インタビューの後半では、出利葉さんのパーソナルストーリーに焦点を当て、幼少期の生活や現在の趣味、研究に関するエピソードなどについて伺いました。
研究者プロフィール
氏名: 出利葉 拓也(いでりは たくや)
所属: 慶應義塾大学 環境情報学部 政策・メディア研究科 博士課程
研究室: 牛山潤一研究室
研究分野: 学習・記憶・脳波
脳科学の研究を志すきっかけとなった原体験
── いつ頃から脳に興味を持ち始めたのでしょうか?
中学・高校の頃から興味を持っていました。当時は勉強しようとしてもなかなか集中できなくて、本当に苦しい時期でした。「なぜ自分の脳なのに、思うようにコントロールできないのか?」という問いが常に頭にあって、市販されている学習法の本を読んでも納得できる答えが見つからなかったんです。そこで、「これは自分で調べるしかない」と思い始めたことが、脳科学に関心を持つ大きなきっかけになりました。
── 大学では最初は理工学部に入学されたとのことですが、環境情報学部(SFC)へ編入されたのはどうしてですか?
理工学部での学びは大学側からカリキュラムが決められていて、課題も多く、ものすごく忙しかったんです。まだ自分の研究テーマが定まっていない段階でやらなくてはいけない作業が多すぎて、「これでいいのかな?」という違和感をずっと抱えていました。そこで、より自由度の高いSFCへの編入を決めたんです。
SFCには「研究会」という制度があって、教授からアドバイスをもらいながら、各自が思い思いのテーマで研究を進められます。研究会には1年生から参加できて、自分に合わなければ辞めることもできるので、自分のやりたいことを探すにはぴったりだと思いました。
── SFCに編入されてからは、どんな研究会に所属していたのでしょう?
大学2年の秋頃から、神経科学やスポーツ科学などをテーマに扱っている牛山先生の研究会に参加していました。当時は集中力に興味があり、「集中力を測るならゲームがいいのでは?」と考えて、ゲーム中の脳波を計測する研究をしていたんです。最近になって、同じ研究室の博士課程の同期と「もう一度この研究をちゃんとやってみよう」と話が盛り上がっていて(笑)。スマブラをプレイしているときの脳波を、20~30人分ぐらい計測していますね。
研究室でのユニークな文化と学び
── 牛山研究室には、どんな特徴や文化があるのでしょうか?
牛山先生の研究室では「まず手を動かせ」という教えがあります。研究を始めると、「このテーマは面白くないかも」「先行研究があるんじゃないか」など、あれこれ考えすぎてしまうんですが、そうしているとキリがないんですよね。だから「まずデータを取ってみる」ことを大切にしています。それから「データをよく眺めなさい」も大事なポイントで、アルファ波やシータ波など計算後の値を見る前に、元の波形をひたすら観察するんです。5~6時間ぶっ通しで脳波を見続けて、気づいたら寝落ちしていたこともありました(笑)。
── 研究に関連した面白いエピソードはありますか?
2023年の大晦日に、論文が『Scientific Reports』に採択されたのですが、そのとき友達と年越しキャンプのため山奥に行っていて、携帯が圏外だったんです。翌日、銭湯で電波がつながった瞬間にメールを開いたら、先生からお祝いのメッセージが届いていて。「あ、あけおめの連絡かな?」と思ったら、実は論文アクセプトのお祝いだったという(笑)。そんなこともあって、僕にとってはすごく気持ちのいい年始になりましたね。
幼少期の興味と現在の趣味
── 子どもの頃は、どんなことに興味を持っていたのでしょう?
小学生の頃は科学が好きで、とくに恐竜の化石に惹かれていました。恐竜ってもうこの世にはいませんが、研究を通じてその姿に近づけるところがロマンだなと思うんです。「わかりそうで、わからない」——そんな存在に惹かれるタイプですね。
── 現在、研究以外でハマっていることはありますか?
スプラトゥーン3に熱中しています。1年くらい前に始めたんですが、もう合計で1300時間くらいやってますね(笑)。ゲームは新しいスキルを習得していくプロセスそのもので、どうやって上達するのかを自分で体感できるのが面白いところです。
未来への展望と若手研究者へのメッセージ
── 今後の研究や活動について、どのような展望を持っていますか?
最近はAIがどんどん進化していて、仮説の提案やデータ分析の一部がAIに代替されつつあります。でも、私自身は「研究の過程そのものが楽しい」という想いが強いんですよね。何がAIに置き換えられて何が残るのか、その行方を見守りつつ、自分はこの楽しさを大切にしながら脳科学を探究していきたいと考えています。