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脳波コントロール完全ガイド|脳で動かす未来技術『BCI』の仕組みと最新事例 

考えるだけで機械や物体を操る───ひと昔前はSFの設定にしか現れなかったような技術に世界が注目しています。脳波を使って機械を動かす脳コントロール技術、つまりブレイン・コンピュータ・インターフェース(BCI)は、医療や教育、エンタメ分野へ急速に広がっています。本記事では、脳波技術の仕組みや応用事例、そして社会にもたらす未来像までをわかりやすく解説します。 「脳波コントロール」とは?基本概念をやさしく解説 脳波コントロールとは、人間の脳から発せられる電気信号、すなわち「脳波」を利用して、外部機器やコンピュータを操作する技術のことです。この技術は、Brain-Computer Interface(BCI)またはBrain-Machine Interface(BMI)と呼ばれ、近年急速に注目を集めています。BCIは、脳の活動を直接読み取ることで、身体の動きに依存せずにさまざまな操作を実現するため、医療、リハビリ支援、エンターテインメント、スマートホームなどの多分野での応用が進められています。 とはいえ、「本当に脳の活動だけでものを動かせるの?」「どんな仕組みで動作しているの?」と半信半疑の方も多いでしょう。ここでは、脳波の基礎から、BCIの仕組み、解析技術までを順を追って解説していきます。 脳波の種類と役割:アルファ波やベータ波とは? 「脳波」とは、私たちの脳が活動するときに発生する微弱な電気信号のことです。脳の神経細胞(ニューロン)が情報を伝達するときに生じる電気的変化を、頭皮上から測定することで脳波を記録できます。 脳波はその周波数によっていくつかの種類に分類され、状態に応じたパターンが見られます: デルタ波0.5~4Hz深い眠りや無意識状態で現れる。身体の回復や脳の修復に関与。シータ波4~8Hz眠りに入る直前や深い瞑想状態で優勢。創造性や直感力に関与。アルファ波8~13Hzリラックス状態や軽い集中で観測。ストレス軽減に役立つ。ベータ波13~30Hz高い集中や警戒状態で優勢。過剰になると不安やストレスの原因に。ガンマ波30Hz以上複雑な問題解決や学習時に観測。脳の全体的な活動を統合。 これらの脳波は、現在では簡易なヘッドセット型デバイスでも計測可能となっており、日常的な環境での活用も進んでいます。 脳波についてより詳しく知りたい方は以下の記事も合わせてご覧ください。 https://mag.viestyle.co.jp/eeg-business/ BCIとは?脳とコンピュータをつなぐ仕組み BCI(Brain-Computer Interface)は、脳波を介して人間の意図をデバイスに伝え、直接制御を行う技術です。従来のマウスやキーボードと異なり、「思考」や「集中」だけで機械を動かすことが可能になります。 BCIは、以下のようなプロセスで動作します: センサーによる脳波の計測 ノイズ除去・解析 意図の推定(「左に動かす」「選択する」など) 外部デバイスへの指令送信 このようなプロセスを行うことで、実際に重度の運動障害を持つ患者が、自身の意思だけでカーソルを動かしたり、ドローンを操作したりする例がすでに報告されています。 BCIについてより詳しく知りたい方は以下の記事も合わせてご覧ください。 https://mag.viestyle.co.jp/brain-machine-interface/ 脳波を測定する仕組み:EEGによる非侵襲的計測 脳波の計測方法は、外科的な手術によって電極を頭の内部に埋め込む侵襲的なものと、体の外側に電極を取り付けて計測する非侵襲的なものの2種類に大別されます。非侵襲的な脳波測定方法のうち、代表的なものがEEG(Electroencephalography:脳波計)です。EEGは、頭皮に取り付けた複数の電極を通じて、脳の電気信号をリアルタイムに記録する技術で、非侵襲的に利用できる点が大きな利点です。 EEGは現在、医療機関だけでなく、消費者向けウェアラブル機器にも応用されており、BCIの社会実装を支える基盤技術として活用が広がっています。 その他の脳波計測方法については、以下の記事で詳しく解説しています。 https://mag.viestyle.co.jp/eegmeasurement/ 脳波で何ができる?実際の活用事例 脳波を使って機械やシステムを操作する「脳波コントロール」技術は、もはや研究室の中だけの話ではありません。医療、エンタメ、軍事・災害支援といった多様な領域で実証・応用が進んでおり、社会実装が着実に現実となりつつあります。 ここでは、実際の事例を通じて、BCI技術がどのような場面で活用されているのかを見ていきます。 医療での応用:麻痺患者によるドローン操作 BCIの中でも特に注目されているのが医療分野での応用です。その一例として、身体を自由に動かすことができない患者が、思考だけで外部のデバイスを操作し、これまでできなかった動作や体験を取り戻すという試みが活発に行われています。 実際、大阪大学大学院医学系研究科では、体を動かすことのできない患者の脳の表面に電極を取り付け、そこから得られた脳波を解析することで、ロボット義手を患者の意思通りに動かす技術が実現されました。また、腕を失った後に、存在しないはずの腕に痛みを感じる「幻肢痛」を抱える患者が、この義手を動かす訓練をすることで、痛みが低減されることを実証しました。 この技術は、将来的に車椅子や義肢の操作、およびリハビリテーションにも応用される可能性があり、生活の質(QOL)向上につながると期待されています。 参考:Yanagisawa T, Fukuma R, Seymour B, Tanaka M, Hosomi K, Yamashita O, Kishima H, Kamitani Y, Saitoh Y. BCI training to move a virtual hand reduces phantom limb pain: A randomized crossover trial. Neurology. 2020 Jul 28;95(4):e417-e426. doi: 10.1212/WNL.0000000000009858. Epub 2020 Jul 16. PMID: 32675074; PMCID: PMC7455320. ゲーム・VRでの応用:NextMindの取り組み 引用:ハコスコ「ブレインテックのハコスコ、NextMindのブレイン・コンピューター・インターフェース(BCI) 開発キットの取り扱いを開始」 BCIは医療だけでなく、ゲームやVR体験のインタフェースとしても注目されています。フランス発のスタートアップ「NextMind」は、脳波によってゲームやインターフェースを操作できる小型デバイスを開発し、実用化段階に進んでいます。 NextMindのデバイスは後頭部に装着し、ユーザーが画面上のアイコンを注視するだけで、選択や操作ができる仕組みです。特別なトレーニングを必要とせず、直感的に使えることが特徴とされており、今後のゲーム操作やメタバース環境における標準的な入力手段となる可能性もあります。 引用:ハコスコ「ブレインテックのハコスコ、NextMindのブレイン・コンピューター・インターフェース(BCI) 開発キットの取り扱いを開始」 また、2025年に報じられたケースでは、四肢麻痺の男性が脳波信号のみで仮想空間内のドローンを自在に飛ばすことに成功しました。これは、患者の脳に挿入した小さな電極が脳波を読み取り、ユーザーの「動かしたい」という意思を機械が解釈・実行したものです。 こちらは侵襲的な計測方法を要するものですが、脳内の電気活動がVR体験のインターフェイスとなり得る良い例と言えるでしょう。 参考:Willsey, M.S., Shah, N.P., Avansino, D.T. et al. A high-performance brain–computer interface for finger decoding and quadcopter game control in an individual with paralysis. Nat Med 31, 96–104 (2025). https://doi.org/10.1038/s41591-024-03341-8 教育・学習支援への応用:集中力のリアルタイム計測 これまで、BCIによって外部機器やシステムをコントロールする事例を紹介しましたが、脳波がコントロールできる対象は物体やソフトウェアだけではありません。 近年、BCI技術を活用して学習者の集中度をリアルタイムで可視化し、学習効率のコントロールを図る取り組みが進められています。 たとえば、京都に本社を置くMiraxia Edge Technology社は、脳波を用いた集中力センシング技術を開発し、学習中の集中度をリアルタイムで測定・可視化するシステムを提供しています。このシステムにより、学習時間や環境、教科、勉強方法の違いによる集中力の変化を把握し、個別最適な学習計画の作成や学習環境の最適化が可能となります。 参考:Miraxia Edge Technology「集中力センシング」 また、米国のBrainCo社は、教育分野に特化したBCIデバイスを開発し、生徒の集中度をリアルタイムで計測することで、教師が授業内容や進め方を調整し、学習効果の向上を図る取り組みを行っています。 参考:BrainCo 脳波コントロール技術の裏側:AIとの連携と課題点 脳波コントロール、すなわちBCIの裏側には、精緻な計測装置、複雑な信号処理、そして人工知能との統合といった高度な仕組みが存在します。 ここでは、BCIとAIとの連携、近年注目されているセキュリティと倫理の課題まで、技術の裏側に迫ってみましょう。 信号処理とAI:脳波を“意味ある情報”に変える技術 BCIで取得される脳波は、極めて微弱で不安定な信号なため、そのままでは利用できません。まずはノイズを取り除き、重要な情報を抽出する前処理が施されます。 その後、機械学習やディープラーニングのアルゴリズムが用いられ、使用者の「意図」を読み取るモデルが構築されます。たとえば、「左を見るとき」の脳波パターンを学習し、次回以降はそれを正確に識別するようになるのです。 近年では、ユーザーごとに最適化されたモデルを生成する「パーソナライズドAI」の導入も進んでおり、BCIの反応速度や精度の向上に貢献しています。 BCIに取り入れられているAI技術についてより詳しく知りたい方は以下の記事も合わせてご覧ください。 https://mag.viestyle.co.jp/mi-eeg-analysis/ セキュリティと倫理:脳の中身を読み取るリスク BCIが扱う脳波データは、行動だけでなく思考や感情の一部まで読み取る可能性があるため、プライバシーの侵害リスクが指摘されています。 技術面では、脳波の暗号化通信や、データの使用範囲を明示するアクセス制御の導入が進められていますが、倫理的には「脳情報は誰のものか」という根本的な議論もあります。 実際、欧州では“Neuro Rights(神経の権利)”という概念が提唱されており、BCIの使用にあたっては、本人の自由意思・同意・自己決定権が明文化された法的枠組みが求められています。 リアルタイム性とユーザー体験:BCIの操作性を高める鍵 BCIの社会実装には、リアルタイムで動作するインターフェースの快適性が重要です。わずかな遅延や誤作動がユーザーのストレスや操作ミスに直結するため、システム全体の応答性が課題とされています。 そのため、信号処理からAIによる意思解釈、機器制御までの一連のプロセスで、処理速度の最適化と操作フィードバックの即時性が求められます。実際に、ゲームや義手制御の分野では、数百ミリ秒以内で反応するシステムが開発されており、操作精度と自然さの両立が進められています。 このようにBCIは、単なる脳波の読み取りを超えて、情報工学・神経科学・倫理学の交差点にある複合的な技術です。その裏側を理解することで、BCIが未来の社会で果たす役割をより深く考えることができるでしょう。 多様な業界の連携が鍵!脳波技術がもたらす未来像 かつては空想の中にしか存在しなかった「思考で操作する世界」が、今、技術として現実のものになりつつあります。BCIは、医療やゲームだけにとどまらず、社会全体に変革をもたらす可能性を秘めています。 ここでは、最前線の研究開発から始まり、将来の生活への浸透、そしてその実現に向けた社会的課題まで、BCIが描く未来像を紹介します。 世界が注目するBCI開発:企業と大学の連携が加速 現在、BCIに関する研究開発は世界各地で活発に行われています。たとえば、アメリカのスタートアップ「Synchron」は、血管経由で脳と通信する埋め込み型BCIを開発し、実際の臨床試験にも成功しています。これにより、外科手術を伴わない侵襲性の低いBCIが現実味を帯びてきました。 参考:Synchron 一方、国内では筑波大学や東京大学などが、神経科学と機械学習を融合させたBCI応用の研究を推進しており、企業と連携したプロジェクトも増加中です。大学と産業界の協業は、実用化に向けた技術加速の鍵となっています。 日常に入り込むBCI:職場・教育・暮らしの中へ 今後、BCIは私たちの日常生活にも深く関わると見られています。たとえば、仕事中の集中状態やストレスを可視化して、生産性や安全性を高めるといった応用が期待されます。 教育現場では、生徒の理解度をリアルタイムで測定し、内容や進行速度を自動で調整するインテリジェント授業支援が可能になるかもしれません。また、エンターテインメントでは、映画や音楽が利用者の感情に応じて変化する“感応型メディア”の実現も視野に入っています。 社会に溶け込む前に:制度・倫理・技術の課題 BCIの可能性が広がる一方で、脳波データの所有権や利用目的の明確化、倫理的な運用ルールの整備など、社会的な基盤整備が不可欠です。 特に、思考や感情を読み取る技術には高いプライバシーリスクが伴います。BCIが社会に定着するためには、法制度・教育・産業が一体となった慎重な導入が求められます。 まとめ:脳波コントロールがもたらす可能性 脳波コントロール技術(BCI)は、医療・教育・エンタメ・福祉など、幅広い分野に応用され始めており、身体の制約を超えた新しいインターフェースとして期待が高まっています。思考や意志を直接テクノロジーとつなげるこの技術は、利便性だけでなく、人間の可能性そのものを拡張する手段でもあります。 一方で、倫理やプライバシーへの配慮、法整備など、慎重な社会的対応も欠かせません。BCIは、未来の生活様式や価値観を根本から変える力を持つ、次世代のキーテクノロジーと言えるでしょう。

恋愛脳とは?特徴とメリット・デメリットを脳科学で解説!上手な付き合い方・やめ方も紹介

「恋は盲目」とはよく言ったもので、恋愛をすると世界がキラキラして見えたり、逆に相手のことで頭がいっぱいで何も手につかなくなったり…。そんな経験はありませんか?もしかしたら、それは「恋愛脳」の状態かもしれません。 そこでこの記事では、「恋愛脳」とは一体何なのか、その特徴やメリット・デメリットを、最新の脳科学の知見を交えながら分かりやすく解説します。ニューロテック(脳科学技術)が恋愛感情の理解にどう貢献しているのかについても触れていきますので、ぜひご覧ください。 ニューロテックについては以下の記事で詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。 https://mag.viestyle.co.jp/braintech/ 「恋愛脳」とは? – 物事を恋愛中心で考えてしまう状態 まずは「恋愛脳」が一般的にどのような状態を指すのか、そして脳科学の観点から見ると、恋に落ちたときに私たちの脳内で何が起きているのか、その基本的なメカニズムについて見ていきましょう。 一般的な「恋愛脳」の定義 何かに夢中になっている脳の状態 「恋愛脳」とは、特定の誰かに強く惹かれ、その人のことを考える時間が増え、日常生活の優先順位や価値観が恋愛中心に変化している状態を指す一般的な言葉です。 まるで脳が恋愛モードに切り替わったかのように、良くも悪くも恋愛に特化した思考や行動が目立つようになります。 これは病的な状態というわけではなく、人が何かに強く情熱を傾ける際に起こりうる自然な心の動きとも言えます。特に恋愛の初期段階では、多くの人が経験する状態と言えるでしょう。 【脳科学の視点】なぜ「恋愛脳」になるの? 脳科学の観点から見ると、「恋愛脳」とはどのような状態なのでしょうか。 恋に落ちると、私たちの脳内では様々な変化が起こっています。 まず、快感や多幸感をもたらす神経伝達物質であるドーパミンが活発に分泌されます 。ドーパミンは目標を達成した時や新しいことを学ぶ時にも放出されるため、恋愛相手のことをもっと知りたい、関係を進展させたいという強いモチベーションに繋がります 。 「会いたい」「声が聞きたい」といった抑えきれない感情は、このドーパミンの影響が大きいと考えられています。 また、愛情や絆の形成に関わるオキシトシンというホルモンの分泌も高まります 。オキシトシンは「愛情ホルモン」とも呼ばれ、信頼感や安心感をもたらし、相手との精神的な結びつきを強める働きがあります 。 これらの脳内物質は、脳の「報酬系」と呼ばれる部位(特に腹側被蓋野や線条体など)を活性化させます 。報酬系は、私たちが生きていく上で重要な行動(食事や睡眠など)をとったときに快感を感じさせ、その行動を繰り返すように促すシステムです。恋愛もまた、この報酬系を強く刺激するため、私たちは恋愛に夢中になりやすいのです 。 あなたも「恋愛脳」?主な特徴をチェック 「恋愛脳」の状態にある人には、いくつかの共通した特徴が見られることがあります。ご自身や周りの人が「恋愛脳」かもしれないと感じたときに、どのような点に注目すればよいか、具体的な特徴と、脳活動レベルでのサインについて解説します。 恋愛脳の人の一般的な特徴5選 ご自身や周りの人が「恋愛脳」かもしれないと感じたら、以下の特徴に当てはまるかチェックしてみましょう。 常に恋人がいる、または恋愛を追い求めている: 恋愛をしていない期間が短い、または常に好きな人や気になる人がいる。 恋愛が生活の最優先事項になる: 仕事や趣味、友人との予定よりも恋愛相手との時間を優先しがち。 感情の起伏が激しく、恋人の言動に一喜一憂する: 相手の些細な言葉や態度で天にも昇る気持ちになったり、反対に深く落ち込んだりする。 好きな人のためならフットワークが軽い: 普段は面倒くさがりでも、好きな人に会うためなら遠出も厭わないなど、行動的になる。 恋人を優先し、周りが見えにくくなることがある: 恋愛に夢中になるあまり、友人関係や家族とのコミュニケーションが疎かになったり、客観的な判断がしづらくなったりする。 【脳波・脳活動のサイン】好きな人を見たときの脳の反応とは? 実は、人が恋愛感情を抱いているときの脳の反応は、脳波や脳活動を調べることで垣間見ることができます。 例えば、fMRI/機能的核磁気共鳴機能画像法 を用いた研究では、恋人の写真を見ると、ドーパミンと関連の深い脳の報酬系(腹側被蓋野や尾状核など)が活発に活動することが示されています 。これは、好きな人を見るだけで「ご褒美」として脳が認識している証拠と言えるでしょう 。 一方で、恋愛中の脳活動を調べた研究では、恐怖や不安に関連する扁桃体や、客観的な判断を司る前頭前野の一部など、特定の脳領域の活動パターンに変化が見られることが報告されています。この変化が「恋は盲目」と言われる状態と関連している可能性が指摘されていますが、脳の働きは複雑であり、人によってそのパターンは異なります。 さらに、脳波(EEG)を用いた研究では、特定の刺激に対する脳の電気的反応を見るERP(事象関連電位)という手法が用いられます。オランダの心理学者サンダー・ランゲスラグ博士らの研究によると、恋愛中の人がパートナーの写真を見た際には、「LPP(Late Positive Potential:後期陽性電位)」と呼ばれる脳波成分が、友人や魅力的な見知らぬ人の写真を見たときよりも大きく現れることが分かりました 。 LPPは、関心が高い情報や動機付けの高い情報に対して持続的な注意が向けられていることを反映すると考えられており、恋愛対象への強い関心を示唆しています 。 このように、脳科学の研究は「恋愛脳」の状態を客観的なデータとして捉えようと試みています。 参考:熱愛中にドーパミン神経が活性化する脳領域を解明 -恋人を見てドキドキすると、前頭葉の2つの領域が活性化する-|理化学研究所 「恋愛脳」のメリット3選 – 恋がもたらすポジティブな効果 「恋愛脳」はネガティブな側面ばかり注目されがちですが、実は人生を豊かにする多くのポジティブな効果も秘めています。ここでは、恋愛がもたらす代表的なメリットを3つご紹介し、脳科学の視点からも解説します。 自分を高めようと努力する(例:美容、仕事への意欲向上) 好きな人に良く見られたい、釣り合う自分になりたいという気持ちは、強力なモチベーションになります。ファッションやメイクに気を使うようになったり、ダイエットを始めたり、あるいは仕事や勉強に一層熱心に取り組むようになったりするのは、恋愛がもたらす素晴らしい副産物です。 【脳科学の視点】ドーパミンによるモチベーション向上効果 これは、先述のドーパミンが関わっています 。ドーパミンは目標志向的な行動を促すため、「好きな人に振り向いてもらう」という目標が良い刺激となり、自分磨きへのエネルギーに変わるのです。 ポジティブになり、毎日が楽しくなる 恋をすると、世界が色鮮やかに見え、些細なことにも幸せを感じられるようになることがあります。好きな人のことを考えるだけで心が満たされたり、デートの予定を心待ちにしたりと、日々の生活にハリが出て、笑顔が増えるでしょう。 愛情表現が豊かになり、行動的になる 好きな相手に対して、自分の気持ちをストレートに伝えたくなったり、相手が喜ぶことを積極的にしてあげたくなったりするのも恋愛脳の素敵な特徴です。愛情を感じ、それを行動で示すことで、より深い関係性を築くことができます。 「恋愛脳」のデメリット・注意点3選 – 知っておきたい落とし穴 恋愛の素晴らしい効果の一方で、「恋愛脳」が行き過ぎると、日常生活や心身のバランスに影響を及ぼすこともあります。ここでは、知っておきたい主なデメリットや注意点を3つ挙げ、関連する脳の状態についても触れます。 恋愛に依存しすぎて疲れてしまう、視野が狭くなる 四六時中相手のことばかり考えてしまい、他のことが手につかなくなったり、相手からの連絡がないと不安で仕方なくなったりと、恋愛に振り回されて精神的に疲弊してしまうことがあります。また、恋愛以外の世界への関心が薄れ、視野が狭くなってしまうことも。 【脳科学の視点】報酬系の過活動とセロトニン低下による依存リスク 恋愛による報酬系の過度な活性化は、時にギャンブルや薬物への依存と似たような脳の状態を引き起こす可能性が指摘されています。また、恋愛初期には、精神の安定に関わるセロトニンのレベルが一時的に低下し、強迫的な思考や不安感を強めることがあるとも言われています。これが「恋煩い」の一因かもしれません。 相手に合わせすぎて自分を見失う 相手に嫌われたくない一心で、自分の意見や感情を抑え込み、常に相手の顔色をうかがってしまう…。このような状態が続くと、自分らしさを見失い、無理がたたって関係が長続きしなくなることもあります。 友人関係や仕事など、他のことが疎かになりやすい 恋愛を最優先するあまり、友人との付き合いが悪くなったり、仕事や学業のパフォーマンスが低下したりするケースも見られます。バランスを欠いた状態は、結果的に自分自身を苦しめることにもなりかねません。 恋愛脳に疲れた…「恋愛脳」を少し休みたいときの対処法 恋愛も時にはエネルギーを使い果たし、休息が必要になることがあります。「恋愛脳」の状態に少し疲れを感じたとき、どのように対処すれば心のバランスを取り戻せるのか、具体的な方法とニューロテックの応用についてご紹介します。 恋愛以外のことに夢中になれることを見つける 趣味、スポーツ、勉強、仕事、ボランティアなど、恋愛以外で自分が心から楽しめることや達成感を得られることを見つけ、それに没頭する時間を作りましょう。脳の関心を恋愛以外の対象に向けることで、バランスを取り戻すことができます。 自分の感情を客観的に見つめ直す(例:日記をつける、信頼できる人に話す) 自分の今の感情や思考を紙に書き出したり、信頼できる友人やカウンセラーに話を聞いてもらったりすることで、客観的に自分を見つめ直すきっかけになります。感情を整理するだけでも、心の負担は軽くなるものです。 家族や友人との時間を大切にし、人間関係を広げる 恋愛相手以外の人たちとの繋がりも大切にしましょう。家族や気心の知れた友人と過ごす時間は、安心感をもたらし、精神的な支えとなります。また、新しいコミュニティに参加するなどして人間関係を広げることも、視野を広げ、気分転換に繋がります。 【ニューロテックの応用】感情の波を整えるヒント 近年、ニューロテック(脳科学技術)の分野では、感情のコントロールをサポートする研究も進んでいます。例えば、ニューロフィードバックは、自身の脳波の状態をリアルタイムで確認しながら、望ましい脳波パターンになるようにトレーニングする技術です 。 特定の脳波(たとえばリラックス状態を示すアルファ波など)を増やすことで、感情の波を穏やかにしたり、集中力を高めたりする効果が期待されており、不安やストレスの管理に応用され始めています 。 また、失恋によるつらい感情や精神的な苦痛を抱えた時に、脳科学的なアプローチで心のケアを試みる研究も進められています。例えば、うつ病治療の研究で用いられるtDCS(経頭蓋直流電気刺激)という技術が、強い精神的苦痛を伴う失恋経験の症状を和らげる可能性を示唆する予備的な研究も報告されています。これらはまだ研究段階であり、一般的な治療法ではありませんが、将来的に心のケアの一助となるかもしれません。 イランの研究グループが2021年に発表した研究では、感情のコントロールに関わる脳の領域(背外側前頭前野:DLPFCなど)をtDCSで刺激することで、LTSの症状や抑うつ感が軽減されたとしています 。これらはまだ一般的な治療法ではありませんが、将来的には心のケアの一助となるかもしれません。 参考:https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0022395624002796 ニューロフィードバックについてはこちらの記事で解説しています。 https://mag.viestyle.co.jp/neuro_feedback/ もっと積極的になりたい!「恋愛脳」と上手に付き合い恋を楽しむには? 「恋愛脳」は必ずしも悪いものではなく、そのエネルギーを上手に活用すれば、恋愛をより豊かで楽しいものにできます。ここでは、恋愛脳と上手に付き合い、ポジティブな側面を活かすためのヒントをご紹介します。 自分の魅力を磨き、自己肯定感を高める 外見だけでなく、内面も磨き、自分に自信を持つことが大切です。自己肯定感が高まると、心に余裕が生まれ、相手に対しても自然体で接することができます。 積極的にコミュニケーションの機会を増やす 気になる人がいれば、勇気を出して話しかけてみたり、共通の話題を見つけて会話を弾ませたりと、コミュニケーションの機会を積極的に作りましょう。 恋愛映画や音楽でポジティブな感情を高める(ただしバランスが重要) 恋愛をテーマにした映画や音楽に触れることは、恋愛に対するモチベーションを高めたり、登場人物に共感することで感情を豊かにしたりする効果があります。ただし、理想と現実を混同しすぎないよう、バランス感覚も大切です。 【脳科学の視点】オキシトシンを味方につけて安心感を育む 「愛情ホルモン」であるオキシトシンは、人との信頼関係や安心感を深める上で重要な役割を果たします 。信頼できる人とのハグやスキンシップ、心温まるコミュニケーション、あるいはペットとの触れ合いなどでもオキシトシンの分泌は促されると言われています。恋愛においても、相手との間に安心できる絆を育むことを意識すると良いでしょう。 恋愛脳を正しく理解し、自分らしいハッピーな恋愛をしよう 「恋愛脳」は、私たちを時には夢中にさせ、時には悩ませる、人間にとって自然でパワフルな脳の状態です。そのメカニズムを脳科学の視点から少しでも理解することで、自分自身の感情や行動を客観的に見つめ、より建設的に恋愛と向き合うことができるようになるでしょう。 恋愛脳のメリットを活かし、デメリットに賢く対処しながら、あなたらしいハッピーな恋愛を楽しんでくださいね。この記事が、その一助となれば幸いです。

国家戦略としてのニューロテック──国内外の支援・制度を解説

ニューロテック——脳科学とテクノロジーが交差するこの領域は、近年、認知症の予防や精神疾患の治療といった医療応用に加えて、人間の認知機能や感覚の拡張を目指す技術としても、注目を集めています。 この急速な発展の裏には、研究者の飽くなき探究心だけでなく、もう一つの重要な推進力があります。それが「政策」と「資金」です。科学技術の進歩は、それを支える制度と財源なしには持続的な発展が難しく、特にニューロテックのような新興分野では、規制、倫理、産業構造との関係が複雑に絡み合い、民間単独では市場形成までの道のりが険しいのが現実です。そのため、国家戦略や公的資金の投入は、ニューロテックの発展において極めて重要な位置を占めています。 実際に、日本政府は「統合イノベーション戦略」や「ムーンショット型研究開発制度」のもとで、脳科学分野への本格的な投資を開始しています。AMEDやNEDOといった機関が研究費を供給し、地方自治体もスタートアップ支援や実証フィールドの提供に乗り出すなど、支援体制は多層的に広がっています。海外に目を向ければ、米国のBRAIN Initiativeや欧州のHorizon Europeといった国家的取り組みが、脳科学の産業化をけん引しています。 本記事では、こうした国内外の政策・支援制度を整理し、それらがどのようにニューロテックの市場形成に寄与しているのかを紐解いていきます。 参考:経済産業省「行政と連携実績のあるスタートアップ100選 スタートアップとの連携で社会課題の解決を」 国内編|なぜ日本は脳科学に投資するのか? ニューロテックや脳科学関連の技術が花開くには、長期的な研究と制度的な後押しが必要不可欠です。特に日本では、少子高齢化や認知症の急増、精神疾患の増加など、脳に関わる医療・福祉の課題が社会課題と直結しています。この構造的背景こそが、日本が国家戦略として脳科学への投資を強化してきた最大の理由です。 実際、日本ではこれらを支える公的支援体制が段階的に整備されてきました。2008年に文部科学省から始まった「脳科学研究戦略推進プログラム」は、日本の脳科学研究を大きく推進しました。このプログラムの終了後も、脳科学は日本の科学技術基本計画において、常に重点領域として扱われてきました。そして現在、その流れは「統合イノベーション戦略」や「ムーンショット型研究開発制度」、そしてAMEDの「脳とこころの研究推進プログラム」などに引き継がれています。 また、研究資金を実際に分配・執行する実働部隊として、AMED(日本医療研究開発機構)やNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)といった機関が存在します。AMEDでは「脳とこころの研究推進プログラム」の名のもと、神経・精神疾患の解明に向けた大型研究が支援されてます。 一方、NEDOでは近年、AI・センシング技術などと連携し、医療・ヘルスケア分野における実用化を目指す技術開発の中で、ニューロテック領域への応用支援も進めています。NEDOの支援は、単なる研究資金提供にとどまらず、実用化や社会実装を意識した企業連携型の事業開発を特徴としており、出口戦略型の支援で、スタートアップから大企業まで幅広いプレイヤーが参画しています。 このように、日本における脳科学支援は、基礎研究・産業応用・社会実装を包括的に支える多層的構造を形成しつつあります。一方で、脳科学領域での実際の事業化・マネタイズにおいては、まだ制度的・倫理的課題が残るのも事実です。それでも、日本政府がなぜ脳科学に投資するのか——その背景には、「超高齢社会」におけるQOL(生活の質)の向上、医療費の抑制、新産業創出という国家的課題があるのです。 ▼こちらの記事もチェック https://mag.viestyle.co.jp/10-perspectives-on-well-being/ 海外編|米・欧・アジアの支援体制 ニューロテックが単なる技術トレンドではなく、国策レベルの戦略領域として位置づけられているのは、日本だけではありません。とりわけ、アメリカ・EU・イスラエル・シンガポールなどの国々では、脳科学や神経技術を未来社会の基盤技術と捉え、明確な政策方針と大規模な資金投入によって、支援の体系化が進められています。 こうした政策の特徴は、基礎研究から臨床応用・産業化までの“ステージ連携”を明確に設計している点にあります。ここでは、代表的な海外の国家的取り組みを紹介していきます。 米国:BRAIN Initiativeに見る長期的な基礎投資モデル 2013年、オバマ政権下で始まったBRAIN Initiative(Brain Research through Advancing Innovative Neurotechnologies)は、脳の機能的マップを作成し、神経疾患の治療法開発に活かすことを目的とした国家プロジェクトです。 主導機関は米国国立衛生研究所(NIH)で、当初の10年間で数十億ドル規模の投資が行われ、2023年には「BRAIN Initiative 2.0」へと移行しました。このフェーズでは、データ共有・倫理ガイドライン・標準化の整備も含めた、脳科学インフラの構築にまでスコープが拡張されています。 特筆すべきは、BMI、神経刺激、イメージング技術といった神経工学系技術の研究が豊富に支援対象に含まれている点です。さらに米国国防高等研究計画局(DARPA)も、戦略的にニューロテック領域に投資を続けており、BMIを用いた義手制御や記憶支援技術の開発(Restoring Active Memoryプログラム)が実用段階に入っています。 欧州:EBRAINSと倫理中心の支援設計 EUでは、2013年から10年間にわたって実施された大規模プロジェクト「Human Brain Project(HBP)」が2023年9月に終了しましたが、その成果をもとにEBRAINSという研究基盤インフラが継承されています。 EBRAINSは、神経データの共有プラットフォームであり、ニューロシミュレーションやAI研究との統合を積極的に進める、欧州の脳科学共同体の中核を担っています。 現在のEUにおける脳科学支援は、「Horizon Europe」という研究・イノベーション枠組み(2021–2027)の中で継続されています。ここでは、神経変性疾患の診断・治療、個別化医療、脳とAIの融合といった領域が主要テーマとして採択されています。 特徴的なのは、研究資金の支給にあたり、倫理的・法的・社会的課題(ELSI)を重視している点です。AIやBMIの応用に対しては、国際ガイドラインの整備と並行し、研究段階からの倫理監査が義務化されており、社会的受容性(Social Acceptability)を前提とした支援体制となっています。 イスラエル・シンガポール:国家規模のR&D支援 イスラエルでは、政府主導でニューロテックを含むヘルステック分野への集中的投資が行われており、スタートアップも多数生まれています。特に軍事技術との転用性が高い領域では、脳波ベースの認証技術や、戦闘中の判断力や注意力の変化を測定するシステムの開発が進んでいます。 また、PTSDへの応用も進んでおり、ニューロフィードバックを活用した治療機器が米FDAの承認を受けるなど、臨床現場への実装も始まっています。 一方、シンガポールでは、政府研究機関A*STAR(Agency for Science, Technology and Research)が中核となり、傘下の研究機関を通じて、脳とAI、ニューロエンジニアリング、精神疾患のバイオマーカー探索などの領域で研究助成や共同研究を行っています。ASTARが支援する研究機関は、シンガポール国立大学(NUS)や南洋理工大学(NTU)といった主要大学と共同研究を進め、国立神経科学研究所(NNI)のような医療機関とも協力して、研究成果の臨床応用を加速させています。 制度が技術を育てる時代へ ニューロテックの社会実装には、長期的な研究支援、倫理的なガイドライン、産業化のための制度整備など、技術を超えた多層的な基盤が必要不可欠です。 本記事で見てきたように、日本ではムーンショット型研究開発制度やAMED、自治体レベルのスタートアップ支援など、脳科学やニューロテックを支える政策が段階的に整備されつつあります。一方、海外に目を向けると、米国のBRAIN InitiativeやEUのEBRAINSのように、研究から社会実装、倫理的制度設計までを網羅する包括的な枠組みがすでに機能していることがわかります。 こうした支援体制の根底にあるのは、「制度はインフラである」という認識なのではないでしょうか。道路や電力と同じように、科学技術の進展にも安定した下支えが必要であり、それがなければ個別の技術がどれほど優れていても、社会に根を張ることは難しい状況です。 今後、ニューロテックが医療、教育、産業の各分野に広がっていくなかで問われるのは、単に技術を開発できるかではなく、その技術を受け止める社会的・制度的な器を整備できるかという点にあるでしょう。研究資金の出し方、規制の設計、企業との接続、実証の場の提供──そのすべてが、ニューロテックの未来を決める鍵になります。

ニューロテック(ニューロテクノロジー)とは?ブレインテックとの違いや国内の最新動向を解説

私たちの脳が今どんな状態にあるのか――集中しているのか、疲れているのか、リラックスしているのか。そうした「脳の活動状態」を、脳波や神経活動などのデータを取得・解析することで正確に捉え、社会に活かすのがニューロテックです。 ニューロテックは、脳波や神経活動などのデータを取得・解析し、医療、教育、マーケティングなどさまざまな分野で活用されている注目の技術です。本記事では、ニューロテックとは何か、その基本的な仕組みや日本国内での動向、関連するテクノロジーとの連携までを幅広くわかりやすく解説します。 ニューロテック(ニューロテクノロジー)とは? ニューロテック(ニューロテクノロジー)とは、脳の活動を測定し、そのデータをもとに人の状態を分析・活用する技術の総称です。 人間の脳では、思考や感情、判断などのさまざまな働きが、電気的な信号として神経細胞の間を行き来しています。ニューロテックは、脳波や脳の血流、神経の反応といった情報をセンサーなどで取得し、それを解析することで、脳の状態を「見える化」したり、脳の情報を使って外部機器を制御したりすることを可能にします。 このような技術は、医療やメンタルヘルスの分野はもちろん、教育、スポーツ、マーケティング、UX設計など多くの領域で活用が進んでいます。 ニューロテックの基本的なしくみ ニューロテックの核となるのは、「脳の活動を測定し、それをデータとして活用する」という考え方です。先述した通り、人間の脳では、思考や感情が生まれるときに、神経細胞のあいだで微弱な電気信号がやりとりされています。こうした信号は、たとえば脳波や神経の反応といった形で体の外から捉えることができます。 この信号をセンサーなどの装置で取得し、コンピューターで解析することで、脳の状態を「見える化」したり、その情報を使って外部の機器を操作したりすることが可能になります。 このような仕組みの原点は、古くは20世紀初頭の脳波(EEG)発見にまで遡ります。そして、脳の信号を使って外部機器を操作するブレイン・コンピュータ・インターフェース(BCI)の概念や初期の研究が、1970年代に本格的に探求され始めました。 当時は、主に医療やリハビリの現場での活用が中心でした。たとえば、身体の自由がきかない人が、脳の信号を使ってコンピューターや車椅子を操作する、といった応用が模索されてきました。 それから数十年のあいだに、AIやウェアラブルデバイス、クラウド技術の発展により、脳のデータをより手軽に、より正確に、多様な分野でニューロテックを扱えるようになってきました。 ブレインテックとの関係性について 「ニューロテック」という言葉は、最近では「ブレインテック」と呼ばれることもあります。一般的には、「ブレインテック」が脳科学とテクノロジーを組み合わせた技術全般を指す広範な総称として使われる傾向が強く、その中に脳活動の計測や解析といった「ニューロテック」の要素が含まれると理解されています。 より細かく見ると、 ニューロテック:脳から得られる信号をどのようにセンシングし、データ化し、実用的な形に変換するかといった、脳神経科学に基づいた技術的アプローチを中心に取り扱う分野 ブレインテック:ニューロテックを応用した製品やビジネスのことを指す場面が多く、より実用的・産業的な文脈で使われる傾向がある たとえば、脳波を測定するヘッドセットはニューロテックの成果であり、それを活用してメンタルトレーニングサービスを提供する企業は、ブレインテック業界の一部と言えるでしょう。 ブレインテックについてより詳しく知りたい方はこちらもご覧ください: https://mag.viestyle.co.jp/braintech/#toc3 なぜ今、ニューロテックが注目されているのか ニューロテックは決して新しい概念ではありませんが、ここ数年で急速に注目度が高まっています。その背景には、技術面の飛躍的な進化と、社会課題に対する新しいアプローチへの期待という2つの大きな要因があります。 AIやBCIの進化 ニューロテックの発展を支えている大きな要因のひとつが、人工知能(AI)やブレイン・コンピュータ・インターフェース(BCI)といった周辺技術の進化です。 以前は、脳波を読み取るだけでも高度な専門機器や知識が必要でしたが、現在では小型で低コストな脳波センサーや、高性能な信号処理アルゴリズムが登場し、一般向け製品やサービスにも応用される段階に入りつつあります。 特にAIの進歩により、脳から取得したデータをリアルタイムに解析し、「集中しているか」「ストレスを感じているか」といった人の内面状態を高精度で推定できるようになってきたことは、ニューロテックの実用性を大きく押し上げています。 これにより、医療や教育だけでなく、マーケティングやUX設計など、より広範なビジネス領域への展開が可能になっています。 高齢化社会とメンタルヘルス ニューロテックが社会的にも注目されている背景には、高齢化やメンタルヘルスといった現代的な課題があります。 たとえば、認知症の早期発見や予防、うつ症状の兆候検出など、脳の状態をデータとして把握できることは、従来の問診や観察に頼っていた医療にとって大きな進化となり得ます。 また、働き方の多様化やストレスの増加といった現代のビジネス環境においても、従業員の集中力や疲労レベルを可視化して働き方を最適化するなど、ニューロテックの導入は実践的な課題解決につながる手段として期待されています。 これらの社会的ニーズに応える形で、今後もニューロテックの重要性はさらに高まっていくと考えられます。 日本におけるニューロテックの現状と企業の取り組み ニューロテック分野は世界的に注目を集めていますが、日本国内でもその研究や実用化に向けた動きが徐々に活発になっています。特にここ数年は、スタートアップを中心に脳波や神経データを活用した製品やサービスの開発が進んでおり、大学や自治体、企業との連携によって社会実装に向けた取り組みも広がっています。 ここでは、国内でニューロテックに取り組む企業の事例と、国・大学・民間が連携する支援体制の動向について見ていきましょう。 国内企業によるニューロテックの取り組み 日本国内では、AIや脳科学を専門とする企業が中心となり、ニューロテック技術の研究・開発を進めています。代表的な企業のひとつが株式会社アラヤです。アラヤは、独自開発のNeuroAI技術を活用し、脳科学や生体センシングに基づいたニューロテック領域の研究開発を推進しています。脳波やMRIによる脳データの取得だけでなく、心拍・呼吸・発汗などの生理的データも組み合わせて解析し、企業や研究機関の製品開発等を支援しています。 もうひとつ注目すべき企業が株式会社NeU(ニュー)です。NeUは東北大学と日立ハイテクのジョイントベンチャーとして設立され、NeUの取り組みは、研究や開発の初期段階にとどまらず、製品デザインやユーザーインターフェース(UI)の評価、広告クリエイティブの効果測定といった実用フェーズにまで広がっています。 そのほかにも、脳波を使ったメンタルトレーニングアプリを開発するスタートアップや、睡眠や感情状態をモニタリングできるデバイスを開発する企業など、多様なプレイヤーが現れつつあります。 参考: アラヤHP NeU HP 産官学が連携するニューロテック推進の動き 日本におけるニューロテックの研究・開発は、企業による取り組みに加えて、国の制度や研究機関による支援のもと、産官学連携によって進められています。 たとえば、内閣府の「ムーンショット型研究開発制度」では、ブレイン・マシン・インターフェース(BMI)に関する脳科学研究が推進されています。ムーンショット目標1では、脳波などを用いた非侵襲型BMI技術の開発に取り組んでおり、運動機能に着目した脳機能アルゴリズムの開発などが行われています。 また、日本医療研究開発機構(AMED)も、医療分野における脳科学研究を支援しています。たとえば、AMED設立後の2015年からは「脳とこころの健康に関する研究開発」として、2018年からの「戦略的国際脳科学研究推進プロジェクト」などを通じて、ニューロテックの研究・開発が行われてきました。 このように、日本国内では多様な機関や制度が連携し、ニューロテックの基盤となる脳科学研究の推進が進められています。 参考: 内閣府HP「ムーンショット目標」 日本医療研究開発機構「脳科学研究戦略推進プログラム(脳プロ)」 ニューロテックとAI・XR・IoTの連携 ニューロテックは、他の先端技術と組み合わせることで、その可能性をさらに広げています。特に、人工知能(AI)、拡張現実(XR)、モノのインターネット(IoT)との融合は、医療、教育、産業など多岐にわたる分野で新たな応用を生み出しています。 AIとの融合がもたらす可能性 AIは、ニューロテックの分野で重要な役割を果たしています。たとえば、脳波や神経活動のデータをAIが解析することで、認知機能の状態を評価したり、神経疾患の診断や治療法の開発に貢献することが可能です。 また、AIを活用したブレイン・コンピュータ・インターフェース(BCI)は、ユーザーの脳信号をリアルタイムで解析し、外部デバイスの制御を可能にするなど、リハビリテーションや支援技術の分野でも活用が進んでいます。 XRやIoTとの相乗効果 XR(拡張現実)とIoT(モノのインターネット)も、ニューロテックとの連携により新たな可能性を示しています。XR技術を活用することで、ユーザーは仮想空間での体験を通じて脳活動を刺激し、学習やトレーニングの効果を高めることができます。また、IoTデバイスと連携することで、脳波データや生体情報をリアルタイムで収集・解析し、個人の状態に応じたフィードバックを提供することが可能になります。 これらの技術の融合により、ニューロテックはより実用的で効果的なソリューションを提供できるようになっており、今後の発展が期待されています。 BCI / BMIについてより詳しく知りたい方は、以下の記事もご覧ください: https://mag.viestyle.co.jp/brain-machine-interface/ ニューロマーケティングへの応用 ニューロテックは、医療や教育だけでなく、マーケティング分野でも注目されています。その代表的な応用が「ニューロマーケティング」です。 ニューロマーケティングとは、脳波や視線、表情などの生体データをもとに、消費者の無意識の反応を解析し、広告やパッケージ、店頭レイアウトの改善などに活かす手法のことです。 脳の状態を客観的に測定できるニューロテックの特性は、従来のアンケートやインタビューでは拾いきれなかった「本音」を可視化するうえで、大きな価値を発揮しています。 ニューロマーケティングについてより詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください: https://mag.viestyle.co.jp/neuromarketing/ これからの時代におけるニューロテックの役割 ニューロテックは、脳の状態をリアルタイムで「見える化」し、その情報をさまざまな分野に応用する技術です。医療や教育、マーケティングから、日常生活の質の向上まで、その可能性は広がり続けています。 技術的には、AIやBCI、XR、IoTとの連携が進み、脳とテクノロジーがより深くつながる社会が現実のものとなりつつあります。また、日本国内でも企業・大学・行政が連携し、社会実装に向けた取り組みが加速しています。 脳の理解と活用を深めるニューロテックは、単なるテクノロジーではなく、人間のあり方や社会の構造そのものを変えていく鍵になるかもしれません。今後の進展に注目が集まります。

「ゲーム脳」は本当に危険?子どもの脳の発達への影響を徹底解説

2000年代初頭に話題となった「ゲーム脳」という言葉は、今でも保護者や教育現場に強い印象を残しています。しかし、この概念は本当に科学的根拠に基づいているのでしょうか? 本記事では、「ゲーム脳」の定義や提唱の背景から、その真偽をめぐる専門家の見解、さらにゲームとの正しい付き合い方までを幅広く解説します。子どもがゲームとどう関わっていくべきか悩む保護者や教育関係者に向けて、偏りのない情報と実践的なヒントをお届けします。 ゲーム脳とは?言葉の意味と広まった経緯 「ゲーム脳」という言葉を耳にしたことはありますか?この言葉は2002年ごろからメディアで頻繁に取り上げられるようになり、一時期は社会現象とも言えるほど注目を集めました。 しかし、そもそもゲーム脳とはどういう意味なのでしょうか?まずはこの言葉が広まった背景や、その根拠とされている「脳波の変化」について理解していきましょう。 脳波について基本的な情報をより詳しく知りたい方は、以下の記事を参考にしてください。 https://mag.viestyle.co.jp/eeg-business/ ゲーム脳の誕生と広まりの背景 「ゲーム脳」という概念を提唱したのは、森昭雄教授(日本大学文理学部・当時)です。この言葉は、2002年に出版された著書『ゲーム脳の恐怖』(NHK出版)によって、一般にも広く知られるようになりました。 森氏は著書の中で、テレビゲームを長時間プレイすることで、脳波に変化が生じ、前頭前野の働きが低下すると主張しました。その結果、感情の抑制が難しくなり、キレやすくなる、他人への共感力が低下する、といった影響が現れるとされています。これらの状態を「ゲーム脳」と名付けたのです。 この理論はメディアでも多く取り上げられ、教育や育児の現場に衝撃を与えました。「ゲーム=脳に悪影響を与える」というイメージが社会に広がったのは、この時期が大きな転機となっています。 ゲーム脳が与えるとされる影響 ゲーム脳が与える影響については、特に子どもの発達や情緒面への悪影響が懸念されています。 感情コントロールの低下 ゲーム脳の特徴として最もよく挙げられるのが、「キレやすくなる」という現象です。前頭前野は怒りや衝動を抑制する役割を担っており、その活動が低下すると感情のブレーキが効きにくくなるとされています。 実際、長時間ゲームをする人の中には、「イライラしやすい」「思い通りにならないと怒る」といった自覚を持つケースも多く報告されています。特に子どもの場合、そのような行動は家庭や学校でのトラブルにつながることもあり、注意が必要です。 ただし、ゲームの長時間プレイが前頭前野の活動を直接的かつ永続的に低下させ、それが感情コントロールの低下に繋がるという科学的根拠は、現在も確立されていません。 参考:東京新聞「「ネットやゲームのしすぎ」と「子どものイライラ」の関連性 自分から変わるため、保護者は何ができるか」 集中力・記憶力への影響 ゲーム脳では、集中力や短期記憶の低下も指摘されています。テレビゲーム中は視覚と運動に関する神経が優位に働く一方、思考や記憶に関与する前頭前野の活動が抑制されるといいます。 この状態が長時間・長期間続くことで、考える力や集中力を持続する力が弱くなり、学業や日常生活に支障が出る可能性があると懸念されています。 社会性の欠如 さらに、ゲーム脳が進行すると、人間関係やコミュニケーション能力にも影響が及ぶ可能性があるとされています。前頭前野は「他人の気持ちを理解する」「空気を読む」などの社会性に深く関わる機能を持っています。 そのため、前頭前野の活動が鈍ることで、他人との関係構築が苦手になったり、友だちと遊ぶよりも一人でゲームを選ぶ傾向が強まる場合があります。 科学的根拠は不十分?ゲーム脳に対する専門家の懸念 一方で、「ゲーム脳」という言葉のその科学的な信頼性については、現在も賛否が分かれています。ここでは、脳科学の視点から見たゲーム脳への批判を紹介します。 脳科学から見たゲーム脳への批判 まず、「ゲーム脳」という理論に対して、測定方法や科学的根拠の妥当性を疑問視する声が挙がっています。たとえば、現在広まっている研究には、どのような脳波計を使ってデータを取得したのか、その精度が医学的に信頼できるものであったのかが明記されておらず、検証が難しいという問題があります。 さらに、もし確かな研究データであれば、学術論文として発表されているはずですが、実際には査読付きの論文としての公表はなく、一般向けの書籍のみで紹介されていることも、科学的信頼性を損なう要因とされています。 ゲームが原因とは限らない? また、これまでの研究では家庭環境や対人関係の要素が十分に考慮されておらず、「ゲーム時間が長い子どもに脳機能の低下が見られた」としても、その原因が本当にゲームによるものかどうかは明確でないという指摘もあります。 たとえば、親との会話が少なかったり、引きこもりがちだったりする子どもは、自然とゲーム時間が長くなる傾向があり、これが認知機能に影響している可能性も否定できません。 参考:東洋経済「「ゲーム脳の信憑性」を現役医師が怪しむ理由」 ゲーム脳と子育て:ゲームは本当に子どもに悪いのか? 「ゲーム脳」という言葉が不安を呼ぶ一方で、すべてのテレビゲームが子どもに悪影響を与えるとは限りません。大切なのはそのバランスです。 ゲームには創造性や反射神経を高める効果があるとする研究もあり、必ずしも一面的に否定すべきものではありません。ここでは、子どもの年齢に応じた影響や制限の考え方、国際的なガイドラインを参考に、家庭でできる対応策を紹介します。 年齢ごとの適切な制限 子どもの発達段階によって、ゲームが与える影響は異なります。特に未就学児(0~5歳)は、視覚・聴覚からの刺激に敏感で、東北大学の竹内光准教授、川島隆太教授らの研究では、長時間のゲームプレイは言語発達や社会性の育成に悪影響を与える可能性があると指摘されています。 小学生以降でも、長時間のプレイは睡眠不足や生活リズムの乱れにつながるリスクがあります。そのため、年齢に応じてルールを明確にし、親が見守ることが重要です。 参考:東北大学「長時間のビデオゲームが小児の広汎な脳領域の発達や 言語性知能に及ぼす悪影響を発見」 ゲーム時間のガイドライン(WHOの基準) 世界保健機関(WHO)は2019年に、子どもの健やかな発達には「座る時間を減らし、もっと身体を動かすこと」が重要だとするガイドラインを発表しました。これは、「To grow up healthy, children need to sit less and play more(健康に育つには、座るより遊ぶことが大切)」という明確なメッセージとともに示されたものです。 このガイドラインでは、5歳未満の身体活動、座りがちな行動、睡眠に焦点を当て、年齢別に以下のようなスクリーンタイムと身体活動の推奨基準が設定されています: 1歳未満: スクリーンタイムは推奨されません。 1~2歳: スクリーンタイムは推奨されませんが、もし行う場合は、保護者と一緒に、質の高い内容を短時間視聴する程度に留めるべきです。 3~4歳: 1日のスクリーンタイムは1時間以内、可能ならさらに短く。 5歳以上: スクリーン時間だけでなく、運動・睡眠とのバランスを考慮して管理することの重要性を強調しています。 さらにWHOは、運動不足や長時間の座位が、肥満・発達の遅れ・睡眠障害などのリスクを高めると警告しています。単に「ゲームを控えさせる」のではなく、「身体を動かす時間を意識的に増やす」ことが、健康な成長を促す上で欠かせないという考え方です。 このような国際的な指針をもとに、保護者が子どものゲーム利用や生活習慣を整えることで、ゲーム脳への過度な不安を避けながら、より前向きな対応につながります。 参考:WHO「To grow up healthy, children need to sit less and play more」 ゲームのメリットとバランスのとれた接し方 「ゲーム脳」という言葉が独り歩きして、「ゲーム=悪」ととらえられがちですが、実はゲームには認知機能や学習意欲を高める側面もあります。 ゲームには、子どもの脳に良い刺激を与えるものも多く、使い方次第で発達を支援するツールにもなります。ここでは、ゲームのメリットと、懸念される「依存」との違いを明確に理解し、健全な付き合い方を考えていきましょう。 認知機能の発達に有益なゲーム 近年の研究では、パズルゲームや脳トレ系ゲーム、戦略系のゲームが、記憶力・空間認知・判断力の向上に貢献する可能性があると示唆されています。たとえば、短時間の脳トレゲームは、前頭前野の活性化に役立つとも言われています。 また、複雑なルールやチームプレイを要するゲームでは、計画力や協調性、問題解決能力が育まれるともされています。つまり、内容と目的によっては、ゲームも立派な学習ツールになり得るのです。 ゲーム依存との違い 一方で注意すべきなのは、「ゲームの活用」と「ゲーム依存」を混同しないことです。依存状態になると、ゲームが生活の中心になり、学業・睡眠・人間関係に深刻な影響を及ぼすようになります。 世界保健機関(WHO)は2018年に、「ゲーム障害(Gaming Disorder)」を国際疾病分類(ICD-11)に正式に収載することを決定し、2022年1月1日に国際的に発行しました。これにより、ゲーム依存は国際的にも「治療が必要な健康問題」として認識されたことになります。 WHOによると、ゲーム障害とは以下のような行動パターンを指します: ゲームに対する制御ができない(やめられない) 日常生活や他の活動よりもゲームを優先してしまう 問題が生じていてもゲームを続けてしまう さらに、これらの行動が12か月以上にわたって続き、家庭・学校・仕事などに著しい支障をきたしている場合に診断されるとされています。 ただし、WHOも強調しているように、すべてのゲーマーがゲーム障害になるわけではありません。実際にこの状態に該当するのは、ゲーム利用者全体の中でもごく一部とされています。 重要なのは、ゲームを禁止するのではなく、日々の生活バランス、家族や友人との関わり、心身の変化に注意する習慣を持つことです。家庭では「いつ・どこで・どのくらい」のルールを明確にし、子どもが自分で調整力を育てていけるようサポートすることが、ゲーム依存を防ぐうえで最も効果的です。 参考:WHO「Gaming disorder」 ゲーム脳を正しく理解して、健全なゲーム環境を 「ゲーム脳」という言葉は不安をあおる側面がありますが、科学的な根拠には限界があり、一面的な判断は禁物です。大切なのは、ゲームのリスクとメリットの両面を理解し、子どもの年齢や個性に応じた使い方を工夫することにあります。 過度な禁止ではなく、家庭でルールを設け、コミュニケーションを重視した健全なゲーム環境を整えることが、トラブルを防ぎ、ゲームを有益なツールに変えるカギとなります。

季節の変わり目、気づかぬうちに心が疲れていませんか?

「なんとなく気分が乗らない」「寝ても疲れが取れない」──そんな5月の不調、もしかすると季節のせいかもしれません。昼間は汗ばむのに朝晩は冷え込み、気づけば体調も気分も不安定。新年度の疲れも重なりやすいこの時期、私たちの心と体は、知らず知らずのうちに季節の揺らぎに影響を受けています。 なぜ季節の変わり目に心が揺れるのか? 脳科学の視点で見ると、私たちの脳は季節や気温、日照時間の変化にとても敏感です。特に関係が深いのが「セロトニン」と呼ばれる神経伝達物質です。これは「幸せホルモン」とも呼ばれ、心の安定や意欲に大きな役割を果たします。 日照時間が短くなると、セロトニンをはじめとする神経伝達物質のバランスや概日リズムに影響が生じ、気分の落ち込みや疲労感が増しやすくなることがわかっています1。秋から冬にかけて憂うつな気分になる「季節性情動障害(SAD)」がその典型です。 また、気温や湿度の変化は、自律神経のバランスを乱す要因にもなります。特に現代人は、冷暖房や不規則な生活リズムで、体温調節がスムーズに行われにくい状態になりがちです。これが、だるさや頭痛、集中力の低下といった症状として表れることがあります。 小さな変化に「気づく」ことがウェルビーイングへの第一歩 こうした季節の影響を完全に避けることはできませんが、「自分ちょっと調子が落ちてるかも」と気づくことが、メンタルヘルスを守るうえでとても大切です。 人間の脳は、自分の感情や身体状態に気づく力──いわゆる内受容感覚(interoception)が高まると、ストレス対処能力も向上することが知られています2。これは、マインドフルネスや呼吸法、軽い運動などによって鍛えることができます。 つまり、季節の変わり目こそ、自分の「今」に目を向け、ほんの少し立ち止まってみるタイミングなのです。 マインドフルネスとメンタルヘルスの関係についてさらに知りたい方は、以下の記事を参考にしてください。 https://mag.viestyle.co.jp/mindfulness-depression/ 季節の「揺らぎ」を味方にする3つのコツ 1. 日光を浴びる時間を意識する セロトニンの分泌を促すために、朝の光を浴びることは効果的です。10〜15分、外を歩くだけでもOK。これは睡眠ホルモン「メラトニン」のリズム調整にもつながり、夜の眠りが深くなることもわかっています。 2. 無理に「完璧」を目指さない 体調も気分も、日によって波があるのは自然なことです。今日はちょっとペースを落としてみよう、という柔軟さも大切です。ライフバランスを保つうえでは、仕事も休息も「やるべきこと」ではなく、「選べること」にしていく意識がカギになります。 3. 心を落ち着けるルーティンをつくる 脳は、心地よい繰り返しの中で安定感を得ます。お気に入りの音楽をかけてコーヒーを淹れる、寝る前に深呼吸を3回する──そんな小さなルールが、季節の不安定さを和らげてくれるのです。 季節を感じることは、心を整えること 季節の変わり目に感じる心のゆらぎは、ある意味で自然な現象です。それは、私たちの脳や体がちゃんと自然のリズムに反応している証拠でもあります。 最近では、季節の変化に対するストレス感受性を個人ごとに測る研究も進められており、パーソナライズされたメンタルケアの開発にもつながっています3。 最後に──ウェルビーイングは「揺らぎ」に寄り添うことから ウェルビーイングとは、いつも元気でハイパフォーマンスでいることではありません。調子のいい日も、ちょっとつらい日も、自分自身の状態に丁寧に寄り添ってあげられるかどうかが重要です。 季節の変わり目こそ、そんなセルフケアの感度を上げるチャンスです。大きな変化を起こす必要はありません。まずは朝の光を浴びる、少し立ち止まって深呼吸してみる──そこから、私たちの脳と心は少しずつ、季節に寄り添う準備を始めてくれるのです。

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