのかはわかりません。現在進路に迷っている人には、ぜひ常にアンテナを立てて、様々な可能性を視野に入れる柔軟性を大切にして欲しいと思います。 私も自分に舞い込むいろいろな機会を逃さないよう、毎日コツコツ努力することをこれからも大切にしていきます。 Braintech Magazineでは、ブレインテック関連の記事を中心にウェルビーイングや若手研究者へのインタビュー記事を投稿しています。 また、インタビューに協力していただける研究者を随時募集しています。応募はこちらから→info@vie.style

脳疾患の原因を追究する:トロント大学・堀口桜子さんが語る「正確な脳波計測技術」

脳の仕組みを解明し、人類の可能性を広げる研究分野として注目を集める「脳科学」。私たちVIEでは、この魅力的なテーマに挑む若手研究者に焦点を当て、彼らの研究内容や情熱に迫るインタビュー企画をスタートしました。 本企画は、さまざまな視点から脳科学の最新研究を紹介することで、読者の皆さまに脳の神秘や研究の楽しさをお届けするとともに、新しい視点で脳について考えるきっかけとなることを目指しています。 今回のインタビューでは、カナダのトロント大学で「頭皮で測定される脳波と皮質内の脳波の違い」について研究されている堀口桜子さんにお話を伺いました。インタビューの後半では、堀口さんのパーソナルストーリーをたっぷりご紹介していますので、ぜひあわせてご覧ください。 研究者プロフィール 氏名:堀口 桜子(ほりぐち さくらこ)所属:トロント大学 物理学科 生物物理学専攻研究室:CAMH, Temerty Centre for Therapeutic Brain Intervention Neurophysiology Team研究分野:計算論的神経科学、EEG、信号源推定(source localization) 測定された脳波から真の脳活動を探る技術 現在取り組まれている研究について教えてください。 私の研究テーマは、脳波データを用いた脳活動の解析です。具体的には、頭皮で測定したEEG信号から脳皮質で発生した信号活動を推定することに焦点を当てています。 EEG信号と脳皮質での活動の差異を推定するために、どのような手法を用いているのですか? 私の研究では、皮質の電気活動をより正確に再現するために、ソースローカライゼーション(source localization)という技術を使用しています。この技術では、脳内の電気活動が頭皮上でどのようなEEG信号を生じさせるかを数理モデルで表現し、実際に計測されたEEGとの誤差を最小にするように逆算することで、統計的に脳のどの部位がそのEEGを発生させたかを推定しています。 この方法を用いることで、脳波の信号がどの部位から発生しているかを特定することや、脳内で起こる様々な異常な活動を捉えることができると考えています。 EEG信号と脳皮質での活動には、どのような違いがあるのでしょうか? 脳波(EEG)は、脳の表面(脳皮質)で生じた電気活動が頭皮まで伝わってくる信号です。しかし、この伝わる過程で、ボリュームコンダクション(volume conduction)という現象によって、信号が弱まってしまったり、周囲に広がり、他の信号と混ざり合ってしまいます。そのため、実際に信号が発生した部位とは異なる位置で信号が記録されてしまうことがあります。つまり、頭皮で測定されるEEG信号は、脳の皮質で起こっている活動場所やパターンを正確に反映していない可能性があるのです。 このテーマを選んだきっかけや理由を教えてください。 兼ねてから脳のはたらきに対して興味をもっていたことと、研究成果が多様な脳疾患の分析に応用可能であることに魅力を感じたことから、このテーマを選びました。 加えて、脳波解析の技術に対する知見を深めることで、私の研究室が所属する研究センターの他のプロジェクトと連携できるのではないかと考えたこともこのテーマを選んだ理由の一つです。 この研究を通じて、研究室で行われている統合失調症やうつ病、依存症などの脳にかかわる疾患の診断や治療法の開発に携わることができる技術の開発に貢献することを目標にしています。 研究者ならば一度は感じる不安、それを乗り越えるためには 実験では被験者がどのような状態のときの脳波を測定するのですか? 実験に携わった数はまだあまり多くありませんが、主に健常者を対象に、タスクを行ったときの脳波とタスクを行うことを想像したときの脳波の測定を行っています。 たとえば、指を曲げたときに発生する脳波と指を曲げることを考えたときに発生する脳波を計測して、同じ脳波が見られるかといった実験を行っていました。 研究プロセスを進める上で、困難に感じたことはありますか? 現在の研究プロセスで直面している課題の一つは、自分が抱く疑問に対して明確な答えがまだないことに対する不安です。 大学の課題の物理の問題を解いているときとは異なり、脳の研究では調べてもすぐに全ての疑問が解決しないことが多く、「自分が進んでいる方向性は正しいのだろうか?」「これは何かに繋がるのだろうか?」といった不安が常にありました。 その不安とはどのように向き合ったのですか? 研究室の修士の先輩に相談したところ、この不安は研究者ならば誰もが一度は感じる悩みであるということを教えていただいたことで、研究には新しいことを常に学べる楽しさと、それに伴う不確実性がつきものだと受け入れることができました。 また、この不安を払拭するためには研究分野に関連する参考文献をたくさん読んで、知識を深めなければならないということも教わりました。 取り組んでいるテーマが新しい分野であったり、他の人が目を向けていないトピックである場合、直接自分の研究に関連する参考文献が見つからないこともあります。しかし、そのような場合でも、少しでも関連がある文献を探し、幅広い知識を蓄えることで不安は少しずつ解消できるそうです。 これからは、たくさんの論文を読み、さまざまな方々の話を聞き、異なる分野に触れることで、多くの知識を吸収し、研究を深めていきたいと思っています。 様々な人に支えられた経験を活かして これからどのように研究活動に取り組みたいと考えていますか? 自分の研究が他のプロジェクトにどのような影響を与えるかを考えつつ、様々な人と意見交換をしながら研究を進めたいと考えています。 私一人の知識だけでは、脳や物理に関する視点からしか研究を進めることができませんが、他分野を専門とする人の意見を取り入れることで、これまでにない新しいアプローチを見つけられると考えています。だからこそ、他の人との関わりを大切にし、自分の枠を超えていきたいと思っています。 また自分のプロジェクト以外の活動として、現在、大学で女子学生の理系進学を支援するメンターの役割を担っています。 私が研究の道に進むことができたのは、周りの人のサポートがあったからこそだと感じているので、今度は自分がこれから研究の道に進もうとする学生の背中を押したいと考えています。 そして願わくば、脳に関心をもってくれる人が増えて欲しいと思っています。 今後の活動に対する意気込みを教えてください。 現在研究に関しては、まだ明確な成果が出せていません。しかし、研究室に配属されてから最先端の研究に間近で触れることができ、研究に真摯に向き合う教授や多くの修士・博士学生と知り合うことができたことは、自分にとって非常にありがたく、実りのある経験となりました。 また、次々と新しいアイディアが議論され、プロジェクトが立ち上げられる現場にメンバーとして参加できたことは、脳に対する魅力を再認識するきっかけとなりました。 この一年間研究活動を通して得た経験をもとに、今後も脳に関わる道を進んでいきたいと強く感じています。 インタビューの後半では、堀口さんの研究者を目指すまでの経緯や学生に向けたメッセージについて伺いました。特に、現在進路決定に悩んでいる学生さんは必見の内容となっています。ぜひ併せてご覧ください。 後半記事 ▶進路に悩んだ日々:研究者・堀口さんの興味を引き出した出会い

坐禅と瞑想の違いとは?禅の文化と瞑想のつながり・実践法を解説

慌ただしい毎日の中で、心がざわついたり、気持ちが落ち着かないと感じることは珍しくありません。そんな現代において、静けさと向き合う時間として注目されているのが「禅瞑想」です。 古くから仏教の修行法として親しまれてきた禅の思想と、近年科学的にも注目される瞑想が結びつくことで、心と体のバランスを整える新しい実践法として広がりを見せています。 本記事では、禅瞑想の基本から実践法、文化的背景までをやさしく解説。初めての方でも安心して取り組めるよう、丁寧に紹介していきます。 禅と瞑想の違いとは?似ているようで異なるポイントを解説 「禅」と「瞑想」は、どちらも心を落ち着ける方法として注目されていますが、実は起源や実践の目的、姿勢などに違いがあります。一方で、共通する部分も多くあるのも特徴です。ここではまず、それぞれの定義を明確にしたうえで、共通点と相違点を整理していきます。 禅とは何か 禅とは、中国で生まれた「禅宗」という仏教の教えに由来します。日本には鎌倉時代に伝わり、曹洞宗や臨済宗といった宗派として発展しました。 禅では、静かに座る「坐禅」が最も基本的な修行とされます。坐禅では、呼吸や姿勢に意識を向けながら、心を落ち着かせ、湧き上がってくる思考や感情に囚われず、それらに流されない「無念無想」の状態を目指します。 瞑想とは何か 瞑想とは、意識的に心を静め、内面に集中する精神的なトレーニングの総称です。宗教的な背景を問わず、世界各地の伝統に存在しており、近年では医療やビジネス分野でもストレス軽減や集中力向上を目的として活用されています。 姿勢や方法は様々で、静かに座るだけでなく、歩いたり呼吸を数えたりと多様なスタイルがあります。 瞑想についてより詳しく知りたい方は、以下の記事も参考にしてください。 https://mag.viestyle.co.jp/meditation/ 禅と瞑想の共通点:意識の集中と心の静けさ 禅と瞑想には、「今この瞬間」に意識を向けるという共通点があります。どちらも、頭の中の考えごとをいったん手放し、感情に振り回されない穏やかな心の状態を目指します。 さらに、呼吸や姿勢に注意を向けることで、自分自身の内面と向き合うことができる点も共通しています。近年では、ストレスの軽減や脳機能の向上といった効果が科学的にも認められています。 禅と瞑想の違い:宗教的背景と実践スタイル 禅と瞑想の大きな違いは、宗教的な背景と実践の目的にあります。禅は、元々は仏教、なかでも禅宗に根ざした宗教的な修行法です。一方、瞑想は宗教に限らず、さまざまな分野で取り入れられている心のトレーニング法といえます。 現代においては、禅の要素を取り入れた瞑想が、宗教的な背景にとらわれずに実践されることも増えており、その意味で禅と瞑想は互いに重なり合う部分も持ち合わせています。 また、実践方法にも違いがあります。禅では「坐禅」と呼ばれる、決まった姿勢と所作が重要視されますが、瞑想は座るだけでなく、歩いたり横になったりと、自由なスタイルで行うことができます。さらに、禅が「悟りの境地」に至ることを最終的な目的とするのに対し、瞑想はリラクゼーションや集中力の向上、ストレス解消など、目的が多様です。 次の章では、禅がどのように仏教や日本文化の中で育まれてきたのか、その歴史と背景を見ていきましょう。 禅瞑想と日本文化のつながり 禅瞑想は、仏教の中でも「禅宗」に深く根ざした実践です。その影響は、日本の精神文化や芸術にも色濃く残っています。この章では、禅がどのように日本に伝わり、瞑想とともに文化の中で受け継がれてきたのかを見ていきます。 禅宗の歴史と坐禅の意味 禅宗は、6世紀ごろに中国で達磨大師(だるまたいし)によって始まったとされる仏教の一派です。特徴は、経典や理論に頼るのではなく、坐禅を通じた直接的な体験によって悟りを目指す点にあります。この実践的な教えは中国で発展し、鎌倉時代に日本へ伝えられました。日本では、臨済宗や曹洞宗といった宗派が広まり、禅の教えは武士階級のあいだで精神的な支えとして重んじられるようになります。 禅宗の修行の中心となるのが「坐禅(ざぜん)」です。これは、決まった姿勢で静かに座り、呼吸と意識をととのえながら、浮かんでくる雑念を手放していくというものです。何かを考えたり感じ取ろうとするのではなく、ただ静かに坐り続けることで、思考や感情に支配されない「無念無想」の状態を目指します。そうした姿勢の中に、禅の精神が息づいているのです。 武士道や芸道に受け継がれる「静」の精神 鎌倉時代から室町時代にかけて、禅の精神は武士の生き方に大きな影響を与えました。厳しい現実の中で心を静かに保ち、自分を律するという考え方は、やがて「武士道」の根幹にもつながっていきます。 また、禅の思想は茶道や華道、書道といった日本の芸道にも深く根づいていきました。これらの芸道に共通するのは、余計なものを削ぎ落とした「簡素な美」や、集中力と心の静けさを重んじる姿勢です。動作の一つひとつに心を込め、無心で向き合うという点で、禅と芸道は本質的に重なっています。 さらに、「わび・さび」と呼ばれる、日本独自の美意識――静けさや不完全さの中に美を見いだす感性も、禅の価値観と通じるものがあります。静かで控えめな美しさを尊ぶこの感覚は、禅が日本文化に深く根を下ろした証といえるでしょう。 現代に生きる“無心”の価値 禅の精神において大切にされているのが、「無心(むしん)」という考え方です。これは、あれこれと思い悩んだり感情に振り回されたりせず、今この瞬間に意識を集中し、物事をあるがままに受け止める姿勢を意味します。 こうした「無心」の境地は、茶道や書道のような芸道の中でも重視されてきましたが、現代社会においてもその価値は変わりません。忙しさや情報にあふれる日常の中で、心を静めて自分自身と向き合う時間は、多くの人にとって必要とされているのです。 禅瞑想は、こうした心の在り方を養うための手段として、過去と現代をつなぎながら、今も多くの人に実践されています。 禅瞑想の基本ステップをわかりやすく解説 「禅瞑想を始めてみたいけれど、どうすればいいのかわからない」という初心者の方も多いかもしれません。禅の瞑想は、道具をそろえる必要がなく、静かな場所と少しの時間があればすぐに始められるシンプルな実践です。 ここでは、坐禅の姿勢・呼吸・意識の整え方、さらには動きながらの瞑想方法まで、基本的なステップを順を追って紹介します。 姿勢をととのえる:坐禅と半跏趺坐(はんかふざ)の基本 禅瞑想では、安定した姿勢を保つことが重要です。代表的なのが「坐禅」の姿勢で、あぐらの一種である「半跏趺坐(はんかふざ)」が基本となります。片方の足をもう一方のももの上に乗せ、背筋をまっすぐに伸ばします。 手は「法界定印(ほっかいじょういん)」という形に組みます。左の手のひらを上にして右の手のひらの上に重ね、両方の親指の先をそっと合わせ、おへその前あたりに軽く置きます。顎を引き、視線は1~1.5メートル先の床に落とすのが一般的です。椅子に座って行う「椅子坐禅」でも問題ありません。無理のない姿勢を選びましょう。 呼吸をととのえる:数息観(すそくかん)と自然呼吸 姿勢が整ったら、呼吸に意識を向けます。禅瞑想でよく用いられるのが「数息観(すそくかん)」という方法です。息を吐くたびに「一、二…」と数を数え、十まで数えたらまた一に戻る、というサイクルを繰り返します。 呼吸は鼻から自然に行い、吸う息よりも吐く息をゆっくりと意識するのがポイントです。慣れてきたら数を数えず、自然な呼吸の流れそのものに注意を向ける「随息観(ずいそくかん)」に移行しても良いでしょう。 意識のととのえ方:雑念とのつきあい方 瞑想中は、ふとした瞬間に雑念や感情が浮かんでくることがあります。しかし、それを無理に排除しようとする必要はありません。「今、こんな考えが浮かんできたな」と気づき、それに執着せず、そっと意識を呼吸に戻します。 大切なのは、「考えてはいけない」と抑え込むのではなく、「気づいて、戻る」を繰り返すことです。これこそが、禅瞑想における「無心」へと近づくための基本的な姿勢です。 動く禅瞑想:歩行禅や日常動作への応用 禅の瞑想は、静かに座るだけにとどまりません。「歩行禅(ほこうぜん)」と呼ばれる、ゆっくりと歩きながら行う瞑想もあります。足裏の感覚や一歩一歩の動作に意識を向け、心の動きを観察します。 また、日常の家事や動作の中でも、動きを丁寧に行い、意識を今この瞬間に向けることで、瞑想の質を生活に取り入れることができます。歯を磨く、食器を洗う、階段を上る――こうした日々の動作が、そのまま禅瞑想の時間になり得るのです。 参考:VIE株式会社「京都 建仁寺夜間拝観「ZEN NIGHT WALK KYOTO」来場者数1万人を突破」 忙しい現代人向け!続けやすい禅瞑想の実践アイデア 実は、禅の瞑想は短時間でも効果が期待でき、忙しい日常の中にも取り入れやすい方法です。 ここでは、初心者でも無理なく始められて、習慣化しやすい禅瞑想の実践アイデアを紹介します。生活のすき間時間を活用することで、無理なく継続できる工夫が満載です。 1日5分から始める「プチ坐禅」習慣 坐禅と聞くと長時間座るイメージがありますが、最初は1日5分からで十分です。朝起きた直後や夜寝る前など、時間帯を決めて短く実践することで、生活の中に自然と禅瞑想を取り入れることができます。 姿勢は半跏趺坐が基本ですが、無理なく座れるなら椅子に座っても問題ありません。静かな場所を選び、背筋を伸ばし、呼吸に意識を向けることがポイントです。時間が短くても、「続けること」こそが大切です。 アプリや動画を活用してガイド付きで実践 近年では、瞑想や坐禅のガイドを提供するスマートフォンアプリやYouTube動画が充実しています。たとえば「InTrip」「Relook」などの日本語対応アプリでは、初心者向けに短時間の音声ガイドが用意されています。 また、YouTubeでは、禅寺の僧侶が解説する坐禅動画やオンライン坐禅指導も視聴可能です。耳で聞きながら実践できるので、自宅にいながら本格的な禅瞑想を体験できます。 オンライン坐禅会で気軽に参加体験 外出せずに本格的な禅瞑想を体験したい方には、オンライン坐禅会の参加がおすすめです。たとえば永平寺や妙心寺の関連団体では、Zoomなどを使った坐禅体験を定期的に開催しています。 なかでも「月曜瞑想」として知られる取り組みは、毎週決まった時間に短い坐禅を行うスタイルで、参加のハードルが低く人気です。ひとりでは続かないという方も、共に坐る仲間がいることで継続しやすくなります。 禅瞑想のよくある悩みと継続のコツ 禅瞑想を始めたばかりの頃は、「集中できない」「時間がない」「なんとなく苦しい」といった悩みが出てくることがあります。これは誰にでも起こる自然な反応です。 ここでは、そうした悩みへの具体的な対処法と、禅瞑想を無理なく続けるためのコツをご紹介します。 集中できないときは「戻る」練習と割り切る 雑念が湧いて集中できないときは、自分を責めず、「気づいて戻る」ことを繰り返しましょう。禅瞑想は、完璧な集中を目指すものではなく、意識がそれたことに気づき、呼吸へ戻ること自体が大切な練習です。 瞑想が苦しいと感じたら、無理せず休む 坐っていて苦しく感じるときは、姿勢や時間の調整が必要かもしれません。無理に我慢するのではなく、短時間で切り上げる、椅子を使うなど柔軟に対応しましょう。つらさを避ける工夫も、長く続けるためには重要です。 習慣化のコツは「タイマー」と「朝のルーチン」 毎日同じ時間に実践する「朝のルーチン」として取り入れると、継続しやすくなります。タイマーで5分だけと決めることで、心理的ハードルも下がります。短くても続けることが、禅瞑想の効果を実感する第一歩です。 VIE株式会社が提供する音楽アプリ「VIE Tunes」では、瞑想の効果を高める「ニューロミュージック」を、タイマー機能とあわせて聴くことができます。こうしたアプリを活用することで、無理なく禅瞑想を続けるサポートになります。 禅瞑想で心身のバランスを整えよう 禅瞑想は、心を静めるとともに、集中力やストレス軽減にも効果的です。まずは短時間から無理なく始めて、日常に“静けさ”を取り入れてみましょう。

ADHDの子どもに効く?シリアスゲームによるデジタル治療(DTx)の最新研究

子どもがゲームばかりしていると、つい心配になってしまいますよね。しかし、もしそのゲーム自体が「治療」として機能するとしたらどうでしょうか? 最近では、デジタル治療(DTx)と呼ばれる、ソフトウェアを使った新しい医療のかたちが注目を集めています。たとえば2020年、アメリカで世界初の処方用ゲーム治療として『EndeavorRx』というADHD児童向けのビデオゲームがFDA(食品医薬品局)によって承認されました。 さらに2023年にはISO(国際標準化機構)がデジタル治療を「エビデンスに基づくソフトウェアによる介入」と正式に定義するなど、DTxは医療業界で急速に存在感を増しています。 注目が集まる「ゲーム型アプローチ」 そうした流れの中で、注目を集めているのがADHD(注意欠如・多動症)という発達障害への応用です。ADHDは主に子どもの頃に現れやすく、注意力の散漫さや落ち着きのなさ(多動・衝動性)といった症状が、日常生活に影響を及ぼします。 薬による治療が一般的なADHD支援ですが、副作用や長期間の使用に不安を感じる保護者も少なくありません。そこで今、薬に頼らない新しいアプローチとして注目されているのが、「シリアスゲーム」と呼ばれるタイプのゲームです。これは遊びを目的とするのではなく、治療や訓練といった明確な目的をもって設計されたゲームを指します。 実際、音楽や運動の要素をゲームに組み合わせることで、ADHD症状を改善する試みも成果を上げています。ゲームは子どもにとって身近で魅力的なため、楽しみながら治療的効果を得られる一石二鳥のアプローチになるかもしれません。 35本の研究を分析:ADHD児童にゲームがもたらす影響とは こうした流れを受けて、2025年5月には医学ジャーナル『JMIR Serious Games』に、ADHDの子どもに対するシリアスゲームの効果を総合的に検証した新たな系統的レビュー研究が発表されました。 このレビューでは、2010年から2024年初頭までに発表された論文の中から、厳格な選定基準に基づいて35件を抽出し、合計1,408人の参加者データをもとに分析を行っています。 対象は主に6~18歳のADHD傾向の子ども達で、報告されている限りでは参加者の約3/4が男児(男女比660:228)でした。レビュー対象の論文は医学・心理学からコンピュータサイエンス、教育工学、デザイン分野まで多岐にわたり、使われたゲームも多彩です。 たとえば、35件の研究のうち約4割(37%)では、体の動きを使って操作するタイプのゲームが採用されていました。これは、Microsoft社が開発したKinectセンサーのような、身体の動きをカメラで読み取る装置を活用したもので、画面の前でジャンプしたり手を動かしたりすることでゲームが進行します。さらに、VR(仮想現実)技術を取り入れたゲームも複数存在し、子どもがより没入しながらトレーニングに取り組めるよう工夫されていました。 ゲームのタイプとしては、1人で取り組む「シングルプレイヤー型」が全体の約9割(89%)と最も多く見られましたが、中には協力プレイや対戦要素を取り入れたゲームもあり、社会性やコミュニケーション力の向上を目指した設計も確認されました。 シリアスゲームが目指す「伸ばしたい力」とは? 本レビュー論文では、各研究が子どもたちのどのような力を伸ばすことを目的にゲームを使っていたか、そして実際にどのような効果が得られたかを分析しています。また、ゲームに対する子どもたちの反応や楽しさ、受け入れられ方についても注目されました。 その結果、最も多かったのは注意力の向上を目指した研究で、全体の80%を占めていました。続いて、多動性・衝動性の抑制(29%)、考える力や記憶力といった実行機能(43%)、体の動きに関わる運動技能(20%)、友達との関わり方などの社会的スキル(17%)を対象とした研究が見られました。 「楽しい」だけじゃない、ゲームがもたらした具体的な効果 ADHDの子どもにとって、どんな力がゲームによって実際に変化したのか。ここでは、レビューで特に注目された主な効果と子どもたちの反応を項目ごとに見ていきます。 注意力 注意力は、ADHDの症状の中でも特に重要とされ、対象となった35件の研究のうち8割が注意力の向上を目的としており、最も多く取り上げられていた項目でした。 ゲームを使ったトレーニングの後には、注意の持続時間や集中力が向上したとする報告が多数見られました。効果の測定には、子どもの行動特性を評価するConners3(コナーズ評価尺度)や、認知的な注意力をチェックするBIA(Behavioral Inattention Assessment)といった心理検査、課題実行テストなどが用いられました。また、教師や保護者による観察も評価に加えられ、ゲームによる介入は注意力の改善に有効であると結論づけられています。 多動性・衝動性 多動性や衝動性に注目した研究は全体の約3割とやや少なめでしたが、ゲームを通じて衝動をコントロールする力を鍛える工夫が数多く見られました。 たとえば、「すぐにボタンを押したくなるような刺激が出ても、それを我慢できたら得点がもらえる」といった「あえて待つ」ことを促すルールを取り入れたゲームでは、実際に子どもたちの落ち着きのなさが軽減されたという報告があります。 こうした逆転のルールによって、衝動を抑える力=抑制力を育てることができ、多くの研究で改善が確認されました。なお、一部の研究では有意な変化が見られなかったケースもあり、効果のばらつきについては今後の検証が求められています。 社会的スキル 対人関係のスキル(社会性)をテーマにした研究は全体の17%と少なめでしたが、協力プレイや会話を取り入れたゲームによって、子どもたちの社交性に良い変化が見られたという報告が複数ありました。 たとえば、友達と一緒に協力してミッションを進めるゲームや、画面上のキャラクターと視線を合わせる練習(アイコンタクト)ができるゲームなどが使われました。こうした体験を通じて、コミュニケーションの取り方や他人との関わり方が改善したという結果が多くの研究で示されています。 運動技能 運動能力への効果を調べた研究は全体の20%にとどまっており、その結果については慎重な解釈が求められます。 たとえば、Kinectのようなセンサーを使って体全体を動かすタイプのゲームでは、手と目をうまく連動させる力(ハンドアイコーディネーション)の向上が確認されました。 しかし、走る・跳ぶといった全身の運動能力そのものに対するはっきりした効果は、多くの研究で示されていませんでした。 研究によって評価方法やゲーム内容が大きく異なることもあり、運動スキルへの影響については、今後さらに丁寧な検証が必要とされています。 実行機能 実行機能とは、たとえば「計画を立てて行動する力」「記憶を一時的に保持して使う力(ワーキングメモリ)」「状況に応じて柔軟に考え方を変える力(認知の柔軟性)」など、思考や行動をコントロールするための力のことを指します。 この分野に焦点を当てた研究は全体の43%にのぼり、ADHDの子どもにとって重要な課題のひとつとされています。 多くのゲームでは、ミニゲームを繰り返しプレイすることで、ワーキングメモリの強化や問題解決力の向上を目指していました。 たとえば、答え方をその都度変えなければならない認知の柔軟性を求められるパズルや、すばやく反応しながらも「あえて反応しない」選択を求めるGo/No-Go課題などがゲーム化され、実際に子どもたちの認知面での成績向上が報告されています。 ゲームへの反応・楽しさ 今回のレビューでは、子どもたちがシリアスゲームをどのように受け止めているかにも注目されました。その結果、89%の研究でゲームへの反応は肯定的だったと報告されています。 インタビューやアンケートでは、「またやりたい!」「楽しかった!」といった声が多く、子どもたちが楽しみながらリハビリに取り組んでいる様子がうかがえました。 一方で、ゲームに慣れてくると「簡単すぎる」と感じて興味を失ってしまうという指摘もあります。実際、難易度を子どもの上達に合わせて調整する仕組みを取り入れた研究は全体の45%にのぼり、飽きさせない工夫が成果につながっていることが分かりました。 治療のハードルを下げる、やさしいテクノロジー 今回のレビューで分析された35本の研究は、シリアスゲームがADHDの子どもたちに与える治療的な可能性をしっかりと裏付ける内容となっています。中でも、注意力の改善においては特に一貫した効果が見られ、これは従来のリハビリ手法に対して、有効な補完策あるいは薬に代わる新しい選択肢になり得ることが示されています。 そして何より、ゲームならではの「楽しいから続けたい」という気持ちが、子どもたちに自然なかたちで治療を継続させる力になっている点は大きな特長です。薬を嫌がる子でも、「ゲームならやってみたい」と思えるかもしれません。これは、日々悩みを抱える保護者にとっても、希望の持てるアプローチと言えるのではないでしょうか。 遊びと治療の融合という一見ギャップのある組み合わせですが、今回のレビューは読者に、そんな意外性の中にある大きな可能性を私たちに示してくれました。 子どもたちが笑顔で楽しみながら、自分の特性と向き合っていく。 シリアスゲームは、そんな新しいADHDケアのかたちを切り拓く存在として、今後ますます注目されていきそうです。 今回紹介した論文📖 Lin, J., & Chang, W. R. (2025). Effectiveness of serious games as digital therapeutics for enhancing the abilities of children with attention-deficit/hyperactivity disorder (ADHD): Systematic literature review. JMIR Serious Games, 13, e60937.

腸は「第2の脳」:腸内環境とメンタルヘルスの意外な関係

ストレスでお腹の調子が悪くなる、なんとなく気分が晴れない──こうした「こころ」と「お腹」のつながりは、近年「脳と腸の関係」として科学的にも注目されています。腸は単なる消化器官ではなく、神経・ホルモン・免疫を通じて脳と情報をやり取りしており、「第2の脳」とも呼ばれるほどです。 この記事では、腸と脳がどのように影響し合っているのかを最新研究とともに解説し、日々の生活で取り入れられる具体的なケア方法まで詳しく紹介します。腸のことを知れば、心の健康へのアプローチも変わってくるかもしれません。 腸は「第2の脳」と言われる理由 人の腸には、「第2の脳」と呼ばれる特別な神経のしくみがあります。これは腸管神経系(ENS)といい、食べ物を運ぶための動きや消化液の分泌を、自分でコントロールできるはたらきを持っています。脳からの命令がなくても、腸だけで動くことができるのが大きな特徴です。 腸は、自分の力で消化をコントロールするだけでなく、自律神経や迷走神経を通じて、脳ともやりとりしています。このように腸と脳がたがいに情報を送り合うしくみは、「脳と腸の関係(脳腸相関)」と呼ばれています。 なお、本記事では腸→脳に影響を与える際は「腸脳相関」、脳→腸に影響を与える際は「脳腸相関」と記載しています。 腸管神経系とは何か? 腸管神経系は、「第2の脳」と呼ばれるとおり、食道から直腸までの消化管にびっしりと広がる神経のネットワークです。特に、「筋肉のあいだ」や「粘膜の下」にある2つの神経の集まりが、腸の動きや消化液の出し方をうまくコントロールしています。 この神経たちは、感じる・動かす・つなぐといった役割をもち、30種類以上の神経伝達物質(アセチルコリン、セロトニン、ドーパミンなど)を使って、腸の中でたくさんの情報のやりとりを行っています。 腸の情報を脳に届ける「迷走神経」のはたらき 腸と脳をつなぐ神経の中でも、とくに大切なのが迷走神経です。この神経は、なんと約90%が腸から脳へと情報を送っています。つまり、脳は腸からの信号を受けて、気分や感情に影響を受けることがあるのです。 たとえば、緊張するとお腹が痛くなったり、ストレスで下痢になることがありますよね。これは、腸と脳が迷走神経でつながっているからこそ起こる現象なのです。 幸せホルモンは腸で作られる? 実は、腸は神経伝達物質の宝庫ともいえる存在です。体の中のセロトニンの約90%、ドーパミンの約50%が腸で作られていると言われています。これらの物質は、腸の動き(蠕動運動)を調整したり、気分に影響を与えたりする重要なはたらきを持っています。 とくにセロトニンは「幸せホルモン」とも呼ばれ、腸と心のつながりを考えるうえで欠かせない存在です。ただし、腸で作られたセロトニン自体は脳に直接届くわけではありません。その代わり、セロトニンの材料となるトリプトファンが腸から脳に運ばれ、脳内でセロトニンが作られます。 また、腸内細菌が作り出す短鎖脂肪酸などの物質が、間接的に脳内のセロトニン合成に影響を与える可能性も指摘されています。腸で作られたセロトニンは、主に腸の働きを調整するのに使われています。 腸と脳はどうやってつながっている?3つの情報伝達ルート 腸と脳は「神経」「ホルモン・免疫」「腸内細菌」の3つのルートを介して、双方向にコミュニケーションしています。ここでは、それぞれの経路がどのようなしくみで働いているかを詳しく見ていきましょう。 腸と脳を直接つなぐ神経のしくみ:迷走神経と自律神経 腸と脳のあいだで、もっともスピーディーに情報をやり取りするのが、神経のルートです。とくに重要なのが「迷走神経」で、腸の中で何が起きているかを、脳にリアルタイムで伝えています。 さらに、自律神経(交感神経と副交感神経)もこのしくみに関わっています。これらの神経は、食べ物を消化するスピードを調整したり、腸の血流や腸内環境を整えたりと、体の中で腸と脳の橋渡しをしています。 迷走神経と自律神経は、まさに腸と脳を直接つなぐ情報の高速道路のような存在です。 血液を通じた腸と脳の会話:ホルモンとサイトカインの役割 腸は、消化だけでなくホルモンや免疫物質(サイトカイン)を作り出す「情報発信基地」としての役割も担っています。これらの物質は、血液の流れに乗って脳を含む全身に信号を送るしくみになっています。 たとえば、腸内に炎症が起こると、「IL‑6」や「TNF‑α」などのサイトカインが血中に放出され、これが脳に届くと、気分の落ち込みやイライラ感などのストレス反応が現れることがあります。つまり、腸の炎症や免疫の乱れが、心の不調の一因になる可能性があるのです。 さらに、脳と腸をつなぐ迷走神経は、アセチルコリンという神経伝達物質を介して、過剰な炎症反応を抑える役割も担っています。この迷走神経を介した抗炎症作用により、腸内の炎症がコントロールされることで、気分の落ち込みや集中力の低下といった脳への悪影響も緩和されると考えられています。 腸内細菌が心に影響? 最近の研究で特に注目されているのが、腸内細菌(腸内フローラ)が脳とやりとりするしくみです。腸内細菌は、短鎖脂肪酸(SCFAs)という物質(例:酪酸、酢酸、プロピオン酸)を作り、これが腸の神経や免疫細胞に影響を与えています。これらの物質は、腸のバリア機能を高めたり、炎症を抑えたりする働きもあります。 さらに、腸内細菌はGABA(不安を和らげる物質)やセロトニン前駆体など、脳に関係する神経伝達物質やホルモンを生み出すことが知られており、これらは迷走神経や血液を通じて脳に届く可能性があります。 このしくみを通じて、腸内環境が感情の安定、ストレスへの耐性、記憶力や集中力の維持などに関わっていると考えられています。また、腸内細菌のバランスが乱れることで、うつ病やパーキンソン病、アルツハイマー病などのリスクが高まるという研究も進んでいます。 腸と脳の深いつながり:健康と疾患への影響 腸と脳の密接な関係は、単に気持ちや消化にとどまらず、多くの病気や健康問題に関与しています。ここでは、代表的な3つのケースを具体的に解説します。 腸脳相関の代表例:過敏性腸症候群(IBS) 過敏性腸症候群(IBS)は、腹痛や便通の乱れを特徴とする消化器の病気で、世界の5~10%の人が悩んでいると言われています。主な症状としては、腹痛や腹部の不快感、下痢や便秘、あるいはそれらを繰り返すことが挙げられます。 この病気の原因は、腸と脳のやりとり(腸脳相関)の乱れ、腸内細菌のバランスの崩れ、ストレスや不安などの心理的要因などが複雑に関係していると考えられています。特に最近では、腸内環境の悪化が神経や免疫の働きに影響を与え、症状を引き起こす可能性が注目されています。 そのため、IBSの治療には薬だけでなく、食事の内容を見直したり、ストレスを減らす工夫をしたりすることが効果的です。また、心の不安をやわらげるためのカウンセリング(認知行動療法)を受ける人もいます。 最近では、ヨーグルトやサプリメントなどで腸内の菌バランスを整える方法(プロバイオティクス)や、お腹に負担をかけにくい食べ物を選ぶ「低FODMAP食」も注目されています。 参考: Harvard Health Publishing “Pay Attention to Your Gut-Brain Connection — It May Contribute to Anxiety and Digestion Problems” メンタルヘルス(うつ・不安):腸から心へ届く信号 うつ病や不安障害といった心の病気も、実は腸内環境と深い関係があることがわかってきました。最近の研究では、腸の炎症がサイトカインという免疫物質を通じて脳に影響を与え、神経のバランスを乱すことで、気分の落ち込みや不安感につながることが指摘されています。 また、腸内にいる細菌のバランスが崩れる「腸内フローラの乱れ(ディスバイオーシス)」も、メンタルの不調に関わっていると考えられています。このような状態になると、腸で作られるセロトニンなどの神経伝達物質が減少し、心の安定が保ちにくくなります。 その他の疾患:パーキンソン病や認知症の関係 最近の研究では、パーキンソン病や認知症といった脳の病気が、腸の状態と関係している可能性が注目されています。特に、腸内細菌のバランスが崩れたり、腸に慢性的な炎症が起こると、腸の神経細胞に「α-シヌクレイン」という異常なタンパク質が蓄積し、それが神経を介して脳に広がり、病気の進行につながる可能性が指摘されています。 また、最近の研究では、口の中にいる細菌(例:歯周病菌)が腸まで届き、腸内で炎症を起こすことで、認知機能の低下や神経の変性を進める可能性も指摘されています。 このように、脳の病気にも「腸内環境」や「細菌の影響」が関わっているとする新しい視点が広がっており、将来的には腸を整えることで神経疾患を予防・改善できる可能性も期待されています。 参考:nature “Parkinson’s gut-microbiota links raise treatment possibilities” 研究で明らかになった腸と脳の関係 近年では動物実験や新概念によって、腸と脳の関係性がこれまでよりもはるかに深いことがわかってきました。ここでは、その中でも特に注目されている3つのテーマをご紹介します。 腸内細菌がないとどうなる? 腸内細菌が脳に与える影響を調べるために、科学者たちはさまざまな実験を行ってきました。その中でも特に注目されているのが、「無菌マウス」と呼ばれる、腸内に細菌をまったく持たないマウスを使った研究です。 この実験では、無菌で育てられたマウスは、通常のマウスに比べて不安行動が少なく、社会性やストレス反応、記憶機能などが大きく異なることが確認されました。 さらに、これらの無菌マウスに通常の腸内細菌をあとから入れる(移植する)と、社会性の低さなど一部の異常な行動が改善されることも確認されています。特に幼少期の腸内細菌の存在が、脳の発達に重要な役割を果たすと考えられており、腸と脳の関係を裏付ける重要な研究成果となっています。大人になってからも、腸内環境は脳の働きや気分に影響を与えることがわかってきています。 参考:Heijtz, R. D., Wang, S., Anuar, F., Qian, Y., Björkholm, B., Samuelsson, A., Hibberd, M. L., Forssberg, H., & Pettersson, S. (2011). Normal gut microbiota modulates brain development and behavior. Proceedings of the National Academy of Sciences, 108(7), 3047–3052. こころに効く腸内細菌「サイコバイオティクス」とは? 最近、腸と脳のつながりに注目が集まる中で登場したのが、「Psychobiotics(サイコバイオティクス)」という考え方です。これは、腸内環境を整えることで、ストレスや不安、うつ症状などの「こころの不調」をやわらげることが期待される菌や食品のことを指します。 ハーバード大学などの研究によると、腸内にいる細菌たちは、神経・ホルモン・免疫などを通じて脳と絶えずやり取りしており、その影響は気分、行動、さらには脳の発達や老化にも関わることが分かってきました。また、先述した通り特定の腸内細菌はセロトニンやGABAといった神経伝達物質のバランスにも関係しているため、「お腹を整えることが心の健康にもつながる」という視点が生まれています。 現在、乳酸菌やビフィズス菌などのプロバイオティクスが、実際にストレスや不安感の軽減に役立つかを調べる臨床研究も進んでおり、今後は心のケアにも菌が活用される時代がやってくるかもしれません。 参考:Sarkar, A., Lehto, S. M., Harty, S., Dinan, T. G., Cryan, J. F., & Burnet, P. W. J. (2016). Psychobiotics and the Manipulation of Bacteria–Gut–Brain Signals. Trends in Neurosciences, 39(11), 763–781. インテロセプション:体内感覚が“こころ”にする役割 腸と脳の関係をより深く理解するうえで、近年注目されているのが「インテロセプション(interoception)」という考え方です。これは、心拍、呼吸、空腹感、腸の動きなど、体の内側で起こっている変化を脳が感じ取るしくみを指します。私たちが「なんとなく不安」「落ち着かない」と感じるとき、実はこの体内の情報処理が背景にあることが多いのです。 この感覚は、自律神経や迷走神経などを通じて脳に伝えられ、島皮質や前帯状皮質を含む感情や意識に関わる脳の領域で処理されます。そしてそれが、私たちの気分、判断、ストレスへの反応に影響を与えるのです。 たとえば、過敏性腸症候群(IBS)の患者では、腸の違和感に対して脳が過剰に反応することが確認されており、こうした「体内からの信号」に対する感じ方のズレが、不安やうつなどのメンタル不調と関係している可能性も指摘されています。 現在では、マインドフルネス瞑想、呼吸法、バイオフィードバックなどを使って、このインテロセプションの感度やバランスを整える取り組みが、新しいメンタルケアの方法として期待されています。 参考:Alhadeff, A. L., & Yapici, N. (2024). Interoception and gut‑brain communication. Current Biology, 34(22), R1125–R1130. 腸と脳の健康を支える3つの習慣 腸と脳の強い結びつきを背景に、日常で取り入れやすい3つの習慣を紹介します。食事・生活習慣・サプリメントの観点で、腸脳相関を意識したケアを続ければ、心身の健康維持に効果が期待できます。 食事で整える腸と脳のリズム 腸と脳の健康を保つには、まず腸内細菌が元気に働ける環境づくりが欠かせません。そのために重要なのが、日々の食事です。腸内細菌のエサとなる食物繊維(全粒穀物、豆類、野菜、果物など)を意識して摂取することで、腸内環境が整いやすくなり、腸が作り出す神経伝達物質や代謝物の働きもサポートされます。 また、発酵食品(ヨーグルト、キムチ、納豆、味噌など)は生きた菌を体内に届ける手段となり、多様な色の野菜は、さまざまなビタミンや抗酸化物質を補ううえで効果的です。これらの食品をバランスよく取り入れることで、腸内細菌が短鎖脂肪酸(SCFA)をつくりやすくなり、結果的に腸と脳のスムーズな情報交換=腸脳相関を支えることにつながります。 生活習慣で整える方法 腸と脳の健康を支えるには、日々の生活習慣も見直すことが欠かせません。特に、ストレスは自律神経を乱し、腸内環境や脳の働きに悪影響を及ぼすことがあります。こうした影響を防ぐためにも、ストレスとうまく付き合う生活の工夫が大切です。 たとえば、深呼吸やマインドフルネス、適度な運動は、心身をリラックスさせ、自律神経のバランスを整えるのに効果的です。また、自然の中で体を動かす「グリーンエクササイズ」は、ストレス軽減や気分転換に役立つとされており、腸と脳の健全なやりとりを後押しします。 十分な睡眠や規則正しい生活リズムも含め、こうした日常の積み重ねが、腸と脳のつながりを良好に保つ基本となります。 サプリやプロバイオティクスの選び方 腸と脳の健康をサポートする目的で、プロバイオティクス(乳酸菌やビフィズス菌など)を取り入れる人が増えています。これらは、ストレスの緩和や過敏性腸症候群(IBS)の改善に効果があるとする研究もありますが、菌の種類や製品によって効果に差があるため注意が必要です。 製品を選ぶ際は、臨床試験などの科学的根拠がある商品を基準にするのがおすすめです。また、腸内の善玉菌を育てる食物繊維やプレバイオティクス(イヌリンやフルクトオリゴ糖)も、あわせて意識するとより効果的です。 腸を整えれば、心も整う 腸と脳は神経、ホルモン、免疫などを通じて密接につながっており、この「腸脳相関」は私たちの体調や気分、行動にも影響を与えています。腸内環境を整えることで、ストレスに強くなったり、不安や落ち込みが和らいだりする可能性もあるのです。 そのためには、食物繊維や発酵食品を含む食事、ストレスをためにくい生活習慣、信頼性のあるプロバイオティクスの選択など、日常の小さな積み重ねが大切です。腸を意識した暮らしが、こころと体の両方を整える第一歩になるでしょう。

社会的メタ認知の正体──他人の理解を脳はどう見抜くのか?

人と一緒に何かに取り組むとき、ふと「この人、今どのくらい理解してるんだろう?」「自分でやった方が早いかも」と思ったこと、ありませんか? 実は、こうした「相手の能力や理解度を推測する」という行動には、私たちの脳が持つ意外な仕組みが関係していることが、最新の研究で明らかになってきました。さらにそれは、私たちが自分自身のことをどう認識しているか──つまり内省(メタ認知)と深く関係しているのです。 今回は、理化学研究所らの研究チームが発表した論文『Asymmetric projection of introspection reveals a behavioral and neural mechanism for interindividual social coordination』(Nature Communications, 2024年)をもとに、人間同士の「協力のメカニズム」に迫ります。 自分を他人に投影する?「社会的メタ認知」という仕組み この研究では、他者の能力をどう推測するかという脳の働きを、2つの視点から捉え直しています。 1つは、これまでの社会心理学でも知られていた「社会的認知」──つまり相手の過去の行動や一般知識をもとに能力を推定する方法です。たとえば「この人はエキスパートだから難しい課題もこなせるだろう」といった、いわば経験則のようなものです。 もう1つが、本研究の鍵となる概念である「社会的メタ認知(social meta-cognition)」です。これは、自分自身の認知や判断を内省し、それを「相手にも当てはめて」能力を推測するというプロセスです。たとえば「自分ならこの問題、ちょっと難しいけど解けるかも。だから、あの人もできるかもしれない」と想像するような感覚のことを指します。私たちは無意識に、こうした「自分の感覚を相手に投影する」ことで、他者を理解しようとしているのです。 実験:意思決定は「相手の肩書」に影響される? 研究チームは、実験参加者に「自分より成績の悪い人(ビギナー)」と「自分より成績の良い人(エキスパート)」を相手に、協力タスクに取り組んでもらいました。 このタスクは「ランダムドット運動方向判断」と呼ばれるもので、画面上でランダムに動く点の集団を見せられ、そのうち何パーセントかが同じ方向に動いている中で「その共通方向がどちらか」を当てるという課題です。 参加者は毎回、以下のような判断を迫られます: 自分が解答する問題と、他者が解答する問題の2つが画面に表示される(どちらの問題も難易度が異なる)。 参加者はどちらの問題に挑戦するかを選択する(自分で解く or 他人に任せる)。 選択した問題に正解すれば報酬が得られる。 重要なのは、「相手に任せるか、自分で解くか」を問題の難易度と、相手の能力の見積もりから判断しなければならない点です。 相手の実力は、事前に収集されたデータに基づいてプログラムされたビギナー/エキスパートの仮想人物であり、参加者にはそのプロフィールが示されます。参加者は、他者の成績を過去の試行から学習しつつ、毎回最も報酬が得られそうな選択をするよう求められます。 すると驚くべきことに、ビギナーと組んだときの方が、参加者が自分で解くか相手に任せるかという判断の選択精度が高かったのです。逆に、エキスパートと組むと誤った判断が増えてしまいました。これは、自分のメタ認知(内省)を他者に投影することが有効なのは、「自分と同等か、それ以下の相手」に限られるという仮説を裏付けるものでした。自分よりはるかに優秀な人の行動は、自分の経験だけではうまく予測できない──そんな脳の「限界」が見えてきたのです。 出典:Miyamoto, K., Harbison, C., Tanaka, S. et al. Asymmetric projection of introspection reveals a behavioural and neural mechanism for interindividual social coordination. Nat Commun 16, 295 (2025). https://doi.org/10.1038/s41467-024-55202-0 脳の中では何が起きているのか? このメカニズムをさらに掘り下げるため、研究チームはfMRI(機能的磁気共鳴画像法)を使って、タスク中の脳活動も測定しました。 すると、ビギナーと組んだときには前頭葉の一部(エリア47)が活性化していたのに対し、エキスパートと組んだときには側頭頭頂接合部(TPJ)という別の領域が活性化していることが分かりました。この結果からエリア47とTPJは以下のような機能をもっていることが判明しました。 エリア47:自分の内省を他人に投影するときに使われる領域(社会的メタ認知) TPJ:相手の知識や経験など「既知の情報」に基づいて判断する領域(社会的認知) 出典:Miyamoto, K., Harbison, C., Tanaka, S. et al. Asymmetric projection of introspection reveals a behavioural and neural mechanism for interindividual social coordination. Nat Commun 16, 295 (2025). https://doi.org/10.1038/s41467-024-55202-0 さらに、エリア47に対してTMS(経頭蓋磁気刺激)を用いて一時的に機能を抑えると、ビギナーとの協力時の判断精度が下がることも分かりました。つまり、エリア47が社会的メタ認知にとって不可欠な領域であることが裏付けられたのです。 協力のズレは認知のズレ? この研究が示すのは、人間の協調行動には「相手をどう見るか」という非常に繊細な認知プロセスが関わっているということです。 しかも、相手の実力が自分より高すぎると、かえって状況を正しく判断できなくなる 見誤ってしまう可能性があります。これはチームビルディングや教育、さらにはAIとの協働においても重要な示唆になるでしょう。 「自分だったらこう考えるはず」と思って相手にも同じような思考を当てはめることで、私たちはスムーズに協力しやすくなります。しかし 、それが通用しない相手に出会ったとき、どうすれば良いのでしょうか? ──そのような場面では、私たち自身が持っている「ものの見方」を、柔軟に広げていく必要があるということかもしれません。 脳は、自分を通して他人を理解する鏡でもあります。 その鏡が少し歪むだけで、人との信頼や協力のかたちが大きく変わってしまうのです。 🧠 編集後記|BrainTech Magazineより 現代は複雑化した社会であり、異なるバックグラウンドやスキルを持つ人同士が協力し合う場面が増えています。そんな中、本研究は他者の心を理解し、協調するための脳の巧妙な仕組みを垣間見せてくれました。自分自身を鏡にして相手を映し出すように推し量る──この不思議な心の働きは、人間社会の円滑な営みに一役買っているようです。 📝 本記事で紹介した研究論文 Miyamoto, K., Harbison, C., Tanaka, S. et al. Asymmetric projection of introspection reveals a behavioural and neural mechanism for interindividual social coordination. Nat Commun 16, 295 (2025). https://doi.org/10.1038/s41467-024-55202-0

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