脳の仕組みを解明し、人類の可能性を広げる研究分野として注目を集める「脳科学」。私たちVIEでは、この魅力的なテーマに挑む若手研究者に焦点を当て、彼らの研究内容や情熱に迫るインタビュー企画をスタートしました。
さまざまな視点から脳科学の最新研究を紹介することで、読者の皆さまに脳の神秘や研究の楽しさをお届けするとともに、新しい視点で脳について考えるきっかけとなることを目指しています。
今回のインタビューでは、慶應義塾大学で記憶や学習の研究に取り組まれている出利葉拓也さんにお話を伺いました。インタビューの後半では、出利葉さんのパーソナルストーリーをたっぷりご紹介していますので、ぜひあわせてご覧ください。

研究者プロフィール
氏名: 出利葉 拓也(いでりは たくや)
所属: 慶應義塾大学 環境情報学部 政策・メディア研究科 博士課程
研究室: 牛山潤一研究室
研究分野: 学習・記憶・脳波
記憶と学習のメカニズムに迫る
── まずは、現在取り組まれている研究について教えていただけますか?
私は、記憶や学習の脳メカニズムに着目した研究を進めています。とくに学習能力に個人差があるのはなぜなのか、その要因を探って、どうすれば改善できるのかを調べることに強い興味があるんです。具体的には、脳波や行動データを解析しながら、学習効率を高めるための新しい方法を模索しています。
── 学習能力の個人差に注目する背景には、どのような経験があったのでしょうか?
実は私自身、中学・高校の頃に学習面で苦労したことがありました。勉強量はさほど変わっていないはずなのに、なかなか成績が伸びないという壁にぶつかったんです。そのときに「学習を司る脳の仕組みを理解したい」と強く思ったのがきっかけですね。
また、大学時代には塾講師のアルバイトで多くの生徒と接するうちに、いくら頑張っても成果が出にくい子どもたちがいることを目の当たりにしました。「同じだけ努力していても、なんでこんなに結果が違うんだろう」と疑問を抱くようになり、そこから学習の脳科学を深く研究したいと考えるようになりました。
脳波を活用した学習改善の試み
── 具体的には、どのようなアプローチで研究を進めているのでしょうか?
私は「思い出すのにかかる時間」という行動データを膨大に集めて分析することで、脳の状態を間接的に解析する手法を開発しました。本来なら脳波を計測するには高価な機器が必要ですが、この方法を使えば、スマホやPCを使うだけで簡単に脳波の一部を計測することができるんです。
出利葉さんの論文:https://www.nature.com/articles/s41598-023-51128-7
── それはとても興味深いですね。その結果は、社会や日常生活にどのように活かせそうでしょうか?
たとえば、学習アプリの利用データ(学習時間や正答率、回答の速さなど)を解析することで、その人の脳の使い方がある程度可視化できるかもしれません。そうなれば、一人ひとりに合わせた効果的な学習のアドバイスを行えるようになるんじゃないかと期待しています。
今後の展望と課題
── 研究をさらに深めていくうえで、現在どんな課題に直面されていますか?
一番大きいのはやはりデータの蓄積ですね。脳波を使った研究は、大量のデータが必要とされます。でも私が個人で集められるデータには限界があって、時間的にも金銭的にも負担がかかります。そこが大きなハードルになっていますね。
── なるほど。膨大なデータをどう集めるかは確かに重要ですね。その解決策としては、どんなことを考えていらっしゃるんでしょうか?
現在は、YouTubeで発信活動をしながら「脳波を測ってみたい」という方々を募ってみようと試みています。実際に脳波を計測する体験を提供して、そのデータを研究にも使わせてもらうというサイクルを実現できれば面白いんじゃないかなと。うまくいけば、研究とサイエンスコミュニケーション、そしてビジネスの流れがうまく回る形にできて、脳の解明も加速するんじゃないかと思っています。
出利葉さんのYouTubeチャンネル:https://www.youtube.com/@deriba-brain
── まさに新しい形の「共創」ですね。それでは最後に、脳科学を志す学生や若手研究者の方々へメッセージをお願いします。
脳科学はまだ分かっていないことが本当に多い分野です。だからこそ、自分の研究次第で新しい視点や可能性を切り開くことができる、とても魅力的な領域だと思います。自分自身の好奇心を大事にしながら、一緒に脳の謎に挑んでみましょう!
インタビューの後半では、出利葉さんのパーソナルストーリーをたっぷりご紹介していますので、ぜひあわせてご覧ください。
