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「痩せられる人」と「痩せられない人」の脳の違い/ダイエットとニューロテクノロジーの話

これまで、悪い習慣を良い習慣に変えていくことや、周りの人と協力して取り組みを継続させていくことなど、さまざまなダイエットの効果的な方法をご紹介してきました。 しかしそれでも、長期的なダイエットは容易に達成できるものではありません。そこで今回は、ニューロテクノロジーを使った、ダイエットに効果があるとされている最新技術をご紹介します。 前回のコラムはこちらです。 https://mag.viestyle.co.jp/columm11/ 痩せられる人と痩せられない人には脳活動の違いがあった! そもそもダイエットに関わる脳の情報処理を理解しないと、話は進められません。アメリカのカリフォルニア州にあるカルテックのグループが、衝撃的な事実を雑誌サイエンスに掲載しました。 彼らはアメリカでダイエット中の、ビッグサイズな人たちを集めてきて、fMRIという脳のスキャナーに被験者を入れました。そこでサラダやスニッカーズなど、低カロリーなものから高カロリーなものまで、食べ物の写真を被験者に見せたところ、「痩せられる人」と「痩せられない人」には脳の違いがあるという事実がわかりました。 私たちの脳には、「目的思考」と「習慣思考」というものがあります。ダイエットには「目的思考」が必要です。「習慣思考」は「カロリーを取れ!スニッカーズを食べろ!」と誘惑してくるのですが、「痩せるためにはサラダを食べないといけないんだ」というように、目的と照らし合わせた思考にしていかなければならないのです。 そこで重要になるのは、dlPFC(Dorsolateral prefrontal cortex=背外側前頭前野)と呼ばれる脳の部位です。痩せられる人たちの脳は、報酬を期待する脳の部位VMPFC(ventro-medial prefrontal cortex=腹内側前頭前皮質)で起こる活動を、dlPFCが止めてくれます。 つまり、頭の中にブレーキのような働きをする脳の部位(dlPFC)があり、「美味しそう!食べたい!!」と思ったときに、そのブレーキが作動する人と作動しない人に分かれるようです。 ダイエットにおいて「過食はやめよう」「カロリー制限をしよう」というように、「目的思考」に脳を変えるためには、dlPFCの活動が必要になる、ということが解明されたのでした。 ニューロフィードバックを使って痩せられる脳を手に入れる! ここまでで、痩せられる脳の仕組みがわかったと思います。では、そのような仕組みを脳に書き込み、自然にこの作用を起こさせることができたらすごいと思いませんか? 1つの方法としては、dlPFCの脳活動を上げる訓練をおこなうことが考えられます。例えば、fMRIに入って「あなたのdlPFCの活動はこういう状態だから、もっと上げなさい」と指示し、美味しそうなドーナツの写真を見ながら訓練をすると、なんとドーナツが食べたくなくなってしまう、という状態にすることが可能です。 また「モチベーショナルニューロフィードバック」という方法もあります。例えば、ハンバーガーの写真を見ながら、dlPFCの活動をうまく起こすことができたら、そのハンバーガーの写真がどんどん遠ざかっていく、というものです。これにより、ハンバーガーを見てもハンバーガーに対する食欲を抑える、ということが学習しやすくなっていき、それによってダイエットが成功していくということがわかっています。 さらに、dlPFCに直接微量の電流を40分ほど流し続けると、ブレーキが作動するという方法もあります。ハイカロリーなものを食べたくなってしまうという脳の情報処理を、ニューロフィードバックで修正することで、逆にサラダや豆腐などを食べたくなるようにしてあげることが可能になります。 訓練をしたり、外部から刺激を与えることによって、食行動が変わり、痩せられるようになる、というのは夢のような話ですよね。カロリーが低くて健康的な食事で、より満足できる脳に変えられることができたら、ダイエットも継続しやすくなるのではないでしょうか。 まとめ ハイカロリーな食品を選ぶか、ローカロリーな食品を選ぶかという食選択は、脳の情報処理によるものです。そのため、ニューロフィードバックを利用することで、健康的な選択を促進できる可能性があります。 私たちの会社VIE でも、ニューロフィードバックを中心とした技術を取り扱っているので、将来的にはダイエットに関連した製品も提供できたらと考えています。 ニューロフィードバックについては、こちらの記事でも紹介しています。 https://mag.viestyle.co.jp/neuro_feedback/ 🎙ポッドキャスト番組情報 日常生活の素朴な悩みや疑問を脳科学の視点で解明していく番組です。横丁のようにあらゆるジャンルの疑問を取り上げ、脳科学と組み合わせてゆるっと深掘りしていき、お酒のツマミになるような話を聴くことができます。 番組名:ニューロ横丁〜酒のツマミになる脳の話〜 パーソナリティー:茨木 拓也(VIE 株式会社 最高脳科学責任者)/平野 清花 https://open.spotify.com/episode/28IWJZQBO3huFB3UdinnBB?si=nmNHdQdzSDeC7C6qjcbl7A 次回 次回のコラムでは、脳科学の研究に基づいた『感謝の力が発揮する力』についてご紹介します。 https://mag.viestyle.co.jp/columm13/

ダイエットを長続きさせるための4つのコツ「EAST」/驚くほど痩せる簡単な習慣とは?

ダイエットはすぐに結果が出るものではなく、痩せてなりたい自分になるためには、長い時間がかかります。では、どのようにすれば長期間モチベーションを維持し、ダイエットを継続することができるのでしょうか? 今回は、行動経済学に基づいたダイエットの方法やマインドをご紹介します。 前回のコラムはこちらです。 https://mag.viestyle.co.jp/columm10/ 人間の脳は未来のために頑張ることはできない? 人は将来のために努力をすることが、苦手な生き物だということを証明する実験※があります。「今の自分」という輪と「将来の自分」という輪を紙に描かせてみます。すると「今がよければいい」と考える人は、2つの輪を離して描き、「今の自分は将来の自分と繋がっているんだ」と考える人は、2つの輪を重ねて描く傾向にあるようです。 さらに、前者のように輪を離して描く人ほど、不健康で貯金もしていなくて…という人が多いことがわかっています。 未来のために努力をすることは、人間が本能的に苦手としていることなのです。しかし、これを「脳が得意なことを使って克服していこう」というのが、行動経済学やナッジになります。 行動経済学とは、人間の意思決定や食行動などの日常の営みが、どのようなプロセスで行われているのかを研究し、それに基づいた介入を行うものです。行動経済学において有名なフレームワークのひとつに、ダイエットに役立つ「EAST」と呼ばれるものがあります。 ※出典:Frontiers | Looking Back From the Future: Perspective Taking in Virtual Reality Increases Future Self-Continuity (frontiersin.org), 2024年7月11日参照 脳が得意なことを使ってダイエットを継続させる4つのコツ 「EAST」の1つ目は「Easy=簡単」です。脳はめんどくさがり屋なので、少しでも大変なことがあると、やる気をなくしてしまいます。「Easy」はその解決策として、あらゆることを「デフォルト化」してしまえばいい、という考えです。 例えば、臓器提供の話が例に挙げられます。臓器提供は、チェックリストに印をつけていくのが、とても煩雑な作業であるため、多くの人は同意をしないそうです。しかし、デフォルトで印がついている状態のものを渡し、同意しない場合はチェックを外す仕組みにすると、多くの人はその行為を面倒に思い、臓器提供に同意をするということがわかっています。これを「デフォルトオプション化」と言います。 自分にやらせたいことをデフォルトオプション化してしまえば、頭を使って考える必要がなくなるため、自然に行動に移すことができるのです。 ダイエットの話で言えば、毎日のご飯で何を食べるかを決めていないから、月見バーガーやケンタッキーを食べてしまうけれど、「夜ご飯は絶対にサラダにする」と言うように、食べるものをデフォルト化してしまえば、脳に負担をかけずに健康な食生活を継続できるのではないか、ということです。 「EAST」の2つ目は「Attractive=魅力的」です。脳は、注意を引くようなものでないと、行動を変えることができません。そのため、サラダを例に挙げると、盛り付けを綺麗にすることや、お気に入りのお皿に盛り付けるなどして、サラダを魅力的に見せ、美味しく食べられるようにする、というものです。 「EAST」の3つ目は「Social=社会的」です。人間は、周りの人がどうしているかが気になってしまい、周りの人の行動にとても影響を受けやすい生き物です。それを利用して、ダイエットでは「今日何を食べたか」「どのくらい歩いたか」などを、友達や周りの人と報告し合うことにより、人の力を借りて痩せられるのではないか、というものになります。 「EAST」の4つ目は「Timely=時間」です。人間はいつでも習慣を変えられるわけではなく、変えやすいタイミングがあることがわかっています。 例えば、中東では糖尿病や肥満が多いことが問題になっています。そこで「ダイエットをしなさい」と言われても、すぐに食生活を改善することは難しいのですが、ラマダン(断食)の時期に食事の介入をすると、食生活を変え易くなるそうです。 ダイエットに金銭的な報酬は効果なし!?驚くほど痩せる簡単な習慣とは? ダイエットを長続きさせるためには、悪い習慣を良い習慣に変えていくことが大切です。「痩せたら1万円あげる」と言うような金銭的な報酬は、ダイエットにはあまり効果がないとされています。反対に「短期的に変わる指標」「KPI的な指標」は、ダイエットの報酬として、効果的であると考えられています。 例えば、「食品を選ぶときにカロリーチェックをしたか」「糖分の含まれている飲み物は飲まなかったか」「夕食を18時までに食べ終えたか」と言うように、複数の簡単な指標を作り、もし失敗したら「どうしたら改善できるか」というセルフチェックを習慣にすることで、驚くほど痩せていく、という研究事例があります。 まとめ ダイエットは体重などの数値に囚われてしまいがちです。しかし、体重はあくまで、ダイエットを行なった結果であり、「間食をしなかった」「一駅分歩いた」というような痩せるまでの過程に目を向けていくことが、ダイエットの長続きのコツでもあります。 そもそも私たちの脳は、ダイエットのような長期的な行動を苦手とします。反対に、脳が得意なことを使って、食生活や運動生活を変えていくことができれば、ダイエットを成功させることができるかもしれません。 🎙ポッドキャスト番組情報 日常生活の素朴な悩みや疑問を脳科学の視点で解明していく番組です。横丁のようにあらゆるジャンルの疑問を取り上げ、脳科学と組み合わせてゆるっと深掘りしていき、お酒のツマミになるような話を聴くことができます。 番組名:ニューロ横丁〜酒のツマミになる脳の話〜 パーソナリティー:茨木 拓也(VIE 株式会社 最高脳科学責任者)/平野 清花 https://open.spotify.com/episode/3EwVd7FIlgssCQc2p5Nwiz?si=VMPMbTW3RcCGKdpeTSmggA 次回 次回のコラムでは、ニューロテクノロジーを利用した『ダイエットに効果がある最新技術』をご紹介します。 https://mag.viestyle.co.jp/columm12/

人間の脳は、食べ物を見ただけでカロリーを計算する!?ダイエットに潜む危険とは?

街を歩くと、周りの人が自分よりも痩せて魅力的に見えたり、脚が細く見えたりして、常にダイエットのことが頭から離れないと感じることはありませんか? このようにダイエットのことばかり考えてしまう心理は、脳科学とも少し関係があります。 今回は、『ダイエットと脳科学』について深掘りしていきます。 前回のコラムはこちらです。 https://mag.viestyle.co.jp/columm09/ 痩せたい動機はどこからくる?健康的なダイエットのために注意したいこと 「痩せたい」と感じる動機は、大きく分けて2種類あると言われています。1つ目は健康のため、2つ目は「アピアランス動機」といって「痩せて綺麗になりたい」「今の状態では醜いから痩せなきゃ」という見た目に関する動機です。 ある研究では、アピアランス動機でダイエットに取り組む人は、健康のためにダイエットする人に比べると、やる気が下がりがちになってしまうということが分かっています。 また「綺麗になるために痩せよう」という思いが強くなればなるほど、「自分の体型が本当にこれでいいのか」という、不安が大きくなってしまうことも分かっており、アピアランス動機でダイエットに取り組むことはあまり推奨されていません。健康を目的とする場合には、明確な目標が設定しやすいのに対して、アピアランス動機には数値的な目標がないことも、ダイエットが長続きしない理由の一つかもしれません。 さらに、ダイエットには「恋愛」のテーマで紹介した「蛙化現象」と似た側面があります。「蛙化現象」は、相手の気持ちをコントロールできない不安から生まれる現象です。ダイエットにおいても、食事を制限したり、食べても吐いたりすることで、体重を自分の意志でコントロールしようとする行動が見られます。 しかし、このような行動は摂食障害の症状でもあるため、アピアランスやコントロールのための無理をするダイエットは、健康的であるとは言えません。 お腹が空かなくても食べてしまう!こわい食習慣 ではそもそも、食欲が湧いてくるのはどのような現象なのでしょうか? 食欲にもダイエットの動機と同様にいくつかの種類があり、生きるために必要なカロリーを摂取するための、ホメオスタシス(恒常性)の食欲と、脳の回路が変化することによって、空腹感とは関係ないしに食べ物を食べてしまう「フードアディション(食べ物中毒)」の食欲があります。 脳科学の世界で、人間の行動は2種類に分けることができます。1つは「ゴールディレクティッド(目的思考型)」の行動、もう1つは「ハビチュアル(習慣)」の行動です。前者は目的があって食べ物を食べることを指しますが、後者は何も考えずに自動的に食べ物を口に運んでいくようなものを指します。 「お酒」をテーマとした回では、ネズミがチーズを報酬にレバーを引き続けるようになる、強化学習の話がありました。この段階では、ネズミは「エサをとる」という目的のためにレバーを引いています。そのため、例えば1週間ほど強化学習のトレーニングをしたネズミのエサに、毒を盛ると、「もうお腹が痛くなるからやめよう」とネズミは考えて、次からはレバーを引かなくなります。 しかし、1ヶ月ほどレバーを引くことをトレーニングしているネズミのエサに毒を盛っても、ネズミはレバーを引き続けます。これが習慣です。 「習慣」と聞くと、良い習慣を思い浮かべると思いますが、神経学の世界の「習慣」は、目的がなく、オートマティックでロボットのような、自動的な行動の繰り返しを指します。 ネズミの話は、人間でも同じようなことが言えます。実際の体験談ですが、最初はお腹が空いているときに、マクドナルドの赤と黄色のロゴを見て、「マック食べよう!」とお店に入ります。これを10年ほど繰り返すと、お腹が空いていなくても、気づいたらマクドナルドに入ってポテトを食べている、ということが起きてしまうのです。これが習慣的な食行動です。 食欲減退に効果的な食べ物は? それでは反対に食欲を減退するものはあるのでしょうか?これも最近の研究※で分かったことですが、私たちの脳は、食品を見ただけで、その食品にどれくらいのカロリーがあるのかを計算しています。 つまり、茶色くて油が含まれていそうなものには、私たちの脳は「カロリーがあるから手を伸ばしなさい」と反応するのですが、反対に青い食べ物などには普段見慣れていないため、カロリー計算ができず、報酬にはならないため食欲が湧かないとされています。 ※出典:https://www.cambridge.org/core/services/aop-cambridge-core/content/view/695F08A4DE3E05FFBF9DB36DF25C3768/S0029665112000808a.pdf/div-class-title-food-induced-brain-responses-and-eating-behaviour-div.pdf, 2024年7月11日参照 まとめ 見た目を気にしすぎるような、「アピアランス動機」のダイエットは、不健康になる可能性もあるため、過度なダイエットには気をつけましょう。 また、空腹感があるから食べるのではなく、悪く習慣化されてしまった脳に原因があり、食べ物中毒になって食べてしまうことにも、十分に注意が必要です。 🎙ポッドキャスト番組情報 日常生活の素朴な悩みや疑問を脳科学の視点で解明していく番組です。横丁のようにあらゆるジャンルの疑問を取り上げ、脳科学と組み合わせてゆるっと深掘りしていき、お酒のツマミになるような話を聴くことができます。 番組名:ニューロ横丁〜酒のツマミになる脳の話〜 パーソナリティー:茨木 拓也(VIE 株式会社 最高脳科学責任者)/平野 清花 https://open.spotify.com/episode/0ow5D0Ov0mNFyETeP87EXt?si=9ohvK9x1Te67AcjMXJM_BQ 次回 次回のコラムでは、行動経済学に基づいた『ダイエットを継続させる方法』についてご紹介します。 https://mag.viestyle.co.jp/columm11/

効率よく暗記する方法は?「睡眠」と「学習」の関係性は?

寝る前に勉強をすると暗記に効果的である、ということを聞いたことはありませんか?これは、脳科学的に考えると「記憶の定着には睡眠をとることが大切である」と言い換えることができます。 今回は『睡眠と学習の関係性』について深掘りしていきます。 前回のコラムはこちらです。 https://mag.viestyle.co.jp/columm08/ 記憶の定着には睡眠が大事!一夜漬けがNGな理由とは? ビールを好きになる脳の仕組み でご紹介したように、私たちの脳は、繋がりのなかったシナプス同士が新しく繋がることで、ビールがだんだん好きになったり、できなかったことができるようになったりします。 このように、起こった新しい変化を維持することを「固着」と呼ぶのですが、固着が起こるのは睡眠の最中です。そのため学習とって睡眠は非常に重要ですが、睡眠の中でも学習において重要な現象が2つあります。 1つは「オフラインパフォーマンスゲイン」です。ここでの「オフライン」は、お風呂に入っていたり、寝ていたりする、勉強している時間以外を指します。このような「オフライン」の状態を勉強の合間に挟むことで、パフォーマンスが向上することを「オフラインパフォーマンスゲイン」と呼びます※1。 私たちの脳には、「ハイパーアムネジア」(アムネジア:amnesia=記憶喪失)と呼ばれる仕組みがあります。これは、一度覚えたことを再び思い起こそうとすることで、頭の中でその記憶が蘇ってきて固着し、さっきまで思い出せなかったことが思い出せるようになる、というものです。この仕組みにおいて、合間に「休む」ということがとても重要です。 よく昔から、良い発想は馬の上や、ベッドの上からなどという、ことわざのようなものがありますが、このようなオフラインの状態というのは、脳科学的にも固着が起きる重要なポイントだったのです。 睡眠と学習において重要な2つの現象のうちの、もう1つは「スタビライゼーション:stabilization=固定化」です。実は何かを学んだ後は「今起きたことは脳にとって大事なものなのか」を脳が考えている状態になります。必要でないものは削除していかないと、容量がいっぱいになってしまうため、覚えたての記憶は、そのような天秤にかけられている不安定な状態にあります。そこで睡眠を挟むことにより、何が起きても忘れないようにする、固定化を図ることができます※2。 睡眠にもさまざまな種類がありますが、「オフラインパフォーマンスゲイン」には、ノンレム睡眠の深い眠りが必要であり、「スタビライゼーション」には、レム睡眠の浅い眠りが大事になってきます。このように、記憶の定着には睡眠が大切になってくるため、テスト前に十分な睡眠をとることには、大きな意味があるのです。 ※1 出典:Offline memory consolidation during waking rest | Nature Reviews Psychology, 2024年7月9日参照 ※2 出典:Consolidating the Effects of Waking and Sleep on Motor-Sequence Learning | Journal of Neuroscience (jneurosci.org), 2024年7月9日参照 効率の良い勉強方法は「自分に合った学習方法」を学ぶこと 睡眠の他にも学び方というのは、「ラーニングストラテジー」といってさまざまなことが言われてきています。 例えば、「認知方略」ではリハーサルといって、フラッシュカードのように繰り返し英単語を流していくやり方であったり、自分で覚えたことを要約してみる「精緻化方略」、グラフや絵を書いてみる「体制化方略」などがあります。また「メタ認知方略」といって、自分が何を勉強するかを計画し、どれくらい達成できたかをモニタリングし、できたできなかったを自分で評価して、次の計画に活かすというような方略もあります。 どれが正しいというより、どの方略をどの勉強に使うのが自分にとって最適であるのかを知ることが大切です。それを知る知識が、効率の良い勉強において重要になるのです。 脳波計をつけて記憶の固着を図る!? 最近では、睡眠時の脳波をモニタリングし、記憶の固着をする脳活動が起きているときに、それと同じような脳活動を起こす音を流すだけで、その脳活動を増やして固着の補助をすることも可能になっています※。実際にこのような技術が、一部では商品化されており、私たちの会社 VIE でも挑戦したいと思っています。 まとめ 睡眠は脳が覚えたことを固定化し、翌日以降も忘れないようにするための大事なプロセスです。そのため学ぶことと同じくらい寝ることは大切になります。最近のニューロテクノロジーでは、睡眠中の記憶活動を助けることができるので、「勉強したら脳波計をつけて寝る」というような未来が実現したら面白いですね。 脳波を活用したビジネスについてはこちらの記事でも紹介しています。 https://mag.viestyle.co.jp/eeg-business/ 🎙ポッドキャスト番組情報 日常生活の素朴な悩みや疑問を脳科学の視点で解明していく番組です。横丁のようにあらゆるジャンルの疑問を取り上げ、脳科学と組み合わせてゆるっと深掘りしていき、お酒のツマミになるような話を聴くことができます。 番組名:ニューロ横丁〜酒のツマミになる脳の話〜 パーソナリティー:茨木 拓也(VIE 株式会社 最高脳科学責任者)/平野 清花 https://open.spotify.com/episode/2GHsHGSFh8AWP2tpwlQWUF?si=I3GgiTIoSvm148ueR1n6cw 次回 次回のコラムでは、『ダイエットと脳科学』についてご紹介します。 https://mag.viestyle.co.jp/columm10/

褒め方1つで成績が変わる!?褒められて伸びるかどうかは遺伝子の違い?

効率の良い学習方法や、結果に結びつくのに最適な勉強方法は、常に親も子も模索していると思います。実は「スペース学習」といって、効率の良い勉強方法というものは脳科学的に解明されているのです! 今回は、そのような『勉強の悩みに対する解決策』や、『言語学習とニューロテクノロジーの話』についてご紹介します。 前回のコラムはこちらです。 https://mag.viestyle.co.jp/columm07/ 同じことをやり続けるのはダメ?効率の良い勉強の仕方! 効率の良い暗記の方法や、勉強の仕方を知りたい人は、大勢いるはずです。個人差はありますが、「声に出しながら文字を書く」というように、マルチモーダルで視覚や聴覚など、あらゆる感覚を研ぎ澄まして覚えていくことは、効率が良いとされています。 また「分散学習」といって、例えば英語の勉強をしたいというときに、ひたすら英語をやるのではなく、途中で数学や古文を挟むなどして、ブロックに分けて取り組むほうが、効率よく勉強できるとも言われています。同じことをやり続けることは、必ずしも効率が良いわけではなく、「スペーシング」「スペース学習」といって、一回やったら間に何か他のことをやる時間を作ることにより、集中力を発揮しながら、効率の良い勉強が期待できます。 褒め方一つで成績が変わる!結果に結びつく褒め方とは? 以前 やる気の引き出し方 で、報酬やご褒美はあまり良いパフォーマンスをもたらさない、ということが示された実験をご紹介しました。しかし、実は悪くないご褒美も中にはあります。 ある実験で、テストで良い結果が出たらご褒美のシールをもらえる群と、テスト勉強をしたらシールをもらえる群に分けたところ、後者の方が明確にテストで良い結果を残したことが分かりました。 どのように頑張れば成績が上がるのか不明確な中で、テストの点がたまたま良かった時に、ご褒美を与えられても、何をしたから良かったのかが分からないままです。 しかし、「インプット・アウトプットアプローチ」といって、勉強をして結果を出す因果関係の中で、その過程を評価することによって、「本を読んだから結果が出せたんだ」「この問題集に取り組めば出来るようになるんだ」というように、成績が上がるための勉強方法が強化されていき、結果としてアウトプットの成績が良くなっていきます。インプットに報酬を与えてやる気を出させれば、しっかりとアウトプットに繋がっていくのです。 日本の親は、子どものテストの点数や結果を褒める傾向にありますが、実はテストの点数が上がりそうなことをしているときに、子どもを褒めてあげるのが、一番良いとされています。 また「褒められて伸びるタイプ」と「叱られて伸びるタイプ」というように、2つに分けて考えることもできます。実際、日本人の8割は「褒められて伸びるタイプ」、2割は「叱られて伸びるタイプ」と答えるそうです。 学習をするときに働く、やる気に関わる「ドーパミンニューロン」には、遺伝的な個人差があります。何か物事がうまくいって、報酬がもらえたときに学習が促進するタイプの遺伝子を持っている人と、失敗をしてしまい、罰が来たときに「もうこんなことはやらない!」というように学習が促進するタイプの遺伝子を持つ人がいて、その割合はおよそ 8:2 だそうです。 このように、脳の中でのドーパミンニューロンのタイプは遺伝的に決まるため、「褒められて伸びるタイプ」であるか、「叱られて伸びるタイプ」であるかには個人差があるのです。 また、先ほどの「インプット・アウトプットアプローチ」とも関わってきますが、「あなたは頭がいいね」というように能力を誉められるのと、「勉強をして偉いね」というように努力を誉められるのとでは、後者の方が良い結果を出した、という実験もあります※。これは勉強だけでなく、「可愛いね」と言われるより、「毎日スキンケア頑張っていて偉いね」と言われる方が、もしかしたら、より嬉しく感じ、「もっと自分磨きを頑張ろう」と思えるようになるかもしれません。 このように、褒め方一つで、結果の良し悪しが変わってくるのです。 ※出典:Praise for intelligence can undermine children's motivation and performance. (apa.org), 2024年7月9日参照 「L」と「R」の違いが聞き取れるように!?語学学習の未来 英語や韓国語などの、日本語以外の語学学習に苦労する人は、たくさんいると思います。自分にとっての第一言語を話す時に、「言語中枢」といって、発話に関する脳の部分が働くのですが、第二言語、第三言語を話すときは、その処理の仕方が少し変わってしまいます。これが、第一言語以外の語学を習得する難しさに繋がっています。しかし、ニューロテクノロジーを活用することで効果的に語学学習をおこなうことができる、ということが分かっています。 例えば、言語に関わるような脳の領域に、電極を貼って電気を流すと、外国語学習や単語の記憶力が促進されるということが分かっています※。 また、言語の聞き取りに関しては、私たちの会社VIE の成瀬さんが開発した技術があります。英語の「L」と「R」は、聞き取ることも、発音することも日本人にとっては困難です。しかし、わずかな違いを脳が感知している様子をリアルタイムで画面に映し出し、ニューロフィードバックを行うことによって、何十年も聞き取れなかった「L」と「R」の違いを、聞き取れるような聴覚経路に脳を再配線してあげることが可能になるのです。 また、最近では語学学習に向いている「性格」がある、ということが言われています。人と話すことが好きな「外交性」や、オープンマインドといった「開放性」のような特性を持っている人は、語学の習得が早いことが分かっています。 ニューロフィードバックについてはこちらの記事でも紹介しています。 https://mag.viestyle.co.jp/columm36/ ※出典:Learning of Foreign Language Sounds Boosted by Non-invasive Nerve Stimulation (scitechdaily.com), 2024年7月9日参照 まとめ 学び方には人それぞれの方法がありますが、その方法が適切でないことも多々あります。一つのことに集中した方がいいと思っていても、実は分散した方がよかったり、やる気の出し方も誉め方一つで変わったりするのです。 また最近では、脳に直接アプローチするような刺激や、ニューロフィードバックの力を使って、第二言語の学習を促進する、夢のような学習技術が実現しつつあります。 🎙ポッドキャスト番組情報 日常生活の素朴な悩みや疑問を脳科学の視点で解明していく番組です。横丁のようにあらゆるジャンルの疑問を取り上げ、脳科学と組み合わせてゆるっと深掘りしていき、お酒のツマミになるような話を聴くことができます。 番組名:ニューロ横丁〜酒のツマミになる脳の話〜 パーソナリティー:茨木 拓也(VIE 株式会社 最高脳科学責任者)/平野 清花 https://open.spotify.com/episode/6wbqS2XZFerTYCPa6QKlFG?si=2-OFlUTFQ-q0Oi-6-0FkCA 次回 次回のコラムでは、『睡眠と学習の関係性』について脳科学的な視点からご紹介します。 https://mag.viestyle.co.jp/columm09/

お金をあげるのは逆効果!?子どものやる気を出させる教育方法!

みなさんの「やる気」はどこから生まれますか?「お金がもらえるから」「楽しい予定が待っているから」など、さまざまあると思います。「やる気」「モチベーション」は、その行動のパフォーマンスや成果に繋がってきます。 今回は『やる気の持ち方』や、『やる気の出ない時の対処法』について深掘りしていきます。 前回のコラムはこちらです。 https://mag.viestyle.co.jp/columm06/ どうしてもやる気が起きないときの心の持ち方とは? もうすぐテストがあるのに、どうしてもやる気が起きない...そんな経験はありませんか?「5分だけでもいいから、机に向かってみることが大切」なんていうことも、よく耳にしますよね。実はこれ、脳科学的にも正しいと言えることなのです。 例えば「卒論を完成させる」という目標は、あまりにも壮大すぎてやる気を喪失してしまいます。しかし「1ページだけでも本を読もう」という目標に変えてみると、「ちょっとやるかぁ」と気持ちも前向きになってくるはずです。このように、小さな成功の積み重ねがモチベーションや生産性を大きく向上させることがわかっています※。 完璧なゴールを思い描くことも大切ですが、遠い未来のことに価値を持って行動できる人は、とても少ないのです。何もしない状態でいることは、脳にとってとても居心地の良いもので、何かを始める、動き出すことは、脳にとてもコストがかかります。 そのため卒論の例では、とりあえず名前と学籍番号を書いてみる、というような小さなことから始めてみると、モードが切り替わって書き進められたりします。 ※出典:The Power of Small Wins (hbr.org), 2024年7月9日参照 やる気はどこから生まれるの? 「1時間勉強したら、好きなアイドルの動画を1本見よう!」というように、物事の動機と報酬は、切っても切り離せない関係にあります。このようにやる気というものは、何かご褒美があると生まれやすいという風に考えられています。 しかし、例えばバイトを選ぶときには、時給が高い方がやる気が出そうと思われることが多いのですが、実はそうではないことがわかっています。 ある研究で、「あなたのやる気が出ることはなんですか?」と尋ねたものがあります。その答えは、「お金をもらうと頑張れます!」というように、金銭的インセンティブを挙げる人と、「褒められたりすれば頑張れます」と言う人に分かれるそうです。 しかし面白いことに、前者のように「お金をもらえたら頑張れる」と言う人にボーナスを与えても、実際にパフォーマンスが全く上がっていませんでした※。つまり自己申告の「やる気が出る」というのと、「生産性が上がる」というのは、別物だということが、この実験の結果からわかったのです。 またお金の報酬があることによって、パフォーマンスが悪くなる場合があることもわかっています。簡単な問題解決力を問う問題で、「この問題が解けたらお金をあげる」と言われると、問題の正答率が低くなってしまうという結果が出た実験もあります。 お金がもらえるからといって、必ずしもやる気が出て、良い成績を残せるとは限らないようです。反対に、セルフインセンティブと言って、「これを頑張ったらケーキ食べよう!」と言うようにご褒美を与えていくものは、良いパフォーマンスを生み出しやすいと言われています。 ※出典:Does the size of rewards influence performance in cognitively demanding tasks? | PLOS ONE, 2024年7月9日参照 子どものやる気を伸ばす教育の方法 子どもに勉強を頑張ってもらうために、「何番以内に入ったらお小遣いを増やしてあげる」と言う教育は、アンダーマイニング効果といって、子どもが「お金をもらわないと勉強しなくなる」ようになってしまうこともあります。元々は自分の意志でやっていたものも、外発的な報酬がもらえると、それを目的に行動するようになってしまうのです。 勉強のパフォーマンスが発揮されやすいモチベーションとしては、「内発的な動機」が大切になってきます。人から報酬をもらえるからやるのではなく、「自分が楽しいからやる」「これができるようになると嬉しいからやる」というような内発的動機を持つ傾向にある人は、学業成績だけでなく、運動能力や仕事、さらには年収も高い傾向にあると言われています。 しかし、そうは言っても自分からやる気を出すことは、なかなか難しいことです。子どものやる気を引き出してあげるためには、「自律性」と言って、「何をやるか」「いつやるか」「どのくらいやるのか」を自ら選択させる、裁量をあげることが大切だとされています。 また個人差はありますが、「自分がもっと学んで成長していきたい」というような思考や目的意識を持っている人は、やる気も出しやすいと言われています。 まとめ やる気には、お金やご褒美をもらうからやる外発的なものと、自分が楽しいからやる内発的なものの2種類があります。直感的には、お金やご褒美をあげれば、人はやる気を出して頑張れると思われがちですが、実は頑張れなかったり、成績が上がるわけではなく、むしろ悪い影響が出てしまうこともあります。 内発的な動機を持つことは難しいですが、そのような動機を持っている人は、パフォーマンスが良かったり、社会で成功しやすいことが多いのです。 🎙ポッドキャスト番組情報 日常生活の素朴な悩みや疑問を脳科学の視点で解明していく番組です。横丁のようにあらゆるジャンルの疑問を取り上げ、脳科学と組み合わせてゆるっと深掘りしていき、お酒のツマミになるような話を聴くことができます。 番組名:ニューロ横丁〜酒のツマミになる脳の話〜 パーソナリティー:茨木 拓也(VIE 株式会社 最高脳科学責任者)/平野 清花 https://open.spotify.com/episode/0AwufjF1ibX29HCGQbzdo3?si=k8QIlqI4Q-Oum2WIRyfH6w 次回 次回のコラムでは、脳科学的に解明された『成績が上がる褒め方』をご紹介します。 https://mag.viestyle.co.jp/columm08/

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